戦う石橋湛山 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480435880

作品紹介・あらすじ

日本が戦争へと傾斜していく昭和前期に、ひとり敢然と軍部を批判し続けたジャーナリスト石橋湛山。壮烈な言論戦を大新聞との対比で描いた傑作評伝。

感想・レビュー・書評

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  • 戦前に軍部に対しても恐れず発言をした湛山という人の剛毅な人生に感動した。特に満州事変から国際連盟脱退という一連の事件の中で、朝日・毎日など大手新聞がヒステリックなまでに国粋主義を煽った中での、この人が主幹を務める東洋経済新報社のリベラルな姿勢に驚き。その彼が、戦後GHQによる公職追放処分を受けたとは信じ難いこと。そして首相になって2ヶ月での病気退陣。この人が首相を続けていたら日本はどんな国になっていたかと興味深々である。このような人物が自民党にいたことに、自民党の奥の深さを感じた。

  •  宇沢弘文の考えへの興味から同じリベラルな石橋湛山に行き着いた。石橋湛山を検索するとなんと半藤一利先生が書いておられた。
     内容はさることながら、戦前生まれの東大卒なので文章の質も素晴らしい。

  • あとがきで半藤さんも言っているように石橋湛山論ではないように思う。一方で、戦前の満州諸問題から如何に太平洋戦争に至って行ったのか、ジャーナリズムと軍部の動きについての膨大な引用から、当時の世相についてよくわかったように思う。
    今なら差し詰め新聞ではなくネットが、この時の朝日毎日の役を担うのだろうな。
    でも当時よりもずっとずっと世界の動きは見えるわけで、でも北朝鮮とかロシアとかのような例もある訳で、一概には大丈夫とは言えないけれど、日本人だってそんなに馬鹿じゃないだろう。
    兎にも角にも戦争なんて、やってはいけないしやられてもいけない。世界の叡智がいくらでもいるのだから、人類としてそんなことは選んではいけない。

  • 昭和初期 日本全体が戦争へと傾斜していくなかなにあって、ひとり敢然と軍部を批判し、最後まで屈することのなかった

  • 戦前、特に満州事変時の朝日・毎日を批判した本。石橋湛山は、当時の風潮がすべてではない「反例」となる言説を著した東洋経済新報社のジャーナリストとして登場する。
    石橋湛山の名は、安倍晋三氏が体調を理由として早々に辞任したときはじめて知った。彼はその後宰相になることはなかったが、言論の自由を何よりも重んじ信念を貫いた気骨の政治家として語られていた(安倍氏は…)。『日本地方自治の群像』でも筆頭に挙げられる人物であり、戦後の民主主義と自治に大きな影響を与えた人物である。
    本書ではタイトルにあるので紹介程度に、といった程度で、戦前戦後を通して石橋湛山の活動にはほとんど触れられていない(インチキだと思う)。ただ、当時のマスコミとは正反対の言説である、帝国主義や中国での拡大方針、中国人民の尊重に関する石橋湛山の主張はしっかり整理されており、当時の異常さ、「一塊の複合物」が他のあらゆる価値を失わせ、言論・知識層が思考停止に陥っていた事態を明らかにしていると思う。(ただし、思考停止の事態に対する分析・議論が出尽くし、明晰に著された言説に手垢が付き始めた時期の本なので、全体主義への批判と反省をプロットとするノンフィクション的なモノであると意識して読まないと危ない。)
    評価が低いのは、ノンフィクション的なモノとしては、引用が多すぎて著者の著作と言い難いからである。いや、引用の限度を超えてこれは剽窃と言ってもいいかもしれない。読みやすさを尊重して書き直したとあるが、やりすぎで出典もいまいちはっきりしないので、史料の糸口としても使えない。大衆歴史小説家の仕事はこんなものかと言われるのは恥だろうから、せめてタイトルを変えて編集し直すべきだと思う(著者が湛山の言説を修正しているんだから、著者も許さなきゃね)。

  • 石橋湛山を知りたいと思い、買った本。戦前の大新聞との言論線が中心なので、読みたかった戦後の話があまりなかったのは残念。一方で、思った通り信念の人という印象は変わらず、印象に残るフレーズはいくつもあったので、また読みたいと思った。「私は自由主義者であるが、国家に対する反逆者ではない。」

  • 皆さんはマスコミやメディアを信じていますか?

