青春怪談 (ちくま文庫 し 39-7)

著者 :
  • 筑摩書房
4.17
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本棚登録 : 226
感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480434081

感想・レビュー・書評

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  • 今では許されなさそうな表現のオンパレードだけど小説としては面白かった。あと表紙の絵が好き。

  • 同棲愛にロマンスの無い恋愛が昨今の若い人たちの恋愛を表現しているように見える。
    今読んでも色褪せない、今だから読むと納得する本。
    セックスと恋愛がセットになっていた時代はもう終わりを迎えている現代をそのまま描いたような内容でもあり、こざっぱりしていて好き。
    何冊か獅子文六は読んできましたが、これはちょっと毛色が違う感じでこんな大切な事も書いていたのかと発見できた一冊。

  • 「ずっと避けてきてごめんなさい」と、獅子文六先生に謝りたいです。

    獅子文六の作品は長いあいだ絶版となっていましたが、近年再評価の流れで一気にその名を知られるようになりました。ちくま文庫のポップな装丁も手伝ってか特に若い層に評判は広がり、一時期ヴィレヴァンの文庫本コーナーで頻繁に見かけたことを覚えています。

    ミーハーなのに通ぶりたい人間の典型であった若い頃の私は、このポップかつサブカル受けしていたであろう獅子文六作品を、無視できないくせに避けていました。しかも目に飛び込んできたタイトルが「コーヒーと恋愛」。このタイトルだけでウヒーとむず痒かったのです(正直今でもむず痒さはゼロではないです)。若い時分はもっとコアなものを求めていたのですが、それはとても浅はかで愚かな考えだったと今は思います。

    先日ひさしぶりに獅子文六の名を本屋で見かけ、経年とともに多少は自分の愚かさもマシになったのか、自然と手が伸びました。そしてこの「青春怪談」と出会ったのです。とても面白い小説で、この出会いを逃していた若い頃の自分はやはり愚かであったと反省しました。古臭さは一切感じず、むしろ現代にフィットする内容に驚きました。

    ストーリーの大筋は、一時期のTVの昼ドラのように愛憎入り乱れた恋愛ものとも言えますが、けしてドロドロとしていません。いかにも純文学な堅苦しさもなく、ユーモラスで飄々とした作風でスッキリと読みやすいです。戦後日本のレトロモダンな雰囲気もありますが、過剰でなく、必要以上に装飾的ではありません。現代との差を感じない普遍的な人間の生活や情動を描いています。

    ビー玉が斜面を転がるような読みやすさですが、時にピタリと目が留まり、ため息がでるような胸を打つ文章表現もあります。感嘆のあまりうめきながら本を閉じ、一時のあいだうずくまってしまったほどです(本当に)。獅子文六を避けていた若き自分を呪いました。以下に抜粋します。

    ”厭世は、大事件である” (208p)

    バレリーナの千春が困難にぶつかり深く落ち込み、鬱状態にある場面の一文です。鬱状態にあると自分自身も含め、世の中がどうなっても構わない気持ちになります。それは確かに自分の世界を揺るがす、文字通り「大事件」なのです。仕事や家事より、何よりも優先して心を配らなければいけない一大事なのです。自分の内なる声を無視するのでなく、「これは大事件だ」と自分の声に耳を傾ける必要があるのです。シンプルですが力強く励まされるように響く一文でした。

    また、千春を慕う後輩バレリーナの藤谷新子が、千春のボーイフレンド・慎一に嫉妬の炎をあげるシーンでもため息が出ました。以下抜粋。

    ”慎一が、無比の強敵であることを、彼女は、よく知ってる。第一に、彼は、男性である。つまり、官軍である。その上、稀代の美男子ときている。錦の御旗を掲げた、水爆機の如きものである。これに対する彼女は、ただ熱情と献身の竹槍しかない”(211p)

    ”ただ熱情と献身の竹槍しかない” ときた!なんて憎らしいぐらいに上手い表現なんだろう。絶対に勝てない、愚かな挑戦であることが伝わりますし、「熱情と献身」イコール「竹槍」という比喩が膝を打つほど絶妙です。実際に戦中の日本で、国民が竹槍でB29爆撃機を撃墜しようと練習していた史実も連想され、藤谷新子の不憫さを表現するのにこれ以上のものはないとすら思えます。

