- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488011024
作品紹介・あらすじ
冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われるが、実はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けてある特殊作戦に抜擢される。その作戦の目的は、反体制的だと見なされ、共産圏で禁書となっているボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめることだった。――そう、文学の力で人々の意識を、そして世界を変えるのだ。一冊の小説を武器とし、危険な任務に挑む女性たちを描く話題沸騰の傑作エンターテインメント!
感想・レビュー・書評
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この作品はアメリカの作家ラーラ・プレスコットのデビュー作にして映像化が決まっている作品で、老舗のクノップ社が二百万ドル、日本円にして約二億円で出版権を獲得し、世界各国、三十カ国以上に翻訳出版されているそうです。
作品中の『ドクトル・ジバゴ』は有名な文学作品であり1065年に映画化されていますが、全く知らなかったのでYou Tubeで調べてハイライトシーンと、有名だという『ラーラのテーマ』を聴いてみました。
作者の名前、ラーラ・プレスコットは本名で母親が映画『ドクトル・ジバゴ』のファンだったのでヒロインの名にちなんで「ラーラ」とつけられたそうです。
また、作品のストーリーではパステルナークの愛人だった女性のオリガとCIAのタイピストになったイリーナが東西の各主人公として描かれていますが、オリガがパステルナークのために強制収容所に送られ大変な苦難を強いられる場面、イリーナが性的マイノリティに悩み善良な男性テディからの求婚を拒み、サリーとも別れるところは胸を打たれました。
ラストシーンはパステルナークの最期と、現在のタイピストの女性たちのその後のシーンですが、非常にカタルシスがありました。
訳者あとがきより以下、抜粋。
この作品の舞台は、1950年代後半の冷戦時代アメリカのCIA(中央情報局)にタイピストの職を求めてやってきた女性が思いがけず、スパイの才能を見こまれて、タイピストとして働きながら、秘かに訓練を受け、ある特殊作戦の一員に抜擢されました。その作戦とは、共産国であるソ連で出版禁止となっている小説をソ連国民の手に渡し、ソ連政府がどれほど非道な言論統制や検閲を行っているかを知らせ、政治体制への批判の芽を植えつけようというものです。
特殊作戦の武器となったのは、ソ連の有名な詩人であり、小説家のボリス・パステルナークの渾身作『ドクトル・ジバゴ』でした。
のちにノーベル文学賞を彼にもたらすこの作品は、ロシア革命の混乱に翻弄されつつ生きる主人公ジバゴと、恋人のラーラの愛を描いています。
ドクトル・ジバゴ作戦はCIAが実際に行った戦略のひとつで、ペンの力、文学の力を信じた人たちの物語であることが本書の大きな魅力となっています
こうした歴史的事実を踏まえつつ、歴史の陰に埋もれていた人々やオリジナルの登場人物が生き生きと臨場感たっぷりに描写され見事なフィクションに仕上っている点も本書の魅力です。
西側と東側の物語が交互に語られるのですが、西側ではCIAで働くタイピストたちの日常を追いながら、豊かな自由社会にも存在する女性差別やハラスメントが浮き彫りにされます。東側では『ドクトル・ジバゴ』の著者パステルナークと、愛人オリガの関係を通じて、愛のせつなさばかりか、悲惨さが描かれます。歴史の陰のそのまた陰に生きた、本書では名前もない人たちの生き方にも、胸を打たれることと思います。 -
内容も映像が思い浮かぶような描写も素晴らしく噂通り読み応えあった。第二次大戦後の米ソの世界を女性達を軸に描かれる。文学が世界を変えるなんて本当?と思っていたが、粛清された人々や国を挙げての諜報作戦が実際にあったのだ。一番魅力的だったボリス・パステルナークをもっと知りたい。
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「ドクトル・ジバゴ」がどんなものなのか(フィクションなのかも知らず)あらすじの「物語の力」という言葉に惹かれて読み始める。