    恐らく多くの方が多少の疑いやポジショントークの可能性を考慮しつつも、まあ信じるという方が多いのではないでしょうか。私もそうです。
    しかしもしマスコミが、戦争を推進する、戦争へのムードを後押しする、なかんずくそのムードを作り上げたとしたら、それでも我々は今まで通りの関係をマスコミと続けるべきなのでしょうか。

    ・・・
    本作は、2021年に逝去された半藤氏によるマスコミ批判書です。

    タイトルに「石橋湛山」とありますが、決して元総理大臣の石橋湛山についての本ではありません。日中戦争開始前後に、戦争反対・満洲撤退という持説を大いに唱えた石橋湛山率いる東洋経済新報社と、それ以外の軍部追随を行った大手マスコミとの比較を通じて、これら大手マスコミを批判する内容になっております。

    ・・・
    読後の感想は、「マスコミも感情的になる」です。
    もちろん、マスコミは集団・総体であり、それ一つとしての生き物ではありません。しかし、その意見を代表する論説委員や彼らが表す社説、そして報道記事でさえ時として感情的になるようです。満洲事変に際しての朝日新聞の様子は以下の通りです。

    「十八日午後十時半、奉天郊外北大営の西北側に暴戻なる支那軍が満鉄船を爆破しわが鉄道守備兵を襲撃したが、わが軍はこれに応戦した。・・・この日北大営側にて将校の指揮する三、四百名の志那兵が満鉄巡察兵と衝突した結果、ついに日支開戦を見るに至ったもので、明らかに支那側の計画的行動であることが明瞭となった」

    このほかにも朝日や毎日が明らかに状況を煽情的に報道した例が本作で多数引用されます。

    もちろん、過去のことを云々言っても詮無き事、何も元には戻らないということも事実です。人は歴史的動物であり、その時々の雰囲気に呑まれてしまうしまうことは致し方ないと思います。しかし、時が過ぎほとぼりが冷め、過去の自らを振り返り、それでも自らを批判的に見れなくなったとすれば、一層マスコミの信憑性に疑問符をつけざるを得ません。氏は『朝日新聞七十年小史』を繙きこのように述べます。

    「「昭和六年年以前と以降の朝日新聞には木に竹をついだような矛盾が往々感じられるであろうが、柳条湖の爆発で一挙に準戦時体制に入るとともに、新聞紙はすべて沈黙を余儀なくされた」と説いているが、これは正確な認識ではないようである。「沈黙を余儀なくされた」のではなく、積極的に笛を吹き太鼓を叩いたのである」(P.121)

    ポジティブ過ぎてもネガティブ過ぎてもいけませんが、報道機関が自省的な態度をとれないとなると致命的であると感じます。。。

    ・・・
    振り返り、現在。
    今はマスコミのみならず、個人が意見をSNSやブログなどを通じネット上に自由に流すことが可能な時代です。多様な意見が世論形成を可能にした点は喜ばしいことでありますが、他方、自分の意見が間違っている可能性があり、それにより他人を良くない方向へ導く可能性もあること、そしてそうした場合には素直に反省する勇気も必要になると感じました。発言には責任も伴うということです。もちろん私のこの小文ですらその責を免れ得ません。

    また、マスコミとの付き合い方にも注意が必要かもしれません。大手だからと言って正しい報道だけをしているとは限りません。シェア争いのために煽情的な記事が掲載されることもあります。株主の意向に沿って偏向的な意見が載る可能性もあります。或いは広告主などスポンサーを害する記事が掲載されない可能性も大いにあります。

    では何を信じればよいのか。
    それは個々人が考え、個々人が取捨選択してつかみ取るしかないのかもしれません。一国、一企業、一ブログ、そのどれもが常に考えやスタンスを変えつつ、言う事も変わるのでしょう。逆に、同じことを言っている主体も、今正しいことがそのまま将来正しいとは限りません。

    ある意味でこれこそ自由の代償なのかもしません。
    またこの自由の結果、多くの人が異なる意見を持ちうることになります。こうした意見の違う人々と、コミュニケーションを通じて折り合いをつける、これもまた自由の結果課された現代人の責務かもしれません。

    本作を読み、そんな自由という難しさを思いました。

  • 東2法経図・6F開架:289.1A/I71h//K

  • 新聞などメディアが日本を戦争に導いたことがよくわかった。新聞は国民に嘘の情報を流し、国論を操作し、戦争へと向かわせた。そのような中、石橋湛山は首尾一貫して戦争に向かうことを憂いた。満洲は中国に返せといった。日本にいながら世界情勢が見ねけていた。稀有な人だと思う。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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