遠くの街に犬の吠える (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 271
感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480436917

作品紹介・あらすじ

昔の時間の音、忘れられた言葉、烏天狗、東京の地図、屋上の家……せつなくささやかな恋物語。著者による解説「遠吠えの聞こえる夜」収録。

感想・レビュー・書評

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  • ひと昔前の、雑居ビルや、懐かしい雰囲気の飲食店。
    たそがれどきの、路地裏の静けさの中で、ふと耳にする犬の遠吠え。
    吉田篤弘さんらしい、何とも言えない涼やかで澄んだ空気が流れています。

    音で世界を見るようになった冴島君と、「音で小説を描いてみませんか」と提案してきた茜さんと、小説家の吉田さんが登場するのですが、物語の主役は、もう少し別の所にありました。
    とても密やかな恋のお話です。

    膨大な量の声や音や映像がこの空気中を飛び交う中で、ラジオをチューニングするように、耳を澄ませば聞こえるのでしょうか。
    封印されてしまった言葉たちが。
    手紙には、電話と違って、時間のずれがあります。
    幾つもの「偶然」によって織りなされる、吉田篤弘さん独特の世界。
    手紙という響きが奥ゆかしく、もどかしく、胸がいっぱいになります。

  • 吉田篤弘さんの作品は、
    読み終わるとふんわりあたたかい気持ちになります。

    今のままでいいんだよって、
    優しく包み込んでくれる作品。

    そして登場人物がみんな素敵です。
    それぞれ自分の生きる道をしっかり歩いていて、
    周りと上手に調和しながら、
    街に溶け込むように生活する。

    この時間の流れ方が大好きです。

  • いつものアンニュイな雰囲気と、
    密やかな恋心が混ざり合って
    とても温かな気持ちになった。

    そして私は天狗物が好き。
    伊東に行ってみたくなった。

  • 左目が水色の音響技術者・冴島くんと出会った作家の吉田さん。冴島くんは通常人間の耳には聞こえない「遠吠え」を録音・採集するのを趣味にしている。残り香のように、場所に残りしみついた音。やがて亡くなった恩師・白井先生をめぐり、不思議な偶然が白井先生の弟子たち=冴島くん、吉田さん、彼の編集者の茜さんや、その友人で代書屋の夏子さんらを引き合わせ、白井先生の書いたラブレターをめぐる謎解きが始まる…。

    連作短編ぽい形式ですすむ長編。間に挿入されているモノクロの風景写真が良い感じ。最終章の、白井先生の手紙は、吉田くんの書いた「作品」なのか、それとも本当に先生の書いた手紙だったのか、どちらとも受け取れるようになっているけれど、きっと手紙の「遠吠え」が吉田さんの耳に届いたのだと信じたい。天狗のエピソードがうまく絡めてあって良かった。

    ちょっとネタバレだけど、アレは実在してるんですね。食べたい。https://izukoi.com/archives/26758

    ※収録
    水色の左目/とはいえ/烏天狗の声/花の降る音/先生の恋文/遠吠え/冒険/知らず知らず/見えざるもの/おかしなこと/たそがれどき/天狗の詫び状

  • せつない。

    忘れ去られた言葉も、声も
    この物語も
    みんなせつない

    でも、私も手紙が好きで、時々友達に送るのです。
    封筒の中身は過去なのか。
    今回、これを読んでそれがありありと。

    吉田篤弘さんの世界観、やっぱり好き。

  • この世界は言葉であふれています。
    しかも、そのほとんどは
    意味を持たないものだと思えてなりません。
    むしろ、言葉にならない思いこそ、
    真実を秘めているのではないでしょうか?
    遠吠えとは、
    胸の奥底からあふれ出る
    言葉にならない思いなのかも。
    ほろりと切ない
    摩訶不思議な物語でした。




    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • とてもすてきだった。お手紙だった。書こうと思う。

  • こんな素敵な終わり方、、泣いちゃう。

    わたしは、人は誰かに想われることで輝けると考えてる。
    だからきっと読んだと思う。それで女性らしくなったんじゃないのかな。


    吉田さんの本を読んでると、白黒つけられないこととか、考えが変わっちゃうこととか、そういうニンゲンらしいふるまいが認められて、やさしく包み込まれているようで、うれしくなる。

  • 吉田さんの他の作品と同じように、抑揚があり温度の変化があり小さなひとつひとつがつながっていく感覚がありました。

    しかしながらこんなにもドラマティックな結末は予想していませんでした。そこがまたいいのですが。

    柚利子伯母さんの北極星のような美しさを、白石先生にも垣間見たような気がします。自分の手の届かないような崇高なストーリーと思いきや、自分の身近に存在するものを愛おしく思える小説でした。

  • この世のあらゆる「音」を採取する冴島君と、辞典をつくる際に省かれた言葉「バッテン語」を収集する白井先生。彼らと同じように、わたしもまた、何ものかを生き延びさせたい、過ぎ去ったものを甦らせ、忘れたものを呼び覚ましたいという願いを持っているのだけど、読んでいる途中でハッとさせられた。目と耳の焦点の合わせ方の問題なのだろう。
    あなたとわたしの人生が偶然に交差して生まれる喜悦と悲哀。過去を必要とするわたしの心は変わらない。変わるのは語り方であるに違いない。出会ったことで声を存在させてしまう。すがたを見失ってもなお。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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