日本農業の真実 (ちくま新書 902)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066084

作品紹介・あらすじ

わが国の農業は正念場を迎えている。農業者の高齢化、減反問題、農産物貿易の自由化など、難問が山積している。こうした状況下で大切なのは、情動やイデオロギーに流されることなく、冷静かつ現実的に食と農の問題を考えることだろう。本書では、日本農業の強さと弱さの両面を直視し、国民に支えられる農業と農村のビジョンを提案する。農地制度や農協問題など、農業発展のブレーキと指摘されている論点にも言及しながら、農業経済と農業政策の第一人者が近未来の日本農業を描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 生源寺眞一『日本農業の真実』読了。

    これは良書。元 農政立案者らしい文体で、これから農政に 携わる人に読んでほしい一冊。

    「難航していたウルグアイ・ラウンドの着地点を作り出すことを狙ったのが、ECの農政改革にほかならない。交渉妥結後の1994年にウルグアイ・ラウンド対策費を決定した日本とは対照的である。しかも、6兆100億円の対策費が農業の強化に有効に使われたとは言いがたい。戦略的で能動的な制度設計、これがEUの姿勢から学ぶべき第1の教訓である」

    この通りで、突如として農産物の輸出を増やそう、なんて言ってる時点で、日本農政は政策にあらず、といった感じ。
    惜しいのは民主党政権下に書かれてること。

    とはいえ、現状の農政を理解するには最適の入門書。

  • 今日、巷を賑わせるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉において目に留まるのは、やはり農業関係者たちの反対である。しかし、少なくない人々が、どこかそれを冷ややかに見ているところがある。それは、例え農業関係者たちの反対が、至極まっとうなものであるにせよ、反対を押し切ったところで、日本の農業の先詰まり感を払拭するにあたわないからかもしれない。農業就業人口に占める65歳以上の割合はすでに6割を超え、その耕作放棄地もおよそ40万haと埼玉県の面積より大きい。2013年末にはついに、40年に渡って続けられたコメの生産調整(減反政策)の廃止が打ち出されるに至った。いうまでもなく、日本の農業はいよいよもって大きな節目を迎えようとしているのだ。著者の振り返る1986年、第8回多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)の時も、やはり農業関係者たちの反対は大きかった。政府もまた、いくつかの農作物が関税化される中にあって「一粒たりとも米は入れない」と、ほとんど感情的な決議でもって、コメの関税化を阻止した。しかし、その代償として課せられた最低輸入機会(ミニマムアクセス)の追徴は、実は、コメを関税化したときの試算より、はるかに大量のコメを国内に輸入させる結果となった。そして、関税化された農作物に向けられた6兆円を超える対策費もまた、使途の不透明なまま、これといって農業を活性化できないままに露と消えた。はたして、脊髄反射的な反対は、何も生みだすことはできない。では、いったいこれからの日本の農業はどうあるべきなのか。これまで日本の農政の最前線にいた著者による、悲観論でも、楽観論でもない公平かつ論理的な日本農業史。なお、著者はTPPに賛成なのかとえばもちろんそうではない。著者が本書で殊更に訴えているのは、賛成反対を議論する以前に、農業がまだ何も理解されていないということである。かつて、日本の人口の9割が農民だった。しかし、今日、人口の9割が農業を知らない。だとしても、農業が自分たちの生活に直結した問題であることは誰もが知っている。冷ややかな目を向けることなかれ、これは自分たち全員の問題である。

  • 友人に借りた本だったが、良書だった。
    日本の農業について中立的な立場で知りたいという読者向け。

    昨今では「農協が悪い」「TPPは参加するべきではない」等の感情論が飛び交う農業であるが、本書はその日本の農業について客観的に分析していたため、現状を冷静に把握できた。
    その所以は筆者が農業の「歴史」という点に着目して述べているからだろう。
    主だったテーマは「自給率」「農政」「コメの生産」等であるが、農政については政策が設定された歴史的な背景や目的から丁寧に記述されているため、深く理解することができる。

