「奇跡の自然」の守りかた: 三浦半島・小網代の谷から (ちくまプリマー新書 254)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480689580

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  • 福岡伸一先生の知恵の学校
    第4回動的平衡ライブの講義でのお話し。

    https://m.facebook.com/schola.sapientia/posts/529600374049496/

  •  神奈川県三浦半島の先端、小網代の谷は、奇跡の自然だ。
     何が奇跡なのかというと、一つの流域、川が雨水を集める流れ始める源流から河口まで自然が残っていることである。

     たくさんの偶然が重なって、小網代の森の自然は残ったといってもいい。
     古くは水田があったところにゴルフ場の開発などが計画されながらも、開発が進捗せず長い時間に手付かずの自然となった。また、開発計画の途中でバブルが崩壊して積極的にゴルフ場開発ができなくなった。
     大規模な開発計画があったからこそ、住宅などが細分化されて建たずに、手付かずで放置されていたのである。

     また、バブル絶頂時のリゾート開発のときからも
    、この貴重な自然を残していくのに、様々な議論が調整が繰り返されたのが読んでいてよく分かる。
     「ポラーノ村を考える会」「小網代の森を守る会」「小網代野外活動調整会議」など、それぞれの時期で、開発計画の主体であった京浜急行電鉄、市や県などに小網代の自然保護の大切さを伝え保護のため活動してきた。
     その活動の効果もあり、小網代の谷はついに保全地域となる。

     この自然保護の方法が面白い。
     自然に任せ人間の関わりを絶つわけではない。
     むしろ生物多様性を持つ理想的な湿地帯を保つため、ササを刈ったり川の流路を変えたりした。
     また木道を整備し、人が与える影響を最低限に抑えるようにした。

     人間が自然に手を入れることについて反対する外部の意見もあった。しかし放っておくと、湿原は乾燥していき、ササなど乾燥した陸地の植物が生え、生物相が変わっていってしまう。
     森や、川、湿原の動植物が多様性を持ったまま生きていける自然を、懸命に手を掛けて保っているのである。

     現在、小網代の谷はいくつかのルールを守れば誰でも無料で入ることができる。木道の上のみを歩く、動植物を採集しないなど、ごく当たり前のことである。
     いつか小網代の谷に行きたいと思う。そして、心ゆくまで動植物を観察したい。

  • 養老ブックガイドから。読み始めてまず感じたのは、ちょうどサザンの新曲が話題になっていることもあり、神宮の杜。翻って本書で扱われる小網代。そこで達成された保全運動は、二項対立・反対一辺倒ではなく、話し合い、その中から最適解に近付けていった賜物。とにかくもとの自然のままが第一という極端な保全論が、実際には最適解ではないという可能性も例示されていて、いわゆる”落としどころ”が正解に近いのかも、という事実も興味深い。

  • 「源流から海までの生態系が自然のまま残された「小網代の谷」はどのように守られたのか?地元の人や訪れた人たちが手伝い一緒に森を育てる、自然保護の新しい形とは?」

    目次
    はじめに 小網代入門
    第1章 奇跡の流域「小網代」を発見!―1983~87
    第2章 オンリーワンの「奇跡の谷」を守りたい―1988~91
    第3章 小網代をサンクチュアリに―1992~2011
    第4章 開園に向けて―2012~14
    第5章 小網代の谷の未来

    著者等紹介
    岸由二[キシユウジ]
    1947年東京生まれ。横浜市立大学文理学部生物科卒業。東京都立大学理学部博士課程修了。専門は進化生態学。慶應大学名誉教授。流域アプローチによる都市再生論を研究・実践。NPO小網代野外活動調整会議代表理事

    柳瀬博一[ヤナセヒロイチ]
    1964年生まれ。NPO小網代野外活動調整会議・副代表慶應義塾大学経済学部2年生の時、岸由二教授の授業を受け小網代の谷の保全活動に携わるように。平日は出版社で広告プロデューサー兼編集者。週末は、小網代で観察会のガイド、土木作業、運搬仕事などを行う

  • 福岡伸一先生の知恵の学校
    第4回動的平衡ライブの講義でのお話し。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/591855

  • 小網代は20年ほど前に行ったっきり。また行ってみたい。

  • 神奈川県の小網代に、日本で唯一の源流から海までの生態系が維持されてる場がある。それが小網代だ。世界的にみてこの緯度のエリアは開発がすすんでるため世界でみてもここしかない。この奇跡を誰がうんだのか?どうやってそだてたのか?の本。
    流域まるごと保全するという発想はこれまでなかった。たとえば河口の海岸線に一本の道路をひくだけで、カニは産卵を陸でするため生態系が破壊される。一方で豊かな生物多様性を維持するには、ほったらかしにしておけばいいというわけでもなくここではNPOなどの多くの手をいれて多様性を維持している。
    生物的多様性の豊かな空間は、生物である人にとっても生き易く快適だろうとおもう。今後の都市開発にはそういう視点が必要になるのではないか?という考えるきっかけになった一冊。

