仁義なきキリスト教史 (ちくま文庫 か 54-4)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480434036

感想・レビュー・書評

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  • 「キリスト教とは」を分かりやすく
    尚且つ広島弁での任侠ヤクザの語り口展開で
    非常に分かりやすく描いている本。
    キリスト教…と、ひと言で言ってもなかなかその内容まで分かっていなかったというか
    えぇ!!そうなの?!という驚きの方が多かった。
    著書にも描いてあるけど、まさにLOVE or DIE
    愛しなさい。しかし信じないなら滅びあるのみ、等。
    そしてずーっとひたすら続く内輪揉めの数々。
    創造と破壊というか、破壊してまた創造しての繰り返しで
    人類の3人に1人がキリスト教徒というのも妙に納得してしまった。
    人は救いを求めるもの。それほど人間は弱いし、でも強くもある。

  • 好き嫌いがはっきりと分かれる小説だと思います。
    テーマはキリスト教史。イエスキリストやモーセの出エジプト、第四回十字軍にルターの宗教改革など、キリスト教の歴史上、多くの人が耳したことがある事件を舞台とした物語です。
    そして特徴的な点は『仁義なき』というタイトルにもある通り、登場人物がすべてヤクザであるということ。ヤハウェ大親分の盃を受けた「ユダヤ組」や「キリスト組(もともとはユダヤ組系ナザレ組)」のヤクザたちが、教義(任侠道)の違いから対立し、血で血を洗う抗争(宗教対立/宗教戦争)を繰り返してゆく、という描かれ方です。
    章ごとに「解説」もあり、トンデモエンタメ小説のみで終わらないところも、評価できると思います。
    「愛」の宗教というイメージの強いキリスト教ですが、世俗権力との癒着があり、宗派どうし(異端排斥)や異教徒への攻撃など、暴力的な歴史が多いことに、あらためて気づかされました。
    この本を読んで「キリスト教の歴史がわかった」とは言えないかもしれませんが、「キリスト教の歴史をより深く(正確に)知りたいと思う」ようになる本だと思います。
    正確なキリスト教の歴史を学びたい人・またキリスト教を信仰している人には不向きな本かもしれませんが、ちょっと好奇心で読むにはいい本だと思います。

  • 「ヤハウェ大親分、ワシを助けてつかぁさいやァ、アーメン!!」
    キリスト宗教の複雑な人間模様と歴史を、「極道のお家抗争」劇にそっくり置きかえて描いたキリスト宗教史。親分ヤハウェ、子分、シノギ、シマ…およそ宗教を語るとは思えないフレーズの数々。しかも言葉遣いは全編広島弁。この斬新で無遠慮な設定が許される日本は素敵だなぁと思います。

    キリスト教の長い長い歴史と諍いは、大局的に捉えてしまうと「組と組によるシマを巡る抗争」。そんなシンプルな設定を前提にして読み進めていくと、人物相関図が自然と頭に作られていき、聖書や史実に沿ったエピソードに触れることができます。しばらくは頭では理解しながらも気持ちがついていきませんでしたが(笑)、だんだんとこの豪快な世界に引き込まれ(巻き込まれ?)ている自分がいました。
    かなり変化球ではありますが、この設定は素直に感心します。ぜひキリスト教以外の宗教でも書いていただきたい。

  • ゴルゴダの丘に、イエスの絶叫が響く。
    「おやっさん(ユダヤ教の神ヤハヴェのこと)、おやっさん! なんでワシを見捨てたんじゃあ!」

    その受難の前夜、イエスは子分たちに言う
    「お前らの中に、ワシをチンコロ(密告)するやつがおるけんのう」

    忠誠を誓うペドロに言う
    「こんなは今夜、鶏が二度鳴く前に三度わしを否むじゃろう」
    ※こんな=広島弁で「お前」「YOU」という意味。

    #

    抱腹絶倒、興味津々の386頁。

    キリスト教の歴史を、大まか、九つの情景を選んで、九つの短編小説にした本だと思ってください。
    (通史、というほど巨大な負担はなく、飛ばし飛ばしして、面白い歴史の場面情景を描いています)

