「奇跡の自然」の守りかた: 三浦半島・小網代の谷から (ちくまプリマー新書 254)
- 筑摩書房 (2016年5月9日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480689580
感想・レビュー・書評
-
福岡伸一先生の知恵の学校
第4回動的平衡ライブの講義でのお話し。
https://m.facebook.com/schola.sapientia/posts/529600374049496/詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
神奈川県三浦半島の先端、小網代の谷は、奇跡の自然だ。
何が奇跡なのかというと、一つの流域、川が雨水を集める流れ始める源流から河口まで自然が残っていることである。
たくさんの偶然が重なって、小網代の森の自然は残ったといってもいい。
古くは水田があったところにゴルフ場の開発などが計画されながらも、開発が進捗せず長い時間に手付かずの自然となった。また、開発計画の途中でバブルが崩壊して積極的にゴルフ場開発ができなくなった。
大規模な開発計画があったからこそ、住宅などが細分化されて建たずに、手付かずで放置されていたのである。
また、バブル絶頂時のリゾート開発のときからも
、この貴重な自然を残していくのに、様々な議論が調整が繰り返されたのが読んでいてよく分かる。
「ポラーノ村を考える会」「小網代の森を守る会」「小網代野外活動調整会議」など、それぞれの時期で、開発計画の主体であった京浜急行電鉄、市や県などに小網代の自然保護の大切さを伝え保護のため活動してきた。
その活動の効果もあり、小網代の谷はついに保全地域となる。
この自然保護の方法が面白い。
自然に任せ人間の関わりを絶つわけではない。
むしろ生物多様性を持つ理想的な湿地帯を保つため、ササを刈ったり川の流路を変えたりした。
また木道を整備し、人が与える影響を最低限に抑えるようにした。
人間が自然に手を入れることについて反対する外部の意見もあった。しかし放っておくと、湿原は乾燥していき、ササなど乾燥した陸地の植物が生え、生物相が変わっていってしまう。
森や、川、湿原の動植物が多様性を持ったまま生きていける自然を、懸命に手を掛けて保っているのである。
現在、小網代の谷はいくつかのルールを守れば誰でも無料で入ることができる。木道の上のみを歩く、動植物を採集しないなど、ごく当たり前のことである。
いつか小網代の谷に行きたいと思う。そして、心ゆくまで動植物を観察したい。 -
養老ブックガイドから。読み始めてまず感じたのは、ちょうどサザンの新曲が話題になっていることもあり、神宮の杜。翻って本書で扱われる小網代。そこで達成された保全運動は、二項対立・反対一辺倒ではなく、話し合い、その中から最適解に近付けていった賜物。とにかくもとの自然のままが第一という極端な保全論が、実際には最適解ではないという可能性も例示されていて、いわゆる”落としどころ”が正解に近いのかも、という事実も興味深い。
-
「源流から海までの生態系が自然のまま残された「小網代の谷」はどのように守られたのか?地元の人や訪れた人たちが手伝い一緒に森を育てる、自然保護の新しい形とは?」
目次
はじめに 小網代入門
第1章 奇跡の流域「小網代」を発見!―1983~87
第2章 オンリーワンの「奇跡の谷」を守りたい―1988~91
第3章 小網代をサンクチュアリに―1992~2011
第4章 開園に向けて―2012~14
第5章 小網代の谷の未来
著者等紹介
岸由二[キシユウジ]
1947年東京生まれ。横浜市立大学文理学部生物科卒業。東京都立大学理学部博士課程修了。専門は進化生態学。慶應大学名誉教授。流域アプローチによる都市再生論を研究・実践。NPO小網代野外活動調整会議代表理事
柳瀬博一[ヤナセヒロイチ]
1964年生まれ。NPO小網代野外活動調整会議・副代表慶應義塾大学経済学部2年生の時、岸由二教授の授業を受け小網代の谷の保全活動に携わるように。平日は出版社で広告プロデューサー兼編集者。週末は、小網代で観察会のガイド、土木作業、運搬仕事などを行う -
福岡伸一先生の知恵の学校
第4回動的平衡ライブの講義でのお話し。 -
桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/591855 -
小網代は20年ほど前に行ったっきり。また行ってみたい。
-
神奈川県の小網代に、日本で唯一の源流から海までの生態系が維持されてる場がある。それが小網代だ。世界的にみてこの緯度のエリアは開発がすすんでるため世界でみてもここしかない。この奇跡を誰がうんだのか?どうやってそだてたのか?の本。
流域まるごと保全するという発想はこれまでなかった。たとえば河口の海岸線に一本の道路をひくだけで、カニは産卵を陸でするため生態系が破壊される。一方で豊かな生物多様性を維持するには、ほったらかしにしておけばいいというわけでもなくここではNPOなどの多くの手をいれて多様性を維持している。
生物的多様性の豊かな空間は、生物である人にとっても生き易く快適だろうとおもう。今後の都市開発にはそういう視点が必要になるのではないか?という考えるきっかけになった一冊。 -
小網代には以前、何度か行ったことはある。最近、テレビなどで自然がよみがえり、干潟ができているようなことは知っていたが、こんな苦労があったとは。主題は2つで、一つは小網代に残された奇跡的な自然のこと、もう一つは、それを守り、再生するための30年にわたる努力かと。久しぶりに小網代に行ってみたくなる。