カッコーの歌

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010850

作品紹介・あらすじ

「あと七日」笑い声と共に言葉が聞こえる。 わたしは……わたしはトリス。池に落ちて記憶を失ったらしい。母、父、そして妹ペン。ペンはわたしをきらっている、わたしが偽者だと言う。破りとられた日記帳のページ、異常な食欲、恐ろしい記憶。そして耳もとでささやく声。「あと六日」。わたしに何が起きているの? 大評判となった『嘘の木』の著者が放つ、ファンタジーの傑作。英国幻想文学大賞受賞、カーネギー賞最終候補作。

感想・レビュー・書評

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  • 「あと7日」。意識を取り戻した11歳の少女トリスは、耳元でそう囁く声を聞いた。少しずつ記憶を辿るものの、意識を失う原因となったグリマーに落ちたらしい記憶はないまま。両親の会話からある男たちがこの事故に関わっていると思われたが、それ以上のことはわからない。思い出す手がかりにしようと開いた日記は破り取られ、彼女の写真もなくなっていた。前から反抗的だった9歳の妹は、彼女を「偽者」と言い放ち、彼女自身、自分への違和感と異常な食欲、喋る人形、覚えなく髪についている枯れ葉や床の上の泥などに悩まされる。「あと6日だよ」。耳に囁かれる声はどんどん短くなっていく。地元の名士である父も、上流階級意識の強い母も優しく接してくれたが、トリスは、本当は自分自身がおかしいのではないかと疑い始める。

    自分自身を発見した少女が、それを肯定し、周りの人との信頼関係を築いて、生きる勇気を得ていくサスペンス仕立ての冒険ファンタジー。






    *******ここからはネタバレ*******

    舞台は1920年のイギリス。第一次世界大戦が終わって間もない頃です。

    なんとおぞましい場面が多く出てくるお話なのでしょう。
    読みながら、これがホラー映画として映像化される場面を何度も想像しました。

    例えば、
    トリスのすごい食欲は、腐ったりんごを食べ、喋る人形を食べ、宝石を食べ、靴を食べ、しまいには妹も???……と大変なありさまです。
    そしてトリスを形作っているのは、葉っぱと枝とイバラ。記憶は、トリスの日記と思い出の品。ビサイダーで人形づくりのモズがそれらをグリマーに投げ込んで作った。
    橋の下にはアンダーベリーと言う世界があって、そこにビサイダーたちが住んでいる。


    アンダーベリーに乗り込んで行くために、用意するのがナイフとオンドリ、とか、腕時計に遺髪を入れられ、その時計が止まってしまったため、死後の世界に行けない兄とか、その兄への想いに縛られているために雪を呼んでしまう(「アナと雪の女王」みたい)兄の婚約者のヴァイオレットとか、見えない線路を進む列車とか、ファンタジーらしいエピソードがたくさん出てきます。



    どうしてトリスは11歳にもなって人形遊びをしていたのか?
    どうして映画の画面に引き込まれて無音・銀色になったペンがもとに戻ったのか?
    どうしてトリスの両親は、彼らの長男セバスチャンからの死後の手紙を得るために、怪しい取引をしたのか?
    どうしてハサミが、ビサイダーたちを攻撃するのか?
    新しい棲家が作られなかったビサイダーたちはどうしたのか?そもそも、ビサイダーってなんなのか?アーキテクトは何をしたかったのか?
    いや、トリスタ、アーキテクトをあっさりやっつけすぎでしょ、とか、
    ……等々、私の読解力では解けなかった謎が残りますが、もう、そんなことどうでも良くなるぐらい、私のワーキングメモリをいっぱい使ってしまう、長くて複雑な物語です。


    とはいえ、過保護・過干渉な親が、か弱い存在でいることで自らを守ろうとする娘を作り出す、とか、できの良い姉の下の妹は、「悪い子」として存在感を示し、姉はますます「良い子」を期待され、姉妹仲が悪化するとか、母親が、自らを頼る娘を作るために、娘が気に入ったものをすべて取り除いてしまう、とか、人間関係「あるある」もたくさん描かれていて興味深いです。


    ラストで、しっかり自立したトリスタと、まだまだ子どものままのトリスが対象的に描かれていて興味深い。

    それに、トリスタを生かすことで、物語を元の鞘に収めなかった点も評価です。
    多くの人にとってありがたくない変化(この場合は、本物と偽者が共存する世界)であったとしても、だからといって"「異物」を排除してめでたしめでたし"とはならなかった。
    変化を受け入れて前に進むことを示したかったのだと思います。
    それより前に書かれてはいますが「with コロナ時代」へのメッセージとも受け取れます。