タイピストたち、ツバメ、など「今どの女性視点?」と分かりにくくなる点があり、そこが序盤辛かった。
イリーナが"あるもの"を探す場面が、この本よりも前に読んだ「モスクワの伯爵」で伯爵の詩「それは今どこに」(うろ覚え)と少しリンクした瞬間がピークだった。
…結構、終盤。
なんと言っても「ドクトル〜」の作者に共感が出来ず、伯爵と同じように表現の抑圧を受けている立ち位置のはずなのに愛人がいて苦悩でしているように見えるが、様々な人を傷つけているように読んでしまったため、少し読むのが苦痛でした。
スパイの話の方でも、傷つく人が出てきてなんだかモヤモヤ…
「物語で世界を変える」といってもCIAが武器として作戦に使った。と読むとなんだか"コレって良いはなしなのか?"と疑問が…スパイモノとしてもハラハラする要素もなく、期待しすぎたかも… -
表題にある「あの本」というのが、ノーベル賞作家、ボリス・パステルナークの長篇小説『ドクトル・ジバゴ』。ソ連が出版を許可しないので、イタリアで出版され、瞬く間に世界中で翻訳され、ノーベル賞を受賞する。しかし、反革命的であることを理由に、ソ連は受賞式への参加を認めなかった。国外追放を怖れたパステルナークは国に留まることを選び、受賞を拒否。しかし、結果的にはノーベル賞を受賞している。
パステルナークは結婚していたが、オリガという歳の離れた若い愛人がいた。彼女がラーラのモデルである。この小説は東西冷戦期間中である一九四九年から一九六一年のソ連とアメリカ、主にパステルナークの住むモスクワ近郊の村と当時CIAの本部があったワシントンが舞台となっている。CIAのスパイ活動を描きながら、世に知られている、いかにも血腥いCIAの作戦とは毛色のちがう、いわば文学的な香り漂う作戦を扱っているからだ。
中心になっているのは女性「タイピストたち」。有名大学で優れた成績を修め、意気揚々とCIAに就職した彼女たちは、その心意気を早々と挫かれることになる。CIAの前身であるOSSにいた女性たちは、前線で華々しい活躍をしたことが噂話で聞こえてくるのに、戦後のCIAで工作員になれるのはアイビー・リーグ出身の男性部員に限られていた。OSSの頃から勤めている有名な女スパイも今では年若い男たちの下で事務職をしている始末。タイピストたちは昼食時のカフェで、噂話に憂さを晴らす毎日だった。
彼女たちの職場「ソ連部」に新入りが入ってくる。ロシアの血を引くイリーナは美人だが、特にタイプ技術がすぐれてもいない。なぜ彼女なのか? イリーナの父は一家での渡米間近に港で逮捕され、その後死亡した。彼女にはソ連を恨む動機があった。もう一つ、彼女はどこにいても不思議と目立たなかった。それは情報を受け渡しする「運び屋」の必須条件だった。「運び屋」の技術を教えるうちに秘密工作員のテディは彼女を愛するようになる。
イリーナと対称的にどこでも人の目を引きつけてしまうのが、戦時中OSSで働いていたサリー。国務省の勤務に向いていないことを悟ったサリーは当時の伝手を頼って古巣に戻ってきた。彼女は魅力を武器に高官たちから情報を仕入れてくる「ツバメ」だった。サリーは一目見たときから、イリーナの才能に気づく。そして、テディに代わり、イリーナの教師役につく。全く正反対の二人だが、二人は初めて会った時から相手のことが好きになっていた。それは友だち以上の関係になることを暗示していた。
スプートニクの打ち上げ成功で、宇宙開発でソ連に一歩も二歩も先行されていたアメリカは、ハンガリー動乱の失敗もあり、すっかり意気阻喪していた。そんな時、サリーが手に入れてきたのがロシア語版『ドクトル・ジバゴ』を撮影したマイクロ・フィルムだ。CIAはこれを何百部も印刷し、ソ連内に持ち込み、国民を内部から揺さぶろうと考えたのだ。当然その任務はイリーナに与えられる。
一方、オリガは当局に逮捕され、尋問を受ける。彼の書いている作品について話せというのだ。彼女だけが書きあげたばかりの原稿が作家自身の口から朗読されるのを聞いていたからだ。しかし、彼女はどんなに責められても屈しなかった。彼女は矯正収容所送りとなった。スターリンの死により、解放されるまでの長い年月を劣悪な環境下で暮らしたことで、彼女は痩せこけ、別人のような姿で作家のもとへ帰ってきた。
