まともな家の子供はいない (ちくま文庫 つ 16-3)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480433374

感想・レビュー・書評

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  • なにをもって「まとも」というのか。

    誰かを「まともじゃない」と言い切る津村さんの表現力は潔くて、わたしは誰かをまともじゃないと言い切ってしまうことはその人を否定するように感じるから、思っても言わないようにしてしまうけれど、はっきりと言い切るこの潔さ。強いなと思った。
    もし自分がこの作品を出版する立場だとして、わたしはどこかで「もしまともじゃない側の人が目にしたらどんな風に思うだろう」とか思ってしまって、このタイトルをつけることに戸惑いを感じてしまうだろう。
    それは優しさとかそういう綺麗なものではなく、単純に自分が「まともじゃない人」に対して持っている差別意識だったり、自分の中にある「他人から見た自分」を捨てきれない自身の弱さなんだろう。ただただ怖いだけなんだ。見えない何かに、脅えているだけ。

    たしかにこの作品に出てくる親たちはみんなまともじゃない。その状況の中で精一杯生きている人間だ。
    一方で子どもにとって、家族は子どもが最初に触れる社会であるし、親は最初に触れる大人の像となる。徐々に関わる社会が広くなるにつれ、自分の家族が他と違うことや、どこかおかしいことにも気付きはじめる。特に思春期は、ありたい自分と今の自分との間でぐらんぐらんと揺れ動く。親なんて完璧じゃないのに、触れていく大人を、親と比べたりして苦しくなる。なんで自分の親はこうじゃないんだろうって。
    だから、セキコは「まともな家」で暮らしていそうな、例えば室田のことを好きじゃない、と思う。すぐに家に帰ることができる大和田のことも気に食わない。まともな母親ではないナガヨシは圧倒的にセキコの味方で、一方で家にいたくないセキコにとって、ずっと家にいるクレは家にいられて羨ましい、と思う。
    でもじゃあ、室田の家がまともかと言われたらそうじゃない。大和田もずっと家にいたわけじゃない。みんな、それなりに自分の居場所を探すことや、自分を守ることに必死なのだ。
    ナガヨシの独特なキャラクターとその存在感、クレの包容力、室田と関わり、その全てがセキコの心の中に積み重なって、セキコは自身の家族と向き合っていく。
    そして、もう一つ収録されている「サバイブ」では室田を中心に世界が描かれる。室田の世界もまた、そう簡単ではない。子どもの目線から見た大人の恋愛、という珍しい視点。

    大人になって気が付く。何が「まとも」かどうかなんてわからない。
    長く一緒に生活していれば大人も子どももいろいろなことがあって当然だし、みんな外から見れば「まとも」に見えるように、なんてことないように振る舞う。でも、みんなまともじゃない家族の中で、世界で生きている。
    その中で、セリカのように楽なポジションを見つけられる子もいれば、セキコのようにどうしても親を受け入れられず、頑なに家を拒む子もいる。ナガヨシのように、上手に関わって、向き合っていく子もいる。
    結局、「まとも」かどうかの判断なんて必要なくて、自分がその家族を通してどう向き合って、自分の人生にどう向き合っていくか、なんだと思う。でもそれが親や環境、その子の捉え方次第なんて、酷すぎるよな、と個人的には思う。人類みんなこんな十字架を背負っているなんて酷すぎるよ、神様。

    淡々としつつも突き刺すような言葉で、心の機微を穿った津村さんの表現は、すごく好き。
    そして、津村さんの作品に出てくる主人公は、いつも正義感が強い。わたしのなけなしの正義感が、彼女の作品に触れるたびに、敏感に反応する。

  • 私も家に居たくない子供時代を過ごしたので、主人公の中学生の感情がものすごくよくわかる。
    外から見ればまともな家でも、内実はどこもそれなりに何かあるものなのかもしれない。
    親という大人が、実はそれほど大人じゃないって事に気がついてしまう年頃。でも「大人であれよ!」と思ってしまう年頃の親子関係はキツイ。
    もっと大人になれば、精神的にも経済的にも親と自分を分離できるようになるのだけれど。

    主人公たちの心の重苦しさは充分に伝わってくるけれど、淡々とした筆致のせいか読み心地は決して重くなく、さらりと読めます。

  • タイトル通りの物語。ただし、思っていたよりもかなり深い意味だった。

  • 中3の夏休み、セキコは家にいたくない。なぜなら、無職の父親が1日中リビングでゴロゴロダラダラしているから。母親はそんな父に寛大、妹は要領良く、一人でカリカリしているセキコは家族の中で浮いている。図書館はいつも満員で席取りが大変な上にホームレスの臭いがひどい、喫茶店などで時間を潰すにはお小遣いが乏しい。親友のナガヨシとつるんでナガヨシのお気に入りの大和田くんをストーキングしたり、ナガヨシの家で買い物依存のその母親の無駄話を聞くなどするしか仕方ない日々。図書館で時々会う室田いつみもまた、家に居たくないのだという。ある日、学校にも塾にも来なくなった男子クレに、塾の宿題を持っていくよう頼まれたセキコは、彼の家を訪れ・・・。

