貞観政要 (ちくま学芸文庫)

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  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480096951

作品紹介・あらすじ

唐代、治世の問題を真正面から取り扱い、帝王学の指南書となった『貞観政要』。幾多の戦乱を乗り越え、太平の世を現出させた太宗(李世民)が名臣たちと交わした問答を史家・呉兢が編纂。爾来、中国のみならず日本においても為政者たちが折に触れて立ち返る古典の地位を得てきた。「指導者の条件」「人材の登用」「後継者の育成」など、およそ組織運営に関わる人間なら必ず迷い、悩むであろう問題に古人はどのように臨んできたのか。本書には汲めども尽きぬ教訓が今も満ち溢れている。本文庫は明代の通行本(戈直本)を底本とし、全篇より七十篇を精選・訳出。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    唐の太宗の政治に関する言行をまとめた書であり、「帝王になるための心得」よりも、「良き帝王を続け、国を安泰にするための心得」に重きを置いて記述したものとなっている。
    年代的には、太宗が元号を「貞観」と改元した627年前後になるが、古くから脈々と培われてきた心得は、現在の世の中においても納得いくものが多い。
    特に、「社会的に高い地位にあればあるほど、失言の影響は大きい」「記録を重んじろ」といったものは、まさに今の時代においてこそ意識しなければならない警句である。当時こそ国のトップに進言できる人物は限られていたが、現代においては、トップであっても気軽に声を発信できるようになったし、国民もそれに意見することが簡単になった。
    それは民主主義的には好ましい発展であるが、君主と臣下と民のパワーバランスが一層複雑になった結果、トップはより一層言動に注意を払い、透明性を確保しなければならないのも事実である。
    今よりも不透明な場で意思決定が行われていた寡頭政治の時代から、こうした「民への説明責任」が既に重んじられていたというのは、刮目に値するだろう。


    ※古典はエッセンスだけを抜き出しては味気ないものになってしまうが、一応まとめを作ってみたので、どういう内容があるかをサッと見たいときに参考にしてほしい。


    【本書のまとめ】
    貞観政要は守成(守り)の心得。トップを取ることよりも、トップを死守するための心得を説くものである。

    ●心得
    ・我が身を正し、度が過ぎた贅沢を控え、万民の手本となるような私生活を送ること。
    ・臣下の諫言をよく聞き入れること。安心して相談できる相手を持て。
    ・好調なときこそ気を引き締め、慎重を旨としろ。
    ・情報のパイプを幅広く確保しろ。
    ・例え身分が上であろうとも、適切を欠くときは遠慮なく諫言しろ。
    ・君は舟なり、庶民は水なり。水はすなわち舟を載せ、水はすなわち舟を覆す。
    ・組織の経営・維持にあたっては、まず原理原則を確立し、トップが率先して実行にあたること。
    ・部下の諫言は苦くとも薬になる。進んで受け入れよ。
    ・説得力を強めたいなら手本を示せ。
    ・手厳しい批判や未熟な提案でも、頭ごなしにやりこめず、喜んで耳を傾けよ。
    ・人の短所と長所を心得、長所を発揮できるような登用をしろ。
    ・礼をつくして相手に仕え、謹んで教えを受ける。これなら自分より百倍すぐれた人材が来る。相手と対等にふるまう。これでは自分と似たり寄ったりの人間しか集まってこない。
    ・人材を登用するときは、泰平の時代には人物にウェイトを置き、波乱の時代には能力にウェイトを置け。
    ・人を知る者はせいぜい智者の水準だが、自分を知る者は真に明智の人である。自分を知るということは至難の技であるため、自己推薦制はやめたほうがいい。
    ・仁義による政治を執れ。
    ・臣下の献身を期待するためには、まず、君主の側が相手の価値を認め、それにふさわしい待遇を与えることが肝心である。
    ・部下が言うことを訊かないときは、まず自分の言動を省みろ。
    ・生活水準の膨張には、ふだんから気を配れ。
    ・常に謙虚に生きろ。人の頂点に立ったとき、上から天が見てくる。
    ・社会的に高い地位にあればあるほど、失言の影響は大きい。
    ・学問教養を身に着けろ。
    ・公平清廉たれ。
    ・記録を重んじろ。歪曲せずに文字に残すことの重みを知れ。
    ・法令はすべからく簡約なるべし。
    ・兵は凶器なり。戦争は最後の手段として用い、兵を軽々しく動員するな。
    ・兵は凶器であるが、軍備は怠るな。備えあれば憂いなし。
    ・嗜好、感情をセルフマネジメントせよ。