小説は完成したものの、ソ連国内では出版は認められなかった。皮肉なことに、スターリンはパステルナークの詩を愛していて、作家としての待遇は悪くなかった。ある日、二人の青年がパステルナークの家を訪れ、原稿を預かりイタリアで翻訳出版したいと持ち出した。自国での出版をあきらめていた作家は原稿を二人に託す。原稿はドイツを経由し、飛行機でイタリアに運ばれた。後日それを知ったオリガは作家を責めた。他国で出版されたりしたら、私はまた矯正収容所送りになる、と。
全体主義国家の過剰な情報統制の陰湿さは、今の我が国のそれによく似ている。さすがに矯正収容所までは行っていないが、SNSでの監視、批判は喧しい。まるで紅衛兵時代の中国を見ているようだ。閑話休題。一方、第二次世界大戦が終わり、戦後の平和を謳歌している当時のアメリカの佇まいがノスタルジックに描かれていて、音楽やダンス、食事や酒、サックドレスなどのファッション、と読んでいて懐かしい映画を見ているよう。
その少々軽薄で享楽的な雰囲気はスパイとしての情報受け渡しや、街角で出会う人々の背後にある物語を解読する技術の教育を描く部分にも揺曳している。イリーナとテディ、イリーナとサリーの、友情と愛が育まれて行き、それがイリーナとテディの婚約という頂点を迎えるところで三人の関係に陰が差し、やがて悲しい破局に至る。今となっては隔世の感があるが、同性愛を忌避する空気はCIA内部にも蔓延しており、讒言によってサリーは局を去る。
一冊の本が世界を変える、という主題は文学好きには堪らない。『ドクトル・ジバゴ』は、十月革命からスターリンによる大粛清に至る時代を奇跡的に生き抜いたインテリゲンチャの半生とその恋人とのロマンスを広大なロシアの大地を舞台に描いた長篇小説である。果たしてそれは「東」の世界の変革に影響力があったのだろうか。その後ソ連は崩壊し、ベルリンの壁は壊された。そう考えてみれば何らかの力はあったのかもしれないが、世界のその後は予想されたようには動かなかった。世界を変えるかどうかは知らないが、食べたものが体をつくるように読んだ本は人を作る。本は心して選びたいものだ。 -
ソ連が、いかに言論統制や検閲による迫害を行っているか。
小説『ドクトル・ジバゴ』を通して、ソ連国民に知らしめ、歴史を変える。
本の力を信じていたCIAによって、実際に行われた作戦をもとにした、フィクション。
女性差別が蔓延するCIA内で、女性諜報員が活躍していく。
彼女たちの距離感や連帯感など、独特の世界があった。
CIAの話よりも、無実の罪で収容され、ソ連の横暴非道ぶりを実体験していく、ボリスの愛人・オリガの方が、印象に残る。 -
ノーベル賞作家パステルナークの歴史大作『ドクトル・ジバゴ』をめぐり、出版禁止としたクレムリンに対し、海外で出版しソ連に持ち込ませようとするCIAの暗躍を史実をベースに描いた物語。パステルナークの恋人というだけて投獄された後、3年の刑期を終えパステルナークに生涯連れ添うオルガ、米国への移住直前に父親をソ連に殺され、やがてCIAのタイピストとなるイリーナ。そしてイリーナの同僚サリー。パステルナークとオルガのソ連内での物語とCIA内での物語が交錯する。
クレムリンな執拗な妨害に、ロシアや中国、北朝鮮など社会主義政府の人民への不信感、一冊の本にさえ自由な表現に対する臆病なまでの警戒心を感じられる。
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ソ連の作家ボリス・パステルナークが書いた大作『ドクトル・ジバゴ』。ソ連を舞台にした男女の恋愛物語でありながらも、ソ連という国の矛盾を描き、ソ連政府からは出版を許されず、ボリスやその愛人は監視され、時には投獄されるなどの迫害も受けていた。
この『ドクトル・ジバゴ』の原稿は秘密裏にイタリアの富豪フェルトリネッリの手に渡り、フェルトリネッリがイタリア語版を出版する事で世の中に知られるようになり、最終的には世界的ベストセラーとなってノーベル文学賞を受賞するまでになった。
一方でCIAは『ドクトル・ジバゴ』に注目し、ロシア語版を印刷、ブリュッセルで開かれた万国博覧会会場を訪れたソ連の人々に密かにこれを渡して本国に持ち帰らせることで、ソ連国民に自国の政治体制に対して不信感を抱かせるという作戦を行った。
こういった史実をもとに、パステルナークと彼に人生を捧げた愛人オリガや、CIAでタイピストや受付嬢という表の顔を持ちながら、スパイ活動にも協力し、功績を挙げながらも表舞台に出ることのなかった名もなき女性たちの活躍と、恋愛と、悲劇を描いた作品。 -
