彼女の名前は (単行本)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480832153

作品紹介・あらすじ

韓国で130万部、映画化された『82年生まれ、キム・ジヨン』著者の次作短編集。「次の人」のために立ち上がる女性たち。解説=成川彩 帯文=伊藤詩織、王谷晶

感想・レビュー・書評

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  • 9歳〜69歳の60人余りの女性の話を聞き、それを28の短編小説にした。年齢差別、性差別、暴力、格差、結婚・離婚、育児、労働etc…様々な年齢層の様々な立場の女性の物語は、国が違っても共感できる面がある。
    著者チョ・ナムジュ曰く「書いている過程よりもお話を聞く過程の方が楽しく辛く悲しいものだった」と。
    チョ・ナムジュは、「82年生まれ、キム・ジヨン」で韓国社会にフェミニズムの大きなうねりを作り出し多くの女性の共感を生んだ。日本でも反響を呼んだが#Me Too運動には至らなかったという。それはまだ日本の女性が我慢している証拠ではないかと解説あり。最近、実名で出てきて訴える女性を報道で見る。なんて勇気のある行動だろう。
    訳注や、成川彩さんの解説で韓国の社会背景が詳しく記されているのも勉強になった。

    本書で衝撃的だった話は、生理用品がなくて学校に行けず、欠席する子の話。要らない服やタオルなどを当てたり、洗面所の排水溝で過ごすという。
    "生理の貧困"をネットの記事で知ったのを思い出す。日本でも経済的な理由や親の無関心などで生理用品が買えず困っている子どもがいるという。私の知る学校のトイレにも設置するようになり、教育委員会もついに動き出したか!と賛同する一方、しばらくして見てみたら、「これは生徒のための物です。職員は使用しないでください」とあった。どう見ても経済的には困ってなさそうな職員すなわち教員が使用しているようなのだ。なんて無知なんだろうと呆れてしまった。

    私は鈍感な方かも。実家にいた時も何不自由なく過ごしてきた。職場も女性社会。
    それでも人間関係が複雑に絡んでくると不愉快なことも多くなってきた。
    お金を渡されて「ここに来い」。
    結婚する時に相手側の女性の知人(私にとっては赤の他人)から「しっかりおやりなさいな」。
    病気で内服するため母乳中断した私に叔母のキツイひとこと「うちの娘はしっかりと母乳育児しています」。
    その他「結婚は?」「再婚は?」「相手はいるの?」
    ほんと傷つく。腹立つ。絶対に忘れない。意外と同じ女性間で起こり、それが輪をかけて傷ける。
    救いなのは、うちの両親には何でも話せて聞いてくれること。

    益田ミリ著「結婚しなくていいですか。─すーちゃんの明日」に出てくる言葉を思い出す。
    「女からも、日々こまごまとしたセクハラを受けているわけで、でも慣れたりしない。慣れることは 許すこと。こうゆう言葉に傷つくことができる あたしでいたい」。
    他の方のレビューにもあるように、「知らない」「知らなかった」ではなく関心を持つようにしたいと思った。

  • 9歳〜69歳までの女性に聞いた話を元にした掌編小説集。虐げられる女性たちのエピソードが辛くて、もやもやして、一気には読めなかった。
    今麻薬戦争をモチーフにした本を同時並行で読んでいて、そっちはざくざく読み進めているので、近い世界のことにしか共感できないんだな、と我ながら情けない。だけど自分に近い世界のことくらい、良くできるよう何かしなきゃという気持ちになった。
    日本より更に過酷なジェンダー環境で闘う韓国の女性たち、心から尊敬する。

  • もともとは2017年の1年間、京郷新聞に連載された記事だったが、ノンフィクションの色合いの強いそれらの掌編を小説に再構成したそうだ。

    実際に訳者あとがきで、元の記事と小説の同じ部分が比較されているが、小説の方がグッと言葉や情景が読者に迫ってくる。

    一番最初の短編が、セクシャルハラスメントを訴えた女性の話でとても重い内容だが、それは作者がこの本が直視するのが辛いほどの現実が目の前に広がる本なのだ、ということを伝えたかったからだという。

