- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480016591
感想・レビュー・書評
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岩田正美の本は面白い。著者によっては、同じ内容の繰り返しになってしまっていることが多いがこの人の本は何かしら新しい着眼点がある。
この本では、戦後日本の貧困の「かたち」を素描している。「かたち」というこのふんわりとした語彙は厳密に意味を定めることができないかもしれない。しかし、著者の多年に渡る研究から豊富な資料をもとに、統計だけでは捉えられない、具体的な貧困のかたちが立ち上がってくる。
その結論として貧困対策への著者の立場を結論として引用する。「『自立』支援という政策目標は、個人の怠惰が貧困を生むという、きわめて古典的な理解に基づいている。だが問題は、怠惰ではないのだ。貧困を個人が引き受けることをよしとする社会、そうした人びとをブラック企業も含めた市場が取り込もうとする構図の中では、意欲や希望も次第に空回りし始め、その結果意欲も希望も奪いさられていく。だから問題は、「自立」的であろうとしすぎることであり、それを促す社会の側にある。」(pp324~325)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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内容(「BOOK」データベースより)
『敗戦直後の貧困は「食べるものすらない」という「かたち」で現れた。こうした中で、戦争により生み出された浮浪者や浮浪児の一部は炭鉱へと送られた。そこで生まれ育った若者の多くは集団就職で都会へと出ていき、その一部は「寄せ場」の労働者となった。高度経済成長により実現した大衆消費社会は多重債務問題をもたらし、バブル崩壊はホームレスを生んだ―。戦後日本の貧困の「かたち」がいかに変容したかを描き出し、今日における貧困問題の核心を衝く。』
『貧困の戦後史』
著者:岩田 正美
出版社 : 筑摩書房
単行本 : 343ページ
発売日 : 2017/12/13 -
貧困に関しては安定の岩田先生の著書.
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副題にあるとおり、戦後日本の社会において貧困の「かたち」はどう変わったのかを綿密な実証分析とともにたどる好著。
著者は1947年生まれでまさに戦後日本とともに生きてきた学者ならではの視点が充溢している。これは決して本書が著者の主観に左右されているということではない。叙述は客観的かつ冷静で要所が押さえられていると感じたが、そのバックグラウンドには「実感」が感じられるということである。
レビューの分類では社会史に入れておいたのだが、もちろん、貧困の問題は経済史の問題でもあり、著者も最後に述べるように核心は、政治の問題である。
「自立」支援という貧困対策は、貧困の原因を個人の怠惰に帰する古典的な理解に基づいている。しかし、問題は過度に「自立」的であろうとしすぎることにあり、それを促す社会にあるという指摘は、非常に重要であると思う。
個人的には第3章以降、実感を伴いつつ引き込まれて一挙に読めた。逆に言うと敗戦直後の貧困の「かたち」をイメージするのはなかなか難しかった。若い人は後半から読み始めるのもアリだと思う。 -
日本に貧困があるか否か、みなさんはどう思われますか?ピンとこない、という方にこそ読んでいただきたい本です。この本には現在までの貧困の「かたち」が描かれています。
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貧困の問題は根深い。貧困に対する無理解や、誤解が貧困対策への理解の妨げになっている。
生活保護費の不正受給を大きく報道するが、その割合は微々たるものであり、それを理由に保護を必要とする人までも締め出されている。原因と対策が正しく対応していない。 -
第1章 敗戦と貧困
第2章 復興と貧困
第3章 経済成長と貧困
第4章 「一億総中流社会」と貧困
第5章 「失われた二〇年」と貧困
おわりに 戦後日本の貧困を考える
著者:岩田正美(1947-、東京都、社会福祉学) -
戦後日本の「貧困」の変遷をそれぞれの時代に沿って具体的な事実を通して(できるだけ当事者性を重視して)まとめている。貧困者の生活・家計の実情が具体的にわかる同時代史料を多く引用しており、数字の羅列ではない「生きた」戦後生活史・都市社会史として情報量が非常に多い。他方、本書では直接の批判は抑えているが、一貫して貧困を生み、貧者を食い物にする市場・企業の飽くなき欲望や、開発主義と治安主義のもとで貧困者を排除するばかりの政治、貧困者への攻撃・バッシングに加担する多数派大衆の存在が通奏低音のように響く。著者は最後に貧困の責任を個人に引き受けさせる日本社会を変えるにはどうすればよいか自問しているが、それに対しては多数決原理から逃れられない議会制民主主義をやめて、反貧困の強い意志を持った政治集団が市場や大衆を制圧するジャコバン的独裁しかないと答えざるを得ない。
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東2法経図・開架 368.2A/I97h//K