    内容は、以下。

    ●(ユダヤ教だけど)モーゼ、出エジプト記
    ●キリスト登場
    ●キリストの死
    ●初期キリスト教(パウロ以前)
    ●パウロの活躍
    ●ローマ帝国がキリスト教を認めるまで
    ●叙任権闘争。カノッサの屈辱。
    ●第四回十字軍の迷走
    ●ルターの宗教改革

    そして、9編を貫くのは、

    「キリスト教」=「キリスト組」というやくざ団体。
    「信仰」=「仁義」
    などなど、言葉を置き換えて、キリスト教の歴史を、やくざに見立てて描いていること。厳密に言うと、「やくざ映画の世界観に置換して」というべきか。
    そして、更に限定すると、実録やくざモノ、もっと狭くハッキリ言うと映画「仁義なき戦いシリーズ」の世界観に置換しているんです。

    ※やくざ映画、と一口に言っても、中村錦之介さんの「股旅もの」もありますし。
    高倉健、鶴田浩二、藤純子、池部良、という面々がトコロテンのように毎回活躍する「任侠もの」もあります。
    その中で、菅原文太さんの「仁義なき戦いシリーズ」は「実録もの」と呼ばれます。

    なので、つまりこの本の人物たちは、イエスもヤハヴェもモーゼもパウロも教皇も皇帝もルターも、みんなみんな、広島弁をしゃべります。これが秀逸。

    ※「仁義なき戦いシリーズ」は、第2次大戦後の広島県のやくざ抗争を描いたもの。みんな広島弁をしゃべります。有史以来、広島弁を日本全国に広げたという意味では最大の功績を挙げた作品だと思います。ただ、それが広島出身の皆さんにとって嬉しいのかどうかはちょっとわかりませんが。

    #

    この話法というか手法は素晴らしいなあ、と感心。その目の付け所が素晴らしい。

    別段キリスト教に限らず、歴史や、会社内政治などの話全般に使えます。

    つまり、なんだかんだと、身内関係者以外には非常に判りにくい言葉や概念や経緯やら建前が、そこにはあるんだけど。
    煎じ詰めれば、誰が美味しい飯を食べれるか、という奪い合い。
    誰がカッコつけられるか、という争いなんですね。

    国家間の戦争だって、有史以来、どんな時代のどんな国家だって、
    「ごめん、俺らこの件については正義ぢゃないんだけど、金とか企業利権とか、政府への批判の目を逸らすため、政権維持するため、そんな理由で戦争するから、軍人と貧乏人のみなさん、死んだり殺したりしてね。ま、俺はそんなことイヤだから自分ではしないけどね」
    と、明言して戦争を始めたことはないんです。

    つまり、嘘を平気でつきます。

    ただその嘘が、正史の、歴史の、正式な文書になっていくんですね。

    ただその嘘をめくった風景が見れないと、感じられないと、歴史なんて面白くもなんともないし、教訓にもなりません。

    それを「興味を持つ入り口として、面白がるために、えいやっと多少誤謬があってもまくるために、仁義なき戦いのパロディでやってみました」ということなんです。

    映画「仁義なき戦いシリーズ」が素晴らしい力のある、オモシロイ映画である、という下敷きがあるからなんですが、
    カネと欲と面子とサバイバルとに溢れた剥き出しのギラギラした、ほとんどコメディな世界観。これ、ものすごーく、政治的なお話を解体して娯楽にするための特効薬なんですね。

    #

    もうとにかく、モーゼからイエス、そしてパウロあたりまでの物語は、本当にオモシロイ。そして、判りやすい。
    キリスト教っていうのは、ユダヤ教から生まれた、中東地域のローカル宗教だった、ということが良く判ります。

    次に触れておきたいのは、叙任権闘争、カノッサの屈辱のあたりも、実にわかりやすい。
    教科書にして高校で使った方がいいんぢゃないかっていうくらい。パチパチ。

    個人的に抱腹絶倒だったのは、「第四回十字軍」。
    キリスト教のために。聖戦のために。
    イスラム教徒と闘ってエルサレムを奪還するためにやって来たのに、ヴェネチアで金が尽きて立ち往生、金のために傭兵になって、なぜか同じキリスト教の町であるコンスタンティノープルを攻め落として虐殺狼藉してしまっている十字軍。本当に笑いが止まらない。

