- Amazon.co.jp ・本 (443ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480421777
作品紹介・あらすじ
人類の孤独の極北に揺曳する絶望的な"愛"を描いて重層的なスケールで圧倒的な感銘をよぶ、衝撃の作家ウエルベックの最高傑作。文学青年くずれの国語教師ブリュノ、ノーベル賞クラスの分子生物学者ミシェル-捨てられた異父兄弟の二つの人生をたどり、希薄で怠惰な現代世界の一面を透明なタッチで描き上げる。充溢する官能、悲哀と絶望の果てのペーソスが胸を刺す近年最大の話題作。
感想・レビュー・書評
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『闘争領域の拡大』に次ぐウエルベックの二作目。フランスでベストセラーになったらしい。
ウエルベックは博識な作家だが、本書もごたぶんにもれず数学、分子生物学、はては哲学まで盛り込まれていた。ド文系な自分にはさっぱり理解できなかった箇所も多かった。難しすぎる小説ははっきり言って苦手だ。
性欲に囚われた国語教師の兄ブリュノと、天才分子生物学者である弟ミシェル。この異父兄弟を主人公としてその一生が描かれる。前半の幼少期の話は好きだったが、後半になるにつれわけがわからなくなり、あまり物語に入ってゆけなくなった。
ブリュノは性欲をこじらせたまま大人になり、ニューエイジ風のキャンプに参加したり、乱交専門のナイトクラブに参加したりと性欲を満たす機会を日夜探している。小説全体を通しても彼の異常な性欲が際立つ内容で、彼があの手この手を使って一物をしごく姿が印象的だった。ブリュノが描き出しているのは『闘争領域の拡大』でも描かれていたような、典型的なルーザー。ウエルベック的な主人公といえる。だけどそこまでの性に対する倒錯した欲望は私は持ち合わせないので、読んでてふーんそうですかというような感じになった。あと時折ミシェルとブリュノの会話があったが、これもなにかぎこちなく、風景描写も取って付けたような感じで、いかにも小説としての体を整えるためという感じがした。
弟ミシェルは兄ブリュノとは対照的で天才なのだが、無性欲、不感症で、そのこと自体についても本人は無関心だ。興味があるのは彼の学術分野のことだけ。ミシェルにもブリュノにも共通しているのは二人とも無目的に生きていることだろうか。誰にも生きる意味などわからないものだろうが、素粒子に登場する人物たちは皆さまよい、傷つき、他者を理解しようとするも満たされることがない。
それにしても作家によって小説ってこんなに違う顔を見せるんだなと感心する。村上春樹からは温かみ、ジョン・アーヴィングからは力強さを感じるが、ウエルベックに関して言えば、鋭いカミソリのような感じを受ける。時代を抉り取って描写する鋭さとでも言ったらいいだろうか。ウエルベックの小説は難しいが狙いがはっきりしているように感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
相対性理論と量子力学による現代科学のパラダイム・シフトは20世紀を物質主義的価値観に塗り替えた。それは宗教的抑圧からの解放に繋がることでサド侯爵的性の快楽と同調し、しかしながらも性の自由は競争原理を呼び寄せる事で逆説的に性の抑圧へと結び付く。性への強迫観念に囚われたブリュノと禁欲的な生物学者ミシェルという異父兄弟の生涯を濃厚な性描写と情報量で描きながら、人生に対するやり切れない諦観を滲み出させている。ニューエイジの怨霊を駆逐し、ハックスリーの亡霊を21世紀に呼び寄せる本書は、打ちひしがれる様な凄い本。
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作者の掌の上できれいに転がされた感じがする。一本の小説の中で何回、不幸と一瞬届きそうになる幸福の間を行ったり来たりしただろうか。これでもかというくらい振り回され、同情を誘い、もはや「素粒子」というタイトルが匂わすSF的結末への期待をも忘れて、途方もなく哀愁漂うなけなしの性愛物語として十分満足だ、と観念しかけた頃、ついに結末がやってくる。そのカタルシスたるや、圧巻である。一切の苦悩から解放されたときのような浄福を自分は味わった。自由と進歩主義に対するにべもない唾棄には思わず笑ってしまったが、このとき、登場人物たちに対する自分の数々の共感と同情も一緒に笑い飛ばされてしまった。それがまた爽快。ウェルベックの最高傑作と呼ばれるのも納得。作者の思想に同意しない人でも楽しめると思う、というかそれを狙いに行ってるだろうな。
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ブリュノとアナベル、それぞれの人生への絶望、倦怠、悲観が現代日本人的にも結構リアルで、私的には共感できました。2人に一時でも幸福な時間があったことが救い。
