世界のはての少年

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010966

作品紹介・あらすじ

子供9人大人3人を乗せた船が、スコットランドのヒルダ島から、無人島へと出帆した。孤島で海鳥を獲る旅が、少年達にとっては大人への通過儀礼なのだ。だが約束の2週間が経っても、迎えの船は姿を現さない。この島から出られないのではないかと不安がつのり、皆の心を蝕み始める。そんななか年長の少年クイリアムは、希望を捨てることなく仲間を励まし、生き延びるために闘う。そして……。カーネギー賞を受賞した、感動の冒険物語。

感想・レビュー・書評

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  • 毎夏恒例の鳥猟のため、1~3週間の予定で、「戦士の岩」と呼ばれる孤島に3人の大人と9人の少年たちが上陸した。猟のはじめにカツオドリの見張りの鳥を捕まえて「カツオドリの王」の称号を手に入れたクイリアムは、本土からヒルタ島を訪れている3歳年上の女性マーディナに恋していたが、彼がヒルタに戻る頃には、彼女はそこを去っているはずで、二度と会えないだろうことを憂い、想像の中で彼女と会話していた。
    毎日朝から晩まで働いて3週間が経ったものの迎えの船は来ない。少年たちは今までと同様に漁を続けて迎えを待ったが、ある日信心深い少年ユアンが天井に頭をぶつけた際に、みんなは天国の審判を受けに上がっていったから来られない、僕らだけ取り残されたと言い出し、パニックになる。クイリアムはとっさに、そのうち天使たちが迎えに来るから、それまで無事にいないといけないと皆をなだめる。

    1727年に実際にこの地で起きた史実を基に書かれた、孤島に取り残された12人のサバイバル物語。





    *******お詫びm(_ _)m*******

    先に登録したレビューが、うっかりKindle版だったため、恐縮ながら同じものをここに投稿することをお許しください。


    *******ここからはネタバレ*******

    息の詰まるような閉塞感と過酷な状況で、読み進むのが困難でした。


    彼らが普段生活するヒルタ島には木がなく、教会が強い力を持っていることから舞台となっているのはなかり前の時代ではないかと推察していましたが、後半になってやっと「1728年」という年代が出てきましたね。江戸時代です。
    この時代のスコットランドの西の果ての島の生活を想像するのは容易ではないでしょう。

    加えて、物語の中に救いが少ない。大抵は困難の後に一時の安らぎが入るのもなのに、この物語ではそれがほとんどなく、どんどん追い詰められていきます。
    迎えが遅れるとわかった時点から、獲れる鳥は減り、気候はどんどん厳しくなり、働き手の体は怪我や病気に、精神は閉塞感と絶望感に蝕まれていく……。

    おまけにすべてが明らかになるのは9ヶ月後に予期せぬ迎えが来てからで、しかも、待っているはずの家族は、本当にもう天国に上がっていたという事実。

    主人公のクイリアムこそは、想い人が生きていて結ばれたから良かったのかも知れませんが、物語全体としては、児童書にしては酷ではありませんか?
    サバイバーたちは、経験から何を得たのでしょう?フィクションだからこそ、ここのあたりにもう少し明るくなれる要素が欲しかった。


    史実を基にしたから仕方ないかも知れませんが、私には、これは大人向けの読み物のような気がするのです。



    しかし、カーネギー賞を得たこの作品が、伝染病を機とした悲劇を描いたものだったとは。
    少し収まってきたとはいえ、コロナ禍の下で読むと、大変さがより強く伝わってくるように思います。

  • セント・キルダ島,実話を元にした話。鳥猟で孤島に9ヵ月置き去りにされた12人。島は草木もない絶海の離れ岩,過酷な環境下,狂気が孤島を支配する。意外なのは男12人のはずが紅一点。故郷は災厄で絶滅状態。壮絶な内容。

  • こんなことが本当にあったなんて。
    鳥猟に出かけた島に大人と子供が取り残されたこと、迎えが来なかった事情などは事実だとしても、無人島での生活は記録が残っていなくて創作らしい。
    でも大人がみんな理性的なわけでも子供がみんな脆いわけでもなく、季節が移ろうとともに自然の厳しさが増し、人が余裕を失っていきながらもギリギリで踏みとどまっている感じは、実際もそうだったのではないかと思えた。
    あとがきで知った現実にはさらに衝撃を受け、思わず嘆息してしまった。その人はどんな思いでいたのだろう。

