なめらかな社会とその敵 ――PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論 (ちくま学芸文庫 ス-28-1)
- 筑摩書房 (2022年10月13日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480511201
作品紹介・あらすじ
近代の根本的なバージョンアップを構想した野心的試論、ついに文庫化! 複雑な世界をそのままで生きるための方途とは何か。本書は今こそ新しい。
感想・レビュー・書評
-
残念ながら、本著で説明する新たな貨幣モデルも選挙モデルも、その数理的論拠を理解する余裕も無ければ、魅力を感じるには至らない。個人による発行株を通貨として取引するPICSYと呼ぶ投資貨幣。従来の通貨は決済貨幣として両立させるその仕組みは面白そうではある。
そうした社会改善のアイデアとは別に箴言のように本質をつく思想が本著に底流する。例えば、オートポイエーシス理論。細胞、神経系、生物体などが、自分で自分自身をつくりだすというサイクルを反復することで、自律的に秩序が生成されるようなプロセス。
生命が持つ目的志向的な性質の無限退行問題。生命にはどんな目的があるのか、それを考えると別の目的のための手段であるように思え、その目的もまた別の目的の手段であるようにループしていく。そうすると生命は自分自身を維持するシステム以上でも以下でもないと言う自己言及性によって目的と手段が一致してそれ以上遡れないところを明らかにする。
契約の自動実行を担うユビキタスデバイス、例えば、時間管理された電子タバコなど。自由とは選択権がある事ではなく、新たな選択肢を生み出す稼働領域の複雑性の広さのはずだが、結果、契約の自動実行が齎すものは、交換可能化。属人の排除、デバイスによる飼い慣らしだ。
数の暴力を活力のカリスマ性に置き換えて交換原則や民意集約のモデルを作り変えたとて、さして変わらぬ社会関係、という末路はありえぬものか。結句、希求する世界観が現前しているだけでは、という感じがしてしまう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鈴木健「なめらかな社会とその敵」読了。300年後の社会はどうなっているか?それは生命のシステムに習う。生命の核、膜、網3つの構成要素を模倣するとそれらの境界はなめらかに溶けていく。著者が提唱する貨幣や政治システム等に現代社会の閉塞感の原因とそれを乗り越えるための強烈な希望を感じた。
-
再読しても、単行本で読んだときと、感想は大きく変わらない。
-
309||Su
-
複雑な世界を単純化せずに、複雑なまま生きることを可能にするために、情報技術やそれに基づく発想は何ができるかという問いを立てた上で、それにできる限り具体的なもので応えるという試みの記録と言えるだろうか。実際、具体的な提案が存在する貨幣や投票システムについてに比べると、そうしたものを欠いた後半の記述は明らかにテンションが落ちる。その貨幣なども、それ自体についての解説は興味深いのだが、それをどうやって普及させるかという点については、いいアイデアがないようだ。正直、こんなものを普及させるくらいなら、革命でも起こす方が簡単じゃないのか、などと思わないでもない。無論、この手に突っ込みは筆者の想定内のようで、如何に具体的であっても、ここでの議論が直ぐに実を結ぶと言うより、よりすぐれたアイデアの種となることを期待しているのだ的な形でまとめられているのだが。迂生の知見が元から狭いのかも知れないが、個々の課題に対する、ほとんどSF的な解決策は興味深かったし、それ以上にそうした荒唐無稽とも思えるアイデアが、意外なまでに現実性を帯びていることには勇気づけられもした。それ故、原著の頃には、トランプもプーチンの戦争もなかったんだなあと言う感慨を多少は懐いてしまうのだが。
-
・『なめらかな社会とその敵』が文庫化。(似たタイトルの本が多くてややこしいが、『サラのなめらかなメモ帳とその論敵』ではない。)