病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと ~常識をくつがえす“病院・医者・医療"のリアルな話

著者 :
  • 大和書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784479393191

作品紹介・あらすじ

Twitterフォロワー(もうすぐ)10万人!
現役病理医ヤンデル先生による、「病気になるのが不安」「病院に行くのは苦手」
……なすべての人に贈る医療エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • はたらく細胞 も出てきた。

    そうかサンデル先生ね

    2章後半から一気に読んでしまった
    読みやすくおもしろかった
    ヤンデル先生の他の本も読んでみたい
    その前に仲野先生の本を読んでみたい

  • 今まで読んだことのないジャンル?の本。
    しかし、面白かった。

    小難しいような病気の話ではなく、かと言って軽い感じの読み物というほどのものでもない。

    何とも言えない距離感で、病院や病気のこと。
    医療エッセイという言葉で伝わるのか分からないけれど、そう書かれている。

    医療というものは、身近に感じながら、よくわからないところがある。この作品を読んだところで、何かパーっと開けるというわけでも無いんだけれど、読むと少し歩み寄れた気がする。

  • わたしが前回、前々回と紹介した本はどちらも感染症やワクチンについて正面から解説した本だった。どちらも決してわるい本ではないけれど、その種の話題に一切興味のない人にはチンプンカンプンな内容だろう(いくらウイルスやワクチンに対する世間的な関心がかつてないほどに高まっている状況だとしても)。一方、今回の本は「医療エッセイ」。どのページを開いても文章はひたすらにゆるい。一般向け雑誌に掲載されたコラムをまとめて収録した本のようなゆるさがある。どんなに一般向けにつくられたものでも、サイエンスの話題を正面から解説したコンテンツにはどうしても読み手を身がまえさせる作用がある。その点、本書にサイエンスのこみ入った話はほとんど出てこない。しかしサイエンスの話に興味のない人でも病気とまったく無縁な人はまずいないわけで、おそらくはそのような読者層を本書は想定しているのだろう。よくいえばむずかしいことを考えず気楽に読める、わるくいえば毒にも薬にもならない。そんな印象がある。ただ個人的にいうと、正直退屈だった。いかめしいタイトルと表紙の医学本も数多くある一角に置かれていたので「どこかに医学本らしさがあるのかな」と予想しながら読みすすめたけれど、文章がゆるすぎる。やわらかすぎるほどにやわらかい文体はたしかに魅力的で、あやかりたい部分も大いにある。とはいえ、内容はとりとめのないエッセイといった様子でテーマが見えてこない。たしかに著者はツイッターで多くのフォロワーを抱える医師だし、わたしもフォローこそしていないもののツイッターの投稿をシェアしたことは何度となくある。著者に対してわたし個人はとくにわるい印象をもっていないし、だからこそ本書を手に取ったわけだけど、「この内容を本にするの?」とおもわずにはいられなかった――3章にさしかかるまでは。

    文体のゆるさを保ったまま本書は3章からまったくべつの顔を見せはじめる。まず「病気になるとはどういうことか?」をかみくだいて説明するために著者は医療を「医療シアター」という舞台にたとえる。これをふまえて4章では医療リテラシーの本質的な要素はどこにあるかという問題を考察。「ひとつひとつの医学知識は、『医療シアターに出演する役者のプロフィール』のようなもの」だとした上でこう述べる。

    「医学の知識を覚えることは『ひいきの役者のプロフィールを暗記する』ことに似ている。もちろん、役者の個性はそのまま舞台に影響を与えることは間違いないのだけれど、舞台全体で何が起こっているかを把握するにはあまりにもちっぽけだし、そこでいざ自分が出演する段になったらどう振る舞えばよいのかを教えてはくれない」(p.206)

    そして「シアターのルールを、より網羅的に理解した方がいい」と主張する。文体のせいでゆるく見えるけれど、この下りは医療リテラシーの本質をはっきりとえぐり出しているように感じる。といってもわたしは医療リテラシーについて語れるような知見を持ちあわせてはいない。ただこうした視点は科学リテラシーの議論にもそのまま応用できるようにおもわれる。実際、科学を理解することの本質も個別の公式や法則の暗記にあるというより、むしろ科学という「シアター全体を支配する法則のようなもの」を把握することにあるだろう。そして科学と(EBMに立脚した現代的な)医学が多くの部分で重なりあう以上、科学リテラシーと医療リテラシーもまた多くの部分で重なりあうにちがいない。

    本書の射程はニセ医学の問題にまでおよぶ。著者はまずニセ医学をはっきり否定して見せる。たとえば「100%がんを治せます」「キノコを食べるだけでがんが治ります」「肉食をやめればがんが消えます」などの話はバッサリ否定。「常識的な医者であれば、標準治療だけは外さない。逆にいえば、標準治療から外れるような治療をする医者だけは論外」と明言していることからもわかるように、著者は医師としてまったくオーソドックスな立ち位置をとっている。それなら本書では数々のニセ医学に片っ端からエビデンスを突きつけ却下する「ニセ医学糾弾シアター」が上演されているのか。じつは正反対で、著者はそのような手法にも否定的な考えを示している。