  • 少年9人、大人の男3人が、住んでいる島の近く(と言っても泳いで渡れるほど近くはない)の切り立った岩でできている小さな島に降り立つ。夏の間に営巣のために飛んでくる海鳥を獲るために。肉は乾燥させて干し肉に、羽は布団や冬の衣服の詰め物に、胃に溜まった油は薬や燃料になる。全く資源のない島では、確実に稼げる唯一の仕事である。船で送られ、3週間もすれば迎えが来るはずだった。
    ところが、いつまで経っても船が来ない。焦り、不安、恐怖が押し寄せ、普段の生活では隠れていた11人の本性が顕になっていく。

    こういう展開だと『蝿の王』を真っ先に思い浮かべるが、マコックランは人間の獣性を描くのを目的とはしない。(閉鎖的空間でのドロドロの人間関係を読みたい人には物足りないか?)児童文学の作家としての矜恃を感じさせる。とはいえ、かなりダークな部分も容赦なく描いていて、展開に目が離せない。
    島の寺男が、他の大人が精神的肉体的に力を失った途端、自ら「牧師」を名乗り、少年たちを支配しようとするところは、(しかしこの男は文盲で、聖書を読んだこともない。知的に劣っていることは年長の少年たちには見透かされている。)すさまじく面白い。住んでいた島では牧師にこき使われ、島民から軽んじられていても受け入れていたように見えていた男の野望が、どのような結末を辿るのかという部分は、物語の読みどころである。
    しかし、そこだけに注力せず、登場人物、とりわけ少年たち一人一人の性格をきちんと書き分け、岩だらけで鳥しかいない島でのサバイバルを描ききっている。
    極限状態において物語が果たす役割についても雄弁に語り、作家の思いが伝わってくる。

    2度目のカーネギー賞受賞作だが、前回の『不思議を売る男』より、ずっと作家としての力を感じた。読み出したら止められず、読み終わっても深い余韻を残す名作。
    東京創元社は児童文学というより、海外文学として売りたい感じだが、それも納得、児童文学と言われなければ気づかないくらい、大人の鑑賞にも堪える物語である。
    『嘘の木』に続き、いい作品を世に出したなと思う。

    なぜ迎えの船が来なかったのか、という読者としては一番の気がかりも、知って、あぁ‥‥となる。
    凄まじい数の海鳥の羽ばたきと鳴き声が今も聞こえるようだ。
    本当に読書の愉しみを味わうことができた。

  • 人間というものについて考えさせられる本 - Pocket Garden ~今日の一冊~
    https://jidobungaku.hatenablog.com/entry/2021/03/15/191131

    「世界のはての少年」書評 極限で見た人間の強さも弱さも|好書好日
    https://book.asahi.com/article/12882035

    HOME - lynmatsuyama ページ!
    https://lynmatsuyama.jimdofree.com/

    世界のはての少年 - ジェラルディン・マコックラン/杉田七重 訳|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010966

  • 鳥を捕まえる猟をするため、イギリスの北西セント・キルダ島の9人の子供と引率の大人3名が戦士の岩へと出発した。
    夏の約1か月間鳥をとにかく捕まえて肉と羽と油に分けて貯蔵する。
    しかし予定の期日を過ぎても迎えの船が来ず、12人は無人島でサバイバルすることとなった。
    戦士の岩は島とはいっても船を何とかつけられる小さな浜と雨風を多少しのげる洞窟がいくつかあるくらいでほとんど岩場だ。
    物資はほとんどなく、釣りをするには波が激しすぎるため、島に持ち込んだものと少しの漂流物を使い、鳥を捕まえて生き抜くしかない。
    しかし大人たちは早々に生存をあきらめて自殺しようとしたり、子供たちを支配下においてわがままに振る舞ったり、脱出用のいかだを作るために夢中で子供を放っておいたりと役に立たない。
    そこで、子供たちの中で年長者のクイリアムはなんとか子供たちを統率しようと試みる。
    セント・キルダ島で恋をしていた優しく聡明な年上の女性マーディナならどうするかを考えながら、子供たちに声をかけて生存を目指していく。
    子供たちはどうやってその島を生き抜くのか、そしてなぜ迎えの船は来ないのか。

