希望の思想 プラグマティズム入門 (筑摩選書 108)

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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480016140

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  • 誰しも人は、宗教や道徳など、何らかの「信念」を抱いて生きている。異なる「信念」同士が衝突し、それが深刻化すると、凄惨な争乱になることすらある。我が「信念」こそ、絶対に「正しい」と信じて疑わないからだ。そうした対立を超克し、互いの差異を肯定しながら、協働し共生するための哲学とは何か?パース、ジェイムズ、デューイ、クワイン、ローティら、プラグマティズムの重要人物を取り上げ、その思想を概観しつつ、現代社会における連帯と共生の可能性を探る哲学の書である。

    この本の目次
    第1章 プラグマティズムの誕生
    第2章 信じることを肯定する
    第3章 生き方としての民主主義
    第4章 共生と連帯のための原理
    第5章 さらなる「連帯」へ
    第6章 リベラルで民主的な社会へ

  • プラグマティズムは「信じることを」肯定する。

    たとえ真理ではなくとも(そもそも真理はわからない)、よい人生に、つながることは「正しい」として肯定する。真理が分からないという前提の世界に対して、ニーチェは超人になることを主張したが、プラグマティズムは信じることを肯定するという。作者はこれを凡人のための思想と呼ぶ。

    ここから多様なひとが多様に信じる「正しさ」を前提とする世界で、どのような社会がありえるかが、多元主義や正義論、民主主義、連帯という流れで議論されていく。

    このような議論の結論として、作者がいうプラグマティズムの意義とは、「相容れない信念(正しさ)を持ち、対立しあう人たちが、それらを相克し連帯し、ひとつの大きなコミュニティを形成するための指針であり、共生を可能ならしめる思想」。

  • 格差が広がり、憎悪がうずまく現代社会において、それでも少しずつ前へ進むための理論武装が必要だ。

    本書が紹介する「プラグマティズム」は、大きな武器になりうる。対立を乗り越えて連帯する道、社会をよりマシにしていく道である。そして、単なる思想ではない。「生き方」でもある。

    プラグマティズムとは、相容れない「信念」をもち、対立し合う人びとが、そうした相剋を乗り越えて連帯し、一つの大きな「コミュニティ」を形成するための指針であり、共生を可能ならしめる思想なのである(p206)

    タイトル通り、希望が見えてくる思想だ。とてもわかりやすく、さらに、現代のニーズに合った本といえる。

  • ニーチェやダーウィン以降、絶対的真理が揺らぎ、我々は「唯一の正しさ」を信じることができないでいるが、思想をその効果に着目することで道具化するプラグマティズムが、修正されうる暫定的で多元的な「それなりの正しさ」を信じさせてくれる「希望の思想」であることを論じた書。

  • ローティ に関する前著とかぶる記述もあるが、プラグマティズムという系譜を綴ることで、明確になった部分がある。

    ネット社会を含むメディアの変容に関する記述が実証的でないが、多くの思想家を取り上げることによって、思想書としては読みごたえのあるものになっている。

  • 互いの差異を肯定しながら、協働し共生するための哲学

    所蔵情報
    https://keiai-media.opac.jp/opac/Holding_list/search?rgtn=086499

  • 80年代生まれの若い研究者による入門書で、昨今の情報化社会への思想的適用性にも言及し、現代的諸問題を取り入れており、文章全体が生き生きしていて、題名どおり希望が感じられる内容になっている。前半にプラグマティズムを概観した後は、民主主義・正義論といった政治哲学に内容がシフトし、連帯・共生について論じている。プラグマティズムをこの領域で語れるか否かが分水嶺になるのだろう。でなければ希望の思想になりえないし。

  • ジェイムス,デューイはなんとなく分かるんだけど,ローティーがよく分かりません。

  • 現代アメリカ思想のひとつの表れであるプラグマティズムについて、わかりやすく論じた書。

    あくまで立てた「目的」とそれを解消する道具となる思想という位置づけは、南北戦争後のアメリカ合衆国としての宥和を図るためなどまさに「目的」があって「それを信じる方が我々にとってより良いもの」を思想として形作っていったこと。
    また「生き方としての民主主義」というところからの整備。「『公衆』の参加による民主主義という理想」を実現するために作られたなど、思想についても目的・状況に応じて作り上げるところは、自分の持っているいかにもアメリカ的なイメージと合致した。
    (ヨーロッパ大陸的な思想ありきの技術、学問に対して、アメリカは実践的な科学技術志向(ローマ帝国的)。正に実践志向の思考を作り上げたというか)

    また個人的には、
    1.ジョン・ロールズが「正義論」(Justiceは公正、と訳すべき?)で何を述べていたのか(→宗教組織、共同体などとも「政治的」な公正を共有すれば、社会として前に進められること)、
    2.プラグマティズムと功利主義とのつながり(→「基本財」による有用性(Usefullness)の比較、測定が可能だということ)、
    3.アローやセン、ハルサニから受けていた批判(→厚生経済学やゲーム理論などにおける、効用(Utility)や有用性、あるいは選好だとしても、測定や比較はやはり不可能だということ)、
    など今まで知りたいと思っていたロールズについての事柄を、わかりやすく教えてくれたのは本書が初めてだったので、とても嬉しかった。

  • プラグマティズムの入門書です。

    前半は、パース、ジェイムズ、デューイの思想を、簡潔に紹介しています。あまり哲学的な内容に立ち入っておらず、どちらかというと、ロールズとローティを扱った後半の政治思想的な解説が本書のメインではないかと思います。

    まずロールズについては、当初『正義論』において誰もが認めるような「正義の原理」を描き出すことを試みたものの、さまざまな論者からの批判に応答していくなかで、しだいにハーバーマス流の普遍的な合理性を確立しようとする立場から離れて、プラグマティズムの性格を強めていったことが説明されています。ロールズは、異なる価値観をもつ人びとの間で「暫定協定」としてのコンセンサスが生まれることを認めますが、この段階でのコンセンサスは、自己利益が毀損されるのを防止したいという動機に基づいたものでしかなく、正義の原理ということはできません。しかし、人びとのあいだでそうしたコンセンサスが生まれ、それがうまく機能するようになると、自由と平等を保障するこの制度は異なる価値観をもつ人びとが共有することのできる、公共的な政治文化へと変容していくことになります。

    ローティは、こうしたロールズのリベラリズムから、さらにプラグマティックな方向へと進もうとします。彼は、リベラリズムが西洋における歴史の積み重ねのなかでかたちづくられたものにすぎないことを認めながらも、それが現在のところ受け容れやすいものであると考え、さらにこれからも異なる価値体系との対話を重ねていくことで、いっそう魅力的なものへとつくり変えられていく可能性を認めます。そこで重要なのは、この制度の普遍的な合理性を押しつけるのではなく、それがどれほど魅力的であるかを説得的に伝えることで、感情に基づく連帯の絆を広げていくことです。そして、対話を通じて現在の制度は、自己の信念の多様性と異なる意見の持ち主に対する寛容な態度を、いっそう培うようなものになっていくという希望が示されています。

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