    「ぼくらが近藤さん(近藤誠氏――引用者註)に販売部数で負け続けているという事実は、今までのやり方では足りないというエビデンス(数字に表れる証拠)に見える」(p.217)
    「ニセ医学に対して、科学的な根拠を揃えて反論するだけでは、勝てない。ニセ医学を個別に叩くことに意味はあるかもしれないが、不十分だ」(p.217)

    「医療エッセイ」のうたい文句とゆるい文体の相乗効果でうっかり読み流しそうになるけれども、じつのところこの下りはとんでもなく攻めている。どういうことか。ニセ医学の問題はどうしても「擁護派」対「批判派」のような二項対立の構図で認識されやすい。このためニセ医学批判に対して疑問を述べる者は「擁護派」と見なされやすい。これは「平和論の進め方についての疑問」という論文を発表した福田恆存が「保守反動」の箱に入れられた逸話をなんとなく連想させる。著者自身もツイッターに「ニセ医学の人たちを個別に叩いても意味がない」と書いて医療者たちからさんざんに怒られた苦い経験を語っている。そんなセンシティヴな話題について本書では「ニセ医学批判の進め方についての疑問」が真正面から展開されているわけで、本書はゆるい「医療エッセイ」などでは断じてない。

    著者はニセ医学に立ち向かう方法をこのように提案する。

    「役者それぞれのプロフィールを訂正して回るのではなく、もっと大きく、シアター全体を支配する法則のようなものを社会全体で共有することができないだろうか?」(p.237)

    つまり「医療はシアターである」というイメージを患者につかんでもらうのが大事というわけだけど、では具体的にどうすればよいか。そのヒントのひとつを著者は『こわいもの知らずの病理学講義』という本に見出す。この仲野徹氏の本は一般の人に多く読まれ5万部以上売れている。一方でこの本を読んだ医学生、医療関係者などからは「一般の人が読むにはけっこう難しいのでは」というような感想が出たらしい。こうした事実をおさらいした上で、著者はこう主張する。

    「患者は、自分の興味のあることについてはきちんと順序立てて学ぶ力がある。専門用語が連発されていても、きちんと背景の解説をしていれば、患者は理解してくれる。『非医療者にはわかんねぇよ』みたいに、上から目線で力量を過小評価して、説明を適当に済ませるのはよくない」(p.241)

    この指摘も当を得ているように感じる。といってもわたしは医療関係者ではない。ただ、仲野氏の本をめぐって起きたような反応にわたしは既視感がある。

    たとえば学習漫画。読者としてはおもに子どもが想定されているためか「中身も子どもだましなのではないか」みたいなイメージを持たれることが少なくないように見える。ところが実際は正反対で、学習漫画は専門家による監修のもとでかなり緻密につくられることが多いという。少なくとも「時短とつまみぐい」を求める世間の風潮にあわせて日々生成される「一般の人向けにわかりやすく解説!」的なコンテンツにくらべれば、ずっと手間暇かけてつくられているにちがいない。

    あるいはテレビゲーム。これは純粋なエンターテインメントであって「学習」の要素は基本的にはない。他方、大人の目線からすれば「これが子ども向け?」「こんな難解なシナリオ、重厚なテーマが子どもに理解できるの?」とおもってしまうような作品がヒットしている例は意外にめずらしくない。このあたりの事情はマンガやアニメにもある程度共通している。もっと時代をさかのぼれば黎明期のSF小説も射程に入るだろう。

    要するに子どもにウケているコンテンツが子どもだましとか、大人の鑑賞に堪えないとはかぎらない。「子どもにウケているからこれは最初から子ども向けにつくられているはず」という判断自体、そんなにあてになるものではない。そしてこれは患者と医者の関係についてもそこそこあてはまるのではないか。いや、医療の分野にかぎらず素人と専門家の関係全般についてあてはまるように感じる。著者は「医者は患者をなめすぎ」「患者の向学心をリスペクトするのだ」とも述べている。これも業界の人たちに向けた提言と見れば、なかなかに刺激的ではある。ただ医療リテラシーを伝える上でまず大事なのはやはり、伝える側が相手の向学心をリスペクトすることであり相手の理解力を信用することなのだろう(もちろん「この条件さえ満たしていればどんな相手にも必ず伝わる」というものではないにせよ)。そしてこのことは科学リテラシー、あるいは自然科学分野にかぎらず他の学問領域におけるエッセンスのようなものを専門家が素人に伝える場面でもおおむね同様ではないだろうか。

