B.C.1177 (単行本)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480858160

感想・レビュー・書評

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  • 紀元前13世紀末〜前12世紀初頭にかけて、近東・東地中海地域に栄華を誇っていた古代文明の数々が次々に“終焉”を迎えた。それは一体、なぜなのか。謎の民族「海の民」が引き起こしたものなのか。アメリカ考古学者クラインが軽快な語り口でその謎に迫っていく。

    私は近東のある古代文明を研究したが、その国のことを学ぶのに手一杯で、なかなか当時の国際関係にまでは気が回らなかった。本書はそれを非常に鮮やかに描いている。「海の民」については、この地域に興味のない方には聞き覚えのないものかもしれない。私は、彼らは単一民族ではなく難民のようなもので、何度か波のように押し寄せてきたと学んだように記憶している。やはり今でも彼らは謎の民のままである。ワクワクする。

    本書は大きく2つのパートに分けることができる。まず、前半は当時の豊かな国際関係の紹介である。国王同士の手紙など、とても興味深い。このパートはいわば証拠固めに当たる。
    そして、シャーロック・ホームズの言葉も引用される後半は謎解きである。クラインは文明の崩壊の原因を単一要因に帰結させず、複合要因に求める。前半で紹介した高度に結びついた国際関係が、ドミノ崩しのように大きなハレーションにつながったというものだ。とはいえ、様々な未解決の課題は残り、謎解きは不首尾に終わったとも言える。

    本書は一般書らしい。しかし、内容はなかなか高度である。慣れない方にはカタカタの、それも欧州圏とは違う地名や人名に苦労するかも。でも読み終えたとき、現代社会に通じる大きな学びがあるだろう。

  • 大まかなエジプト史、メソポタミアの国名、ヒッタイトなど知ってはいても、BC1400-1200頃の地中海情勢、古代国際関係の観点などは知らず、それなりに面白かった。
    しかし、古代文明世界の崩壊の原因を探ると言う惹句ほど、記述は明瞭ではなく、地震、気候変動、「海の民」(外敵)、内乱、それらの複合、色々あるけどよくわからないよねが結論。密結合のシステムは一部が揺らぐと崩壊しやすいというのは、魅力的な議論だが、何があったのかの部分は、明確ではなく、著者自身も積極的に一つの原因を主張してはいない。これは、誠実な態度とも言えるけど、スリリングとは言えないところ。出版社の売り文句と本の内容に乖離があると言うべきか。
    これほど古く高度な文明、外交、経済活動が、あったことには驚く。
    3000年前も今も変わってないじゃん。
    絵が無い。遺跡や、出土品の写真を入れてくれたら、イメージしやすく、もっと楽しめた。

  • 崩壊前の後期青銅器時代は現代に近いグローバル社会だった。出土品や交易の遺物,粘土板などの情報から其のありようを明らかにする。
    各地の支配者同士の書簡のやり取りが面白い。思ったよりも内容がくだけているというかカジュアルに感じた。
    筆者はこの後期青銅器時代の崩壊の原因は自然災害や侵入者,飢饉など様々な要因を考慮し,複雑性の理論が新たな視座を与えてくれると言っているが同時にそのあいまいさについても言及している。結局のところ分からないことが多すぎて文明の崩壊を招いた諸原因として何を選択すればいいのかすら分からないのだ。
    また筆者は高度にネットワーク化した社会はその構成要素が一つでも不安定になると構造全体が崩壊するという認識のもと,この時代の崩壊を語っているが,であるならばそのネットワークが実際にどのように機能し,なぜ連鎖的に崩壊が起こるのかについてもう少し具体的に説明が欲しかった。
    例えば権力者同士のやり取りや交易の途絶と文明全体の崩壊には明らかに距離があると思う。食料や物資が当時の諸国家においてどれだけ自給されていたのか,あるいは貿易に頼りきりだったのか。といった統計的なデータがあればいいと思ったが,そんな情報はない。資料の乏しい時代の研究の難しさを感じる。

  • 考古学的な知見から、三千年以上も昔のここまで詳細な事実がわかるようになったのかと驚く。焼成された粘土板に刻まれた文字の、年月に耐える力というのはただごとではない。
    ただしかし、肝心のタイトルの年に起きた数々の国や都市の滅亡の背景にあった事実についてはそこまではっきりとした経緯が確かめられたわけではなく‥

  • とても期待しながらざっと流し読みした限りの感想。もっとじっくり読めば感想はかわるかもしれない。
    過去にあったグローバル社会の崩壊の原因をさぐるという狙いは今日的ですばらしいと思った。後期青銅器文明時代の詳細な検証もさすがは考古学の権威だけあって微に入り細に入りでさすが。
    だが、まとめの崩壊の原因が特定できなかったという結論は残念というしかない。
    やはり今度こそ単体文明ごとの崩壊研究の書ジャレド・ダイヤモンド「文明崩壊」を読もうと思う。
    満足度★★+0.5

  • 後期青銅器時代、エーゲ海から東地中海に根ざしていた複数の文明が同時期に滅んだ。滅びは暗黒時代を呼び、それは300年ほど続き、再び立ち上がった文明は前時代を継承してはいなかった。
    本書は、滅びを招いたものはなにかと問い、はっきりとはわかっていない、複合的な要因であろうと答えている。

