- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480428561
作品紹介・あらすじ
「ぼくは14歳で家を出た。そして、本と映画とともに生きてきた」。1990年に芥川賞を受賞した著者は、豊かな物語性と変幻自在の舞台設定によって多くの読者を魅了し続けている。さらに近年刊行された『東京大学で世界文学を学ぶ』は、読み手としての優れた能力を遺憾なく発揮した作品として話題を呼んだ。その著者が自らの著作の航跡と周辺をたどり「本のある生活」を綴る。
感想・レビュー・書評
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辻原さんの小説は幾つかしか読んでいないが、この人の文章の切れや語り方には驚き、凄い作家だと思っている。「熱い読書 冷たい読書」では読み手としても一流の人と知らされた。
創作の秘密を語り、自身の来し方、日々の雑記や読書を語る文章の数々。「回遊亭円木」「花はさくら木」は水の匂いや感触のある作品だった。淀川や瀬戸内海の周遊。上海への渡航を語る文章もやはり水への思いに溢れている。
円朝は自作を速記に取らせ、それを彫琢し、新聞に連載したとのこと。二葉亭四迷に影響を与え、近代日本文学に寄与したとある。「円朝噺 夫婦幽霊」で知ったことだけれど、再認識。円朝の日本語は本所、深川あたりで使わられていた言葉とのこと。大川端の系譜というフレーズがまた頭に浮かぶが、どうだろう。
読書について。
チェーホフの短編の魅力を語る文章。僕自身は30年前に大学時代に読んだが、戯曲の台本として読んだように思う。随分地味な芝居だなとしか思わなかった。
もう一度、読み直せねば。
そしてH・ジェームスを語る文章。
(引用)「すべてを忘れようとして、つまり、恋を忘れて、あるいは新しい恋を求めて。そして死ぬためにやってくる。」
そしてトリュフォーの映画では、恰幅の良い男の肖像の前でこういう科白がある。「彼はアメリカ人だが、ヨーロッパが好きでイギリスに帰化した。僕は彼を通して死者を敬う心を学んだ。」写真の男はH・ジェイムズだった。
「ベニスに死す」「鳩の翼」「緑色の部屋」もいつか読まなければいけないね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
辻原さんはどうも自分の中でどう位置付けていいかわかりにくい作家だった。
「翔べ麒麟」ぐらいしか読んだことがなかったが、どういう人なのか知りたいとはずっと思っていた。
私が仕事を始めた新人の時、一緒に仕事をしていた人が辻原さんがかつていた会社の人だった。その一緒に働いている人がどういう会社にいるか知りたい、という気持ちから覗いたホームページの中に、辻原さんが寄せる文章があったのである。文学をやる人がシステム開発系の会社にいたのかと面白く思ったのと、経歴を知るうちに、なかなか独自の歴史を形成してきた人だなという印象を持ったのだった。
「熊野でプルーストを読む」にはいろいろな文章が収録されている。中にはかなり内容が重複するようなものもある。表題のエッセイで触れられる「母、断章」という短編は読んでみたいと思った。著者も触れるとおりなかなかラストが鮮やかである。辻原さんは小説のラストはかなり重要であるように考えているらしい。
近松秋江から大岡昇平へと「黒髪」という題をめぐる小説へ思いを巡らしていく文章はなかなか面白いと思った。辻原さんは大岡昇平の「花影」がたいそう贔屓のようである。「花影」といえば今は講談社文芸文庫に入っている。「花影」が文芸文庫に入った時「えっ?」と思った記憶がある。学生の時は普通に新潮文庫に入っていて、それを私も読んでいたからだ。いつの間にか時間が経ったのだなと思わされた一つの出来事である。
辻原さんはある女流作家に「あなた、おんなを描くのが下手ね」と言われたことがあるらしい。それは何かわかる気がした。文章自体もそういう雰囲気があって、そういうことを女の人に言わせるような雰囲気も辻原さんが持ち合わせているような気がした。
昔、天王寺で会ったという娘との思い出を少し感傷的に振り返る様は、何か自分が文学に出会ったころを思い出させる。なつかしいような、恥ずかしいようなそんな感じだ。
結局どういう作家なんだろう。少しわかったようでやっぱりわからない。 -
2011-8-12
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読み巧者。
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タイトルに牽かれた。いくつか印象的なフレーズがあった。