マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる (単行本)

  • 筑摩書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480860835

作品紹介・あらすじ

マンモスのDNAからクローンを作り、野生に放つ──それは本当に可能か?復活させて危険はないのか?第一線の科学者が熱く語る。

感想・レビュー・書評

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  • クローン・マンモスに「現実味」を感じるかどうかは別として、技術的には突破可能な状態に近づきつつあり「マンモス」の復活は現実になりつつあることがよく理解できた。

    完全なるマンモスのクローンはかなり難しいようだ。そこで本書ではマンモスのクローンを作成する目的を「生態系の回復」として「脱絶滅」という視点から、どのようにマンモスに近い行動や社会性を持つゾウをシベリアで増やすか、という方向から「完全でないクローン」にチャレンジする。すでに準備段階にあるマンモスの飼育環境や論理と法制度や悪影響についても触れられている。また飼育環境におけるストレスから発生するエピゲノムの問題は避けて通れない点など、現実感のある話題がほとんどで一気に読み終えた。

    くわえて琥珀の中の昆虫から恐竜のクローンを作成するといった空想科学についても一通り触れている。たとえば「ジュラシックパークは不可能」という事実の説明は、文章はこれみよがしでなく「実際に試してみた。できない」という自身の経験から説明があるので好感が持てる。つまりはクローンを単なる技術として捉えて「できる・できない」という内容ではなく、目的を達成することの重要性を説き、「リスクを許容して一歩踏み出すべきである」と結論する。
    マンモスだけでなくクローン技術全般についてもよく理解できた。

    https://twitter.com/prigt23/status/1054703523949031424

  •  脱絶滅(De-Extinction)の最先端を、堅苦しくない文章と、科学的、倫理的、経済的、あらゆる視点からの考察を交えて紹介してくれる好著。

     ただ残念なことに、結論としては、マンモスのクローン作製の実現の可能性は小さく、絶滅した生物の復活には、戻し交配か、ゲノム編集による絶滅種に“似た特徴”を現存種の中に蘇らせる程度が現実的だという。
     もちろん、これは現時点の生物科学力を持ってしのてことであるが、無傷の細胞の確保の困難さ、DNA情報だけでは分からないことや、仮に復活させたとしても生活していく環境の問題やら、周辺への影響の考察など、科学の分野だけでない様々な障害あることが、次々と紹介されていく。『ジュラシックパーク』は夢の夢、ということがだんだん分かってくる。
     一方で、そうした多大なるハードルの存在を知りながらも、絶滅種の復活による“種の多様性”の回復や、絶滅種が担っていた役割の復活によって、よりよい生態系を生み出そうという崇高な想いには、大いなる賛辞を送りたくはなる。

     でも、やはり。。。 それって、人間のエゴでしかない、ということも分かってくる。絶滅種が
    「恐ろしい病気の治癒物質を持っていたり」
     と期待するが、そんな為に蘇らせて欲しいとは、マンモスもモアもドードーも思わないだろう。
    「きれいな海を保つためにきわめて重要だったりしたら?」
     それは人間が汚染したことの尻ぬぐい? ならば絶滅種の復活の前に、汚染源を止める活動をしたほうがよいのでは、と思ってしまう。
     おそらく、ゲノムの設計図の解析や、遺伝情報の研究は、絶滅種の復活以外に、もっと別の発見を伴うことがあるから、さらなる探求・発展を止めることにはならないだろう。すでに、
    「マンモスの毛深さを指定(ロード)するDNA配列を突きとめたうえで、現存するゾウのゲノム配列を変えてもっと毛深くすることは可能だ」そうだ。
     個体そのものを復活させずとも、必要な形質を持った種を誕生させればこと足りる、とも言う。それが、いずれは
     「損なわれた生態系を復元、回復」に繋がり、「生態学的な相互作用の復活こそが、わたしの考えでは、脱絶滅技術の真価」となるのだろうか。

     読んでいて、脳裏に浮かぶのは、ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つというギリシャ神話の怪物キメラの姿でしかなかった。

  • 進化生物学者で古代生物のDNA解析の第一人者である著者がマンモスのクローンを作るためにはどうすればいいかを、解説しています。絶滅種と似た種のDNAをかけ合わせてクローンを作る工程は、実際にできてしまうのではないかと錯覚してしまいそうですが、実際に野生環境に放すためにクリアすべき問題にも触れていて、クローンの必要性を考えさせられます。

  • 絶滅動物をクローン技術を使って再生させようと真剣に検討。
    興味深く読んだけど真面目すぎて面白いとは言えなかった。
    途中、何度か眠ってしまった。

