ベルリンは晴れているか (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
3.65
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本棚登録 : 3158
感想 : 400
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804822

作品紹介・あらすじ

1945年7月、4カ国統治下のベルリン。恩人の不審死を知ったアウグステは彼の甥に訃報を届けるため陽気な泥棒と旅立つ。期待の新鋭、待望の書き下ろし長篇。

感想・レビュー・書評

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  •  本の扉をめくると最初に出てくるのは、1945年の敗戦後のドイツの地図。ソ連の占領地域、アメリカの占領地域、イギリスの占領地域、フランスの占領地域に分けられている。第二次世界大戦中のナチスの行いについては歴史で学んだ。その後、ドイツが長らく西ドイツと東ドイツにベルリンの壁で分けられていたことも知っている。でもその間にこんなにドイツ国土が継ぎ接ぎだらけの時があったなんて、この地図を見るまで想像していなかった。
     この小説を読むとこの頃のドイツ住民の心もこんなに継ぎ接ぎだらけだったのだと感じる。痛々しい。
     ヒトラーが台頭した時代、ユダヤ人が差別され虐殺された。だけど生きづらかっのはユダヤ人だけではない。ユダヤ人そっくりの顔をした、アーリア人。そんな人はアーリア人社会にもユダヤ人社会にも入れなかった。ジプシー系の民族もアーリア人ではないので虐待された。それから共産党員。彼らはナチスへの反逆者と見られただけでなく、後にスターリンからも裏切られた。
     両親が共産党員だったことが原因で、両親を殺され、自分自身身を隠しながら妹のように可愛がっていた盲目のポーランド人の少女も亡くし、身寄りのなくなった17歳の少女アウグステは戦後の混乱の中で、アメリカ兵の集まる食堂で働きながら生きていた。
     ある時彼女はソ連の基地な連れて行かれ、ドブリキンという大尉の元へ引きずり出された。理由は、クリストフというチェリストが不審な死を遂げたということで彼女に疑いがかけられたからだ。クリストフは戦前はアウグステのようなナチスから身を隠さなければならない子供を匿う慈善者であり、表向きの顔は、権力者の前でチェロを演奏する演奏家だった。
     アウグステの殺人容疑は晴れたが、今度はエーリヒというクリストフの義理の甥を探し出せという命令がくだる。彼に殺人容疑がかかっているからと。大尉の要求には納得がいかないがアウグステには彼女なりのクリストフな会わなければという使命感があり、旅のお供にカフカという元ユダヤ人俳優の泥坊を連れていけと言われた。たった2日間であったが、焼け野原の凸凹道、鉄道が壊れていたり、アメリカ兵に捕まったり、ソ連兵に捕まったり、〈魔女〉のような少女の支配する地下組織に捕まりそうになったり、スリリングな旅であった。途中で、子供の窃盗団の少年二人も旅に加わってくれることになるが、彼らは自分で部品を集めて作った木炭自動車に乗せてくれたり、野営するときにカエルを料理してくれたり、たくましい少年たちだった。二人はジプシーの子供と性同一性障害をもつ少年。訳ありユダヤ人俳優のカフカにしろ、アウグステにしろ、みんな若いのにスネに傷を持っていた。だけどこんな四人が協力して旅を続ける姿は、ジブリ映画のようで頼もしかった。
     深緑野分さんはすごい。若いのに、この時代のことをものすごく調べて、歴史小説のように読み応えがあるばかりでなく、前述のようにスリリングでキラキラした要素も盛り込ませている。
     ミステリーの部分はもうあってもなくてもいいと思うくらい重厚なのに、最後にあっと言わせてくれる。
     この小説はユダヤ人の皮を被ったアーリア人のように社会と人間の内面の複雑さからくる悲劇を描いているが、この小説自体も〈戦争〉の悲劇を描いた小説という皮を被りながら、実はもっと深くて複雑な人間の闇を描いている。それが最後に分かる。
     だけどこの小説がそれでも一貫してどこか明るいのは、アウグステがいつも自らの命の危険を感じながらもユダヤ人や障害を持つ人など弱い人の味方でいた両親の教えを守って生きていたからであろう。そこに深いメッセージ性もある。