    この物語はなんと実話をもとにしているそう。
    といっても事件があったという記録が残っているくらいで、事の詳細は語られていない。
    だから、クイリアムがマーディナを意識するあまりイマジナリフレンドを作り上げて現実との境がわからなくなっていく様など、作中のエピソードひとつひとつはフィクションであろう。
    しかし、現実はもっと過酷であったかもしれない。
    なぜなら、子供たちが過ごしたのは北緯57度の冬だからだ。

    セント・キルダ諸島戦士の岩の地図を貼っておく。
    ストリートビューはさすがにないが、航空写真はあるので戦士の岩がどんな場所なのかなんとなくわかると思う。
    https://www.google.co.jp/maps/@57.8805795,-8.4972097,14.92z?hl=ja

    こんな世界のはての小さな島であった出来事なんて、この本を読まなければ知ることができないだろう。
    いい出会いだった。

  • 海鳥を捕獲するために少年たちは無人島へ向かった。ところが約束の日を過ぎても迎えはやってこない。彼らは過酷な環境の中で必死に生き残ろうとする。友情が育みながらも、危うい信仰が生まれ、不和を呼ぶ軋轢、絶望の色が強くなりつつも、明日を生き残るために今日を必死に生き残る――

    孤島でのサバイバルが描かれた少年たちの冒険譚として正統派な作りで、少年たちの個性も豊かに、生々しく描かれています。世界は終わったのだと思いながらも、迎えを待ちつづけ、親しい人に思いを馳せる。現実が厳しいからこそ、目の前にないいとしい人や過去の物語が暖かくてたまらず、すがらずにいられない。一つ一つの細やかなエピソードが積もるたびに、真摯な少年たちの思いが切々と伝わってきました。

    その上、ラストにひとつ大きな「真実」が描かれて、くるりと世界が明らかになる意外性を持たせ、物語として綺麗に収束していて巧いなと感じました。

    驚いたのが実在の事件をもとにしたフィクションだということ。ただ事件の仔細は分からないので、描かれていることはほぼほぼ創造だといいます。ただもしかしたら、彼らが取り残されている間に感じた祈りや遠くの人への想いは、それほど遠くないのではないかと思ったりしました。それくらい、真に迫ったものを感じたのでした。

  • 無人島ものだけど、暗く宗教的でかつ救いはあまりない。

  • 極限状態に追いつめられたときの人間のこわさやあさましさって、今、直接ではないにせよメディアを通じて毎日突きつけられているので、そっち方面へどんどん突っこんでいったら読み切れるかなという不安があったけれど、どこか、踏みとどまる力のようなものがあって、ぐいぐい引きつけられた。物語の力や想像力は、何もなくても人間の糧になるかもしれないし、同時に思いもよらぬ形で心にダメージを与えることもある。その両方がきちんと描かれている。

    『蠅の王』は、ずーっと積ん読していて、苦手なのがわかっているから読めない(笑)。なので、思い出していたのは『青いイルカの島』。あちらは完全にひとりになってしまうから、ある意味さらに過酷なところもあるけど、人間同士のわずらわしさはない(ひきこもり系?)。そして、どちらもが実話に基づいているというところが驚き。人間ってすごい。(でも自分だったら真っ先に死にそう(笑))

  • スコットランドのヒルタ島から岩でできた無人島に向かった9人の少年と3人の大人。海鳥猟のため3週間留まるのだ。しかし期日が来ても迎えがこない。この岩の孤島に取り残された少年たちと生き延びるため、年長の少年クイリアムは物語を語り、役目を与え、仕事を続けた。しかし、大人の一人寺男のケインが自分は牧師だと言って少年たちを支配し始めると、みんなの関係性が崩れだし‥。
    実話を元にしながら、生き生きとした人物描写でぐいぐい引き込まれる物語。極限状態のサバイバル生活の一方で、「何故迎えの船が来ないのか」という謎が彼らに重くのしかかる。衝撃の結末ながら、希望を描くラストはさすがマコックラン。2度目のカーネギー賞受賞作。

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著者プロフィール

1951年生まれのイギリスの作家。『不思議を売る男』で88年にカーネギー賞、89年にガーディアン賞を受賞。2004年に『世界はおわらない』でウィットブレッド賞児童書部門受賞。18年には『世界のはての少年』で二度目のカーネギー賞受賞という快挙を成し遂げた。

「2022年 『世界のはての少年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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