    しかし、韓国でこの本が出版された2018年を境に、当地ではMe,too運動が盛んになり、女性の地位向上が促進された。だから、現在の韓国の状況とこの本に出てくる状況は少しタイムラグを感じさせるものかもしれない。

    「82年生まれキムジヨン」がベストセラーとなった日本でも、同じような苛立ちや不条理を抱えている女性は多いだろうが、Me,too運動は国民に広がることはなく、部分的なもので終わった。
    それはこの本を読むと感じることだが、家長制度や、世代間の価値観の違い、ソウル周辺の驚くほどの地価高騰…などのようなことが日本では、あからさまな社会問題となっていないこと…多くの人にとってなんとなくやり過ごせてしまう程度のものであるか、若しくは、被害者となっている人は声を上げることもできないほど疲弊しているか、孤独であるかなのだと思う。

    お隣の国のジェンダーギャップに激する声たちに、私たちは声なく肯首するだけなのだろうか…と思っていたが、最近はコロナの影響でネット署名などが盛んになり、少しずつ動いているのかな…と感じられる。

    2021.5.15

  • 「82年」で大感動したのでこちらも読んだ。女性の生き辛さは世界共通だろうが、韓国と日本はとても近い。世界的に女性の地位が低い東アジアで文化的な共通点が多いからだろう。
    結婚して育児や家族問題に悩み、仕事でのセクハラに悩み、一生独身で生きていく不安を抱え、家族に恵まれるように見える祖母は孫の世話に忙殺され個人の時間がないと振り返る。ナプキンを買えない貧困があり、若者は恋愛結婚出産キャリアマイホーム全てを諦める。結婚してもしなくても、若くても年老いても。
    ただ印象的なのは、韓国の女性達は声を上げていること。若者はデモに参加し、働く人はストライキをする。辛さを諦めない。先日の大統領選の投票率は8割近い。何しろ作家は「キム・ジヨンは自分で声を上げない。(中略)認識しているだけではだめだと感じた。」そしてこの本を書いたという。
    無関心で保守化していると言われる日本の若者たちはどう思うのだろうか。本書を読んで「韓国より日本のほうがまし」という感想を持てるだろうか?ジェンダーギャップ指数では日本は韓国以下である。若くない自分は、「あたしたちの頃はもっとひどかったんだから。そういうことを言う先輩にはなるまいと、心に誓った」「あとであなたたちが、おばさんみたいに生きてほしくないからだよ」という側だ。

  • 韓国の女性一人当たりの出産数が0.8人でOECD諸国で最低値だと報道されていた。新聞では主な要因は教育熱の高まりから子育てにお金がかかることだと書いていたけれど、最近立て続けに韓国の本を読んだせいか、背景にはフェミニズム運動の高まりがあるのではないかと私には感じられた。そういう数値出るよなあと、小説の世界と実際の韓国がピッタリ一致したニュースだった。

    この本は「82年生まれキムジオン」の作者が、その後に出した本。同作でジオン氏は声を上げず内に内にとストレスを溜め込んでしまうが、こちらに出てくる女性はもっと強くてたくましい。

    正直、ボロボロになりながら戦い続ける女性たちの姿は痛々しくて、面白いのだけど気が重くなる本でもある。戦う相手も、男尊女卑を強いる親世代や配偶者だけではない。セクハラを隠蔽しようとする会社や、掃除人や給食のおばさん、鉄道の乗務員といった非正規の女性社員の立場を軽視する会社であったり、さらには当時の朴政権であったりする。その中で、高校生、大学生から社会人までそれぞれがそれぞれの想いを抱いてデモやストライキに参加する姿に、韓国社会の中のうねりの波を感じる。

    2016年に出された「キムジオン」を読んだ時は、男尊女卑文化、儒教文化がなんだか凄まじく、「日本も、ここまで口や態度に出さないけどこういう文化残ってるなあ」という感じだったのだが、それから少し進んだこの本の中の韓国社会は、社会運動のうねりという点であっという間に日本を追い越している。そして日本よりも出生数が少ないことが韓国人女性たちの強い抵抗と主張に感じられ、納得するのである。