  • 面白いし、わかりやすい。マンモスをはじめとする絶滅した種を、再び蘇らせるための生物学的な手法ばかりでなく、「脱絶滅」がもたらすものや、復活した種にどのように生活圏を与えるか、といった視点まで幅広い。絶滅種の復活に関連して、何が可能で、何は難しいか、何が必要で、問題は何かを整理するためにはよい本。

    一方で、ちょっともやもやする。

    本書で語られるバイオテクノロジーは、マンモス復活以外に使いみちがいっぱいある。病気の治療や予防にも使えるし、農作物の改良にも使える。世界を変える技術だ。そういうことをすべきかどうかという論理的、哲学的な問いかけは別にして、マンモスより先に考えるべきことがたくさんあるんじゃない?という気がする。天文学や考古学などと違い、単にロマン、で片付けられない、 ちょっと生臭い技術であるがゆえのモヤモヤ。だいたい、絶滅した動物を復活させる金があったら、絶滅しそうな動物の保護に金を使ったほうがいいのではないだろうか?

    もう一つ。たとえばネアンデルタール人の復活が可能だったとして、ぼくはネアンデルタール人として生まれたいだろうか? アジア象にマンモスを生ませることが可能だったとして、アジア象の子供は、マンモスではなくて、アジア象として生まれたほうがやっぱり幸せなのではないだろうか? 滅びたマンモスが口をきけたとしたら「ほっといてくれ」と言いはしないだろうか? 
    幅広い観点から「脱絶滅」を語る本書だが、「脱絶滅」される当事者の意見は聞いてくれない。

  • ユーモラスな表紙絵とタイトルとは逆に、中身は真面目で重たい本である。
    マンモスの冷凍遺体を発見、復活プロジェクトなど、メディアが断片的に報じることを読んでいる限りでは、気づかない、考えもしなかった点が論じられる。
    仮にマンモスの完全なクローンができたとして(それすら、著者は否定的)、どうやって社会生活を営むのか、そもそもマンモスの社会を復活させることは不可能ではないか。戻すことの生態系への影響、危険性などなど。
    よく理解できない専門的な個所もあったが、視野が広がる良書。

  • いささか怪しげなタイトルだが、至って真面目な本である。

    数年前、シベリアの凍土から冷凍状態のマンモスのミイラが発掘され、話題になった。日本でも標本が公開され、ニュースになったので、ご記憶の方(あるいは実際展示を見たという方)もいらっしゃるかもしれない。
    冷凍マンモスから細胞を採取して、マンモスのクローンを作製するという試みについても話題になり、「すわ、絶滅したマンモスが復活するのか」と高揚感を覚えたり、あるいは逆に不安を感じた方もいらっしゃるだろう。
    その後、マンモスの復活計画はどうなっているのか?といえば、実はそれほど順調ではない。少なくともそう早い時期に巨大な毛の長いゾウがシベリアを闊歩することはなさそうだ。
    本書は「脱絶滅」研究の裏側を、研究者の視点から詳細に冷静に解説する本である。マンモスを復活させるとして、技術的に問題となるのはどのような点か。倫理面ではどうか。生態系に入れたら暴走しないのか。人々はこのアイディアを受け入れられるのか。論点が整理されて論じられている。

    著者は古生物DNAを専門とする研究者で、マンモスや、比較的最近(人の手によって)絶滅したリョコウバトやドードーなどの鳥類を研究対象にしている。
    絶滅生物の復活というと、『ジュラシックパーク』のように琥珀に閉じ込められた蚊の体内から恐竜の血液DNAを採取するというような手法なのかとなるわけだが、これは現実的にはほぼあり得ない。DNAはそれほど安定ではない。琥珀の中の数百万年前の蚊の姿がいかに完全に見えても、その蚊には恐竜のDNAはおろか、自身のDNAも残存していない可能性が高い。琥珀は気体も液体も通すし、高温に晒されている可能性も高く、これらはいずれもDNAに損傷を与えることが知られている。
    もう少し新しい時代の生物からたとえDNAを採取できたとしても、大抵は100bpあるいはそれより短い、ぶちぶちと切れた断片しか得られない。ヒトゲノムは全体で30億bpである。生物によってサイズにばらつきはあるが、いずれにせよ、桁が大きく違うため、全体を構築するだけのDNAを得ることは困難だ。仮に得られたとしても、パズルを組み合わせるように元の形にすることはまず不可能だろう。
    実験者自身や、周囲の環境から入り込むDNAが古代のDNAに混入する可能性も相当ある(もちろん、新しいものの方が検出されやすい)。
    またこれとは別に、近年、エピジェネティクスと呼ばれる、DNAの修飾の役割も重要視されてきている。単に遺伝情報が読めればよいというものではない可能性は高い。
    但し、マンモスの場合、完全な細胞の採取は出来なかったが、細胞から核が単離されたという報告もある。こうしたものを利用すれば、ゲノムの全体像が見える可能性はあるかもしれない。

