- Amazon.co.jp ・本 (537ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480437983
作品紹介・あらすじ
終戦直後のベルリンで恩人の不審死を知ったアウグステは彼の甥に訃報を届けに陽気な泥棒と旅立つ。歴史ミステリの傑作が遂に文庫化! 解説 酒寄進一
感想・レビュー・書評
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「戦場のコックたち」を読んでから、次はこの本が文庫になるのを待っていた。
「戦場の…」では「史上最大の作戦」や「遠すぎた橋」「バルジ大作戦」を思い出したけど、「ベルリンは晴れているか」と言われて「パリは燃えているか」を思い起こした。
その語感からだけではなく、西部戦線における大きな節目であったレジスタンス蜂起の物語はこの本に描かれた1年後のドイツの姿に繋がっているように思える。
ドイツが敗戦し米英仏ソの4ヵ国統治下に置かれた1945年7月のベルリン。ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、歯磨き粉に含まれた毒によって不審な死を遂げる。
恩人殺害の疑いをかけられたアウグステはソ連NKVD(内務人民委員部)に引き渡され、無実を証明するのであれば恩人の甥にあたる男を探せと命じられて、ユダヤ人の元俳優カフカを道連れにしてポツダム近郊(バーベルスベルク)へと向かう…という出だし。
このバーベルスベルクへの旅、戦後の混乱した街の状況に加えポツダムで米英ソの巨頭会談が行われることもあって色んな困難があり、ベルリン市内を行きつ戻りつ。
米英ソそれぞれの国柄が出た異なる統治の雰囲気や終戦後の街の様子、二人が出会う人々の複雑な心情が手に取るように伝わり、カフカや浮浪児のヴァルターとハンスが語る自身の物語には戦争の罪深さが滲み出る。
『憎らしい相手に会ったらどうする?』と問われたハンスが『僕は臆病だし、正義って何なのかわからなくなった。だからあの人たちが、もうとっくに死んでて、復讐しなくてすめばいいなって思うよ』と答えるところには泣ける。
ただ、展開がちょっと忙しく、二人が窮地に陥ると必ずNKVDが現れるところやミステリー仕立ての真相にはやや違和感。
寧ろ私には、アウグステがここに至った経緯が語られる“幕間”と称されたパートの印象が強烈に残った。
開戦前夜から戦争中の、ヒトラーの台頭とその非人道的な所業、それを目の前で見せられているような作者の筆致は息苦しくなる程に読むのが辛かったが、しかし、分断が進む現在の世界情勢を思うと今こそきちんと読まねばならないと思って読んだ。
そうした社会の大きなうねりが描かれる一方、あわせて個人の中での勇気の萌芽や正しいと思う行いを出来なかった時の悔恨も描かれ、正しい行いが必ずしも良い結果をもたらすわけではないという歴史上の皮肉も知った上で、それでも人としてどう行動すべきかを考えさせられるのだった。 -
第二次大戦直後のベルリン。米軍兵員食堂で働く独人女性アウガステは、ある夜、不審死事件に関する疑いの目を向けられソ連兵に引き渡される…
膨大な史料をもとに描かれた終戦前後のドイツの舞台が臨場感たっぷりの緊張をもたらしていてほぼ一気読み。
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第二次世界大戦直後の米英仏ソに四分割統治される敗戦国ドイツの首都で瓦礫の街と化したベルリンを舞台に描かれる、戦争の地獄めぐりと、贖罪の物語。
終戦から数ヶ月。アメリカ軍駐在食堂で働く17歳の孤児の少女・アウグステ。
彼女の両親は戦時中、反乱分子としてナチスに殺されている。母の機転で命からがらその魔の手から逃れた彼女は、他の多くの市民女性たちと同じようにソ連兵に強姦され、そして、その男を殺した過去を隠し持っている。
ある日、彼女の恩人であるドイツ人男性クリストフが闇市で手に入れたという毒入りの歯磨き粉によって死ぬ。