    主題はおそらく、グローバル化した経済圏をもつ現代と、後期青銅器時代に文明間に構築された経済圏の相似形を語ることであろう。相互に依存した経済圏は、目に見えぬ形で積算した幾つものきっかけが原因で、ゆるやかにだが復元できぬほどの崩壊に至ることがある。
    現代においてもそれは起こりうると述べている。発刊年からするとリーマンショックを念頭に置いてのことか。

    ミケーネ……ミュケナイ、ミノス、ヒッタイト、ミタンニ、バビロニア、カナン、エジプト。歴史に興味がなくとも耳にしたことのある文明または勢力圏。それらの間には定常的な交易網が存在した。
    イリアスで語られるトロイア、聖書で語られる出エジプト。これらは時代の趨勢の変化――文明あるいは勢力圏の弱体化――が招いた出来事であったかもしれない。
    これらについてはこれまでキーワードでしか認識していなかったきらいがある。同一時空に在ったことを認識させてくれた。

  • BC1177前後に一斉に崩壊した地中海の青銅器文明についての本。崩壊前の豊かなグローバル経済、国交などの様子や、滅びた都市の遺跡からわかることを詳細に語り、突然の文明滅亡の謎に挑んでいる。
    遺跡の発掘、出土した粘土板の解読が進んでいるという紹介が面白かった。エジプトに黄金をねだる周辺国の粘土板や敵国への貿易ブロックを指示するものなどバラエティに富んでいて、これを3000年を超えた現代で読めるのがすごい。肝心の文明滅亡については様々な要因が絡んだ複雑なものとしか言わず、帯で煽られている海の民についても詳細はわからずじまいだが(古代のことが完璧にわかるなどありえないのだから仕方のないことだけど)、今わかっていること、議論されていることを整理してくれているので十分と思う。読んだ印象では解説の通り気候変動が引き金ではあると思うのだが、それではまずいのだろうか?

  • 地中海に花開いた青銅器文明が、紀元前12世紀に崩壊した理由を分析した本。恥ずかしながら、本書の時代と舞台については疎く、海の民という言葉も忘れていた。アッシリア、ヒッタイト、クレタ、ミュケナイ文明という言葉を断片的に覚えているだけだった。
     本書は、当時のグローバリズムを各国間の手紙(なんと陶器の板)や様々な遺物から読み解き、驚くほど密接な国際社会が存在したことを知らしめる。この部分だけでも当時を学ぶには十分な資料と言える。そして、青銅器文明の崩壊については、既存の学説や新しい見解を一つ一つ取り上げ、その信憑性について分析している。
     最終的には、文明崩壊の原因は現時点ではわからない、と認めているものも潔い。
     学者の記述は往々にして専門的になりすぎるきらいがあるが、本書は専門的に話しつつも、一般読者も十分理解できるレベルである。
     惜しむらくは、現代に結びつけようとしてなんとなく尻切れトンボ気味なところか。無理に現代に結びつけるような記述は不要だったと思う。

  • 紀元前1200年ごろメソポタミア〜地中海沿岸に繁栄した
    文明が突如として消滅、これまでデウス・エクス・マキナの
    ごとく、そのすべてが「海の民」による侵略のためと考え
    られてきたきらいがあったのだが、決してそれだけが原因
    ではなく、様々な要因(地震・旱魃・飢餓・内乱、そして
    侵略など)が複合的に作用したため、巨大な一つのシステム
    となっていた広大な文明がドミノ倒しのように崩壊したと
    説明しようとするのがこの著作である。その是非については
    判断する立場にないのだが、それ以前にこの時代にこれだけ
    広範囲に及ぶ貿易圏・文化圏が成立していた様を生き生きと
    描いているところが一番の読みどころではないかと思った。
    その崩壊直前の様相は現代のグローバル社会に通じる所が
    あり、その意味での警鐘ともなっている。

  • BC1177 エリック・クライン 筑摩書房

    所有欲が芽生えて以来の
    グローバリズムに注目し
    紀元前と現状の社会の類似性を見抜いた
    見識を評価したい

    強奪に始まる侵略戦争と共に
    交易と政略結婚による縄張りで対立を生み出し
    漁夫の利による利権を狙うグローバリストの台頭
    それにしても知識に頼ることで
    調和による相乗効果を見逃している愚かさに
    我々は学ぶべきなのだ

    ビックリしたのは
    弓に関する科学力による進歩だ
    紀元前2000年ごろに
    異種の素材を張り合わせることで
    強力な弓を開発していると言う
    合わせて馬による戦車も登場していたとも言う
    尽きぬ強欲とそれがもたらす不安恐怖による力は
    死に物狂いだと言うことだ

    内容は兎も角
    日本語の乱れを感じずにはいられない
    毎度のことだが
    肝心なテニヲハによる機微に疎いし
    ガの乱用や主語の重複が悲しい

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著者プロフィール

1960年生まれ、古典考古学、中近東言語学を学び、ペンシルベニア大学で古代史のPh.D.を取得。現在、ジョージ・ワシントン大学古典学・人類学教授。キャピトル考古学研究所所長。これまでにイスラエル、エジプト、ヨルダン、キュプロス、ギリシア、クレタ島、アメリカで考古学的調査・発掘に従事した。考古学関係の著作が多数あり、邦訳は『B.C.1177 古代グローバル文明の崩壊』(筑摩書房、2018年)。

「2021年 『トロイア戦争 歴史・文学・考古学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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