    1つ難点を挙げるなら、過去の農業政策や農業経済等といったテーマが多いため、農業や農政を全く知らない人にとっては読むのが難しい点だろう。
    勿論これは筆者が中立的な立場で日本農業の現状を説明しようと試みたため、必然的にそうなったものである。
    感情論に走らず、中立した立場を維持するためには、これまでの「歴史」を丁寧かつ客観的に解説する必要があるからだ。
    ただ、軽い気持ちで農業・農政のことを知りたいと考える読者にとっては、本書は少し教科書的な退屈さを感じてしまうのではないかと思う。
    良くも悪くも「新書」の完成度を超えている印象を受けた。

    現在の農業の話題は本当に感情論が多すぎる。
    筆者のように物事を冷静に分析し、その強みと弱みを客観的に把握したうえで議論するスタンスでなければ、真の解決は見いだせないだろう。
    個人的には本書の内容以上に、筆者の考え方に感心した。

  • 日本農政が辿ってきた歴史、食料自給率、担い手の問題、コメの生産調整、農村の機能、これからの日本農業が目指すべきもの、などが幅広く言及されている。非常に読みやすい日本語で書かれており、取り上げられているトピックスも前述の通り初見でも親しみやすい問題から触れられており、とても読みやすかった。
    直近の民主党の大勝によって、日本農政に関して逆走・迷走が生じていることに触れつつも、単なる政党批判にはならず丁寧に政策について言及している。また、自民党の「減反」政策についても触れるなど、公平性は忘れていない。
    日本農業の強み・弱みの双方に触れ、歴史的な変化についても分かりやすく記述されている。日本農業の目指すべき姿、それを支援する政策のあるべき姿がしっかりとまとめられていて、良い読後感を味わえる。

  • 一時期民主党が政治主導なる理念を掲げ、政策決定のプロセスを大きく転換したことがあったが、本書を読むとなぜそれが失敗に終わったのかが良く分かる。政策と言うのは専門的な視点から継続性を以て立案されるべきもので、政治家のポピュリズムや単なる不勉強による気まぐれに左右されるべきではない。政治家の役割は利害調整に徹するべきだ。
    それはさておき、本書の主題は実に明快である。食料自給率はあまり意味のない指標で、その低下は食生活の変化によるところが大きいこと。むしろ非常時に国民が等しく最低摂取カロリー(2000K)を確保できるような国産生産力を確保すべきであること。一律の所得保証でなく、農業の主要な担い手に土地と補助金が行き渡るようにすべきこと。加工にも目を向け、いわゆる6次化を目指すこと。どれも正論である。

  • わが国の農業は正念場を迎えている。農業者の高齢化、減反問題、農産物貿易の自由化など、難問が山積している。こうした状況下で大切なのは、情動やイデオロギーに流されることなく、冷静かつ現実的に食と農の問題を考えることだろう。本書では、日本農業の強さと弱さの両面を直視し、国民に支えられる農業と農村のビジョンを提案する。農地制度や農協問題など、農業発展のブレーキと指摘されている論点にも言及しながら、農業経済と農業政策の第一人者が近未来の日本農業を描き出す。
    第1章 逆走・迷走の農政
    TPP問題 農業団体と経済界の対立 農政に戸惑う経済界
    第2章 食料自給率で読み解く日本の食と農
    カロリー自給率と生産額自給率 畜産3倍、果樹2倍 集約型と土地利用型 安全保障としての食料供給力 マンパワーの重要性
    第3章 誰が支える日本の農業
    好例かいと就業人口の減少 農地の集積 価格政策から経営政策へ 経営所得安定対策 選挙対策農政 大型法人経営
    第4章 どうするコメの生産調整
    水田農業の二層構造 農村コミュニティの二面性 生産調整の重く暗い歴史 減反導入の背景―生産と消費の変化 選択的な生産調整
    第5章 日本農業の活路を探る
    モンスーンアジアの風土と農業の規模 新たな共助・共存の仕組み 農業経営の厚みを増す
    第6章 混迷の農政を超えて

  • 農政の歩みについての記述が非常にわかりやすい。

  • 全体的に難しく、硬い文章。中身は面白いけどそれが多くの人には伝わらないかと思う。農協の件は別で一本書けるくらい魑魅魍魎なのだろう。著者としてもそれを匂わす表現で濁してた。


