絶滅危惧個人商店 (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
3.23
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本棚登録 : 191
感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480818560

作品紹介・あらすじ

チェーン店やアウトレットに負けずに、個人で商売を続ける店を訪ね歩く。食料品、衣類、銭湯…。老舗、家族経営、たった一人での開業など、人と店に歴史あり。 

感想・レビュー・書評

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  • 著者が東京周辺の気になる個人商店を訪ね歩き、店の歴史や店主の想い、商売の心意気などを聞き取った記録。

    昔ながらのレトロなお店を紹介する本は、お店の苦労をよそに無責任に讃えていたり、ちょっと上から目線の書きぶりだったりするものも多くて、あまり読もうと思ったことがなかった。
    本書を手に取ったのは、商店街の将来について考えている本なのかと勘違いしてしまったからだ。パラパラと見てみるとなじみのない東京周辺のお店ばかりで、選書を誤ったかな、と一瞬読むのを躊躇したが、一度手に取ったからと読み進めていくと、予想に反しておもしろかった。

    インタビュー当時50代後半という著者の年齢も関係しているのだろうか。個人商店が当たり前だった生活をリアルに知っている世代であり、お店の人も話しやすかったのだろう。あらあら、こんなことまで、というお茶目な話をするすると聞き出している。硬めのノンフィクションも書いておられる著者だが、本書が雑誌の連載企画をまとめたものということもあり、著者本人の心の内もちょいちょいはさまれて、まるで一緒に話を聞いているような気持になる。

    「絶滅危惧」というタイトルの通り、取り上げられているお店は、周辺環境の変化や店主の高齢化、再開発による立ち退きなどの理由により近い将来なくなってしまう可能性が高いものも多いが、長いところでは100年続く個人商店の話は下手なビジネス本よりも奥が深い。
    個人的には、昔ながらのスタンスを維持しながら上手に世代交代し、今でも堅実に経営している神田神保町のミマツ靴店の話が特に興味深かった。
    戦後、靴の大幅な需要にこたえるため安い靴を大量に売っていた時代から、少しずつ高級靴にシフトしていったミマツ靴店。帰宅難民の女性が歩きやすい靴を求めてお店に駆け込んできた東日本大震災以降、「足にやさしい靴」を打ち出し、婦人靴のセレクトにも力を入れることになったのだそう。時代に合わせて売り物を少しずつチェンジしながらも、お客さんの足を見て直観的に靴を合わせてくれる目利きのすばらしさが、現在も続くお店の繁盛につながっている。
    以前デパートで売り場の人に乗せられてデザイン性の高い靴を買ったものの、足が痛くて数えるほどしか履くことができなかった苦い経験がある。ミマツ靴店のようなお店が近くにあれば私も常連になる。

    優れた技術に裏付けされた経営を行いながら近所のおばさまがたの憩いの場にもなっている須田時計眼鏡店、質屋の家業を現代に合うようアップデートしながら経営している谷口質店など、他にも魅力的なお店がたくさん紹介されている。古くから続くお店だからこそ、戦中、戦後の話も多く語られていて、今の日本のあり方についても考えさせられる。

    家の近所に創業が大正時代だという時計店があるのだが、一度足を運んでみようかな。

  • 小さな個人商店の店主たちにインタビューし、
    店の、店主たちの生き様を探る、ノンフィクション。
    添えられるイラストが、店の雰囲気を良く伝えている。
    東京都内と横浜の19店が主役。
    豆腐屋、青果店、靴屋、自転車屋、本屋、玩具屋など、
    普通に街並みに溶け込んでいる店が紹介されています。
    店に歴史有り。それは波乱万丈な人の歴史でもある。
    長きに亘って、その場所で地域の人々に愛されてきた、個人商店。
    家族の絆、培った人脈、常連さん、近所の人たちとの縁。
    仕事への誇りが伝わってくる。
    バブル前後やコロナ禍での苦境も伝わってくる。
    地上げ、地域開発、競合店、大手チェーンの進出、高齢化、
    後継者の問題等、絶滅に至る要因は様々あるけど、
    登場した全店がこの本が出た当時に、
    頑張って続いているという記述が嬉しかったです。
    どっこいまだまだ頑張ってるよ!

  • まるでひとつひとつのお店が舞台となり店主が主役の短編小説のような気分で読んだ。

    ここにあったはずの老舗のお店が…ない。
    いつのまにかチェーン店に…。
    そういう風景を見た記憶もある。

    だが、本書で紹介された個人商店はずっと続いて欲しい…と節に願う。

    みんなその土地が大好きで続けているのがよくわかる。
    どのお店もお客様のため、モノのため、そして地域の交流の場としても「町の宝」なのだ。

  • タイトル通り「個人商店」が18軒。

    自転車屋さんや靴屋さん
    時計屋さんなんかは主が「職人」だ。
    お肉屋さんに魚屋さん
    青果店の主たちは自分の目利きで
    お客さんに喜んでもらうのが楽しそう。

    魚屋の店主の
    「(仕入れに)年は関係ないじゃない」
    なんてセリフにしびれる!