    また獅子文六は、この作品のテーマのひとつとしてジェンダー論にも果敢に触れています。それが現代的に正しいかどうかは置いておいて、1950年代に新聞連載の小説で取り上げるのはかなり新鋭的だったのではと思います。

    巻末の付録記事のなかでやたら「新聞小説、新聞小説というけど、普通の小説と変わらない」という獅子文六自身の言説が頻繁に出てきます。新聞連載の多かった獅子文六は、「新聞小説」と揶揄されることがよっぽど疎ましかったのだろうなと思います。大衆的だと軽視されていたこともあったのかもしれません。獅子文六を軽んじていた若い頃の私に言われているようで、最後にあらためて反省しました。

  • 今作品は戦後の新聞小説。これは続きが気になるだろうなと思います。でも読めない漢字や読みにくい表現、なぜか「、」が多用されててちょっと読みにくい箇所あり。60年くらい前の作品にしては現代と変わらないので読むたびびっくり。性同一性障害等はこの頃からあったんですね。とにかくキャラが良いんでスイスイ読めます。何度も映画化ドラマ化されてるそうですが、わたしの個人的配役では美男子の慎一は吉沢亮さん、千春は清野菜名さん、慎一ママは木村多江さん、千春パパは生瀬勝久さんで脳内再生されました。

  • 初出は1954年の読売新聞。

    いわゆる昼ドラが好きな方ならきっと気に入ると思われる。

    メインは大卒イケメン実業家の慎一と、サッパリした性格だが男性に対して過度に潔癖な節のある千春との仲を軸に、慎一に近寄る女性陣や千春に好意を寄せるシンデとの同性愛、慎一の母と千春の父の恋、と次々に展開する愛憎劇。

    結末はなかなか衝撃的。
    というよりも獅子文六氏の感性があまりに現代的だと思う。



    1刷
    2021.2.21

  • 全員が主人公と感じるくらい、それぞれの場面が細かく描かれていて飽きなかった。が、なぜか全然さきが見えない話で、ずっとムズムズしていた。
    読後思うと自分は慎一に自己投影しながら読んでいた。ムダ嫌いがとても共感してしていた。
    でも蝶子も可愛いんだよなー

  • 60年前の作品なのに、古びていない。
    何よりキャラがすごくたっている。
    意外なのが、男性の書く女性なのにヒロインの千春ちゃんが結構ワガママというかハジケキャラというか、新子ちゃんとの関係といい斬新です。でも、慎一君が逆に落ち着いているので、バランスが取れているのかな?イライラせずに読めました。
    新子ちゃんと船越さんとドロドロ具合といい、頑固なお父さんに天真爛漫なお母さん、こうして書くと女性のキャラが多いですね。みんなすごくリアリティがあり読ませます。
    作中に出て来る小物たちもおしゃれで素敵です。

  • 慎一は一途な気がするんだけど、千春は随分勝手だなあ。
    だけどさすがは獅子文六、最後まで楽しかった。

  • 文学

  • この小説1954年に新聞連載されたもの。今の世と違和感を感じない恋愛模様、獅子文六の手腕はさすがです。ロマンティックで洗練された物語で最後まで飽きずに楽しめた。帯や解説にある通りクールボーイミーツドライガール、若い二人と周りの大人たちを巻き込んだ超絶ドタバタ恋愛劇。あー面白かった!私は船越トミ子を越路吹雪が演じた新東宝で映画化された方を観たいです。

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著者プロフィール

1893─1969年。横浜生まれ。小説家・劇作家・演出家。本名・岩田豊雄。慶應義塾大学文科予科中退。フランスで演劇理論を学び日本の演劇振興に尽力、岸田國士、久保田万太郎らと文学座を結成した。一方、庶民生活の日常をとらえウィットとユーモアに富んだ小説は人気を博し、昭和を代表する作家となる。『コーヒーと恋愛』『てんやわんや』『娘と私』『七時間半』『悦ちゃん』『自由学校』(以上、ちくま文庫)。『娘と私』はNHK連続テレビ小説の1作目となった。『ちんちん電車』『食味歳時記』などエッセイも多く残した。日本芸術院賞受賞、文化勲章受章。


「2017年 『バナナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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