レイシズムとは何か (ちくま新書 1528)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480073532

作品紹介・あらすじ

「日本に人種差別はあるのか」。実は、この疑問自体が差別を生み出しているのだ。「人種」を表面化させず、差別を扇動し、社会を腐敗させるその構造に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 梁 英聖さんをご存知だろうか。
    日本語読みではリャン ヨンソンさんだ。
    この方は日本の大学で学び、反レイシズムセンターの代表も勤められている方だ。
    写真で出てくる柔和な表情とは対照的に弁舌の鋭い方だ。
    しかし、歴史的経緯を含めて、この方の在日コリアンへの差別の指摘は非常に鋭い。
    他の感想にも書いているが、日本人は差別意識が薄い。勿論、私自身は日本人の優しさ、奥ゆかしさなどは大好きで、その点は尊重したい。
    正直、韓国にもこれまで特に好意的でも敵意を持っている訳ではなかった。
    しかし。本書を読み、日本人の「優しさ」はレイシズムに対抗しうる可能性を持つ長所であり、とりわけ、在日の韓国人の方は歴史的経緯を見ても特別に配慮しても良いのかもしれない。
    例えば戦後、シベリア抑留の日本人がそのまま、2世、3世を迎えて、未だに国籍取得や参政権など、既に国家に協力している方に認められない権利があればどうだろか。
    私の祖父も戦後しばらくは条約破棄したロシアに抑留され、状況によっては在露日本人になっていてもおかしくない。
    日本は韓国に性を変えるよう迫り、未だに在日コリアンの方は苦しんでいる。
    外国籍の方(在日コリアンの方は歴史的に見て日本国籍として国家参政を認められるべきと考えている)が、不当に不利益を受けていることはどうだろうか。
    歴史的な観点から言えば、特別に配慮しても良いのではないだろうか。
    抵抗はあるかもしれないが、現状の外国籍で在日の方の犯罪率を事実として見てほしい。
    実は日本生まれの日本国籍の人より率は低い。
    勿論、彼らが日本の伝統や法律を侵害するのは毅然として主張すべきだが、現状、マスコミの報道以外に目立ったことはない。
    私自身、日本は大好きな国だが、この在日コリアンの方が感じる課題は、決して無視する訳にはいかず、まず歩むべき問題である。
    惜しむらくは関西方面だけでなく、せめて日本全国の大都市で活動をして欲しい。
    他の地域で微力ながら貢献したいと思うが、団体が特に関西に限られている。

  • 【長い感想】
    ・反レイシズムの理論についての概説書。同時に、社会運動に大きく関係する本でもある(この感想では社会運動面には触れない)。

    ・細々したメモを最初に置く。
    ①Amazonでは低評価(星一つ)レビューが何件かあるが、どれも不当だと思う。書名と著者名がネトウヨを呼び寄せてしまったのでは。
    ②新書としては高度な内容に踏み込んでいるので、事前にミシェル・フーコーやアントニオ・グラムシを多少知っていないとなかなか読みにくい(ほかにも一般人が知らない論者が出てくる)。
    ③Bertrand Jordanの『人種は存在しない――人種問題と遺伝学』(林昌宏[訳] 中央公論新社 2013年)もオススメ。これは分子生物学者がフランス社会を踏まえて一般向けに書いた本。
    ④著者による記事を三つ(於note)
    https://note.com/ryangyongsong/n/nfa615509c611
    https://note.com/ryangyongsong/n/n49014ee4efb1
    https://note.com/ryangyongsong/n/n0ab37d173182

    ・ふつうの読者にとって本書一番のポイントは、「日本には社会的にも法的にも、人種差別へのブレーキが欠けている」と指摘していることだと思う。このことを認識する意義はとても大きい。
     ただし、Twitterや旧2ちゃんねる等といったプラットフォームにもブレーキが欠落しているのは常識のはずだが、何故か著者は言及していない。本書のテーマでは触れた方が自然なはずだ。

