高校生のための文章読本 (ちくま学芸文庫)

制作 : 梅田 卓夫  清水 良典  服部 左右一  松川 由博 
  • 筑摩書房
3.67
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本棚登録 : 239
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480096425

感想・レビュー・書評

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  •  先日読んだ『直木賞受賞エッセイ集成』で、昨年逝去された藤田宜永氏が坂口安吾『わたしは海を抱きしめていたい』について言及していて、その内容がとても興味深かった。『わたしは〜』が収録されている書籍を図書館のデータベースでいくつか調べて、この本に行き着いた。高校生のための、とあるのでわりあい読みやすいポップな作品が並んでいるのだろうと思ったら大間違い、往年の名作から知る人ぞ知る短編まで幅広い作品に触れることができた。全文掲載でない作品がほとんどだけれど、作者・筆者の想いが強く込められた一部分がある程度完結した状態で抜粋されているので、そこだけでも十分楽しめた。

     この本には前半と後半があり、さらに前半はページが上下に分かれている。上半分には各作品が、下半分には注意すべき語彙の説明と、その作品の理解を深めるための設問や問題提起がいくつか出題されている。いずれもパッと答えられるような選択式・抜粋式の問題ではなく、自分の言葉で考え、説明させるような問いばかりで、大人であってもおそらく瞬間的に解答することはできない。高校生の頃に取り組んでいたZ会の現代文を彷彿とさせた。

     本の後半に、各問の模範解答が載っているのだけれど、その一つ一つが「論文ですか?」と聞きたくなるような凄まじい分量で、ちょっとわたし、全部は読めなかった。興味深いと思った作品(つい最近読んだばかりの大岡昇平『野火』、村上春樹『風の歌を聴け』も収録されていて、この二作品の問いと模範解答は特にふむふむと読んだ)のみ、かいつまんで読むに留まった。この忍耐力の無さと努力の不足こそ、学生の頃から一貫して現代文の点数が伸びない所以である、、、

     ちなみにわたしが読んだのは文庫版だけれど、単行本は1986年に出版されている。今から35年前。そして四人の編集者は全員男性。にもかかわらず、収録作品の中に「女性の強さ、自立、男尊女卑思想への批判」を明確に主題とする小説・エッセイがいくつも収録されていて、とても興味深かった。時代とともに訪れるパラダイム・シフトの気配を素早く感じ取り、世間に拡げていくことを試みた男性たちもいたのだということ。それを思うと、なんとなく胸がスッとするような感覚を覚える。

  • 教科書的なものかと思っていたけれど、いやいや、めちゃくちゃ面白い!!
    この短さで、考えさせられる話がたくさんあるし、文学ってこんな表現の仕方もできるんだ!という好奇心も刺激される。

    別役実の「とぜんそう」は、徒然なるままに……の世界をちょっとブラックに解釈した素敵な話。
    ロラン・バルトの「箸」は、ナイフやフォークと対比的に描かれた箸の精神美をきちんと伝えてくれる。
    筒井康隆「バブリング創世記」も、オトが世界を創っていく様子がユニークで、笑ってしまった。

    言葉は表現に使う道具の一つである。
    けれど、どのような道具があるのか、それがどのように使えるのか、知らなくては使いこなすことも出来ない。
    こうした様々なパターンの上質な文章に出会うこと価値に改めて気付かせてもらった。

    再読前提!

  • 時折国語のテストを思い出しつつも、もうちょっとこのお話を読みたくなるような、私の力が及ばない部分にそっと引っ張り上げてくれて、なかなか楽しい本だった。
    もっと国語の授業、まじめに受けていればよかったと思っても、後の祭り。
    若者よ、勉強したほうが楽しいよ(笑)

  • いろいろな種類の文章があるのだなと思った

  • 文学に対して、文章に対してとても熱い情熱がなければこの本はできなかったのではないか。バラエティーに富む、よく考えて選ばれた作品の、一部分を掲載し、解説する。著者らは、おそらく膨大な数の作品に触れる真の読書家にして、教育者。情熱が読者(特に若い読者)に向けて柔らかくひなたぼっこのような温かさで降り注ぐ本書は、紹介されている作品の一部はすでに絶版になっているものもあるものの、非常に良い読書案内で、かつ文章指南書である。

  •  良い文章(を書く)とは、「自分にしか書けないことを」「だれが読んでもわかるように書く」であるとし、それを目標に文章を書くための手引き。かといって、テーマを与えられ、書き方を指導してもらえるような本にはなっておらず、「何か書きたい」とか、「こんなのでもいいのか」という情熱を沸き立たせる内容になっている。実践してみたわけではないので手引きとしての良し悪しはよくわからないが、少なくとも、良い文章を書くためには、模倣から始めるしかないということは分かる。「詩とはミメーシスである」という文言が出てこないのが惜しい。
     さて、姉妹書「批評入門」と同様、答えのない悪問がついている。答えがないので解答であるはずがないのだが、選者(と思しき人)の解説がついている。私はこの無署名の解説が気に入らないとはいえ、「短い文章の中にもとらえどころがたくさんあるのだな」とか、「そんなに細かいところまで分析するものなのか」とか、「良し悪しとか著者の才能とかいらんよね」などなど、思うところがたくさんあった。学ぶこともあり、首をかしげるところもあった。本を読むというより、読書談義を傍で聞いていたような気分になった。
     本を手に取って読み、感じ取るというのはこんなに骨の折れることなのだろうか。だとすると、私は文学には向かないと感じたし、本を読むこともしたくなくなってしまう。なので、本の読み方を学ぶ意味ではお勧めできない。
     真剣に書こうというとき、いい文章を書きたいというより、伝えたいことの方が大きいのではないか。この本は、70本もある文章のうち一つくらい、今の自分が伝えたいことを「良い文章」にもっていくアプローチに当たるかもしれない、という程度に、肩の力を抜いて読む本だろう。
     読む方は一つくらいあればいいかな…というが、作る方は大変だったのかなと思ったがしかし、酒を飲みながら好きに話して選んだものだというのだから、それなりに読めばいいかもしれない。

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