落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
4.16
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本棚登録 : 204
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480436887

作品紹介・あらすじ

なぜ落ちは笑えない? どうして話が途中で終わるのか、などなど。落語に関する素直な疑問を解き明かしながら、落語ならではの大いなる魅力に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 私は笑点をたまに見るくらいで落語好きとはいえないが、この本は面白い!
    落語は「耳の物語」で口承文学の生き残りであること、「目の物語」との違い、結末を考えない展開で他の物語にはない自由さを持っていることなど、とても興味深い話題満載。

    カフカの文学作品と「耳の物語」の法則でつながっている指摘にも膝を打った。
    Q&Aという形で、落語の楽しみ方が紹介されており読みやすい。著者の落語愛がとても伝わる。
    図書館で借りてきて読んだが、この本はあらためて購入し、手元に置いておきたい。

  • 「落語は面白くないのがあたりまえ」という前提で書かれた落語案内で一気に読める面白さでした。落語が好きになりきれない人たちの気持ちを大切にして、その理由を解き明かしてゆくというユニークな落語案内です。

    著者の頭木弘樹さんは「文学紹介者」。著書に『絶望読書』(河出文庫)、『カフカはなぜ自殺しなかったのか?』(春秋社)等の文学論がある一方で、20歳のときに難病になり、12年間の闘病生活の中で米朝や志ん朝の落語を熱心に聴
    き始め、「落語に何度も助けられた」というほどの落語好き。
    本書では「落語はオチが命なのに面白くないオチがあるのはなぜ?」「まだ話の途中なのに終わるのはなぜ?」「『毎度ばかばかしいお笑いを一席』というのはなぜ?」などQ&Aの形式で落語論が展開されます。その際、引用されるのは落語だけでなく、『百年の孤独』(マルケス)、『三四郎』(漱石)、『荒涼館』(ディケンズ)、『エリザベス・コステロ』(クッツェー)等の文学作品。落語の本ですが、文学と落語の距離を縮めようという工夫がなされています。また、口承文学としての落語の特徴の説明については『ヨーロッパの昔話 その形と本質』(リュティ)が参照されていて、学術的な要素もあります。
    本の題名は『落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ』ですが、逆に「文学が苦手な落語ファンに文学への興味を持たせる」役割もあると思いました。

    さらに本書は一般的な落語ファンにとってもコンパクトな落語案内になっています。
    落語のCD紹介も丁寧で「質屋蔵」の説明は下記の通りです。
    -----
    「質屋蔵」
    「桂米朝 昭和の名演百噺 其の37 質屋蔵/鉄砲専助」ユニバーサルミュージック
    旦那の風格が、さすがに桂米朝です。こわがりの番頭、焼果を買ってもらう丁稚、早とちりの熊五郎、それぞれ生き生きとしています。
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    本書は320ページ程度の文庫ながら非常に濃い内容で、お買い得の文庫と思います。落語初心者にはもちろん中堅の落語ファンや文学好きあるいは文学苦手な方にもおすすめです。

  • べらぼうに面白い落語の本。
    そんじょそこらの落語の蘊蓄を集めたような代物とは訳が違う。何しろ落語は滅びつつある世界の口承文学の貴重な末裔だってえ話なんだ。

    牡丹灯籠やなんかの圓朝の作品が言文一致の文学運動に大きな影響を与えたってえ話から、落語は読むもんか聞くもんか、目の物語と耳の物語の違い、カフカや南米のマジックリアリズムへと繋がっていくって寸法よ。

    落語が好きで、カフカが好きで、ガルシア・マルケスも大好きなこの俺だが、俺の好きな物語はどれもこれも耳の物語ってことで一本筋がピシッと通ってたってえことがよおくわかった。

    p.143の「同じことが起きたら、同じ言葉で繰り返す」のが「耳の物語」ならではの表現形式だという話も肚に落ちた。

    「ある声がフリーダと呼んだ。『フリーダ』と、Kはフリーダの耳元で言って‥…」というカフカの書き方。これを目の物語の翻訳者は何度もフリーダと続くのを嫌って、女中だの連れの女だのと訳し分けてしまうらしい。クンデラじゃなくたって、それじゃあダメだとわかりそうなもんじゃねえか。

