- Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
- / ISBN・EAN: 9784478115466
作品紹介・あらすじ
国家の命運は、「計算能力」をどう活かせるかにかかっている。技術の仕組みから国家間の思惑まで網羅的に解説。日本復活の目は?
感想・レビュー・書評
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半導体が足りない。車が買えない。このままではものが作れない、買えないというふうになってしまう。
本書は、今や原油よりも貴重だと言われるようになってしまった半導体の技術競争について、各国企業の栄枯盛衰が描かれている。
アメリカで始まった半導体産業だが、今中心となっているのは東アジア、特に台湾だ。台湾には、世界一の半導体製造技術がある。これは、地政学に影響を与えるほどだ。この技術を手に入れようとする中国と、超えようとするアメリカの二大国による競争も注目される。
意外だったのは、半導体の生産量は決して減ってはいないということだった。現在の半導体不足は、需要の急激な増加によるものだそうだ。
この先、電化がますます進む中、半導体の需要は増えるばかりだろうが、半導体のはなしを聞いていると、資本主義もまだまだ続くのではないかと思えてくる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2022年10月刊のCHIP WARを訳して、2023年2月ダイヤモンド社刊。今や先端半導体は石油を超える戦略資源だという一言がこの本の主旨だ。そして、ここに至るまでの歴史を上手くまとめて語ってある。なるほどそうかと納得できる記述が楽しい。巻末の索引が良い。
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現代の国際政治、世界経済、軍事力のバランスを特徴づけてきた立役者は半導体である。では、いったいどのようにして、私たちの世界は100京個のトランジスタと替えのきかない一握りの企業によって特徴づけられるようになったのか?が本書のテーマである。
1945年に真空管を用いて初期の電子計算機が作られてから現在に至るまでの、各国政府や企業、技術者達による、半導体生産に関する熾烈な競争の歴史を知ることができる本だと感じた。
この本を読んで、半導体を使ったコンピューターががアメリカで生まれた経緯や、技術の発展に日本が果たした役割、半導体製造のオフショアリングによるアジア諸国の台頭、半導体製造の技術や装置がたった数社に集中している状況など、半導体に関する非常に入り組んだ複雑なサプライチェーンの成立過程などを知ることができた。
そして、単なる半導体に関わる製品の権利による経済的なことだけでなく、『半導体戦争』というタイトルが示す通り、半導体戦略は国家間の安全保障や国防などの分野にも密接に関係しているということがわかった。 -
日本の半導体産業がなぜ衰退したのか、よく分かった。なんだかんだ言っても米国の思惑の影響なんだね。しかし中国の目と鼻の先のTSMCよりは日本の方がまだ良かったのでは…。
中国も相当汚い手を使うけど米国も自国第一だから、悪どさはどっこいどっこい。
熊本にできるTSMCも何世代も前の技術らしいし、日本は台湾には当分追い付けなさそう。
技術立国なんて昔の話なんだね。 -
1994年に電気電子工学科の修士課程を卒業した。当時はNEC、東芝、日立、富士通などの日本のメーカーの半導体生産量は世界シェアの50%近くを占め、特にDRAM市場では90%近い圧倒的なシェアを築いていた。その頃に、就職活動の一環として大手電機メーカーの工場見学をしたとき、たいていどこの企業でもクリーンルームとシリコンウェハーを見せてもらった記憶がある。自分は就職先としてそういった電気メーカーを選択する可能性もあったが、最終的にはそうしなかった。この本にはその後に、日本が覇権を手放し、台湾やシンガポール、そして一部は中国へと移った歴史が綴られている。もし、あのときに電気メーカーに進んでいたら、ここで描かれた半導体産業の歴史に対して、どのような思いを持ったのだろうか。
本書では半導体産業の歴史の中で大きな成功を収めた企業と、そしていくつもの凋落していった企業の様子が描写される。それらの成功した企業の中でも突出したもののひとつは、台湾のTSMCかもしれない。彼らは半導体ファンドリという一大産業を確立し、多くのファブレス企業の設計した最先端の半導体チップを製造している。それは、新しい市場自体を作るという賭けた台湾政府とモリス・チャンを中心として経営層の勝利だろう。本書によれば、現在TSMCは世界全体の37%の半導体の製造をしているという。