    ・第7章後半部は個人的にマイナス。
     「資本主義とレイシズム」という項では、資本主義がレイシズムを強化する点をテーマにしている。残念ながら、ここはもう少し丁寧な議論が必要だと思う。
     本書でも一応、経済学者(ミルトン・フリードマンでもゲイリー・ベッカーでも)が指摘したような「市場機構が適切にはたらく資本主義社会では、ゆくゆくは差別は解消される」(大意)という機能があることは紹介されている。たとえばアフリカ系選手を拒否し続けた名門レッドソックスの成績が凋落したという野球界エピソードは有名だ。
     著者は、それだけでは足りない(マイナスを埋め合わせられない)と考えているようなのだが、考える材料も頁数も少なすぎて、読者は判断がつけられない。
     たしかに本書では「資本主義がレイシズムを助長させる側面」については、問題点と論の骨子は示されている。しかし、過激な主張(「資本主義への闘争」!)そのままでは、とても現実的ではない。また「差別問題に関わる人ならみんなそう考えている」(大意)というのも、えらく急だし証拠が無い。
     せいぜい「資本主義を維持しつつ、レイシズム強化する機能を緩和する策を探す」というのが落としどころではないかと思う。

     この唐突で不完全燃焼の記述が挟み込まれた経緯はわからない。
     ものすごく雑に邪推すると、「著者は反・資本主義的なスタンスをとっている(NPO法人POSSEに関わりがあり、唯物論研究会にも寄稿してるから)。そして今回の著書では、書くべきことを書いたあとにマルクス主義的なイデオロギーを添えたのだろう」となる。
    (POSSEが左翼運動体に関係があるかも、という噂についての未検証ぎみの記事はあるが、 https://dailycult.blogspot.com/2016/10/npoposse.html
     でもこれは説得力もなければ意味もない推測でしかない。というのも、人文系では未だにマルクスの影響が大なり小なり残っているからら、最近の書籍でもアンチ経済学的な言論が珍しいわけではないから。また、他のレイシズム研究者のスタンスを調べなければ、著者の意見が浮いてるのか/スタンダードなのな分からないから。

     個人的には、社会主義に差別解決の夢を見るのはロマンがあって悪くないと思う(1960年代のソ連のように)。ただし、本書7章の場合は、分析や提言のレベルにはまったく届いていない。本書には載せずに、別の本で主張するのがよかったのではないかと思う。

    ・総評:一部を除けば星4つだった。


    【書誌情報】
    『レイシズムとは何か』
    著者:梁英聖
    シリーズ:ちくま新書
    定価:1,034円(税込)
    Cコード:0231
    整理番号:1528
    刊行日:2020/11/05
    判型:新書判
    ページ数:320
    ISBN:978-4-480-07353-2
     
     「日本に人種差別は本当にあるのか」。そのように疑問に思う人も多くいるだろう。だが日本にも人種差別撤廃条約で禁止されている差別が現実に起きている。間違えていけないのだが、現在の人種差別は人種を表に出せないかわり、文化の差異などを理由に差別を扇動しているのだ。なぜそのような差別は起きるのか? 日本ではそれが見えにくい理由は? レイシズムの力学を解き明かす。
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480073532/


    【目次】
    目次 [003-004]
    はじめに [005-016]
      「できるだけたくさんのメキシコ人を撃ちたかった」
      日本にレイシズムは存在しない?
      「日本人」とは何か?――国民か人種か
      ナショナリズムとレイシズムを切り離す――反レイシズムの可能性
      レイシズムとは何か
      本書の構成
    おことわり [017]

    第一章 レイシズムの歴史――博物学から科学的レイシズムへ 019
      前近代にレイシズムはあったのか?
      近代世界システムの成立とレイシズム
      レイシズムのプロトタイプ
      「人種」の発見
      啓蒙主義と人種、リンネの博物学
      科学的レイシズム
      頭脳や知能の測定
      社会ダーウィニズムとナチズム

    第二章 レイシズムとは何か――生きるべきものと死ぬべきものとを分けるもの 047
      レイシズムという言葉の特徴
      科学的レイシズムの否定
      レイシズムとは何か① 人類が撲滅すべき社会悪の定義
      新しいレイシズム
      差異主義的レイシズム
      制度的レイシズム
      現代的レイシズム
      強力な反レイシズム凍瘡を解体する米国の新自由主義的レイシズム
      レイシズム概念のインフレとデフレ現象
      知と権力とレイシズム
      レイシズムとは何か② 人種差別を引き起こす原因を探る
        ①レイシズムは人種化する。
        ②レイシズムは殺す(死なせる)。
        ③レイシズムは権力である。
      国家レイシズム――生権力と死の権力の結び目としてのレイシズム
      「レイシズムとは何か」という知を規定する権力関係――差別と反差別