    14歳、ただでさえ反抗期だの思春期だのでカリカリイライラしているところへ、さらにトラブルを持ち込む大人たち。大人が思うより子供は聡く、それでいて潔癖さもまだあるからこそ大人のだらしなさが許せない。それが家族ならなおさら。自分自身の10代もそんなだったなあとリアリティをもって蘇る。

    セキコは家族に対しても自分自身のことについても、明晰なツッコミを入れられる子なので、物語自体はそれほど暗澹とした空気にはならず、むしろ的確なセキコの意見に痒いところに手が届く痛快さすらあって、そういうところはさすが津村記久子だった。

    後半は、5教科の宿題コンプリートするために一人づつ友達を攻略していく感じになってるのが面白かった。どの子供も家庭に問題があり、それは他人の目を引くほどの大きな不幸ではないけれど、彼らの心に常に影を落としている。ぽっちゃりで自分で嬉々としてドーナツ揚げちゃうクレくんが可愛くてお気に入りでした。彼が学校に行きたくない理由が、いじめられるから、ではなくて、そのことによってご飯が美味しくなくなったから、というのはすごく説得力があった。

    出てくる大人がどいつもこいつも欠陥だらけで「まともな大人はいないのか」と嘆きたくなる子供の気持ちが痛いほどわかる反面、すでに「まともじゃない大人」のほうに所属している自分としては、そもそも「まともな大人」「まともな家庭」など実在しないんじゃないかとも思うし、まともじゃないことこそが、標準(普通)なのかもなあと思ったりもしました。

    室田いつみの母親の不倫にまつわるスピンオフ「サバイブ」も収録。

  • 父親が«働かない»という状態の主人公のセキコ
    もうすぐ受験なのに、こういう父親がいたらそりゃ、終始むかつくし家以外に居場所を求めてうろつくだろうなと思う
    母親と妹が父親に対してそんなに怒っておらず、家の中に味方がいない気がするのもまたしんどい
    自分が思春期の頃の、何か分からないけどずっと何か思いつめたようにイラついていたのをまざまざと思い出した
    この年代って、何だかずっとあらゆることに怒っているよな
    それにしても、まともってなんだろうとずっと考えながら読んでいた
    出てくる子どもたち、誰も彼も別にいわゆるまともな家は出てこないのだ
    まともっていうのは何というかただの幻想で、何かあるのがフツーの家なのかもな
    もう一つ、セキコと塾が同じの室田いつみを主人公にした「サバイブ」もヒリヒリしていてまさにいつみにとってのサバイブな話だった

    これからお祈りに~でも思ったけど、津村先生はこの年代のどうにもならない怒りや鬱屈した感情を描き出すのがものすごくリアルで上手いなあと思う
    津村先生の本は面白いな~

  • なんかなー。んーって感じ。現実離れしすぎているというか。表現が粗い感じがする

  • 自分の思春期のころを思い出した。

    多くの子供は、自分の家がおかしい、まともじゃないってことに気付かないふりをしてるんだと思う。
    分かりやすく父親が働かない等の事情を抱えるセキコはそれに気付いてしまう。
    中学生が向かい合わなくて良いはずの問題に向かい合って、イライラするセキコ。
    友達とバカバカしいことしてる間(男子の尾行とか、やってるの、私と友達だけじゃなかったのね)はイラつきも少しは忘れられるんだよな。
    セキコの友達のナガヨシが、これまた私の中学時代の友達に似てた。
    何が似てるって、気になる異性の基準が、変で興味深いかどうか、というところ。私の友達が1学年下のメガネかけた怒り肩の男子に興味を持って、その男子のデフォルメキャラとか描いてたこと思い出した…。なつかし。

    思春期に散々家族のことでイラついても、大学生になると家族のことより自分のこと(恋愛や学校生活)が忙しくなって、折り合いの悪い家族と離れて暮らすことも可能になる。
    「サバイブ」に登場する佐和子はその典型だ。
    だから思春期の子どもたちは、早く大人になりたがるのかな。

    まともな家っていうのは、あんまりないんだよね。
    まともな学校、まともな教師も、同じくらいあんまりないけどね。
    嫌で嫌でたまらなくても、そこで生きていかなきゃいけない子どもたち。
    みんなたくましく大人になっていってほしい。

  • 面白いんだけど、なかなか読み終えられなかった。 悪人ではないのだけれど、やることなすこと全てが気に食わないのに自分以外の人はその人と結構上手くやってる故の孤独感や疎外感というのが、リアルすぎて読んでるのがしんどかった。

  • なんとなく 本にでてくる表現が苦手で‥
    起承転結の 転と結が見えなかったかも。

    タイトルは興味深い! でもなんか『救い』が欲しかったな

    麦茶の作り方は なんかハッとした
    少しのことで 美味しさってのは 左右されるものね

    私はだけど この作家さんとは 相性が良くないかなと感じました

  • 仕事をすぐにやめてしまう父親とそれを咎めない母親が嫌いなセキコ
    塾の宿題を消化していきながら、他の家の事情に少しずつ顔をつっこんでいく。

    セキコに感情移入できるところもあるし
    まともな家って何なのか。
    っていうおそらく筆者の伝えたいであろうこともわかったけど、

    文章がスムーズに進まなかった。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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