  •  三浦半島の先端にある小網代(こあじろ)という「源流から河口までまるまる保存されている自然」公園があります。都市に近い場所で、「流域」丸ごと保存されている場所は同緯度帯では世界でここだけ。
     この本は、リゾート開発や宅地開発の波からどのようにこの自然が守られて、それが継続されて、公園になって、市民に支え続けられたか、を、実践的な「プロジェクト管理」の視点から記載されています。
     今までの保全の常識とは異なる懐深い長期的な対策がこちら。
     1.珍しい絶滅危惧種を見つけて貴重だから守れという
     2.開発企業や自治体を「悪者」といいふらす
     3.開発は何が何でも反対。木一本でも倒すな!
     4.いろいろな人に声をかけて反対デモをする
     5.政治家にお願いして開発反対の声を拡散する

    ではないんです。上記は典型的な開発反対・自然保護の例。でも今回成功した対策はこちらなんです。
     1.「流域丸ごとの自然」が貴重という。「多様性の保全」
     2.開発企業・自治体を一緒にやっていこうとする。
     3.開発反対!といわず賛成という。
     4.反対デモなどはやらない
     5.反対が得意な政治家や団体には声をかけない。
    ということです。これじゃあ保全なんか出来ないんじゃないかと思って読み進めたのですが、「ステークホルダー」に寄り添って、関係者を絞り込むことでプロジェクトを言い方が悪いのですが、優位に進めていく様子がありありと分かります。

     さて、一旦保全が決まった後も、どのように継続していくかが課題になります。その方法はこちらです。
     1.せっかく守られた自然だから、モリには一切手入れをしない。「手付かず」
     2.木は一本たりとも切らない
     3.せっかくの自然だから、一切森のなかに人工物を入れない。
     4.国立公園、県立公園にして、公園管理のプロに任せる

     ではないのです。実際には

     1.森には定期的に人が入り、水の流れから湿原の木々の生えかたから手入れをする。
     2.重要な自然だからこそ時には木を切る。
     3.人口の木道を上流から河口まで一本通す。
     4.公園のプロが管理するだけでなく、NPOのスタッフが日常的な管理や案内を行う。

    という、ことになってます。これは、開発こそされなかったものの、放置され荒れ果てた自然を、本来の姿に戻し、それを維持するため。そして、小網代自体は都市に密接している場所にあり、安全を第一として考えられる事故を事前に予防し、されに多くの市民に開放することにより市民に愛される自然にいるために必要なことなのです。
     都市から遠くはなれた、人間の影響を受けない自然を守る場合との違いがここにあります。

     実際の人工物は、ビジターセンターと一本の木道だけですが、この2つにより、むしろそれ以外の場所にひとが入り込まないので、多くの人間を受け入れても保全への影響を最小限に抑えています。

     結果、湿原の植物もカニも昆虫も大挙して押し寄せ、大繁栄することになっています。
     
     実はこの著者であり、実際にこの保全に最初から関わったのは慶応の先生なのですが、この人が「気持ちだけが先行」しがちな保全活動において、ある意味したたかとも思えるプロジェクト進行をすすめます。これは企業内でのプロジェクト管理にも通じるものがあると思います。

     なお、注意点が一つ、、、流域保全なので、マムシとスズメバチもいます。行く時には白い服を着て(黒は熊と間違えて攻撃してきます)、ジュースなどの甘い飲み物は飲まないように(花だとおもってよってきます)してください。木道はマムシ対策でもあるので、木道以外は歩かないようにしてください。

  • 小網代には以前、何度か行ったことはある。最近、テレビなどで自然がよみがえり、干潟ができているようなことは知っていたが、こんな苦労があったとは。主題は2つで、一つは小網代に残された奇跡的な自然のこと、もう一つは、それを守り、再生するための30年にわたる努力かと。久しぶりに小網代に行ってみたくなる。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜市立大学生物科卒業。東京都立大学理学部博士課程修了。慶應大学名誉教授。進化生態学。流域アプローチによる都市再生に注力し、鶴見川流域、多摩三浦丘陵などで実践活動を推進中。NPO法人鶴見川流域ネットワーキング、NPO法人小網代野外活動調整会議、NPO法人鶴見川源流ネットワークで代表理事。著書に『自然へのまなざし』(紀伊國屋書店)『流域地図の作り方』(ちくまプリマー新書)。訳書にウィルソン『人間の本性について』(ちくま学芸文庫)、共訳にドーキンス『利己的遺伝子』(紀伊國屋書店)など。

「2021年 『生きのびるための流域思考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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