シリアの秘密図書館 (瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々)
- 東京創元社 (2018年2月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488003876
作品紹介・あらすじ
シリア内戦下、ダマスカス近郊の町ダラヤでは、人々が政府軍に包囲されていた。一般にテロリストの町と報道されていたが、実際のところ彼らは自由を求める市民たちだった。砲撃に脅え、死と隣り合わせの過酷な日々。だがそんな過酷すぎる状況下でも、散逸した本を集めて地下に「秘密の図書館」を作った人々がいた――。本に希望を見出し、知識を暴力への盾として闘った人々を描く、感動のノンフィクション!
感想・レビュー・書評
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ブク友さんのレビューで興味を持った本。
シリアの首都近郊の町・ダラヤで地下図書館を作り出した若者たちと、フランス人ジャーナリストの交流ルポルタージュ。
現地に出向いたわけではなく、スカイプとメッセンジャーアプリで現地の状況を伝え聞きながら書かれたものだ。爆撃のたびに映像も音声も乱れ、途切れるのが生々しい。
特に本好きだったわけでもない若者たち。
破壊された建物を巡りながら本を回収し、知の扉を開く心のざわめきを知るようになる。
延べ一万五千冊にものぼる本を集め「集めた本の汚れを拭い、破れを修理し、仕分けし、記録して揃えた」「テーマ別に分類し、アルファベット順に棚いっぱいに並べた」という。
何故なら、「僕たちは泥棒でもなく略奪者でもない、本はみんなダラヤの住人の持ち物だから。・・戦争が終わったらそれぞれの持ち主が取り出せるようにしたい」から。
人の命が紙のように軽い戦時下。
死と隣り合わせの状況でもこの言葉が出るということに衝撃を受ける。
地下の図書館では映画の上映会もあり、大学のような講義もあり、ワークショップもあればスカイプをとおしての講演会もあったという。
本を読むことは反知性主義への抵抗でもあり、正気を維持するための助けともなっていた。
2011年の「アラブの春」を契機として自由を求め始めたシリア。
しかしアサド政権軍は町ごと包囲し攻撃を続ける。
フランステロや国連の支援物資輸送失敗なども相次ぎ、4年後遂にダラヤは陥落して強制退去となる。
すべて無に帰したかと思うが、移動図書館を始めた者がいたことが小さな希望だ。
「七つの習慣」という自己啓発書を読んで討論会さえしていた彼ら。
読書経験は無駄ではなかったと、そう思いたい。
これ一冊でシリアの現況を知った気になってはいけない。
訳者もそう言われるし、私もそう思う。
悲惨な状況に何度も胸が苦しくなり、息を整え、涙を拭きながら読み終えた。
何も知らなかった自分。知っても何も出来ない自分に無力感を覚える。
せめてレビューを残してささやかな記録としたい。読まれた方は皆同じ思いかも。
暴力に対して暴力で刃向かうのではなく、知を蓄え平和を望む彼らを知ることは、多くの人に勇気を与えてくれる。はかり知れない困難の果てに、平和はあるものなのだ。
未だ混迷をきわめる中東問題。だが彼らの姿は本書によって記憶に刻みつけられるだろう。
「本は身体の手当てをすることはできないが、頭の中の傷を癒すことはできる」
「読書療法は普遍的なのだ。平時にあっても、戦時にあっても。」
「頭の中に正確な予想図がなければ、きみの考えは混乱した状態だ。優先順位を決めれば、負ける確率は下がる」
「重要なのは考えることです。自分たちの目的にきみを利用しようとする人に、操られるままになってはいけない」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アサド政権の軍隊に包囲された、シリアの町ダラヤ。
自由を求めた彼らの抵抗と、彼らを支えた本の物語。
読み応えのあるノンフィクション。
サリンガスにナパーム弾。
21世紀に、一般市民に向けて放たれる武器とは思えない。
最低限の人道的支援も停戦合意も無視する、アサド政権のやり方にぞっとする。
残忍で容赦のない現実の中、本のもつ力のすごさを改めて感じさせられた。 -
自分を恥じた。
中東情勢はあまりにも複雑で、ニュースで報じられていても他人事としてしか感じられなかった。
この本を読んでも、この包囲があった事すら知らなかった。
私はいくらでも情報を手に入れる事ができる環境にあるのに知ろうとせず、ダラヤの若者は情報をなかなか手に入れられない環境下でも知的欲求に動かされ、毎日図書館に通って本を読む。私の何と恥ずかしいことか。
この本を読んで、シリアの内戦を身近に感じられ、シリアの人々も私達と何ら変わりのない人々だと言う当たり前の事に気付かされた。中東情勢はたしかに複雑だけど、それでも私が興味関心を向ける事で何か変わる事があるかもしれない。日本の多くの人にこの本を手に取って貰えば、シリアの人々を身近に感じる事が出来ると思う。是非オススメしたい。