    第2章 食料自給率

    食料自給率が大きければいいかというと、そうではない。

    ・フードマイレージ
    食料の重量と輸送距離の積。環境負荷に着目。


    ・総合食料自給率(生産額ベース)1960〜
    農家が出荷する段階の価格を物差しとした算出。
    ・総合食料自給率(供給熱量ベース)1987〜
    =カロリーベース。韓国、台湾も採用。
    ・穀物自給率
    米、小麦、トウモロコシの三大穀物を中心に、大麦、ら麦、雑穀類を合算した重量集計計算。2007年の日本の穀物自給率は28%。

    農業生産指数…基準年を100として、価格合計を品目ごとに集計した指数。総合では1989年までは伸び続けていた。が、米は1970年から、麦・豆・いもは1965年から下落を続けていて、その代わりに野菜・果実・畜産が急上昇していた。ただそれのピークも1989年や1994年ごろまで。

    集約型農業がバラ色というわけではない。
    それでも、北海道の集約型農業の1時間あたり農業所得は水田、畑作ともに4倍。
    水田 都府県417円・北海道1711円
    畑作 都府県698円・北海道2355円
    養豚はパターンに関わらず、1747円。2008年のデータ。

    2005年の2回目の「食料・農業・農村基本計画」には、2015年までにカロリー自給率45%、生産額自給率76%に引き上げるというものだった。

    例え、国産小麦の自給率をあげても、主たる用途がうどんとお菓子であるので、パンに向いている外国産小麦の需要があるので簡単に進むわけがない話。



    第3章 1990〜2009政権交代までの農政の枠組み

    ※前半、難しくて読んで理解しようと思えない。つまらない。

    2007年7月29日参院選で圧勝した民主党マニフェスト「戸別所得補償制度」は、自公政権下で導入されたばかりの「経営所得安定対策」に対するアンチテーゼだった。全ての販売農家へのバラマキ。
    「個別」ではなく「戸別」だったのは、小沢一郎主導の政策だったから。選挙の要諦である、候補者が一戸一戸に「戸別訪問」するところから。

    戸別所得補償制度は農協を介さず直接農家へ支払う財源負担型の政策。
    自民党の票田である農協陣営へくさびを打ち込む意図があった。

    2009年8月の総選挙で民主党が圧勝。2010年度から戸別所得補償制度がスタート。2011年度からの予定が、モデル事業ということで事実上前倒しとなった。2010年参院選選挙対策とみられる。

    水田作農家の規模別概況2006
    全戸数140万戸
    作付面積 割合 経営主年齢 総所得
    1ヘクタール未満 73% 平均66歳 総所得490万
    1-5ヘクタール 25% 平均63歳 総所得450万
    5-10ヘクタール 1.5% 平均58歳 総所得540万
    10-15 0.4% 平均55歳 総所得740万
    15-20 0.1未満 平均53歳 総所得820万
    20以上 0.1未満 平均53歳 総所得1400万
    →集約型農業をしてる社長さんほど若くて高収入。ただし、農業界のスーパーエリートなので、ほぼいないに等しい。10ヘクタール以上やって、初めて非農業従事者の収入に近しいものが得られる。

    戸別所得補償制度が小規模農家に支給される点について、非効率な兼業農家が温存されるイメージが強くあるかもしれないが、実際には大した恩恵はなく、小規模農家の維持には大した効果はないと思われる。

    2005年農業センサスによれば、農家総数は285万戸、うち販売農家は196万戸、さらにその七割の140万戸が水田作農家。
    その73%が1ヘクタール未満の小規模農家。経営主の平均年齢は66歳で、農業所得はマイナスかゼロ。農業外所得が250〜300万/年くらい。年金等収入あわせて総所得が490万くらいとなる。
    戸別所得補償制度での給付額は、水田50アールなら、水田の四割が生産調整でコメ生産面積は30アールとして、自家飯米用10アールをのぞいて20アールが対象となり30000円。
    1ヘクタール(=100アール)なら、75000円の給付。年間給付額として3万から7.5万円で、一体何ができるのか、という話。

    選挙のキャンペーンとして、小規模農家の継続性について強調されてきた。農家の耳に入りやすいやりかたで。農家を大切にすることは、農村を身近に感じる地方都市の住人からも共感を得やすい。農業の実態や、それに対する政策の重要性よりも、わかりやすさや耳障りの良い表現が重要である。それが選挙活動。