    そんなことを考えつつ本書をもう一度最初から読み返してみると、著者がタイトルのとおり「ひとりごと」の形を取りながら同業者に対して課題を述べたり、提言したりする場面が前半から多かったことに気づかされる。部外者の視点で見れば「医者が自身の所属する業界について自省を交えつつゆるく語るエッセイ」だけれど、医療者の視点で見ればまったくべつの風景が立ち現れてきそうな気がする。ちょうど仲野氏の本に対する印象が一般の人と医療関係者とで対照的だったように、本書にも読み手の立ち位置によって見え方が劇的に変化するトリックアートのようなしかけが施されている。

    著者は病院を「マジシャンの使う大がかりなハコ」にたとえ、「医療は、患者にとってはブラックボックス」だとした上でこう述べる――「そんなハコは開けてしまったほうがいい」。だったら、本書のレビューも本書にしかけられたトリックの謎解きを試みる方針にしたらおもしろそう。そんなコンセプトでこのレビューを書いてみたけれど、著者からすれば「トリックなんてないよ、こわくないよ」という感じかもしれない。実際、本書はどのページを開いても肩の力を抜いて読めるゆるさに最大の魅力がある。このことは最後にもう一度強調しておきたい。

  • とっつきにくいイメージのある医療について噛み砕いて書いてある一冊。
    普段医者がどんなことを考えて働いているかとか医者でもけっこう病気にかかったりするよとか、普段ブラックボックスになっている部分が書かれていて医者が身近に感じられました。
    病気や治療について群像劇になぞらえて説明してくれるのは理解の助けになりました。

  •  タイトルに偽りなし、これほどちゃんとタイトルと内容が一致している本も珍しい。著者が、編集者から与えられたお題に沿ってエッセイを書こうと奮闘する、思考のさまよいを素直につづった「ひとりごと」である。

    「ひとりごと」であるために、この本はいわゆる学びや気付きを得る本ではない。なので、医療に関する色々な知識を得たいという前向きな気分で読むべき本ではない。とはいえ、そういった要素が皆無という訳ではないから、たとえばがんとはどういう病気なのかという大づかみの知識を得たり、医師という職業にまつわる色々な誤解を解いたり、という読み方は一応できる。たとえば「医者は金遣いが荒い」という、非医療者からの先入観と思い込みに、著者が翻弄され傷ついた話などは、軽妙な笑える話として書かれている割に、結構粛然とさせられる。

     けれど、やはり「医師や病院とどのように関わっていけばいいのか」「医療をどのように活用していくべきか」という大きな問いに対する答えを与える本ではないので、そういうのを期待して読むとたぶん肩透かしになる。
     ひたすら、著者が「一体自分は何を書けばいいのだろう」というぼやきのもと、右往左往していく日記のようなもので、そういうものを読もうと思って向き合うのがたぶんわかりやすい。
     著者は書き続けていくうちに、最終的にはこの本の中で、いくつかの「自分の使命、役割」にたどりつく。それは彼の使命であって私の(そして大半の読者の)使命ではないのだけれど、あたかも物語の登場人物の生き様が現実の人間の心を打つような、晴れ晴れとした感覚を呼び起こす。

     この本は役に立つ本、ではない。
    「病理医ヤンデル」が「おおまじめ」なことを一生懸命考えた末の「ひとりごと」を、淡々と時系列につづっていくエッセイである。
     本当に誠実なタイトルだ。
     なのでこの本の評価軸は、エッセイに対するそれであるべきなのだろう。そしてエッセイとして、とても端正にできあがった本だと思う。


  • 「イケメンはブサイクを再現できない」
    という断言を拾い読みで目撃。
    「!?…ひどいな。でも気になる」

    札幌厚生病院のDr.なんですね。
    年齢が近いこと、糸井さん推しなことも
    相まって、一気読み。 ・
    自身の圧倒的な人間体験について書かれていたり、医者は外車に乗ってないとやいのやいの言われる。とか、身近なトピックが多くとても読みやすいです。 ・
    良い医者の条件として「医療者が患者の話をじっくり聞き、1番合っている医療方針を一緒に考えてくれること」とあり、わたしはそんなDr.のお世話になれていることに、ホッとひと安心したのでした。

    痛快なエッセイです。

  • 福祉の専門職の立場から読みました。特に、

    学会・研究会の意味、
    病院や医師の選び方、
    「伝える」にはどうしたらいいか、

    等の部分が心に響きました。
    自分の立場でも共通するものはあり、
    業界は違えど苦労する部分の重なりはあるなあと思いました。

  • 非常に読みやすい文章で、筆者が著書を書いている心理の葛藤もあって面白かったです。
    医療を演劇として例えているのはとても興味深かくわかりやすかったです。

  • 患者さんを診なくても、素敵なお医者さんだ!
    分かりやすくて親しみやすい

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著者プロフィール

1978年生まれ。札幌厚生病院病理診断科主任部長。医学博士。病理専門医・研修指導医、臨床検査管理医、細胞診専門医、病理医ヤンデル。

「2022年 『ココロギミック 異人と同人3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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