    落語家が書いたものも含めて落語の本はたくさん読んだが、これは二番目に素晴らしい。
    一番は米朝の『落語と私』。著者も同意をしてくださるのではないかしら。

  • 779

  • 目の文学、耳の文学という視点は非常にわかりやすく、腑に落ちた。確かに漱石の「吾輩」の面白さを言語化する難しさは相当なものだが、主人公さえコロコロと代わってしまう落語との近しさと考えれば合点がいく。

  • 落語は面白くない、分からなくても当たり前というのは初めて落語を聴く人には安心して入れるのではないかと思う。オチは必ず何かしらの言葉にひっかけたものなんだと思ってたが、話しが終わったのいうサインだと知れば、力をいれずに最後まで楽しめそう。「耳の物語」「目の物語」の話しは面白かった。「耳の物語」だからこそ世界も時代も超えて残る。落語は人間のダメな所を語ってるっていうのは談志師匠の「落語は業の肯定」と言うのに通づるなと思った。人間の普遍性を描いた作品はシェイクスピアしかり、長い間読み継がれ語り継がれていくものなのだと思う。

  • 落語の何が面白いのか、落語と漫才の違い、落語と小噺、漫談との違いもわかっておらず、タイトルに惹かれて購入し読み始めました。
    落語は口承文学、その語り部は世界遺産並み。落語の落ちを聞いても面白くない。そこまでの過程にこそ楽しみがあること、噺家によって話の膨らみが違うことなど落語の楽しみ方を知ることができます。
    さっそくYouTubeで落語を楽しんでます。

  • こりゃ絶やしちゃいけない伝統芸だと思った。生の落語を聴いてこの本に書いてあることを確認したくなり、寄席に通うようになった。21歳の秋。

  • 落語を聴いてみたけど面白くなかった私。10年以上前、ちょっとだけ聴いてみたことがある、それが誰のなんという演目の落語だったかさえ覚えていないが、なんだか繰り返しが多くてくどくて思ったほど笑えなくてあんまり面白くないなあ、と思ったことは、忘れていたけれどこの本を読んでいて思い出した。

    この本は落語は繰り返しが多いこと、そもそもどっかんどっかん、大爆笑の連続というものではないということを丁寧に説明してくれている。
    私が面白くないと思った点は落語の特徴であり、意味のあることだった。

    世界の昔話と落語の関係についての指摘も興味深い。
    「目の物語」「耳の物語」という物語の特徴についての指摘も、納得が深い。自分は「目の物語」によって物語を享受することに慣れすぎていたのだ。

    この本で知ったことをふまえて、また落語を聴いてみたい。

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著者プロフィール

頭木 弘樹(かしらぎ・ひろき):文学紹介者。筑波大学卒。大学三年の二十歳のときに難病になり、十三年間の闘病生活を送る。そのときにカフカの言葉が救いとなった経験から、2011年『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社/新潮文庫)を編訳、10万部以上のヒットとなる。さらに『絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ 文豪の名言対決』(草思社文庫)、『ミステリー・カット版 カラマーゾフの兄弟』(春秋社)を編訳。著書に『食べることと出すこと』(医学書院)、『落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ』(ちくま文庫)、『絶望読書』(河出文庫)、『カフカはなぜ自殺しなかったのか?』(春秋社)、『自分疲れ』(創元社)。ラジオ番組の書籍化に『NHKラジオ深夜便 絶望名言』(飛鳥新社)。名言集に『366日 文学の名言』(共著、三才ブックス)。編者を務めたアンソロジーに『絶望図書館』『トラウマ文学館』(共にちくま文庫)、『絶望書店 夢をあきらめた9人が出会った物語』(河出書房新社)、『ひきこもり図書館』(毎日新聞出版)がある。NHK「ラジオ深夜便」の『絶望名言』のコーナーに出演中。日本文藝家協会、日本うんこ文化学会会員。

「2023年 『うんこ文学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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