    #

    著者の架神恭介さんという方は知らなかったのですが、若いライターさんのようなので、今後が楽しみです。
    そして、さすが筑摩書房。ちくま文庫。

  • 読後第一の感想は、これ、歌舞伎にしたらすごくハマるんじゃなかろうか…という妄想でご飯何杯でもいけそうにワクワクしている、というところです(笑)

    どういう本かというと、キリスト教2000年の歴史を、恐れ多くもやくざの抗争史に見立てて描いた、叙事詩的?な小説なのですが、タイトルからも明らかである通り、菅原文太主演の映画で有名な「仁義なき戦い」の世界観を模した感じになっています。つまり、
    「おゥ、こんなぁがイエスさんかい。のう、一つおたずねしたいんじゃがの、安息日に病人を癒すいうんは許されちょるんかのう!」
    「なぁにコキよるんない、くそったれ!おどれらの中によゥ、安息日に溝に落ちたやつがおったらどぎゃんするんじゃい!助けてやらんのんか?安息日じゃ言うての、ええことをして、それで怒るおやっさんじゃ思うとるんか!」
    というような感じで全編広島弁で繰り広げられるのです。
    広島弁があまり得意とは言えない私は「こんなぁ」とは「YOU」のことであるという基礎知識すら持ち合わせず、始めのうちは難儀しましたが、しかし、やはり言語は耳から。音声に触れてなんぼということで、映画「仁義なき戦い」シリーズのうち、笠原和夫脚本の初期4作をこの読書と並行して視聴することにしました(ただし、2歳の誕生日を1か月後に控え健全に成長中の娘が泣くので、映画による学習は娘就寝後とする、という制限を設けました)。このリスニング学習の効果か、自己評価ではありますが、後半ではテキストを読みながらであればそこそこ流暢に(脳内)スピーキングできていたと感じます。さらに、「出入り」とは「喧嘩」のことであるとか、違う組の構成員同士が「兄弟盃を交わす」とはどういう意味合いを持つのかとか、そういった極道世界の言い回しや文化について知ることができ、テキスト精読の助けとなったことも付け加えたいと思います。

    さて、総じてこの本、とても面白かったです。真面目な信者さんや学者さんや、そうでなくとも趣味の合わない人からしてみれば、ふざけた本としか思えないかもしれないですが、少なくとも私にとっては、これまで聖書に触れても理解できなかったことや、世界史で習ったけれどもすっかり忘れちゃったことなどを、それはもう強烈なほど鮮やかに物語ってくれたので、面白いほど頭に入ってくるし(細かいことはともかく大まかな流れは)二度と忘れないのではないかと思います。ユダヤ教社会のなかでイエスの教えがどう新しかったのか、イエスの死後どうキリスト教が広がっていったのか、カノッサの屈辱、十字軍…ってなんだっけ、ルターって何を説いた人なの、などなど…。また1章ごとに解説があり、「冒頭のあれは、演出です、やりすぎました」みたいなことも書かれていて、その距離感も好ましい。
    そして見事だなあと思ったのは、すいすい読んできたのに「うっ」と理解を妨げるような宗教用語や概念、これを「極道用語」として解説してみせるそのやり口です。というかここに親和性を見たからこそこういう本を書こうと思ったのかも知れないですが、極道用語ということで説明されると、わかったようなわからんような程度の理解でも、そもそも私極道じゃないので、じゅうぶん分かった気になれるのですね。
    「隣人」とは身内の者、組の者といった意味合いであるとか。「使徒」とはナザレ組(後、キリスト組)の極道用語で、イエスから直盃を受けた十二人の舎弟、つまり大幹部のことであるとか。ここにひとりのやくざがいる、男は組長だが、その事務所も権力も本当にささやかなもので、実際の姿も農民と変わらない、彼のような組長を極道用語で「司祭」と言った、とか。

    で、本編だけでも十分お腹いっぱいでしたが、文庫版で追加されたという出エジプト記、これもたいへん面白かったです。ヤハウェ大親分というレジェンドやくざが、全時代を通してものすごい影響力を持ち続けているのですが、そのなかでも最強だった時代のお話、ということでしょうか。副題は若頭モーセの苦闘、泣けます。

