ヒトラーの馬を奪還せよ ――美術探偵、ナチ地下世界を往く (単行本 )

  • 筑摩書房
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480837240

作品紹介・あらすじ

戦火で失われたはずのヒトラーゆかりの逸品が闇市場に現れた。本物か贋作か? 黒幕は何者か? 暗躍するナチ残党との息詰まる駆け引きを描くノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  •  著者は、美術界のインディ・ジョーンズ〉あるいは〈美術品探偵〉と呼ばれる有名な美術調査員。ヒトラーの馬とは、総統官邸前に設置されていた2体の馬の像「闊歩する馬」。ヒトラーがお気に入りの彫刻家、ヨーゼフ・トーラックに作らせたその像は、ベルリン陥落時にソ連軍によって破壊されたというのが定説だった。

     そんな高さ3m、重さ1tの像2体が70年もの歳月を経て、闇市場に売りに出されているという情報が入った。最初はどうせ贋作と思っていたが、資料を当たるなかで、ソ連軍のベルリン包囲以前に、像が安全な場所に移されていたと確信することになる。では今までこの像はどうやって歴史の闇に潜んでいたのか。著者は米国の富豪の代理人を名乗り売主に接触するとともに、像に絡む様々な背景に迫っていくのだ。

     そのなかで、ソ連の情報機関KGB、東ドイツの秘密警察シュタージや、ナチの残党やネオナチ、そうした彼らを支援する秘密結社(あのヒムラーの娘も登場)も登場する。さすがに著者も身に危険を感じたりもする。本当に事実は小説より奇なりだ。

     日本では、美術品の盗難や闇市場等は話題になることが少ない。欧州では、本書でも登場する美術品専門の捜査員が存在する。また著者のような美術調査員やコンサルタントも存在する。それだけ欲望にまみれた人間が跋扈しているのだろう。

  • 動画:盗難のゴッホ作品、「美術界のインディ・ジョーンズ」が回収 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News(2023年9月13日)
    https://www.afpbb.com/articles/-/3481329

    Arthur Brand's Hitler's Horses | Book Review | DailyArt Magazine
    https://www.dailyartmagazine.com/hitlers-horses-arthur-brand/

    Adolf Hitler's lost bronze Walking Horses found in Germany - ABC News
    https://www.abc.net.au/news/2015-05-21/hitler-walking-horses-found-in-germany/6486126

    Arthur Brand wil grootste kunstroof aller tijden oplossen | Nieuwe Revu
    https://revu.nl/artikel/1647/arthur-brand-wil-grootste-kunstroof-aller-tijden-oplossen

    筑摩書房 ヒトラーの馬を奪還せよ ─美術探偵、ナチ地下世界を往く / アルテュール・ブラント 著, 安原 和見 著
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480837240/

  • ナチの美術品にまつわるノンフィクション。
    コレクターや売買利益を目的とする人、真実を知りたい人や執筆したい人、既に戦争で破壊されたと思っていた馬が見つかるまで。
    ナチの残党やKGBなんかが出てきて、ちょっとドキドキしながら読んだ。

    当時は大変な話題になっていたと言うが全く知らなかったのでなかなか面白く読めました。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      桜色の世界(sakurairoworld)さん
      たまたま「美術界のインディ・ジョーンズ」と言う記事を読んで、頭の隅に残っていたので、思わず...
      桜色の世界(sakurairoworld)さん
      たまたま「美術界のインディ・ジョーンズ」と言う記事を読んで、頭の隅に残っていたので、思わず『え”~』と声が、、、

      興味深い本のご紹介有難うございました!
      2023/09/15
  • とーっても興味深く読めた!
    端的に言えば美術品の奪還ということなのだが、奪還作戦そのものよりヒトラーの馬がどんな経緯でブラックマーケットに出てきたのかという点で当時の東西ドイツ(特に東ドイツ)及びソ連の情勢を知ることができたのは貴重だと思う。
    それにしても現在のドイツにおいてネオナチを除いても思った以上にヒトラー政権下の時代を賛美している人々がいるのには驚きを禁じ得ない。

  • タイトルに引かれて読んでみたが、なかなか面白い。実は2015年に世界を驚かせたニュースだというが、全く知らなかった。

    小説や映画の世界さながら、著者を含めて登場人物がそれぞれ怪しげ。エピソードも、どこまでが真実なのか、結末を迎えても把握できず。

    第二次世界大戦時に、ヒトラー総統の官邸前で偉容を誇っていた一対の馬の彫像。ベルリン陥落時に破壊されたと思われていたが、闇市場に売りに出されたという。この謎を追うのが、「美術界のインディージョーンズ」の異名をとる著者。インディージョーンズにしては、アクションが少ない気がしたが。