彼はソ連のお抱えヴァイオリニストとなっていたために、ソ連の諜報組織NKVDの大尉ドブリギンは放ってはおかず、アメリカ軍関係者となっていたアウグステに嫌疑をかける。
アウグステの訴えにより彼女への疑いは晴れたかに思われたが、新たに嫌疑をかけられた被害者の甥エーリヒを探し出すよう命じられてしまう。
逆らえないアウグステは、訳あってユダヤ人で元俳優で今は泥棒だという男「カフカ」を道連れにして、エーリヒ探しのため、彼がいると思しき郊外の街に向かう羽目になるが、アウグステにもカフカにも、それぞれに秘めた過去や思惑があって…。
二人がエーリヒ探しの旅をするたった2日ほどの時間で次々明かされていく、二人や、旅の中で出会う人々たちが語るそれぞれの戦争体験、そして、「幕間」として挟まれる第三者視点で綴られるアウグステの幼少期の描写は、どれもこれも、地獄。
本当に、地獄ってこんなに多種多様なのかと思わせる360度全方位地獄。
ヒトラーはユダヤ人を迫害し収容所に送って殺したけれど、そうでなく優遇対象だったはずのドイツ国籍の「アーリア人」たちにとっても、この戦争は地獄でしかなかった。
そして、その地獄は、ドイツに勝ち傍若無人に振舞っているはずのソ連兵たちにとっても同様で…。
読んでいると、本当にどこにも救いがなくて、息苦しくてたまらない。
戦後から引き続く地獄の日々に唯一の、そして、わずかな救いがあるとすれば、それでも「戦争が終わって」いること。
ラストは予想外だった。
それでも、私には、カフカの、彼女が「罪」を償う必要などないとの考え方のほうが、よほどしっくりくる。
そして、カフカが疑問に思ったままとなる秘められた部分が明かされる、アウグステと読者だけが知ることになる最後の最後の「幕間」を読めば読むほど、彼女には罪などなかったと思ってしまう。
アウグステは、感受性が豊かで、生真面目すぎるぐらいに生真面目で、そして、優しすぎた。
でも、アウグステに影響されて自らの「罪」に迷い問いかけ続けるカフカの生身の姿も、印象的で。
正直、つらくて読み返したくはないけれど、読んだ意味はあったと思う作品。
これから読もうという人は、精神的にも肉体的にも元気な時に読んでほしい。どちらか一方でも具合が良くない時は、やめたほうがいいかも。
「私たちはみんな、走って、走って、息が切れ心臓が止まるまで走って、戦争を駆け抜けた。」 -
第9回Twitter文学賞(国内編)
2019年本屋大賞第3位
このミステリーがすごい! 2019年版第2位
ナチス時代から一転、第二次世界大戦後の敗戦国となったドイツでは、米ソ英仏の4カ国統治下におかれながらどのように人々が過ごしていたのか、壮大なスケールで描かれた歴史ミステリーです。
ミステリーの要素よりも、徹頭徹尾リアリティのある描写が当時の映像をイメージさせ、何度もやるせない想いに駆られながらも作者の手腕に感服しました。
馴染みのない名前だらけ、旅の途中で色んな出会いもあり、登場人物も多いので何度も人物紹介ページと照らし合わせながら読み進め、ページ数も多いのでかなり時間がかかって読了しました。
壮大な物語を読み終えた後は、歴史の一時代を読み終えた充足感があり、この小説と出会えて良かったなと思いました。 -
読んでいるさなかは気づかないけど、読み終えてから「当たり前のように読んでいたけどこの本すごくない?」と思うものに出会うことがあります。この『ベルリンは晴れているか』もそんな本でした。
話の舞台となるのは敗戦直後、アメリカやソ連の占領下に置かれたドイツ。語り手となるのは戦争時にソ連兵に襲われた暗い過去を持つ少女・アウグステ。彼女の恩人が米国製の歯磨き粉に混ぜられた毒による死を遂げ、アメリカ兵員食堂で働くアウグステはソ連の兵士から疑いの目を向けられます。
そんな中アウグステは恩人の甥に訃報を届けるため、陽気な泥棒を道連れに町を出ます。
すごいと思ったポイントは作品の密度とそして空気感。書き出しの兵員食堂の一場面から丁寧な描写ははじまりそれが作中ずっと続く。戦後ドイツの空気感、たとえば都市、米軍やソ連軍のキャンプ地、市民たちの生活、戦争の傷跡を抱えた人々……