    作られた命だと自覚しながらも、この世界で生きることを選択したトリスタが、どう人生を作っていくのか関心が持たれます。



    実はこの本で一番残念なのは巻末の「解説」で、この本について描かれていることはいいんですが、本作の著者のこの後の作品「嘘の木」のかなり詳しいネタバレがあって、これは止めて欲しかった。未読の方は、ここを読まないことをオススメしますよ。



    気持ちの悪いシーンが多いので、私個人としてはこの本は好きになれませんが、物語としての完成度は高いと思うので、星4です。

    ミステリーやホラーが好きな人にはいいのではないでしょうか。

  • 『嘘の木』の作者フランシス・ハーディングの二冊目の翻訳になる。翻訳の世界ではよくあることだが、本国ではこちらが先に出版されている。それで、評判になった作品を読んで、期待して次回作を読むとそれほどでもなかった、ということもある。さて、今回はどうなるだろうか。『カッコーの歌』は、信頼できない語り手が物語る、アイデンティティ(自己同一性)の不安をテーマにしたファンタジー、とひとまずは括ることができる。

    ひとまずは、というには訳がある、興味深いテーマがいくつも用意されていて、どれか一つだけも、充分物語を作れるだけの重さを備えているのに、徹底して突き詰めることなく、物語の中に惜しげもなくぶちまけられているからだ。湧き出してくるアイデアを整理できないまま、勢いで書かれたのだろう。その分、次のページを繰らせる力は強い。あれこれ考えずに物語の中に浸りきりたいというタイプの読者にはうってつけの読み物である。

    話が進むにつれて主人公の名前がくるくる変わっていく。初めはトリス、次に偽トリス、そして、トリスタ(哀しみ)と。どうして、そんなことが起きるかといえば、物語は主人公が水から這い上がってくるところを助け出されたところから始まっていて、ショックのため、一時的に記憶をなくしているのか、自分のことを相手が呼ぶ呼称によって理解しているからだ。母親(らしき人)は、トリスと呼ぶが、妹(らしき人)は、そいつは偽者だと言ってきかない。

    記憶は失くしておらず、今がジョージ五世の御代であることも、自分の住所も言うことができる。それなのに、両親や妹を判別するのになぜ自信が持てないのか、このあたり、作者はなかなか巧みな語り口で語っている。「わたし」という、一人称限定視点で語られていながら、この語り手は、自己同一性を周囲の認識に頼っている点で、いわゆる「信頼できない語り手」なのだ。

    おいおい明らかになってくるが、どうやら、「わたし」は本当の人間ではなく、葉っぱとねじれた枝とイバラでできた「人形」らしい。事件を目撃した妹の証言によれば、二人の男が姉のトリスを誘拐し、その代わりに姉の書いた日記やブラシその他の姉に関する何やかやを水の中に人形と一緒にぶちこんだ後で、水から出てきたのが「わたし」らしい。つまり、今いるトリスは、いうところの「取り替え子」なのだ。

    「取り替え子(changeling)」というのは、ヨーロッパの伝承で、人間の子が連れ去られ、その代わりに妖精やトロールの子が置き去りにされること、あるいは、そうして取り換えられた子のことを指す。また、妖精などの子ではなく魔法をかけられた木のかけらなどが残されていることもあり、それはたちまち弱って死んでしまうこともある、ともいう。「わたし」が生きていられるのが七日間と日限が切られている本書の場合、後者のほうだろう。

    初めは、いくつもの謎の提出があり、主人公の出自や、父親に対する脅迫めいた行為も仄めかされるので、ミステリめいた展開を予想するが、主人公が命を吹き込まれた人形であることが明らかになるにつれ、一挙にファンタジー色が強くなる。瓦斯灯がともり、馬車が行き交う町の上を三つのアーチ橋が架かり、橋上を鉄道が、橋の下を人や車が通る英国の地方都市を舞台にした、小さな姉妹の冒険ファンタジーである。

    『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』という本がある。それによれば「合理的な社会の形成、進学率や情報のあり方の変化、都市の隆盛と村の衰弱」といったさまざまなことが、キツネにだまされたという物語を生みだしながら暮らしていた社会が高度経済成長期を境に徐々に崩れていったのだろう、ということになる。

    時代こそ違えこの物語も、鉄道も通り、自動車も走りだして、少しずつ開けていく産業革命後のイギリスの町が舞台である。以前は人間と共存していたある種族が、かつては誰の場所でもなく、自然に存在した場所が消え、すべて地図上に明記されてしまった村に住めなくなり、互いに見知らぬ人々が生きる都市に住処を求めることになる。一人の仲間の思いつきで、皆が住める場所を見出したのも束の間、土木技師である主人公の父が契約を反故にしたため、復讐としてその娘をさらい、代わりに「取り替え子」を置くという行為に出たのが、ことの顛末である。