  • 第二次世界大戦敗戦直後1945年7月のドイツ。
    ヒトラーは自死を遂げ、英米仏露の連合軍に分割統治されるベリリン。

    幼い頃から英語版『エーミールと探偵たち』を読み耽っていた主人公アウグステは、その英語力のおかげでアメリカ領のダイナーで職を得ることができ、なんとか食いつなぐ生活基盤を持つことができた。
    くたくたに疲れて帰ったある夜中、ロシア軍管轄の警察に有無を言わさず連行され、NKVDの将校ドブリギンに告げられたのは、かつて世話になったクリストフの毒殺死。
    クリストフは戦時中はその富を隠蓑に反ナチ地下活動を支持し、戦後は同志文化部のチェロ奏者としてロシア軍の庇護下にあった。

    妻のフレデリカが疑わしい人物としてアウグステの名を挙げたこと、毒である青酸カリはアメリカからの配給品の歯磨き粉に混入されており、アウグステが数日前に支給された同一品を闇市で売っていたことから、アウグステは執拗な事情聴取を受ける。
    確たる証拠がないため、ほどなく解放されたが、翌日ドブリギンからフレデリカの付き人の取り調べから、クリストフには生き別れた甥エーヒリがいるこが判明し、殺害に関わっている疑いがある、軍は人手が割けないので探し出してきて欲しいとかなりの無理難題をふっかけられる。
    敗戦直後の関係性のなせるわざなのか、アウグステは断ることもできず、前日の取り調べの際に、偶然関わったコソ泥カフカと共にエーリヒ探しの旅が始まる。

    戦前、戦後ドイツ国内の移ろいゆく描写に冒険ミステリ風味を混ぜ込むなんとも独特な読み応え。
    そこまでどぎつい表現はないものの、共産主義からナチズムへの傾倒、優生思想や情報統制と生き抜くための盲目的な忠誠心、戦争へ導いたもの、結果として訪れたもの、繰り返される愚行、日本国内とはまた別の色合の”戦争”をとり巻く数多の理不尽が頭をぐるぐると行き交う。

    ミステリー仕立てとやがて訪れるポツダム会議への機運がアクセントとなり物語へ引き込みつつ、その実”戦争”の残すものを考えさせられる一冊。

  • 年始早々大変な本を読んだ。第二次世界大戦の不条理、ミステリー、登場人物・アウグステの強さ。何をとっても傑作。ドイツ敗戦後の共同統治下のベルリン、焼け野原と化した街にドイツ人少女のアウグステが、恩人である男の死をその甥に伝えようとするところから始まる。その後、アウグステの両親、義理の両親、姉、義理の妹、関わる友人、知人によって助けたり、裏切られたり、息つく暇がない。ヒトラーの狂気、ナチスによるユダヤ人虐殺、多国籍軍のドイツ統治による弊害、日本の戦争不条理とは人種問題が絡むところが異なる。超お薦めの1冊。⑤↑

  • やっと読み終えた…
    ここのところ、なかなか読書する時間を作れなかったというのもあるが、読み進めるのが僕にとってはつらいところのある本だった。

    翻訳小説っぽいからかとも思ったが、それより登場人物がカタカナだと人物設定が頭に入ってこないからだろう。

    戦争に敗れ、4ヵ国統治下のベルリン。不審死を遂げた恩人についての真実をドイツ人の少女アウグステが追うロードノベル。

    はっきり言って、ストーリーに必然性を感じられず、ラストで明かされる真相も「なるほど」とは思ったけどモヤモヤが残る。アウグステに感情移入もしにくい。

    ただ、戦時や統治下のドイツの描写が圧倒的にリアル。凄惨な状況が目に浮かぶようで、歴史を学ぶという意味ではオススメです。

    • やまさん
      たけさん
      こんばんは。
      いいね!有難うございます。
      やま
      たけさん
      こんばんは。
      いいね!有難うございます。
      やま
      2019/11/21
    • たけさん
      やまさん
      おはようございます。

      こちらこそ、いいね!、ありがとうございます。
      やまさん
      おはようございます。

      こちらこそ、いいね!、ありがとうございます。
      2019/11/21
  • 太平洋戦争敗戦国の日本国民として、原爆投下の惨劇も含めて戦争の悲惨さや残虐性は、体験はしてないものの映像や文献で見聞きしてきたが、同時期同盟国のドイツ ベルリンの惨劇・混乱がここまでのものとは、思い至らなかった

    ナチ党支配下でのユダヤ人への迫害、密告、疑心暗鬼、強姦、窃盗、狂気・・
    昨日まで居た隣人が今日は消えている?!
    移住とは名ばかりの収容所送り
    昔見た「シンドラーのリスト」や「ホロコースト」を思い出した
    人間は自分が生き残るためには、ここまで残虐になれるものか