    10ヘクタール程度の水田作農家は、国内相対的には大規模農家だが、この程度を標準的な農家である状態をつくることが重要。
    10ヘクタールまでなら集約してコストダウン効果が目に見えてあるが、10ヘクタール以上だとコストダウン効果は横ばいになる。
    ただし、100ヘクタールクラスの大型法人経営になると、農産物の加工や販売領域で強みが出せる。加工や販売は農業の川下の分野の付加価値を引き寄せる取り組みである。多角化戦略。



    第4章 生産調整

    土地利用型農業、とくに水田作農業は二つの層から成り立っている。

    上層:ビジネス層・市場経済の絶えざる交渉のもとに置かれた層
    基層:農村コミュニティ層・資源調達をめぐる農村の共同行動に深く組み込まれた層

    農村コミュニティの二面性
    うまくいっていればいいが、内輪揉めや外圧によって亀裂が生じると修復には大きなエネルギーが必要となる。悪しき集団主義の発現により、個人に対する抑圧のメカニズムが働くことも。

    外圧には、農政も含まれる。
    コメの生産調整政策、いわゆる「減反」もその一つ。

    減反政策に反対すると、村八分にされ国賊扱い。自分の役職剥奪どころか子供の生活にまで嫌がらせなどの影響が出た。農村に居住していない人には到底想像できないレベル。
    ※2002「減反裁判記録集」より

    生産調整に参加している農家からすると、参加していない農家の分まで減反しなければその地域へペナルティが課されてしまう。すなわち、不公平。一種の政府公認価格カルテル。不参加農家は生産調整の米価維持の効果にタダ乗りしているとみなされた。

    村の中での参加、不参加バトルだけでなく、地域間対立にも役立ったのが、この減反政策だった。
    北海道は減反政策に参加、都市近郊で水田地帯を抱える関東地方(コメ業者へ直販ルートあり)は減反政策に不参加、なんて構図があった。

    生産調整は1969年試験開始、1970年から本格開始。
    荒幡克己教授「米生産調整の経済分析」は必読。

    そもそも、戦時中1942年に施行された食糧管理法のもとで、生産されたコメは毎年政府が決めた価格で政府が買い取り、政府が決めた価格で卸業者に売り渡すことになっていた。生産者米価・消費者米価。農家は自家消費分を除いて全て政府に買い取ってもらえるので、過剰に供給され政府在庫の膨張につながった。古米の処理にも国費が投入され、国鉄・健康保険と並んで「3K赤字」と揶揄されていた。

    メリット措置である減反箇所への転作奨励金。対象品目や単価、支給要件はコロコロ変わったので現場は混乱。この助成金があるので複雑になり、30年以上も生産調整政策は継続した。

    1994年に食糧法に移っても、生産調整の仕組みは変わらず維持された。国→都道府県→市町村→集落→一戸へと生産調整面積が配分され、転作品目に応じた奨励金。目標面積達成のため、集団主義的な圧力をかける行為や、見達成地域へのペナルティ。不参加者には認定農業者となることは認めず、農林漁業金融金庫の融資も受けられず。

    2002年の生産調整に関する研究会を実施した結果、2004年に新たな生産調整方式を開始することになった。なのに、2007年参院選での民主党圧勝により危機感を覚えた自公政権下農林族議員の主導で生産調整方式を先祖返りさせた。これにより、農村コミュニティの亀裂をうむような環境下へもどることになった。この政策は本当に無能。農協組織の利益に沿ったものだった。自民党の票田=農協。

    生産調整問題のキーワードである「公平性」は、本来、参加、不参加ともにお互いの意思を尊重することができる状況をつくることにある。しかしながら、自公政権下2009年総選挙では「生産調整をしている農家に対し『正直者対策』として助成金を交付する」という表現を使っていた。生産調整不参加者へ「不正直」のレッテルを貼る行為であった。


    第5章 四つの観点からの活路

    2007年、農家一戸あたりの農地面積
    アメリカ198ヘクタール
    EU14ヘクタール
    ※英・独・仏に限ると59,56,46ヘクタール
    ※伊・西・東欧諸国は小規模
    オーストラリア3024ヘクタール
    日本1.83ヘクタール
    ※さらに自給的農家を含めると1.3ヘクタール程度