    さて、いずれにしても古代の絶滅生物の細胞を採取してクローンを作るのは(倫理的問題をとりあえず置いておいても)困難であるようである。ではどのような手段がありうるのか。
    1つの手法は、例えばマンモスの場合であれば、近縁と考えられているアジアゾウとの形質の違い(例えば耐寒性)を担っている遺伝子を見つけ出し、それをアジアゾウのゲノムに組み入れるもの。これは遺伝子組換え生物になる。マンモスでもなければアジアゾウでもない。
    もう1つの手法は、やはりマンモスの場合であれば、アジアゾウの中から寒さに強く大型のもの(マンモスに近い性質を持つもの)を選り出し、交配させて、求める形質を持っているゾウに近づけていくというもの。改良しているのかどうかは難しいところだが、手法としては品種改良といってよいだろう。マンモスっぽいアジアゾウである。

    遺伝子組換えでゲノムを操作した後、個体を得るには、細胞核を卵子に移植することになる。この卵子の提供者やあるいはその後の代理母をどうするのかも大きな問題である。アジアゾウはそれ自体、種の存続が危ぶまれる存在である。過去に絶滅した生物を復活させるために、現在いる種を絶滅させるようなことは出来ない。

    さらには、集団の中に、ある程度の多様性がないと存続が困難であることも知られている。苦労して復活させたとしても、1個体ではダメで、それなりの多様性を持たせるために、何10種類、何100種類と作らなければならなくなる。そうでなければ、自律性のある集団にはならない。

    また、ひとたび絶滅生物(あるいはそれに似たもの)の復活が出来たとして、それを野に放つことに皆が納得するか、生態系へ悪影響を及ぼさないか、というまた別の大きな問題もある。

    いずれも大きな問題で、いや、脱絶滅なんて無理じゃないかと思えてくる。
    だが、驚くことに、著者はこれだけ不利な条件を冷静に述べながら、脱絶滅を支持する立場なのだ。
    著者が最後に語る部分を読むと、どうやらその姿勢は、「脱絶滅」を支持しているというよりも、「適応」や「生態系のバランス」に重点を置いているようである。
    かつていた頂点捕食者の絶滅によって、被食動物が増えすぎた地域がある。いびつになった生態系を改善するため、オオカミ導入がある程度の効果を上げている例がある。ある種の絶滅動物は、これと似た役割を果たせるかもしれない。
    また別の例として、菌の移入で絶滅してしまった栗の木に耐性遺伝子を組み入れることで、コロニーは復活しつつある。
    著者は、復活するかもしれないマンモスが古代のマンモスなのかマンモス「もどき」なのかはさほど気にしていない。そうではなく、絶滅したもの、現存するものを分けた形質は何なのかを知ること、そしてそれを未来にありうる変化に適応する手段として使うことにより大きな興味を持っているように見える。
    この立場にも異論はありそうだが、「脱絶滅」に賛同するにしろ、しないにしろ、もしこの方面に興味がある方であれば(多少ホネはあるが)読んでみて損はない1冊と言える。

  • ゲノム工学、クローン技術を用いて、絶滅した動物をこの世に蘇らせること(「脱絶滅」)はできるか?
    こんなSFみたいな取組みの最前線を、専門家が一般のド文系人間にも分かりやすく解説してくれている一冊。

    そもそも脱絶滅を行う意義は?
    どんな品種なら可能か?
    どのような技術を用いて可能か?
    最初の一体を蘇らせる具体的なステップは?
    その後、数を増やし、野生環境に戻すには?
    倫理的、生態学的、その他問題はないのか?
    ・・・等、「脱絶滅」に関する様々な障壁と、その乗り越えられる可能性や論拠を幅広く紹介している。

    著者自身がマスコミ等からあまりにもしょっちゅう「マンモスは復活できるんですか?」と聞かれるがゆえに、その答えとして本書を著したという。
    そのため、私のようにズブの素人でもなんとか理解できるよう平易に、かつ楽しく読めるよう執筆されているのがまず嬉しい。

    この分野の完全な素人からすると、何となくDNAやらゲノムやらが解析できるようになって、クローンも生み出せるようになっているなら、そのうち達成できるんじゃない?ぐらいに考えていたが、さにあらず。
    詳細な説明は本書に譲るとして、各局面でこんなにも高い高いハードルが聳えているとは思わなかった。
    そもそも、過去に生息していた生物と完全に同一な種を蘇らせることはどうやっても不可能で、目指すべきは現存する近縁種に絶滅種の形質を組み込むことが現実的な方法である、というのが現実的な手段だということ自体、目から鱗。
    その他、考えてもみなかった様々な論点に言及していて非常に頭の体操にもなった。

    取り上げている題材も、執筆態度も含め、良質な科学読み物だ。

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