  • これはノンフィクションなのか?が一番始めの感想。
    美術界のインディ・ジョーンズとは凄いあだ名だ。
    最初に出てくるファン・レイン氏。レンブラントと同じ名前か、と思いながら読んでいた。
    読み進めるにつれ、自分の知識のなさが嫌になってくる。このニュースのことをまるで知らなかったというのもあるが、まず、ナチスなどの知識についての素地がヨーロッパの人とは違うように思う。ネオナチなどは肌身に感じない。日本は長く植民地化されたことがない、他国や他民族に長く虐げられ続けたことがないため、精神や肉体の自由の危機を実感することが少ないのではないか、と思う。

    もっと知識をつけてから、再読したいと思う。

  • 圧倒的な面白さ。今年1番の収穫。
    美術品のブラックマーケットについては殆ど知らなかったが、価値を見出す人にとってはどれだけ多額の資金を注ぎ込んででも手にしたいのだとわかった。登場人物それぞれが目に見えない裏の世界から出て来たようで魅力的だし、明かされている捜査のプロセスも興味深い。読み物にしたてるプラントの筆力も、訳者の力量も素晴らしいのだと思う。
    銅像の類は普段はあまり目に留まらないが、こんなストーリーが隠れているかも、と思うと注目したくなってきた。

  • 2015年に見つかったヒトラーの総統官邸にあった2体の馬のブロンズ像。官邸爆撃とともに破壊されたと思われていた像が、実は爆撃前に別の場所に移されていて、難を逃れていたのだ。その像を探し出したオランダの美術調査員が残したドキュメント。
    日本ではあまり存在が知られていない像だが、その奪還作戦はミステリー以上の緊迫感があった。

  • 信じられないぐらい面白い本。絶対におすすめ。これがノンフィクションとは思えない。ナチス関係の本は真面目なものから小説までたくさん読んだと思うが、全く新しいエンタメだった。超面白くて読み終えたら、またすぐに読み直したくなった。登場人物の名前がなかなか覚えられないので、一気読みの方が良いと思ったのは個人の感想か。

  • ヒトラーの馬を奪還せよ
    美術探偵、ナチ地下世界を往く

    著者:アルテュール・ブラント
    訳者:安原和見
    発行:2023年7月30日
    筑摩書房

    2015年、ヒトラーが執務した総統官邸に飾られていた、高さ3メートル、重さ1トンに及ぶ巨大な馬のブロンズ像2体が見つかった。同じく、人間のブロンズ像4体、さらに、ベルリンに出来る予定だった凱旋門に設置するために作られた、高さ10メートルのレリーフ像も。日本ではあまり知られていないが、ドイツ国内ではこれが超ビッグニュースになったようだ。ソ連軍により、官邸とともに破壊されていたと全員が考え、信じていたものが、実は残り、戦後70年間も高価な美術品として地下で取引されていたのだった。そんな巨大なものが、どうやって運ばれ、隠されていたのか。

    著者はオランダの美術調査員で、美術探偵を自称し、これまで200以上の盗難美術品を発見してきた。1600年前に失われたモザイク画や、行方不明になっていたダリやピカソの作品、オスカー・ワイルドの指輪も。美術界のインディー・ジョーンズの異名をとるが、この本を読むと少し前に仲間2人と美術品取引の会社を作っている。

    そんな彼に、「シュライテンデ・プフェルデ」という巨大な2頭の馬(左右ツインでワンセット)の彫像が売りに出ているとの情報が入る。ヒトラーお気に入りの彫刻家3人のうちの1人、ヨーゼフ・トーラックの手になる作品。あとの2人、アルノ・ブレーカー、フリック・クリムッシュの作品同様、大金が支払われて作られた彫刻たちは、総統官邸に鎮座していた。ソ連軍に官邸もろとも破壊されたと信じられた作品のうちのひとつ、「ヒトラーの馬」のカラー写真が証拠として回ってきている。