    その種族の一人で「わたし」を作った人形師の話。「ナイフは(略)突く。切る。むく。削る。だがハサミは、たった一つの仕事しかしない。物をふたつに切りわけることだ。力で分ける。すべてをこちら側とあちら側にして、あいだには何も残さない。確実に。われわれはあいだの民だ。だからハサミがきらう。ハサミはわれわれを切り裂いて理解したがっているが、理解するということはわれらを殺すも同じなんだ」

    二元論は、物事をきれいに分かつ。不分明なものは残さない。前に聞いたことがあるが科学の「科」には「分かつ」という意味があるそうだ。科学万能な世の中は、それ以前は見過ごされていた、きれいに分類することのできないものの存在を認めない。性や人種、イデオロギーを例にとるまでもなく、世界は二者択一には適さないもので溢れている。それを性急に分けることは息苦しいことであり、立場によっては生きる場を奪われることにもなるだろう。この物語にはかなり重いテーマが隠されている。

    その他、戦争という経験が、宗教、階級差やジェンダーに与えた影響への示唆など、モズという名の人形師の語る世界観は傾聴に値する。こういう話をもっと聞いていたいという読者もいようが、そんな辛気臭い話ばかりでは息がつまる。サイドカーを駆って、今でいうバイク便で生計を立てている長身の氷の女、ヴァイオレットをはじめ、生きのいい女性が活躍する後半は息もつかせぬ一大冒険ロマンになっている。小難しい講釈はひとまず置いて、異形のものが自分の生きる場所を見つけようと必死に生きる姿に喝采を送りたい読者も多いだろう。若い人たちを本好きにさせる力のある本である。

  • すっっっっごくおもしろかった!!!いやー最初は分厚さにひるんだけど、読んでよかった。傑作ファンタジーという触れ込みどおり、傑作ファンタジー。みんな読んで…………

    舞台は第一次世界大戦終わって間もない1920年のイギリス。主人公、11歳の病弱な女の子トリスは目を覚ます。グリマーの池に落ちて記憶を失ったらしい。少しずつ思い出す。やたらとトリスを嫌い憎む妹のペン。地元の名士である両親。しかしなにかがおかしい。トリスの周りで起こる奇妙で不気味な現象、ペンや両親の不可解な行動言動。たまにやってくる戦争で死んだ兄のセバスチャンの元婚約者・ヴァイオレットはいつもひとところに留まらない。次々と起こる奇妙な展開にトリスと共に置き去りにされそうになりながら必死で物語に食らいついていく。
    しかしそれら嵐のような奇妙な出来事や些細な描写は、全て物語の伏線なのだ。だからこれ以上作品のあらすじは述べない。それらの伏線がまとまり明かされ始めたとき、不気味ささえある幻想奇譚は手に汗握るワクワクハラハラの冒険譚に変わる。話が進むにつれて深まる登場人物の人物像と魅力。
    もうめちゃくちゃ面白かった。映像で見てみたいな。絶対すごい迫力になる。
    でもね、面白いだけじゃない。
    世界はそんなに単純じゃないことも、誰かにとって都合よく出来ていないことも、この物語は教えてくれる。簡単に善悪を決め切ることはできないのだ。
    そしてアイデンティティについて考える機会もくれる。ちなみに解説は深緑野分さん。
    この作者の作品がもっと読みたい。ので、もっと邦訳されないかな…!ひとまず今度嘘の木を読みたい。

  • 「嘘の木」に続いて手にした二作目。

    今回も序盤からミステリアスな展開に心掴まれるスタート。
    自分とは?誰もが一度は通り過ぎる感情、家族の中での自分、人としての弱さ、大人だって持つ弱さを盛り込みながら魅せるストーリーはどこかしら遠い昔と今現在の心をちょんと疼かせる。
    YA向けとはいえ、この大人の心をも刺激する、それが著者の作品の最大の魅力なんだろうな。

    想像力かきたてられる描写が溢れるこの世界。ちょっとファンタジー色強めでどっぷりとは入り込めなかったけれど思えばトリスと一緒に出口を見つけ光を見つけるような時間だったかも。