大作映画『ドクトル・ジバゴ』は、まず映画雑誌『スクリーン』の広告で知り、実際には中高生自分にTVの日曜洋画劇場あたりで夢中になって観たことがある。ストーリーまでは如何せんほとんど覚えていないのだが、壮大なロマンだったという印象は強く残る。
この映画の原作本は、冷戦下のソヴィエトで書かれたが、スターリニズムに批判的な思想書として国内で発禁となっていた。原作が国外に持ち出され、イタリアで出版され、ノーベル文学賞に選考されたが歴史上類を見ぬ作者による辞退に至った経緯は、ウィキペディアなどにもその背景の記述が見られる。
本書は『ドクトル・ジバゴ』を冷戦下プロパガンダ政策の強力な武器としてスパイ活動に使ったCIAの記録と、当時の綿密な歴史資料を集めて黒字で伏せられた部分を創作として丹念に綴った一大力作であり、作者ラーラとしての力作である。ちなみにラーラは本名であり、両親が映画『ドクトル・ジバゴ』のヒロインの名前を下に命名したというから、本書もまた運命の一作として熱の入った傑作に仕上がっている。
本書は、『ドクトル・ジバゴ』原作者のボリス・パステルナークと、愛人オリガ(小説のヒロイン≪ラーラ≫のモデルとなった人物)の圧政下でのスリリングな恋愛を軸とした<東>の物語と、鉄のカーテンの内側に『ドクトル・ジバゴ』の本を持ち込んだ女性スパイたちの動きを軸とする<西>の物語として交互に語られてゆく。
<西>の物語を受け持つのは二人のヒロイン、ロシア生まれのイリーナと天性の女スパイ、サラ・ジョーンズである。二人は当時のハラスメント、息が詰まりそうな性差別に抗いつつ、『ドクトル・ジバゴ』オペレーションに強く関わる運命に身を投じる。独自のヒューマンでタフな一人称文体で語られる彼女らの人生がずしりとした読みごたえを与えてくれる。
彼女らの所属するCIAタイピスト部屋の個性的な面々と、ここから世界を動かしに出かけてゆくイリーナらとのつかず離れずの関係もリアルに活写され何とも力強い。作家のペンは繊細かつタフで、時と場を移動しつつ、<東>と<西>の国家的非情さを横目に、個として生きる人間ドラマを紡ぎ出してゆく。
歴史上の事実に基づいて描かれたスリリングでドラマティックで野心満ちた作品である。高額な翻訳権争いが生じたほどの魅力的な題材であり、映画化も予定されているというが、本書そのものが何とも映像的で美しい時代と季節を背景に、感性に満ちて濃密な美しさを纏う。
『ザリガニの鳴くところ』の後に読んだ『あの本は読まれているか』、どちらも世界的ベストセラー、女流作家によるデビュー作、密度の濃い内容、とドラマ性。充実する作品群は何とも頼もしく有難い季節なのである。 -
スパイ活動の主要ストーリー(ドクトルジバコを.....)にあまりボリュームが割かれていない点が少し物足りなかったが、周辺ストーリーが面白かったー西のタイピスト達と東の著名作家の愛人。
映画ドクトルジバコはそのテーマ曲を世界映画音楽大全のレコードで聴いていたが本編を観ていないので、アマゾン等で探して観てみようと思う。
パステルナークの「ドクトル・ジバゴ」はとても好きな作品です。
リアルタイムで観たわけではありませんが映画...
パステルナークの「ドクトル・ジバゴ」はとても好きな作品です。
リアルタイムで観たわけではありませんが映画も大好きです。
バラライカの音色が切なくてね。
ただ賛否両論激しくて、特に女性に不人気です・笑 まぁ、そりゃそうですよね。
この本もいまだに賛否両論激しいですね。
本なんだから、好きなように受け取ればそれでいいのにね。
私はどんな風に思うのでしょう。読んでみなければ分かりません(*^-^*)
コメントありがとうございます(*^^*)
『ドクトル・ジバゴ』を読まれていらっしゃるなんてさすがで...
コメントありがとうございます(*^^*)
『ドクトル・ジバゴ』を読まれていらっしゃるなんてさすがですね!!
Amazonのレビューに、読むのに20時間かかったとかいうのも発見しました!
今、値段も8800円ととんでもない値段がついていました。(文庫は絶版だそうです)
まあ、私には難しすぎて縁遠い本だと思いましたが(^^;
映画もご覧になられたのですね!
You Tubeでハイライトシーンだけ観ましたが、昔懐かしい雰囲気の映画でした。
女性に不人気とは初めて知りました。
この本にも賛否両論があるのですね。
色々勉強になりました。
ありがとうございます。
nejidonさんもよろしかったら是非お読みになられてみてください。