    途中、胸が痛くなり、読む進めるのが辛くなったが、主人公の少女アウグステと両親デートレフとマリアが、最後まで賢明で愛情深く、人道的だったのが救いだった

    戦後は戦後で、ソ連・アメリカ・イギリス、フランスの4カ国による分割統治

    連合国のトラックが行ったり来たりする。ソ連の鎌とハンマーの赤旗、アメリカの星条旗、イギリスのユニオンジャック、フランスのトリコロールをそれぞれにはためかせ、クラクションを鳴らし、大きな声で異国の言葉をしゃべる

    ブランデンブルクの門の柱には「ソヴィエト管理区域はここで終わり ここから先はイギリス管理区域」という、ロシア語、英語、ドイツ語の三ヶ国語で書かれた看板が立てかけてある

    解放された囚人やユダヤ人潜伏者によるナチス党員への報復
    想像を絶する光景だっただろう

    初めは、なぜアウグステは混乱の中、いろんな危険を冒して恩人の死を甥に伝えにいかなければならないのかその必然性が全く理解できず、また、地名やら人名やら分からないカタカナが多く、しんどくなったが最後に全ての謎が解けた

    巻末の膨大な量の参考文献を見ると、著者のこの作品にかける並々ならぬ努力と熱意が伝わってくる
    その意味でも、文中の描写は、市街地地図と合わせ信憑性があり、歴史的記録としても意味があるのではないかと思った







  • 戦争直後ベルリンで少女が成り行きで仲間となった人達とともに人探しをする珍道中と、幕間の戦時中の暮らしが段々と狂気化し悲惨になる様子が交互に描かれる。『エーミールと探偵たち』や『試作品第一号』等小道具もいい。戦争への蹴りをつけようともがく者達の世界観に引き込まれて一気に読んだ。

  • 終戦直後のドイツ・ベルリンを舞台にしたミステリー。
    主人公は、両親を失い、ソビエト赤軍兵士から市街戦のさなかに陵辱を受け、その兵士のライフルを奪って殺した経験のある17歳のドイツ人少女・アウグステ。
    終戦後、英語ができたアウグステは占領軍である米軍の食堂施設でウエイトレスとして働いていたが、戦時中、自分を匿ってくれた恩人が殺されたことを知る。アウグステは、ひょんなことから知り合いとなった元俳優のカフカと共にその恩人の死の真相を追っていく。

    戦中と戦後の状況が交互に語られ、ヒトラーが台頭するドイツがいかにして戦争を繰り広げ、それが一国民の生活をどのように変えていったかも詳細に描かれる。
    まさに、ミステリーの真骨頂。
    特筆すべきは、日本人が書いたとは思えない筆者の圧倒的リアリティーのある戦時中、戦後のベルリンの描写。
    筆者の『戦場のコックたち』もそうだが、小説の主人公の目を通して、読者はその時代のその日、その日を追体験させられる。まさに映画を見ているかのように脳裏に鮮明にその光景が映し出される。
     
    終戦直後の東京ならば、空襲により焼け野原になった状況など、日本人ならいろいろなメディア(教科書や当時のニュースや今まで作成されたドラマや映画)によって知識を持っているが、同じような状況であったはずのドイツ・ベルリンのことはよく知らない。
    ベルリンはソビエト軍、アメリカ軍、イギリス軍等によりそれぞれ部分的に占領された。
    特に対ドイツ戦で最大の戦死者を出したソビエト軍人の「ドイツ人憎し」の感情は想像に余りある。

    ヒトラーが台頭し、今までの日常が日常では無くなっていく、そのような異常な状況のなか、ユダヤ人へ迫害や障害者やポーランド等の被占領外国人への差別など、戦中のさまざまな狂気が淡々と描き出され、そして壊滅的な終戦を迎える。

    娯楽エンターテイメント・歴史ミステリー!・・・としては読めないが、読者がこの小説を体験することは、いろいろな意味で価値あることだと思う。

  • 『戦場のコックたち』が良かったので似たような戦中・終戦直後のミステリーということで読んでみた。

    戦時下・終戦直後のベルリンを舞台にしたというところが非常に興味深い。
    巻末の参考文献一覧の数を見ただけでも、作家さんが相当この作品を描くために勉強・取材をされたことが分かるし、この作品を描くために相当の情熱を注がれたであろうことも分かる。