    ミステリー色強めの「嘘の木」の方が好み。

    やっぱり次作も気になる作家さん。今度はじっくり時間をかけてファンタジーの世界を楽しみたい。

  • 池に落ちて溺れかけたせいで、記憶が混乱してしまっていただけのはずだった。
    私はトリス、11歳で、名士の父と優しい母と、9歳のやんちゃな妹のペンの4人家族。
    池に落ちた時のこと以外はだんだんと思い出してくるのに、ペンは私のことを偽物だと言う。
    破り取られた日記、異常な飢え、動き出す人形、そして耳元で聞こえる声…


    「嘘の木」を読んで、この著者の本をまた読みたいと思った。
    一言でいって、とにかく不思議な味。
    児童文学の主人公の少女といったら、普通はこんなじゃない。明るく前向きだったり、翳りがあって賢かったり、優しくてまっすぐだったり?
    全然、まったく違います。
    怯えながら必死に困難に立ち向かう、決して無垢ではなく秘密を抱えてもがく主人公。
    ミステリアスでホラーでファンタジーで、残酷で混沌としていて。

    誰にでも簡単にお勧めできる世界ではないけれど、何とも言えない魅力がある。

    たくさんのものが壊れて駄目になった果てに、手のひらに残った希望が、すばらしく切実に輝いている感じがいいから、だろうか。

  • ファンダジー作品ですが、読み応えありました。

    先月、大好きな知念実希人作品「ムゲンのi」を読み終えたところでなければ、もう1つ★がついたと思います。

    本作の主人公はトリス、準主役は妹のペン。

    前半はただひたすらに暗〜い感じの作品で、正直最後まで読めるかなぁ...って思いながら読み進めました。

    途中で投げ出さなくてよかったぁ。

    なんせ、前半で描かれていたトリスは、池に落ちたことを境に記憶がなく、妹や両親との関係すらも普通ではない。

    しかも、いくら食べても食欲が満たされることはなく、空腹に耐えられなくなれば、腐ったリンゴや人形までも口にする。

    この嫌悪感はなかなか辛かった。

    しかし、巻頭から描かれていたトリスが本物のトリスではないことがわかり、偽のトリスとペン、そして彼女たちの兄であるセバスチャンの婚約者であるヴァイオレットの3人で謎を解きながら本物のトリス解放に向けて冒険が始まります。

    偽のトリス(トリスタ)が生きられるのはたった7日。

    トリスを探す冒険が始まった頃から、単なる暗いファンダジー作品が、疾走感のあるサスペンス作品へと切り替わります。

    この辺までくるとページをめくる手が止まらなくなっていました。



    説明
    内容紹介
    フランシス・ハーディングが書く物語には、特別な魔法の力がある。(解説 深緑野分)
    「あと七日」記憶を失った少女の耳もとでささやく奇妙な声、恐ろしい記憶。わたしは誰?
    『噓の木』の著者が贈る、特別なファンタジー。英国幻想文学大賞受賞作。

    「あと七日」笑い声と共に言葉が聞こえる。 わたしは……わたしはトリス。池に落ちて記憶を失ったらしい。母、父、そして妹ペン。ペンはわたしをきらっている、わたしが偽者だと言う。破りとられた日記帳のページ、異常な食欲、恐ろしい記憶。そして耳もとでささやく声。「あと六日」。わたしに何が起きているの? 大評判となった『嘘の木』の著者が放つ、ファンタジーの傑作。英国幻想文学大賞受賞、カーネギー賞最終候補作。
    内容(「BOOK」データベースより)
    「あと七日」意識をとりもどしたとき、耳もとで言葉が聞こえた。わたしはトリス、池に落ちて記憶を失ったらしい。少しずつ思い出す。母、父、そして妹ペン。ペンはわたしをきらっている、憎んでいる、そしてわたしが偽者だという。なにかがおかしい。破りとられた日記帳のページ、異常な食欲、恐ろしい記憶。そして耳もとでささやく声。「あと六日」…わたしになにが起きているの?『嘘の木』の著者が放つ、傑作ファンタジー。英国幻想文学大賞受賞、カーネギー賞最終候補作。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    ハーディング,フランシス
    英国ケント州生まれ。オックスフォード大学卒業後、2005年に発表したデビュー作Fly By Nightでブランフォード・ボウズ賞を受賞。2011年に発表したTwilight Robberyがガーディアン賞の最終候補に、また2012年のA Face Like Glassがカーネギー賞候補に、2014年の『カッコーの歌』は英国幻想文学大賞を受賞し、カーネギー賞の最終候補になった。そして2015年、七作目にあたる『嘘の木』でコスタ賞(旧ウィットブレッド賞)の児童文学部門、さらに同賞の全部門を通しての大賞に選ばれるという快挙を成し遂げ、米国のボストングローブ・ホーンブック賞も受賞、カーネギー賞の最終候補にもなった