    このヤハウェ大親分がはちゃめちゃに力を持っていて、畏怖の対象となっているわけですが、なんだかそのめちゃくちゃさが歌舞伎の荒事のヒーロー...とも違うけれど、何かと恐れられている平将門の霊とか、そういう存在を思い起こさせ、ハッ、これ、歌舞伎合うんじゃね…?という冒頭のつぶやきにつながるわけです。映画みたいに無理やり2時間に収めたりしなくて良いのだし、忠臣蔵七段目、みたいに人気のある場面だけの見取り狂言という上演形態にもなじみそうだし。
    なのでもし、この本を読んで歌舞伎化案に賛同される方がいたら、ぜひ妄想キャスティング会議でともに盛り上がりましょう…!

  •  十戒の映画見てヤハウェ怖すぎじゃない?と思い、軽くキリスト教に触れたいと思い手を伸ばす。
     とにかくヤハウェが怖すぎて笑う。多分に演出もあるのだろうがとくにかく人殺し過ぎである。よく世界一有名な宗教の神をやれてると感心する。とくにモーセ編でのヤハウェの活躍はどこまで実際に聖書にかかれているのか虐殺しすぎて疑いたくなる。
     この本のなるべく資料に基づきつつ、分からないところや演出としてヤクザで埋めていくスタイルはなかなかに面白い。とくに破天荒な人物によくあい、キリスト、パウロ、ルターが主人公の話は面白い。一方個性的な人物がいない話はあんまり面白くない。特に国教化してからはヤクザ感減るし。それでも十字軍編は仁義掲げても銭と暴力とヤクザらしくなかなかに馴染む。
     章毎の解説にあるように多くの演出なり物語の都合があるため描写を鵜呑みにできないものの、教科書で見たあの話はそういうことだったのとかわかり、なかなか良かった。ヤハウェが聖書で実際どう活躍してるのかとか読んでみたくなる

  • 題名のとおり、キリスト教史を仁義なき戦いのノリで極道に見立てて書かれた一冊。
    エンターテイメントとしての完成度が高く、どんどん読める。
    主な出来事をかいつまみながらなので、満遍なくとはいかないが、キリスト教にまつわる作品や絵画などをより楽しむことができるようになったと思う。
    (ちょうど上野の近代美術館に行ったところだったので絵画を思い出しながら読め、より楽しめた。)
    世界史勉強中の高校生にも息抜きにおすすめしたい。

  • 最高に面白かった。仁義なきやくざパートと解説パートが交互に挟まっているのもシュールで面白い。キリスト教をやくざにして学ぶ、というふざけたコンセプトの割に、書いている内容はかなりきちんとしてると感じる。各章のサブタイトルもハイセンスで好き。

    新約聖書にあたる第1章、第2章と旧約聖書にあたる文庫版おまけは、元を軽く知っていたので、「このシーン、この名言をこういう風に解釈して訳したのか」という楽しみ方ができた。

    「出エジプトー若頭モーセの苦闘」でのヤハウェのキレっぷりとモーセの苦労人っぷりが一番気に入った。

    <本文引用>
    「その時、突如背後に現れたやくざの姿を見て、モーセとアロンは恐怖のあまり反射的に嘔吐した。ヤハウェ親分だ。親分がこめかみをひくつかせながら、いつの間にか
    彼らの背後に立っていたのだ。
    『わしゃの他の組のやつらはわしが皆殺しにして、シマ奪っちゃるいうて、何度も言うたよな。……な? じゃのに、なーんでわしのことが、そんな信じられんの?』」

    ここのくだり、何回読んでも声出して笑う

  • 設定がおもしろすぎる。
    広島弁がやや読みにくいのがあって、読み終わるのに時間はかかった!

  • いや面白いっすよ。初期キリスト教からそれがローマ国教になり、世界に普及していく中でどれだけキリスト教が暴力的だったのか。ヤクザ映画に模した口調が楽しい。しかし十字軍はひどいな。

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著者プロフィール

1980年生まれ。広島県出身。作家。著書に『仁義なきキリスト教史』『完全教祖マニュアル』(辰巳一世との共著)など多数。

「2020年 『仁義なき聖書美術【新約篇】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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