    日本と同様、戦中の価値観が終戦後には180度変わってしまう。
    だが日本と違うのはアメリカ軍だけではなく、ソビエト、イギリスと幾つもの国が入ってきてドイツの取り分について争っているところ。
    個人的にはこのような状況に興味があったのでもう少し掘り下げてほしかったところだが、本筋はそこではないので仕方ない。
    終戦直後の現在と戦時下の過去とが同時進行で描かれ、最後に双方がクロスするときにすべての謎が明かされる。
    ミステリーでもありサスペンスでもあり、何か重いものを抱えてどこか諦めたような感すら見せる主人公とちょっとコミカルな相棒というキャラクターのバランスもあって、最後まで飽きさせずに読み手を引っ張ってくれた。

    人の命など『国益』という名の権力の前では塵芥ほどの軽さしかなかった混乱期。
    その中で起きた犯罪の重さは戦中と戦後では変わるものなのか。
    もう一つのプロパガンダに加担した罪もどうなのか。こちらは何となく満州での李香蘭を思い起こさせた。それしか生きる道がなかったのだ、反抗すれば命がなかったという理由で許されるのか、だったら命を賭して反抗すれば良かったのか、それは誰にも答えは出せない。

    絶望的な世界で次々起こる残酷な、事件とすら言えないほど日常的な出来事を淡々と描き、深刻なのに残酷になり過ぎず描いていく技量はさすがだと思った。

    ドイツに限ったことではない、世界中で戦中・終戦後の混乱期に人々が抱えた傷は複雑で暗く深い。
    戦争のことを語りたくない人が多いのも理解できる。

  • 祖国が戦争に負けた。
    それにより人々の運命は180度変わってしまった。
    こんなにもあっさりと。
    戦争というものは、領土や権力を争うことは、こんなにも人々の生き方を変えるのものなのか。
    信じていた国や指導者に棄てられた上、他国に乗っ取られた人々の失望と怒り。
    降伏の証として白い布を体に巻きつけなければならない屈辱。
    それでも生きていく、底知れぬパワー。

    「確かに色々ありました。でも今は、灰色の曇天がやっと晴れた心地でいます」
    吹っ切れたように笑顔で語る主人公・アウグステ。
    彼女の目に映るベルリンの空は、その後も爽やかな青空であることを祈る。

    戦後を描いた『本編』と戦前戦中を描いた『幕間』のあまりの温度差に、遣りきれなくなる。
    そしてこれら二つの物語が重なった時、ミステリの真実が明らかになりとても読みやすかった。
    また、戦争に翻弄されるドイツについて具体的に知ることができた。
    この時代を経験したかのようなリアルな文章にすっかり夢中になる。
    直木賞候補作は3作品(本作と『熱帯』『宝島』)しか読んでいないけれど本作品が一番好き。

  • ドイツ人少女アウグステ。戦争中大変世話になった男性が歯磨き粉に含まれる毒で死んでしまう。そのことでアウグステは犯人と疑われる中、元俳優の男性とともに、死んでしまった男性の甥に死を知らせようと旅立つ。

    もうそこは戦後のベルリンでした。
    ページをめくるとベルリンの世界が広がって、その街を歩いているような感じになるくらい、しっかりとした空気で書かれていました。
    誰が死に至らしめたかのか、なぜかだけではなく、その時代、戦後の米ソ英仏の占領下に置かれているベルリンの様子、いや、その前のナチスが筆頭になるまでの様子も人々の心理も詳細に書き上げられ、圧巻です。読んでて悲しくなる部分はたくさんです。「”戦争だったから”と自分に言い聞かせてきた」とかユダヤ人や障碍者への行為。私たちは歴史を振り返らねばなりませんね。「自由だ。もうどこにでもいける。なんでも読める。どんな言語でも」その言葉がとても重いです。

    カフカが魅力的に書かれていました。手紙も良かったです。

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著者プロフィール

深緑野分(ふかみどり・のわき)
1983年神奈川県生まれ。2010年、「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。15年刊行の長編『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、16年本屋大賞ノミネート、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』で第9回Twitter文学賞国内編第1位、19年本屋大賞ノミネート、第160回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補。19年刊行の『この本を盗む者は』で、21年本屋大賞ノミネート、「キノベス!2021」第3位となった。その他の著書に『分かれ道ノストラダムス』『カミサマはそういない』がある。

「2022年 『ベルリンは晴れているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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