    霊園で仏花やお墓参り道具を扱うお店の話
    ちょっとめずらしかったです。

  • 地元に根付いたさまざまな個人商店を取材した話がまとめられた1冊。

    子供の頃はこの本に出てくるようなお店が軒を連ね、商店街を成していた。今やチェーン店に押され、次々とシャッターが下ろされて行く中で郷愁深く読んだ。

    どこでも同じものが手に入る便利さも必要かもしれないが、職人肌の人がプライドを持って仕事をこなすこのような個人商店が復活して欲しい。
    …が、今の崩壊した資本主義では無理かな…。

  • 思えば昔は個人商店ばかりでした。いつのまにかチェーン店や大型店だけになってしまいました。とはいうものの、じゃあお前は個人商店を利用しているのか?と言われると・・・。
    そんな昔ながらの個人店舗を丁寧に取材したルポです。

  • チェーン店など効率化の代償に、日本人は何か大切な物を失った様に思う。どこか懐かしい今も残る個人商店の記録。

    今でもこんな個人商店があるのが嬉しい。どこも店主は高齢だが変わらず頑張る姿には深く感銘。

    ファミリーヒストリーを引き出す筆者の取材力あっての楽しい作品。

  • 精肉、豆腐、鮮魚、青果、靴、自転車、本、銭湯、玩具・・・絶滅の危機に瀕しながらもたくましく営業を続けている地域密着型個人商店をインタビュー取材。そこには、目先の利益より客や地域、子どもたちのことを思う商店主たちがいた。
    絶滅が危惧されながらも生き残っているのは、地域に溶け込んでいて、まだまだ人々に愛されているからであろうが、それなりの対応力を身に付けている商店もあるようだ。
    大型書店の進出で売れ行きが落ち始めた時、一流でないが、こだわりの古本を集め差別化を図った書店、「足にやさしい靴を見つけるお店」と銘打って、長年の経験で客の足にピタリと合う提案をする靴屋、
    奥が深い商品に関する知識が豊富な文房具店など。
    もちろん、培ってきたプロの技が生き残りを支えている店も多い。
    店の歴史、地域の人との交流など、いろいろな話を聞き出しながら温かみのあるレポートに仕上がっている。    

  • 2023.1.14市立図書館
    PR誌「ちくま」連載(2018〜2020)の書籍化。地元で長く愛されているような個人商店18軒を訪ね歩いて取材したレポートで、連載時にずっとおもしろく読んでいて、単行本になったらもう一度読み返したいと思っていたが、丸二年過ぎてようやく手にとった。

    実家もちょっと変わり種の個人商店だったので(平成から令和になるタイミングで店じまいし、その父ももういない)、いろいろと思うことは多い。

    ここに登場するお店と店の人たちはどれもこれもそれぞれにすごい歴史を背負っていて印象深い。とくに巻頭の佃煮屋「中野屋」のおばあちゃんのインパクトがすごくて、つかみはばっちり(目次は連載のときと順番が変わっているので編集の妙)、次に出てくる鶴見のお肉屋さんぐらいは遠くないのだから行ってみたいものだけど、一冊読み終えていちばん忘れ難いのはやはり雑司ヶ谷霊園の花屋だろうか。花を売るだけでなく墓所の管理全般に携わり所有者との付き合いがあること、仏花の作り方・・・目から鱗というか、あるところにだけ細々と伝わっている文化の豊かさに痺れ、そしてそれをさらについでゆく存在がどんどん先細って遠からず失われる(2020年の刊行時はまだ全店健在だったとあとがきにあるが、それ以降の数年ですでに失われている恐れもある)ことを思ってやるせなくなる。この花屋に限らず、後継者がない、デジタル対応できないなどの絶滅危惧事情はあちこちの回でも言及されていたことではあるけれど(まれに後継者に恵まれた店もあるけれど、生き延びるとしたらあれこれスタイルを変えながらになろうし)。
    遠からずちくま文庫になったときにそのあたりの消息を聞くのがいまからちょっとこわい。

    追記:雑司ヶ谷霊園の花處住吉は2021年3月末で閉店したらしい。ああやはり・・・こういう記録や記憶が残されていて読むことができるのがせめてもの慰みか。

  • 老舗のこじんまりとした個人商店を取材した本。
    とても暖かな気持ちにさせてもらえる本です。
    見習うべきところがたくさんある。頭が下がります。
    とても寂しい気持ちにもなる本です。
    タイトル通りこう言う心意気のあるお店が生き残りにくい現代社会。実際に今はもう閉店して無くなっちゃったお店もあります。とても残念。どうしたら守れるのか。と言いつつネットショッピングをついつい利用してしまう自分も反省。
    これの関西版出して欲しいです!!

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著者プロフィール

井上 理津子(いのうえ・りつこ):ノンフィクションライター。1955年奈良県生まれ。タウン誌記者を経てフリーに。主な著書に『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『親を送る』『葬送のお仕事』『医療現場は地獄の戦場だった!』『師弟百景』など多数。人物ルポや食、性、死など人々の生活に密着したことをテーマにした作品が多い。

「2024年 『絶滅危惧個人商店』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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