  • 唐の第2代皇帝「太宗」こと李世民(在位 626〜649年)と、それを補佐した名臣たちとの政治問答集。『書経』と並ぶ、帝王学の教科書。

    創生ではなく守成の時代の書。臣下からの諫言(かんげん)をいかに受け入れるか、その重要性が説かれている。

    <キーフレーズ>
    ★忠臣と良臣の違い(p.84〜) ※魏徴の言葉
     良臣とは、みずからが世の人々の称賛の声につつまれるばかりでなく、君主に対しても名君の誉れを得しめ、ともに、子々孫々にいたるまで、繁栄してきわまりがありません。一方の忠臣は、みずからは誅殺の憂き目にあうばかりか、君主も極悪非道に陥り、国も家も滅び、ただ、「かつて一人の忠君がいた」という評判だけが残ります。
    ※伯夷と叔斉 の話がベースになっているのではないか?(レミさん)
     https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%AF%E5%A4%B7%E3%83%BB%E5%8F%94%E6%96%89

    ・欲望をおさえて万民の手本となるような私生活を送ること(p.31- 守屋洋さんの解説より)
     欲望の再開発
     欲望にも、開かれた(分配可能な)欲望と、閉ざされた(分配不可能な)欲望とがある。
     ※公欲→志→心願

    <きっかけ>
    2019年8月の人間塾 課題図書。

  • ビジネス系の雑誌でたびたび紹介される帝王学の名著。何度も登場するとなると気になる。

    人事は大事、とか、ダメなところを指摘してくれる人がいる環境を持て、とか、上に立つ人は自分を律して、足るを知るということを覚えろ、とか(だいぶ平たく言っているので、本当はこの100万倍は含蓄がある)様々な教訓が大宗のエピソードと共に語られている。
    別に人の上に立つ立場ではないけれど、良いことが書いてあるし、背筋が伸びるので時々、本棚から取り出して読みたい。語られる内容からは太宗の人柄が出ており、とにかく謙虚で実直で誠実。かといって、完璧な人ではない事もエピソードや解説を見るとわかる。それがこの本を「皇帝という遠い世界の人が身につけていた倫理観・哲学」ではなく私たちにも地続きの生き方と感じさせてくれるので、親しみやすく読みやすかった。

    ジョウガンセイヨウという読み方も、今回、読んでようやく覚えた。内心「ジョウガン? テイガン?」とちょっと読み方で自信が持てなかったので、スッキリした……。

  • リーダーの立場でなくても参考にできる考え方。
    書評Youtubeアバタローさんの動画を視聴した感想です。https://youtu.be/DgQ7IQXtYJo

    優れたリーダーの特徴
    ①自分を制する心と仲間を持つ
    ②責任感と緊張感の出しどころを知っている
    ③聞く力
    ④マネジメントの3原則
    ⑤3つの鏡を持っている

  • 西の「君主論」東の「貞観政要」

    ともに君主としての要諦を後世のためにに書き記したものではあるものの、「君主論」は他者を支配するのための書であり、「貞観政要」は他者を治めるための書、といった印象であった。

    もちろん両方とも長年語り継がれてきただけあって名著である。なので、両方のエッセンスをしっかりと頭に入れておく必要はあるものの、今の時世から見ると「君主論」よりも「貞観政要」の方がリーダーの書として役立ちそうに思う。