    第三章 偏見からジェノサイドへ――レイシズムの行為 093
      レイシズムのピラミッド
      レイシズムは常に差別行為として現れるわけではない
      差別アクセル――加害者の差別する自由をつくり出す権力の効果
      加害者にとって暴力が正当であると思える社会的条件――差別煽動という差別アクセル
      差別煽動① ヘイトスピーチ
      差別煽動② 差別行為
      差別煽動③ 政治(特に国家)による差別煽動
      レイシズム暴力発展の四段階
      差別煽動④ 極右
      社会を破壊するレイシズムの組織者
      
    第四章 反レイシズムという歯止め 123
      戦後国際社会の根本原則――反レイシズムという歯止め
      反ネオナチと反植民地主義――人種差別撤廃条約を異例のスピードで制定させた力
      人種差別撤廃条約というモノサシ――グローバルスタンダードの反レイシズム
      反差別ブレーキ① 差別する自由を規制することこそ真の自由である
      加害者の差別する自由に手を付けず被害者を尊重しようとする日本型反差別の問題
      反差別ブレーキ② 「人種」の否定
      反差別ブレーキ③ 差別煽動と極右の違法化――人種差別撤廃条約の最大の特徴
      反差別ブレーキ④ 国家の差別煽動への対抗
      先進国で規範となった反レイシズム「1・0」「2・0」
      過去をモノサシとするドイツ型反レイシズム
      反レイシズム2・0のドイツと反レイシズムなき日本の違いを生んだもの
      行為/言論の特殊な二分法をもつ米国型反レイシズム
      「ヘイトスピーチ」という特殊な概念を生み出した米国型反レイシズム2・0
      「ヘイトスピーチ」という言葉の日本と欧米のねじれ
      共通言語としての反レイシズムと、共通言語にならない日本型反差別
      人種差別撤廃条約に違反し続ける日本――差別禁止法がない唯一の先進国
      レイシズムを見えなくする作用――モノサシがない、共通言語がない
      条約の限界――国籍・市民権による区別をどうするか
      反レイシズム vs. 移民政策をつくりだす対決
      スリーゲートモデルとシティズンシップ
      ナショナリズムという隠れ蓑

    第五章 一九五二年体制――政策無きレイシズム政策を実施できる日本独自の法 169
      戦後在日朝鮮人への差別政策
      人種差別ではなく国籍区別?
      一九五二年体制という日本独特のレイシズム法制
      朝鮮植民地支配のレイシズム政策
      GHQ占領期も継続したレイシズム政策
      旧植民地出身者の国籍「喪失」
      戦前の「帝国臣民」から戦後の「外国人」まで一貫するレイシズム
      一九五二年体制と在日特権――法一二六【※正式名称:「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基づく外務省関係諸命令の措置に関する法律」(昭和二七年法律第一二六号)】という元祖「在日特権」
      公的な反差別・外国人政策ゼロのまま、外国人政策として代用される入管法制
      否定される在日コリアンの権利

    第六章 日本のレイシズムはいかに暴力に加担したのか 197
      朝高生襲撃事件型=反共産主義の極右による非公然かつ直接の差別煽動
      国士舘の極右教育
      極右組織による差別煽動
      マジョリティである日本人も「反日」として処断
      チマチョゴリ切り裂き事件型=「普通の人」による自然発生的暴力型
      国会とマスコミによる「北朝鮮バッシング」の効果
      冷戦崩壊後に成立した新しい政治による差別煽動メカニズム
      在特会型=政治による差別煽動が生んだ、遊び半分で暴力を組織する日本型極右の脅威
      新しい差別煽動回路――政治による差別煽動+自然発生的な新極右の組織化
      社会運動としての差別――弁護士不当懲戒請求事件
      レイシズムが政治を乗っ取る日――極右の選挙・議会進出
      「レイシズムの政治化」を可視化するヘイトウォッチ
      ホロコースト否定とレイシズム
      「慰安婦」ヘイトスピーチとレイシズム
      一九九〇年代以降の「慰安婦」問題と日本政府による差別煽動
      欧米と日本との政治による差別煽動の違い
      「海を渡る「慰安婦」問題」――グローバル化する日本型歴史否定
      レイシズムの商品化、産業化による差別煽動