    農地配分の機能統合を目指すべき→現状統合されていない=同じ機能をもつ組織が無駄に存在している、というのは、天下り組織や役職の確保のため。これは農業だけでなく、全てにおいて言える。歳出問題の根底にあるものだと思う。

    農業の川下である外食産業は1970年の9.3%から2000年の18.9%まで急成長した。その分農業水産業が35%から19.1%まで落ちた。
    ただし、これは農業の川下にチャンスがあるということなので、農業経営だからといって川上の農業産業だけに限定して考えるべきではない。

    農協問題
    総合農協とは、
    ・農産物の販売
    ・生産資材の購買
    ・信用(金融)
    ・共済(保険)
    ・営農指導

    農協は地域ごとに存在し、事業レベルには地域間でかなりの差がある。農家は農協を選べない。

    制度上、農協の新設は可能だが、都道府県レベルでの農協組織とのあいだで協議を行うことが必要なので、事実上無理。

    本来、農協が担うことを独自にやっているのが、以下の3人。
    群馬県 澤浦彰治さん コンニャク加工
    千葉県 木内博一さん 冷凍野菜工場・カット工場
    長野県 嶋崎秀樹さん 加工業者、スーパー、レストランへの直販 ※みずから価格決定に関与できる状態


    第6章 これからについて

    著者含む研究会で出された生産調整政策のソフトランディング戦略は、国内のコメ保証価格を引き下げながら農業の牽引役への支援の厚みを増していく二兎を追うことができる政策。
    →とは言っても、農業の在り方よりも我が身がかわいい人ばかりなので、おそらく現時点でそれが確立されてないと思う。調べないとわからんが。

  • 愕然とした。自分があまりにも農業について知らなさ過ぎたことを。必要に迫られて読んだ本とはいえ、これほど衝撃を受けたことはない。
    農業の振興は国の基盤だと頭では思っていても、自国の問題としてここまで考えたことはなかった。当たり前のように毎日白いご飯を食べていた自分を反省する気持ちにもなった。
    しかしながら、この本は決して農業政策の批判ばかりではない。タイトルにもあるように”日本農業の真実”が多角的な視点から書かれている。日本の農業の弱さもあるが、強さもしっかりと書かれており、国の明るい未来を考える指針になると思う。

  • 食料・農業・農村政策審議会委員を勤めた農業の専門家による日本の農業の現実と将来性について述べたもの。実務に携わった専門家であり、農業の歴史と現状、有効な施策について現実的な提言がなされている。記述が緻密かつ正確で、日本の農業の置かれている立場と政策の善し悪しがよくわかった。極めて貴重な研究書といえる。印象的な記述を記す。
    「自然相手の農業にリスクはつきものだが、近年の日本の農業に関する限り、農政の迷走状態の方が深刻なリスクファクターである」p95
    「いま必要なことは現実の農業に関する偏りのない理解の醸成であり、日本の農業にできること、できないことを見極める作業である」p98
    「(いま求められるのは)数集落に1戸は、専業・準専業の農家が活躍し、その周囲には兼業農家や高齢農家などがそれぞれのパワーに相応しい農業を営むかたちである」p102
    「日本では、10haの規模でベストの状態で稲作が実現している」p105
    「なにがしかの支援のゲタを履くことなしに、日本のコメが国際市場で互角に戦うことはできない。不可能なのである」p147
    「2007年農家1戸当たりの平均農地面積 米198ha、EU14ha、豪3024ha、日本1.8ha」p149
    「半世紀の間、一人当たりのGDPは8倍に上昇した。農業の場合、土地生産性の劇的な変化がない限り(収穫量の顕著な増加は生じていない)、農地面積の拡大なしに他産業並みの所得を得ることは難しい」p151

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著者プロフィール

1951年愛知県生まれ。
東京大学農学部卒。
農事試験場研究員、北海道農業試験場研究員を経て、1987年東京大学農学部助教授、1996年同教授、2011年から名古屋大学農学部教授。
現在、食料・農業・農村政策審議会会長。

「2017年 『農業と農政の視野/完』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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