重々しい書きぶりも合わせてSFとしては面白い。 -
ミシェルウェルベック 「 素粒子 」
新しい人間学。形而上学(多数の人が共有する世界観)の変異から「人間とは何か」を考察している
ショッキングなエピローグ。素粒子レベルまで物質化した人間像。性別と死がない新人類。未来の新人種が三人称的に語る構成。
面白いけど 性描写がしつこい。
祖母の遺骸や恋人との再会のシーンは、人間とは何か 考えさせられた
人間とは何か
*心の内に〜善と愛を信じることをやめない
*生きることは 他人の眼差しがあって初めて可能になる〜遺骸となっても 生きていた頃を想像できる
*お互い敬意と憐みを抱くのが人間らしい関係
時代背景
近代科学が キリスト教道徳を一掃し、男女の違いが 個人主義、虚栄心、苦しみ、憎しみなど不幸の源となっている
アナベルとの再会。心地よさ、暖かさに包まれて〜世界の始まりにいた〜時間の根が生えてくる場所を見た〜あらゆるものの内に終末を見た
空間に関する新しい哲学原理
空間は自身が精神的に作り上げたもの〜その空間内で、人間は生き、死ぬことを学ぶ。精神的空間の中で別れ、遠さ、苦しみが作り出される
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フランスで有名なこの人、私の本好き友人に聞いてもその意見は「素晴らしい」か「糞」かの真っ二つに分かれるのが笑えます。地名やら商品名やら企業名やらをとにかくディテールに渡って細かく書いていってキャラクターを描写するというのは私にはすごく面白いと思うけど、根底に流れる、決して消えない、主人公の(ということはあるいは作者の?)徹底的な悪意に満ちたモノの見方にはかなり疲れます。
人物から流行現象まで様々な対象物に対して敢えて客観的・統計的な描写が並びますが、時にそれが大いに主観が入った幼稚な攻撃に形を変えたりもします。とはいえ、主人公(他の作品にも常にこのタイプは出てくる)の毒を含んだ呟きはたまに的を得ていて、どきっとさせられるのです。「人は他人との関わり合いのなかで、自意識を持つ。まさにその自意識こそが、他人との関係を我慢できないものにする」。
全編通してとかく女性への攻撃が多いのは典型的なコンプレックスの吐き出しでしょうか。それとも作為的にあそこまで意地悪な表現を取っているのか?もっと奥が深いのか?? と思わせられ、ページが進んで行きます・・・。
読後感は悪いのに、何故かはまる。 -
「滅ぼす」を読了後、他のウエルベック作品にも触れようと決意。
50年代末のフランスに生まれた異父兄弟が対照的な人生を歩む。高校で国語教師を務める兄ブリュノは、悲惨な幼少期が災いしてかセックスに溺れる日々を送る。対して天才科学者の弟ミシェルの私生活は清純そのもので、ノーベル賞も狙えるほど研究に精魂を込めている。
アメリカから持ち込まれたヒッピー文化やヌーディストビーチ、乱行専門の風俗店に代表される退廃。現代物理学や遺伝子学といった人類知能の限りを尽くした最先端のテクノロジー。人間の生を語るうえで文字通り両極に位置するこれらの世界、そして双方を代表する2人の生き様を通して、現代を生きる人類とその未来を見つめる作品。
読み終わったのち、タイトルの意味が(ほんのりと)分かる。生物としてのhuman beingが行き着く先とは。 -
フランス近代の変遷とともにあった異父兄弟の人生は背中合わせで、同じ光景を見ることはない。
体を燃やす孤独、雪のように降り積もっていく孤独。欲望も快楽も幸福も愛も、個人主義がもたらした孤独を前にしては人はゆっくり狂いゆくばかり。
人は滅んでいくのだろう、無抵抗に、音もなく。
兄の人生は「これが延々と続くのか…」と思う描写ばっかりでそりゃ地獄だわと思うし弟の人生も自分では解決の術もわからない孤独に厚く包まれていてそれもまた内側から凍っていく絶望がただただ冷たい。エピローグのまとめ方はウェルベックの才能に唸るけれど、やっぱり何か怖いんだよねこの人は…
明確に反出生主義の流れを汲んだ小説だと思う。べネターの誕生害悪論が近いところにある気がする(べネターちゃんと読んでないが)けどその思想を人間ふたりの誕生から終焉まで、そしてさらに続く長いスパンの小説に落とし込むのはすごい。
でも怖いんだけどね根本的に!何かが!それがウェルベック! -
2020年4月28日BunDokuブックフェアで紹介されました!
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高校教師の兄と科学者の弟、異父兄弟がその身を滅ぼしていく過程が描かれています
20世紀にかけて欧米で起こった社会制度、家族制度の変化、性の自由化の流れがわかり易く描写されています。
下ネタだらけなので苦手な人は読まない方がいいです