    児玉/敦子
    東京都生まれ。国際基督教大学教養学部社会科学科卒。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • あらすじに惹かれて図書館で借りて読んでみました。
    ページをめくる手が止まらなかった。
    姉妹ならではの比較される感じ、
    過保護な親に対するイライラ、
    だけどそれを親にぶつけられないもどかしさ、
    同時に大事な息子が戦死して、代わりに娘に過保護になってしまう親の気持ちもわかった。

    現実的な話かと思ったら、ファンタジー要素が強くて、
    イギリス人作家は、ハリー・ポッターといい、ファンタジーを創作するのが得意だなぁと思った。

    最後がハッピーエンドではないところがまたリアル。
    無事にトリスは学校に再び通わせてくれるように親に言えたのかなぁ。飛び込めたかな。
    ペンはトリスと仲良くやっていけるかな。
    親もトリスに対して過保護になりすぎないようになるかな。

    今回の騒動のせいで、2人のビサイダーとアーキテクト、仕立て屋のジョセフ・グレイスが亡くなってしまった。
    だからクレセント家の皆さんよ、今後はうまくやってくれよ。

  • ☆4.7

    20世紀初頭、11歳のトリスは別荘滞在中に高熱を出して意識をなくした。
    池に落ちてずぶ濡れになっていたらしい。その上、熱のせいか前後の記憶がなくなってしまった。
    目覚める時に聞こえた「あと七日」という耳ざわりな声が頭に残るが、一体何のことかわからない。
    なくした記憶に関係があるのだろうか。
    時を同じくして、トリスの体にも異変が起こりはじめる。
    恐ろしい飢えを感じるほどの空腹に悩まされるようになったのだ。
    父親は何かトラブルを抱えているようで、トリスが池に落ちた件もどうやら無関係ではないようだ。
    そして妹のペンにはすごく嫌われている。
    ついには「偽物」と罵られるまでになってしまった。
    朧気に思い出す記憶にも不穏な影がつきまとい、異常な空腹感もトリスを追いつめる。
    目覚める時に聞こえる声は、カウントダウンのように日数が減ってゆく。
    そんな中、家族の目をぬすみペンが家を抜け出すことに気付き追いかけた先で、思わぬ真実を知ることになる。

    読み始めた時には、こんな展開になるとは思ってもみなかった。
    人は一つの面から見えるものだけではちっとも理解したとは言えないな、と改めて教えられる。
    それがメインの人物だけでなく脇役までも書かれているのが、流石のハーディング。
    ハサミでちょっきんと割り切れた要素だけの存在なんてないよね。
    目覚めてから自分のことすらわからなくなってしまうトリスだけど、共に進む存在ができてからは前半の覚束なかった足取りとは変わって、迷いながらも地に足ついてとにかく進んでいく姿がいじらしくもとても勇敢。
    ずっと頑張れって思いながら読んでた。
    その勇気も意気地も狡さもためらいも足掻きも、全部全部包み込んで抱きしめてあげたい。
    ラストシーン、きっと背筋を伸ばして凛としてるだろう彼女の後ろ姿に、いつまでもいつまでも手を振って見送ってあげたい。
    大好きだ。

  • これぞ!!ファンタジー!!
    最初からドキドキそわそわしながら読み進め、最後もとっっても素敵!!
    めちゃくちゃ面白いお話やった。
    『自分』とは。という事も色々考えさせられた。
    しかし、ヴァイオレットカッコよすぎ。あんな風になりたい。
    フランシス・ハーディングさんと児玉敦子さんタッグの本ほんまに面白い!!

  • スチームパンクとダークファンタジーの融合、というとちんけに聞こえるなぁ。第一次世界大戦後のロンドンを舞台に、人でないモノたちと人でなしの人たちが暗躍する物語。

    前半がキツい、暗いし汚いしリズム悪いし…「あぁ、やってもた、苦手なヤツや」と正直思った。が、主要登場人物の娘2人が結託してからの展開がすごい、急にギアがかみ合って半クラッチ状態がつながる感じの疾走感。

    前半のキツさは伏線、仕掛け。これを回収していく中盤から後半がホント面白い。うまいこと映画化されたら絶対オモロいと思う。一番エエ時のジブリが作ってくれたら(そして声優のチョイスを間違えなければ)絶対観に行くけどなぁ。

    解説の深緑野分さんが書いている通り、主人公を彼女にし、最後までずっと彼女目線にしたのは斬新。この視点でなければ普通のダークファンタジー佳作になっていたかも。

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