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図書館は資料が集まる場所、知識が集まる場所、知識を求める人が集まる場所なのだと考えるようになりました。漠然としていた「図書館像」が、はっきりしてきた感じです。
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戦争ほど、残酷なものはない。
戦争ほど、悲惨なものはない。
だが21世紀の現代でも、世界の各地で戦争が続いている。
中東シリアの町ダラヤには、市民がアサド政権に抵抗して籠城していた。
狂信者のレッテルを貼られた市民に対して、繰り返される爆撃。
その爆撃を受け、血だらけで抱えられている子どもが、テロリストだというのか。
瓦礫の中から本を集め、若者たちは「秘密の図書館」を作った。
学ぶことを禁じられ、世界から隔離された青年たちは、本を通じて知識と智慧と生き抜く力をつけていく。
著者は現地を訪れる事は出来ない。
戦火に覆われ、封鎖されているからだ。
世界に唯一開かれたインターネットによって、ダラヤの青年たちと著者は交流を続ける。
「書くこと、それはこの不条理を理解させるために真実のかけらを寄せ集めることだ」
中心者の一人、アフマドは力強く語る。
「町を破壊することはできるかもしれない、でも考えを破壊することはできない」
戦争と暴力に抵抗するには、文化と教育の力が必要だ。
知ること、そしてまず何か行動すること。
そこにしか、平和への道はない。 -
内戦が続き、多くの市民が犠牲になっているシリア。
その中で、包囲された町ダラヤで抵抗を続けていた人々の物語(ノンフィクション)です。
外部から遮断され、爆弾の雨が降る中、必死に生きている人たちの支えになったものは、食料でも武器でもなく「本」でした。
「…戦争をしていると、世界を違ったふうに見るようになります。読書はそれを紛らわしてくれる。僕たちを生命につなぎとめてくれるのです。本を読むのは、何よりもまず人間であり続けるためです」
アサド政権のもと、知識を得て体制に反抗するきっかけにならないよう、図書館を持たない町であったダラヤにおいて、包囲後に書籍を集めて「図書館」を作ったことは、「反逆のシンボル、周りのすべてが崩れ落ちているときに、何かを作り上げた、その象徴」でした。
p.193
「本は成長の糧となっただけではない。恐怖の日常の中で正気を維持するための助けとなり、肉親の死、友人の死、残虐さを見続けて感情が擦り切れた人々が人間らしさを取り戻すための癒しとなった。本を読むと『ここではない別の場所に行くことができる』という。現実逃避と言われても、つらい現実を忘れ優しさを取り戻せるなら、つらい現実に立ち向かう元気を取り戻せるなら、いいことではないか。」
「本」のもつ力を知るため、そしてシリアの内戦のすべてではなくても、実際に起こった悲劇を知るために、多くの人に読んで欲しいと思います。 -
絶望の町で本を救い、本に救われた人々がいることは確かだ。
訳者の最後のこの一文にすべてが詰まっている気がした。
ライフラインもない、食料もない、物資もない。
そんな状況下で書物を貪って、知識を渇望して、希望を捨てずに生きていく。
本のパワーを感じると共に、兎にも角にも、平和を祈らずにはいられない。
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内戦の続く首都近郊のダラヤで、本格的な私設図書館を運営する住民の物語です。
ダラヤはシリア政府からテロリストの巣窟の一つと判断され、ほぼ毎日爆弾が降り注ぎます。
地上で暮らすことはできず、地下に主要機関と住居が移りました。
ダラヤには図書館は無く、瓦礫から掘り出された誰かの持ち物の本から構成された秘密図書館が初めてでした。
政府の検閲とは関係のない本から得られる知識や情報から、住民は生きる気力と広い視野を手にします。
戦時中、民間人や兵士を問わず、正気を保つために読書が役に立っています。
欲求のほとんどを満たすことができない状況で知識欲は満たすことができ、一瞬の安らぎを得ることもできます。
図書館と本は簡単に破壊できますが、読者の知識や意思は簡単には壊せません。
武器を取らずに本を読むことで可能性を広げ、簡単な軍事的解決ではなく難しい平和的解決を望む彼らは立派です。 -
「真理がわれらを自由にする」
真理とは何か、1人1人がそれぞれ考えねばならぬこと。
自由を失って初めて、本がもたらす知識と、情報と、世界の広がりを知る。
そうして彼らは自由を知った。
今私たちは自由を失った。
図書館はもう自由には使えない。
私たちは真理を得ているだろうか。
私たちは自由だろうか。