    本書は貞観政要の内容がすべて書かれているわけではないが、漢文書き下しの他現代語訳も用意されており、古典を読んだことがない人でも理解できる内容となっている。ただ、、例えば、出口治明さんの「座右の書『貞観政要』」などに当たると、より理解が深められるのではないか。

  • 隋が、40年程度の治世しか無かった事を参考に、約300年長安に都を置いて政治を行う基盤を作った、李世民とその臣下のお話。特に中国では既に紙が発達したこともあり、兄弟を殺害した皇帝として風評されるのを恐れて、自身の帝王として、後の世に名を残すまで善政を行った。トップとは?リーダーとは…適材適用、公平、委任、換言…こういうキーワードが本文中にもいくつも出てくるマネージャー必須。

  • 部下の進言・諫言をよく聞き、受け容れることが上にたつものにとって極めて重要である。また、部下たるもの上司に迎合するのではなく進言・諫言することが重要な仕事である。とてもわかりやすいことながら、果たして実行されている組織は多くあるだろうか。

  • 「名君の名君たるゆえんは広く臣下の進言に耳を傾けることであります。また、暗君の暗君たるゆえんは、お気に入りの臣下のことばだけしか信じないことであります。」

    公平に物事を判断する為には、
    様々な視点で物事を見ることが大事。


    「うわべをとりつくろって人の疑惑を招かぬようにせよなどという話は聞いたことがありません。かりにも、君臣こぞってさような心がけで政治に当たっているとすれば、わが国の将来も、すでに先が見えたと言わざるをえません」

    人の目を気にして、嫌われないように気をつけることの、愚かさ。

    「礼を尽くして相手に仕え、謹んで教えを受ける。これなら自分より100倍優れた人材がまいります。相手に敬意を表し、その意見にじっと耳を傾ける。これならば、自分よりも10倍優れた人材が集まってきます。」

    謙虚、礼、敬意を表すことの大切さ。


  • 明治天皇や徳川家康もこれを読んで帝王学を学んだと言われる貞観政要

    唐の皇帝・太宗、素晴らしい方!
    隋の煬帝、秦の始皇帝など暴君と呼ばれる帝たちの失敗をいつも心に留めて、自分もそうならないようと努め、公平であろう、誠実であろうとし、人民の平安を一番に考え実行しようと努力。

    自分のことはわからないから、意見を聞かせてほしいと側近の意見を聞いて反省したり。

    子供への教育についても語られ、全てにおいて勉強になりました
    こんなに立派でも、息子の代で大変なことになってしまい、とっても残念

  •  唐の二代目太宗(李世民)が臣下らとのやりとりから政治の要諦を、呉兢が編纂したもの。太宗と部下との問答で、それぞれが短めにまとめられており、また本書は訳文の後に原文、書き下し文とも登載してくれているので分かりやすい。
     名君の誉れ高い太宗は、勿論ある程度美化と言おうか、後世の人々に読まれることを意識されたところもあろうが、唐の時代がまだ成立して間もないことから如何に政治を安定させ、長期政権化させるのに苦心しているところが見受けられ、まとめられたのはこの文量であるが、太宗は政治について、どういう風に治世を行なっていくかをよくよく部下と語らっていることが滲み出ていよう。
     単に政治だけの話しだけでなく、処世にも、自己を省みるにも用いられるべき本で、折に触れては読み直したいもので、是非とも今日の政治家にも読んで欲しいものである。 
     皇帝とは、孤独であるも諫言を許し、奢侈に溺れず人臣の鑑となるべきものなのだろうが、それはいかに難しいものであるかということは、歴史が語っているからこそ本書のような帝王学が未だ残るのであろう。

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著者プロフィール

670(咸亨1年)~749(天宝8年)。中国唐代の歴史家。?州(河南省開封)の人。長年史館にあり、歴朝『実録』などの編纂に従事。自ら『貞観政要』『国史』などを編纂した。

「2022年 『超約版 貞観政要』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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