    著者と会社仲間、計3人は、最初からこれは贋作だと考えた。トーラックは、巨大な馬の彫像を先につくり、そのミニチュアを5組つくって、ナチの幹部などに配っていた。おそらく、その一つが誰かの手に残っていて、それをもとにして作られた贋作だろうと。それにしても、非常に良く出来ていた。やがて、記録動画を見ていると実はそれらは破壊されることなく、ソ連軍に支配される前にすでに官邸から運び出されていることが分かってきた。話を持ってきた闇世界にも通じるスティーヴン(ベルギー在住オランダ人)の売値は800万ユーローだった。著者は、アメリカの石油王が買いたいと嘘をつき、彼とやりとりをして、なんとか馬のありかを突き止めようとする。

    仲間2人も、それぞれのルートで探りをいれていく。ドイツに渡って、ドイツ警察とも連携。これまで著者は、公的機関とも連携して行方不明作品を探してくるなどしたため、その道では信用があり、警察も連携し、情報提供もしてくれる。もちろん、ヤバい筋にもあたっていく。バレたら命がないという世界。〝探偵〟は恐れながらも手を緩めない。尾行されているのにも気づいたが、それがヤバい筋の人間なのか、警察なのかが不明。

    まさにミステリー。探偵小説そのものの話が、本当にある。これは正真正銘のノンフィクション。ただ、小説と違うのは、主人公1人が探っていった情報から、なんとか核心にたどり着く、ということではなく、いろんな人や機関からの情報を総合して、探っていく点である。また、彼らは3人のほかに、もう1人、ジャーナリストも味方として仲間にする。信用できない記者も登場してくるが、それらは遠ざけたまま。小説だと、信用した者が裏切るなどといったことが起きるが、このノンフィクションでは起きない。警察も裏切らず、応援してくれ、また協力を求めてくる。

    ヤバいやつらとは誰か?中核はネオナチのような極右の連中だった。ドイツはナチズムに対する拒否感が強いと日本で思われているが、この本には再三書かれているけれど、結局、ドイツの政治はナチの残党をきっちり裁くことなく、彼らを生きのびさせ、匿ってきているのである。ドイツと日本は違うと思っていたが、事情は同じ。日本も戦争をしてきた連中、その仲間や残党、子孫が長々と国を牛耳っている。

    トーラックが作った馬2頭、ブレーカーの2体、クリムッシュの2体は、結局、ソ連軍兵舎の運動場に置かれていたことがわかった。勝手にソ連軍がどこかから持ち出していたのだった。そして、東ドイツの諜報機関であるシュタージたちにより、西側の極右思想を持った富豪のもとに流れていったのだった。共産主義者が元ナチと取引をし、元シュダージ工作員がキリスト教民主同盟の西ドイツ連邦首相(コール)の顧問と協力している構造が浮かび上がった。なお、偶然、運動場でそれらの彫刻を見たアメリカのアーチストは、その後、謎の死を遂げている。

    ソ連軍兵舎の運動場から合計6体の彫刻が持ち出されたのは、1988年。東ドイツの体制がつづくわけがないと共産主義者自身が考えていて、持ち出してお金にすることを企てたのだった。協力を求められたのは、1人の鉄くず業者だった。彼の工場にひとまず運び、それらは切断された。大きくてベルリンの境界を越えられないため。馬については、頭と脚部だけ遺したとの証言を得た。そして、手足も遺したとも。これは人の彫像のことなのか、よくわからない。

    結局、最後は、ドイツのある富豪の倉庫から警察の手入れにより見つかったのだが、本の表紙写真にもあるように、馬はちゃんとしている。いったんバラバラにされたのを作り直したのか、あるいはバラバラにはしなかったのか、謎は残るが、本では一切触れられていない。人の像についても同じ。10メートルのレリーフも発見されたが、それまでどこにあったのかにも言及されていない。

    これらはドイツ政府の財産であるため、当然、没収となり、闇取引に関わった彼らは罰せられるはずであるが、ほとんど罪に問われることなく、それどころか、所有権すら彼らは自分にあると主張し、長く裁判で争われている(現在も続いているようだ)。彼らは、借金の担保としていろいろな人の手に渡ってきたのであり、現在は自分にある、と主張しているようだ。しかし、2023年1月には公的な美術館で公開される運びとなった、と訳者は書いている、2023年4月に。これも、よく分からない世界である。

    ノンフィクションでありながら、探偵小説のような展開。読み応えがある、面白い一冊だった。

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著者プロフィール

オランダの美術調査員。200以上の盗難美術品の発見を手がけ、美術界のインディジョーンズの異名を取る。発見した美術品には、1600年前に失われたモザイク画から、行方知れずだったダリやピカソの画も含まれる。

「2023年 『ヒトラーの馬を奪還せよ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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