一場面一場面のリアルな描写が作品の密度を高め、読んでいくうちに作品の空気感が自分の中に共振していきます。
共振は戦争の不穏さや恐ろしさも切迫感を伴って伝わってきます。旅のかたわらの回想では戦争直前、そして戦中のアウグステの様子が描かれます。ナチスが権力を握り、反抗的な態度や思想は取り締まられ、障害者や同性愛者、ユダヤ人や外国人たちは連行されていく。
アウグステとその家族が徐々に追い込まれていく様子は、胸が裂けそうなほど辛く苦しい感情になりました。そして戦争の爪痕はアウグステ以外の登場人物たちからも見えてきます。登場人物ひとりひとりの苦しみや葛藤がいずれもリアルに感じられる。それはこの詳細かつリアルな描写が作品の密度を高め、空気感を作り上げていったからにほかありません。
巻末の参考文献の数を見ると、作品の圧倒的なまでの密度も思わず納得。これだけ力をこめられて作られた作品だからこそ、なじみのない国、なじみのない時代設定でも違和感なく読者を作品の世界へ引きずりこみ、そして感情を揺さぶるのです。
この作品の文庫版が発売された時期というのは、期せずしてロシアがウクライナへの侵攻を続けている時期でもあります。戦争というものはどういうものなのか。時のプロパガンダや独裁政治は何を生み、そしてどこへ行き着くのか。
密度の濃い描写から作り上げられた迫真の物語は、その回答の一端を突きつけます。力や暴力が世界を変え、プロパガンダやフェイクニュースが現実を蝕む不穏な現代において、こうした物語の重要性はこれまで以上に増していくのだろうと思いました。
第16回本屋大賞3位
2019年版このミステリーがすごい! 2位 -
心とカラダ 頭が 元気でないと 読めない 。モノクロ映画のように 場面が展開して 勝手なイメージが膨らみすぎて 悲惨とか 残忍とか そんな言葉じゃすまない世界にひきずりこまれてしまったから。アウグステは悪くない。あなたは 賢くて利口な子。
私たちはみんな、走って、走って、息が切れ心臓が止まるまで走って、戦争を駆け抜けた。
〜この一文が全てだとおもう。 -
著者を好きになるきっかけになった作品。
ベルリンでの状況を細かくストーリーに落とし込んで、ミステリー要素もあって現在と過去で交互に話が進んでいく展開もすごかった。
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海外を舞台にした日本人が主人公の小説は数多あるが、日本人が一切登場しない海外を舞台にした小説は稀有だろう。
著者は、1983年生まれで、舞台は1945年7月のドイツベルリン!巻末に記載された主要参考文献の数々に、この作品に対する著者の並々ならぬ思い入れが感じられる。
単行本刊行時から注目を集め、小説上の質の高さは、様々なランキングで上位を獲得し、直木賞候補になったことで折り紙付き。
主人公は、17歳の少女アウグステ。彼女が戦時中世話になった人物クリストフが毒死する。誰が彼を殺したのか?最後に明かされる真相には、意外性があり、ミステリー仕立てになっている。
物語は、クリストフの死を伝えようと、彼の甥を訪ね歩くというロードムービー的に展開される。
ソ連の軍人が重要人物として登場し、彼の部下にはウクライナ生まれも。昔日の感を感じてしまう。
書中、ソ連の軍人が語る言葉がある。
「しかし、忘れないで頂きたいのは、これはあなた方ドイツ人が始めた戦争だということです。”善きドイツ人”?ただの民間人?関係ありません。まだ『まさかこんな事態になるとは予想しなかった』と言いますか?自分の国が悪に暴走するのを止められなかったのは、あなた方全員の責任です」
この「ドイツ人」の部分を「ロシア人」に変えて、現代のロシアにそっくり差し上げたい。
https://www.asahi.com/sp/articles/DA3...
https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S15238149.html
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