    第七章 ナショナリズムとレイシズムを切り離す 255
      ナショナリズムにとって不可欠なレイシズム
      「日本人」とは何か――レイシズムとナショナリズムの日本的癒着
      反レイシズムによってレイシズムとナショナリズムを切り離す  
      セクシズムと一体のレイシズム――インターセクショナリティという難問
      資本主義とレイシズム
        ①資本主義はレイシズムを途方もなく強化させる。
        ②資本主義は反レイシズムを骨抜きにする。反差別の原理である平等を簒奪する
        ③資本主義は社会的連帯を壊す
      反レイシズムを超えて――ブラック・ライブズ・マター運動が問うもの

    あとがき [303-307]
    主要参考文献 [308-309]
    注 [310-318]

  • https://www.asahi.com/sp/articles/ASPB97X5GPB5UPQJ002.html?iref=sp_ss_date_article

    この記事からの芋づる読書。
    日本のレイシズムが反レイシズムの不在ゆえに不可視化されている現状と、その顕在化のために第三者からの関与が不可欠であることをきっぱり指摘している。
    甘ったるい言葉で「共生」「多様化」を語る前に、まず読んでおくべき本だと思った。
    そして、書店さんには頑張ってほしい。
    ヘイト本を経済原理に負けて店頭に並べることがないように。

  • 日本における差別について考察した新書。日本では反レイシズムのブレーキがないという特徴があり、ここが欧米と構造的に大きく異なる。主要極右が生まれにくいのもこのため。これらは反差別のカルチャーが浸透していないことでもあるので、政府やメディアによる積極的な介入が求められるところ。

  • 後半に入るに従って、現代が抱える問題に唸らされながら読むこととなった。本書は、レイシズム(とりわけ日本の抱える危うさ)およびそれと闘う手段について私たちが主体となって考える、いわば入口の役割を果たしてくれているのではと感じる。前半はその発生過程(西欧含む起源)、後半は問題の実例を洗い出していると思う。
    どうせ変わらないという無気力なニヒリズムに陥らないためには知識と根気が必要だし、傍観者にならないためには勇気が要る。
    それでも、差別を受けたまま消費されるマイノリティとしての「被害者」に閉じこもらないためには、発信を続けていくことが肝要だろう。
    知識を根底の武器においてさえ相当の勇気と根気が必要で、変わらない世に絶望することも多い、だろうが。
    私は本書を何度も何度も読み返して私なりに飲み込みつつ、私の物語に投影していきたい。

  • 目的:
    差別が暴力に結びつくメカニズムを知るため。
    資本主義が差別と密接な関係であることを理解するため。

    要旨:
    差別と言っても、本書が取り上げるのはレイシズムである。極端な例としてはナチズムによるユダヤ人虐殺が挙げられるが、日本で言えば在日コリアンへの差別がある。本書では、これらの事例を検討し、差別が暴力へと昇華されるメカニズムを明らかにしている。

    感想:
    日本でもレイシズムが存在すると喝破する筆者の意見に驚いた。
    反レイシズム規範が存在する欧米諸国と比較すると、反差別規範の存在しない日本では差別を禁止することができない。そのため、「表現の自由」だと言い逃れすることができる。そんな世の中は果たして自由なのだろうか?

    メモ:
    ナショナリズム(国民を分ける線)とレイシズム(人種を分ける線)の癒着
    (本来別個のもの)
    →国籍の有無、人種的差異によって差別が生まれる

    資本主義が差別を強化し、反差別を平等の定義を資本主義的なものに改変することで骨抜きにするなどする。

  • 認識(実践)には「本質把握」と「概念的把握」というレベルがある。
    「帝国主義は侵略性という本質をもち、我国のこれこれの振舞いはその本質に合致している」ということが「分かった」からといってそこから一歩先に進めるものでもない。しかし「帝国主義は資本主義のどん詰まりの姿であり被抑圧人民の国際連帯によって打倒されることがその真理である」というように、対象を全体性と発展性(歴史性と云っても良い)において捉えるなら、そこに主体の立ち位置はどうなんだということも含まれてくる。このレベルでのモノゴトの把握の仕方を〈知識〉とか〈理解〉よりも高次の〈概念〉と呼ぼう、というのがヘーゲルの言葉遣いだ。この〈概念〉を基点に判断と推理を重ね仲間とディスカッションを重ねることで世界を作り変える道筋も見えてくるというものだろう。
    ヘーゲルの『論理の科学』は、〈概念〉〈判断〉〈推理〉を扱った「主観性」という章に続いて「客観性」という章を立てている。
    これが何なのかということが分かりにくかったのだが、「実装」ということなのでは? という着想を得た。
    辞書的には、「実装」は工学の言葉で「何らかの機能(仕様)を実現するための具体的な装備や方法のこと」である。必要とされる機能が明らかになったとしても、それは理念上の存在でしかない。その段階にとどまる何らかの機能を、実際に動く具体的なものとして現実世界に出現させる=具現化することが「実装」と呼ばれる。

