- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480432650
感想・レビュー・書評
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▼いつかは読もうと思っていた、心理的な「積読」の一冊。主に戦後に名脇役として名を馳せた加東大介さんの、従軍記なんですが、一風変わっていて。南洋に出征、戦史を後世から振り返れば、一歩間違えば生きて帰れなかった地域なんですが、例外的にほぼほぼ戦闘が、ずーっと無かった。ただ、マラリアと飢えに数年苦しんだ。
▼その癒しに、と、上官同意で、軍隊の中の「腕におぼえある」連中が集まって、芝居をやった。その記録なんです。ノンフィクション。これが泣けます。笑えます。名作です。さすがちくま文庫。パチパチ。
▼もうほかにあまりいうことが無いくらい、の名作です。加東大介さんは、「松竹以外で歌舞伎をやっていた集団=前進座」の出身なんですね。戦前から舞台に立っていた芸人一家。加東さんが「元締め」になって劇団を作り、上官の支援もあって小屋を作り、飢えと不安の中で興行をやる。見に来るのは当然、兵隊さんたち。
▼亜熱帯の森の中で、なんにも娯楽が無い。みんな望郷の念で張り裂けそう。ばたばたと仲間は飢えとマラリアと、時折やってくる機銃掃射や空襲に倒れていく。なんの生きがいもない日々。そんな中で、芝居が、ウケるんです。喝采なんです。涙、涙、なんです。全部隊の「生きがい」になる。
▼道具も何もない中で、衣装を作る。メイク道具を作る。もう、なんだか抱腹絶倒です。稽古をする。徐々に仲間が増えるあたりなんて、もう「七人の侍」よりもわくわくします。
▼映画化もされています。森繁、渥美ら物凄い豪華キャストです。これも名作の誉れ高いんですが、これまた「積読的未見」。是非見てみようと思いました。
▼加東大介さんは僕もそうですがきっと多くの人が黒澤映画や小津映画でお馴染みなのでは。個人的には「秋刀魚の味」の元兵隊のサラリーマンの役が絶品かと。それもこの本を読んでからだと、また味わい深そうです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ニューギニア島で演劇を任務とした加東大介さんの自伝でもある戦争小説。銃弾が飛び交い爆弾が炸裂するような描写はなく、そこで将兵が戦ったのはマラリアなど熱帯の感染症や飢餓・・・。いつ終わるとも分からない戦況の中、演劇が今にも尽きようとする命を長らえ救ったとは・・・。序盤は戦地で演劇なんて・・・と思いつつ読み進んでいたけれど、敵を倒すだけが戦いじゃない。味方を救うのも立派な戦い方なんだと教えていただいた。加東さん、貴重な体験を残してくださってありがとうございます。
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めっちゃよかった。泣いた。娯楽はただ楽しいだけではなく生きる糧になるのだなと思い知らされた。軽妙な文章で冗談なども多く楽しく読めるのだが、所々で戦争の悲惨さや死が日常にあることを見せられて一瞬で切なくなる。登場人物が魅力的な人ばかりで気持ちがよい。手元に置いておきたい一冊。
筆者の加東大介さんが七人の侍に出演していると知って驚いた。視聴しなくてはと思う。 -
「芸」とは人を喜ばせるためにあるんだよ。
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「七人の侍」で、志村喬が加東大介に「おぬし、あれから、どうしておった?」と尋ねる場面がある。加東大介は、天守閣が燃える中で、堀にもぐって逃げる時を待った、という意味のことを答えていた。実際の加東大介の戦争体験も、それにちかいというのが、この本で分かった。
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「南の島に雪が降る」、40代になって読んだ本の中で最も感動した。
先日、ラジオから、雪が降る、について聞こえてきた。
小林よしのりの漫画で、雪が降る、を読んでいたので、内容は知っていたが、読んでみたいと思い、図書館で借りて読んだ。
図書館が貸してくれた本は、大活字本シリーズで、それが読みやすい年になってしまった。
この感動をどう表現したらよいか。
死が背中合わせの人々の人生は濃い。
国民皆兵の軍隊は、社会の縮図。
役者、かつらや、針金屋、坊さん、イモショウチュウを醸している杜氏もいたはずだ。
調べてみたら、小林よしのりのじいさんが、篠原僧正だったとは! 知らなかった。
雪が降る、の映画も是非見てみたい。 -
戦争の中で営まれた舞台活動。人には愉しみというのが生きる力になるんだということを思い知らせてくれる。
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「七人の侍」で勘兵衛を支えた七郎次、「社長シリーズ」のしっかり者の部長、そして「秋刀魚の味」では海軍上がりのバーの珍客。存在感のある脇役を数多く演じた著者による自身の戦争体験を記した戦時文学。栄養失調や病気で明日をも知れぬ状況に置かれた兵士たちを演芸で慰安しようと奮闘する人々の姿が微笑ましくも涙ぐましい。同名で映画化されているが、原作ではおかしさの中のせつなさが一層強く滲み出る。
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黒沢映画などでも有名な加東大介が,招集されてニューギニア島に送られる.ニューギニアの諸部隊は本国から見捨てられ,アメリカ軍も素通りし,補給の無い中で飢えやマラリアと闘いながら,ただ生きるために日々暮らしているのだが,そのなかで加東大介をはじめとする芸事に心得のある人々を中心に劇団が結成され,「マノクワリ歌舞伎座」劇場が建設される.劇団は疲弊した兵士達を励ますために,終戦をはさみ2年近くも一日の休みもなく公演を続ける.
タイトルは,工夫をして雪の風景を作ったところを,豊北出身の部隊が観劇したエピソードから.
特に戦争を直接非難することもなく,滑稽なエピソードも交え,抑えたトーンで無駄なく書かれたノンフィクションであるがゆえ,かえって優れた文学作品となっているように思う.古典的な芸能の用語が散見され,なかなか想像がつかないところもあるのだが,文も平易なので,中学生ぐらいに読ませたらいいんじゃないか.