- Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480804808
作品紹介・あらすじ
新三島賞作家が鮮烈に放つ女子と野球の熱く切ない物語。空っ風吹きつける群馬の地で白球を追う女子たちの魂はスパークする! 三島賞受賞作「無限の玄」を併録。
感想・レビュー・書評
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『無限の玄』すごかった。
これは男たちの物語。夢中でページをめくった。
家というのは概念だという桂の話にはうなずける。それぞれに自分の行きたい場所がある。でも離れられない場所がある。離れられないのは現状が理由ではなく本当は概念に縛られているのだろう。
最後は慄然とする。ああそうきたかと。父と息子の境目など存在しないかのような、それこそ途切れることのない呪いだと感じた。律はあの赤子をどうするのだろう。
『風下の朱』は女たちの物語。
侑希美さんは随分と苦しんできたんだろうな。女という性を、彼女自らが頑丈な足枷にしてしまったように思える。 -
ひりひりしていて最高だった。一文が次の一文に流れ込んでるみたいな文章に酔った。
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2作ともつかめないモヤモヤ感が残って何とも言えない物語でした。
でも風下の朱は私自身も女だからかどうもこうもしようがない体に対する気持ちはわかる気がします。
ちょっとイライラするときはある。 -
想像してたのと少し毛色が違ってた。
2作の読後感は同じ系統。 -
二編とも読んだ後では、「無限の玄」はよほど受け入れやすい作品だったと感じています。
「玄」は男ばかりの作品。
死んだ父親が毎日生き返るという設定は、奇妙です。が、ゆえにそそられるし、バンド一家の独特の世界は面白く各々の感情や行動にも心が動かされ、興味深く読むことが出来ました。
対して「朱」は女ばかりの作品。
読み始めてすぐは、野球小説・青春小説なのかなと、単純な好みの問題から個人的には興を削がれました。
と、完全に油断したところを、完膚無きまでに打ちのめされました。
爽やかかと思われた話はまったく別の場所を目掛けて転がっていきます。侑希美が母親のことを話した時は衝撃を受け、ソフト部の部員へしたことへは混乱し、しかし結局、化石の件になると我知らず泣いていました。
ああそうか、ああいう美しいものを美しいと感じるのは、こういうことか、と。
一連の揺さぶられ方は、自分の性別のせいに他ならないでしょう。
多くの女性が反感を抱かれるかもしれませんが、私はいつもいつも、女とはなんて汚いのだろうと感じています。薬を飲まなければまっすぐ立つことさえ難しい痛みも貧血症状も、むしろ汚さを誤魔化す柔らかなめくらましかと思うくらいです。
仕方がないと無視していたそれを、病だと指摘されて動揺したのです。
まったき事実上の性を突きつけられ、それが概念の女性性に拡張され、おまえはどのように対峙しているのか問われても、返答出来なかったのです。
女性がロマンと言うならば、それは手の届かないものへの羨望だという気がします。
地下深くに眠る化石や、夜空にただ在る惑星や、私はそういう美しいものに憧れる。
己がなれない運命なら、せめて指先で触れることを赦して欲しいと願うほどに、私は女性だ。
そうと自覚したからには態度を決めなくてはと思うのですが、しかし正解を提示するのは「風下の朱」の仕事ではもちろんなく、いっそう朱い闇の中で途方に暮れる気分です。
デビュー作以降すっかり夢中になった後、『リリース』のあたりは少し解らないなと思った作家さんでしたが、暴力的な感じでまた絡め取られました。 -
「無限の玄」語り手、父、兄、叔父、従兄、血縁で構成されたブルーグラスバンド。ずっと五人で演奏してきた。強烈な個性を放つ父親。文字通り、死んでも尚。毎日死んでは又戻ってくる父。
「風下の朱」メンバー集めをしている大学未公認の女子野球部に勧誘される新入生の語り手。ただ野球選手でありたい、そう望む部長の侑希美は自らの女である生理を嫌悪する。
男達の血縁の呪縛と、女という性の呪縛。どちらも小説としての存在感は感じるが、自分との接点を見つけられなかった。
語り手の他者に対する洞察は余りに精緻で、何処か作り物めいて感じられた。
センチメンタリズム、ロマンティシズム、ノスタルジーを毛嫌いしていた筈の父が詩集を読み作詞していたという、誰も気付かずにいた事実。「私のフィールドでは、私の打席で打っていいのは私だけなの。私だけが打てるのよ」そう言い残し、梓を置いて一人立ち去る侑希美。どんなに深い絆、繋がり、結び付きがあるように思え、一見分かり合えたように見えたとして、結局人は孤独だということ? -
中編1編,短編1編.
意味深なタイトル「無限の玄」.玄氏の存在,エンドレスなのか?それにしても父子の関係は難しいを通り越して謎,不可解の領域に.そこには愛は存在するのか?呪いのような執着,これが百玄に連綿と続く愛なのか,面白かった.
「風下の朱」は女の生理を嫌悪する侑希美さんの野球にかける思いを,新入部員の私が共感し離れていく過程で物語っている.こういう病的な心情を取り出して見せる手腕は素晴らしいが,何の意味があるのか不毛な読書時間だった.