    梁英聖『レイシズムとは何か』(ちくま新書)を読んで、ガツンと頭を打たれた。
    著者は、レイシズム(人種差別)の本質論を語ることにはワナがある、と喝破する。なぜなら〈人種〉は生物学的にも社会的にも実体のない疑似概念にすぎず、「ありもしない〈人種〉をつくりあげ人間を分断する」作用としての〈人種化〉があるのみというのが真相だから。しかしこの疑似概念は人種差別を引き起こすチカラ(人種差別という行為を可能にする権力関係がその実体だろう)として作用することで、我々の前に実在性をもって現れてくる。これはちょうど〈神〉がそれを崇める人々の行動を通じて確かに威力を振るい実在性を帯びるのと同様だろう。
    このレイシズムに対しては、戦後国際社会はファシズムと戦争の防止のために克服すべきものという規定(「概念的把握」に該当するだろう)をし、世界人権宣言や人種差別撤廃条約にて、各国の市民社会がそれと闘うことを義務としている。
    ここからもう一歩、梁英聖は探求を進めた。
    レイシズムの存在が都合の良い勢力による「差別アクセル」と、人間のあるべき姿を目指す「反差別ブレーキ」の対抗関係を掴み取ったことは大きな前進だ。
    本来人間の頭の中にしかなかったものが、実際に世界の中で威力を振るい、人間を貶しこめ社会を壊していく実体的関係を作っていってしまう、そのへんのメカニズムは、ある勢力によって意図的に仕掛けられた「実装」として掴むべきだ。(梁英聖は「実装」という用語は用いておらずこれは僕の解釈だけど) 従って、そこから人間の尊厳を守っていこうというカウンターもまた「実装」のレベルで組み立てられていかねばならない。
    この梁英聖の投げかけは極めて具体的で、そして我々をエンパワーしてくれると思った次第である。

    レイシズムの存在が都合の良い勢力とは、言うまでもなく、摂理を踏みにじった利潤追求をし際限なく格差を拡げていく資本主義(新自由主義)である。
    梁英聖の分析に学び理論武装した上で、武建一『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』を読むと我々の敵の姿がいっそうくっきりと見えてくる。

  • レイシズムとは何か、というタイトル通りのことがしっかり書かれている。「人種は存在しないが、人種差別は存在する」「レイシズムとは、人種化して、殺す(死なせる)、権力である」など重要な指摘多数。差別をなくしていくためには、「差別アクセル」(差別する自由を作り出す)を公の場からはっきりと除いていかなければならない。日本型反差別は、加害者の差別する自由に手を付けず被害者を尊重しようとする点で問題があるという指摘も、もっともだと感じる。日本は人種差別撤廃条約に1995年に批准(世界で146番目)したが、条約が義務づける包括的差別禁止法もつくらず、差別統計もとらないまま条約違反を続けており、このことが日本におけるレイシズムを見えなくしているという指摘は重要。

  • 日本の差別や法整備、インターセクショナリティなどについて断片的にでも知ることができて良かった。
    特に、日本における差別は被差別者が声を上げ被害を語ることばかりが過剰に求められ、社会的な反レイシズム体制が整っていないことが問題であるという考えに触れられたのは大きな収穫だった。差別に限らずあらゆる問題においてこれは今後日本で見直されるべき風潮だと感じる。

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著者プロフィール

反レイシズム情報センター(ARIC)代表
おもな著作 『レイシズムとは何か』(ちくま新書)筑摩書房、『日本型ヘイトスピーチとは何か: 社会を破壊するレイシズムの登場』影書房、など多数。

「2021年 『右傾化・女性蔑視・差別の日本の「おじさん」政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梁英聖の作品

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