  • 韓国のベストセラー作家による注目の新刊! 現代社会の不条理と闘う女性たちの「強さ」に励まされる短編小説集『彼女の名前は』(2020/11/03 17:00)|サイゾーウーマン
    https://www.cyzowoman.com/2020/11/post_310164_1.html

    「次の人」のために。28編の希望 対談=小山内園子×すんみ
    読書人WEB
    https://dokushojin.com/reading.html?id=7714

    筑摩書房 彼女の名前は / チョ ナムジュ 著, 小山内 園子 著
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480832153/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ニュースの主体だった女性たちを忘れまい 作家チョ・ナムジュさん:朝日新聞GLOBE+
      https://globe.asahi.com/art...
      ニュースの主体だった女性たちを忘れまい 作家チョ・ナムジュさん:朝日新聞GLOBE+
      https://globe.asahi.com/article/13831117
      2021/07/28
  • 韓国と日本は、似ていないようで似ているし、似ているようで似ていない。
    キム・ジョンさんもそうだったが、この本で語りを披露しているたくさんの韓国の女性たちと日本の自分との絶妙な距離感が心地よい。そして日本と微妙に違う環境で立ち上がる彼女たちに勇気をもらう。女性なら読んで損はない。

  • ストライキをする理由が「あとであなたたちが、おばさんみたいに生きてほしくないから」であるように、
    自分の代で叶わなくても、後ろに続く人達に少しでも良いバトンを繋ぎたいって意思を一人一人から強く感じた。
    きっと他人からは平凡に見える人も多いのだろうけど、各々が抱えてる血の滲むような悔しさや怒り、後悔、疲労、そのほか色んなものを知ってしまったら、とても平凡とは思えない。

    社会が変わるかも、って期待じゃなくて、絶対に変えてやるという意地。
    そのパワーを分け与えてもらった心地がした。

  • 友人からお借りしました。
    ありがとう!
     
    82年生まれキムジオン からの流れで。
    実際の声を聴く。

  • “私だってそうだったんだよ。あたしたちの頃はもっとひどかったんだから。そんなことを言う先輩にはなるまいと、心に誓った。でもそれだけでは足りない。言ってはいけないことを言わない人で終わらず、言うべきことを言える人にならなければ。”(p.25)


    “娘であることが一体なんの関係があるのかと訊きたかった。でも訊かなかった。思いを晴らすべくとうとうと語り、切々と事情を打ち明け、私の許しを乞うチャンスを母に与えたくなかった。私は娘だ。だから、なんなのか。”(p.54)


    “「私は家事してないとでも思ってるの? あんたのすることになんか文句言った? 私がするのが当たり前で、あんたがすると何かすごい思いやりになるわけ?」”(p.67)


    “「空気を読まないでいられるのだって権力だよ」”(p.75)


    “もともと少ないおこづかいなのに、節約して節約してナプキンを買うたんびに、子宮なんか引っこ抜いてしまいたくなります。”(p.200)

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著者プロフィール

チョ・ナムジュ:1978年ソウル生まれ、梨花女子大学社会学科を卒業。放送作家を経て、長編小説「耳をすませば」で文学トンネ小説賞に入賞して文壇デビュー。2016年『コマネチのために』でファンサンボル青年文学賞受賞。『82年生まれ、キム・ジヨン』で第41回今日の作家賞を受賞(2017年8月)。大ベストセラーとなる。2018年『彼女の名前は』、2019年『サハマンション』、2020年『ミカンの味』、2021年『私たちが記したもの』、2022年『ソヨンドン物語』刊行。邦訳は、『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳、ちくま文庫)、『彼女の名前は』『私たちが記したもの』(小山内園子、すんみ訳)、『サハマンション』(斎藤真理子訳)いずれも筑摩書房刊。『ミカンの味』(矢島暁子訳、朝日新聞出版)。『ソヨンドン物語』(古川綾子訳、筑摩書房)が近刊予定。



「2024年 『耳をすませば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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