現在の市場シェアという点では、半導体製造だけでなく全体として多くの分野で寡占化が進んでいる。例えば、メモリについては、韓国のSamsungとSK Hynixの2社で世界シェアの44%を占めている。また最先端の半導体の製造に欠かせない極端紫外線リソグラフィ装置(EUV)は、オランダの一般には有名ではないASML社がほぼ100%のシェアを握っている。本書で指摘するように巨大な半導体産業は、数少ないプレイヤによって占められるとともに、それらの企業がグローバルに確立されているサプライチェーンによって緊密に依存しあって成立しているのだ。
半導体が発明され、ゴードン・ムーアが、集積回路あたりの部品数が2年で2倍になると予測したときも、それが彼の予想を超えて正しい予測であったとしても半導体がこのように世界を変えるとは想像しえなかっただろう。また、半導体市場が日本でもアメリカでもなく、現在のこのような形でプレイヤが生存競争を勝ち残り、サプライチェーンを構成するとは思わなかっただろう。それらは、経済合理性を超えたアニマルスピリットによる賭けの結果でもあるし、その上いくぶんの偶然の要素もあっただろう。そしてそこにおいて、国家間戦略がそれに無視できない影響を与えたこともあった、というのが本書が描くストーリーだ。
本書では、国家間の争いに半導体事業がいかに組み込まれ政治的に利用されてきたかについて比較的丁寧に描かれている。国家と半導体という観点では、近年では中国のHuaweiやZTEへの懲罰的規制が挙げられる。また、ロシアへの経済制裁における半導体関連の禁輸措置も大きな影響力を持つこと、自前もしくは経済圏において最先端の半導体製造能力を持たないことのリスク、逆に見れば圧力や抑止力としての武器となりうることが明らかになった。ちょうどこの本を読んでいる2023年3月31日に経産省が半導体製造装置の輸出規制の厳格化を発表し、実質中国への輸出が規制されることになった。このニュースが持つ意味は社会一般には十分に理解されていない。その是非や正当性は問われるべきだと思うが、半導体市場のもつグローバルかつ国家レベルでの影響力を示していることは確かなのである。
半導体の大規模需要は、家電からパソコン、そしてスマートフォンと移り、そのたびに微細化と生産面での大規模化が図られてきた。その中で、主役は米国から日本、台湾や韓国へと変遷した。Intelも安泰ではなく、NVIDIAなどAIやクラウド時代に向けてもまだまだ市場の様相は変わっていくのだろう。なにせ今までも想像を超えて変化し、大きくなってきたのだから。日本がその主役の座からことごとく降りてしまったのは、なぜなのか。そこには単純ではない原因と理由があると思う。それが何であったのかというのは、何が起きたのかということを咀嚼した上で理解しておきたいと思うのだ。
本書は、そのための半導体市場の歴史とそれが持つ意味について余すところなく解説している。物語としてもお薦めできる本。 -
熊本にTSMCが、北海道・千歳にはラピダスがやってきて、地元経済は活気に満ちているとのこと。自動運転車やスマホの進化もバンドあってこそ。サプライチェーンにおいて半導体はチョークポイントになっているーー。かつて半導体で世界を支配したとされた日本の地方や日々の生活でいま起きていることと、世界がつながる視点、視野、視座を持ちたいと思い読んだ。文字通り「半導体戦争」が起きていることを理解できるよい本でした。先に書いておくと、「2030半導体の地政学」(太田泰彦著、日本経済新聞出版)と併読すると、いっそう理解が深まるのでお勧めです。
個々のエピソードがとても面白い。アメリカ、ソ連、日本、韓国、台湾、ヨーロッパ、中国それぞれの覇権争いと棲み分け、起業家や大企業内部の破壊者といった個人の革新性と野心を通じたドラマがテンポよく展開される。いくら名経営者でもアンディ・グローブの下では働きたくないなあ、モリス・チャンはお釈迦様みたい変化の激しい業界で長く君臨できる強かさは恐ろしい、などなど感情移入しながら読めるのもこの本のおもしろさ。
アメリカの半導体産業の浮き沈みはジェットコースターのよう。そしてその裏側には冷戦、ベトナム戦争、湾岸戦争とつねに戦争があった。いまのウクライナ戦争やイスラエル・ハマス衝突もそうなのだろう。そして、米中新冷戦と呼ばれる状況もしかり。なので半導体戦争なのだ。
日本の話題については日本の専門メディアで読んだからディテールがやや物足りないのはやむなしとして、アメリカから見るとそうだったのかと気付かされる。東芝のおかれた状況、NANDの無念などは日本の関係者に示唆が多い。
見えてくる軸としても、民と官、自由と責任、リアルとバーチャル、ボーダレスエコノミーと経済安全保障、ファーストペンギンとキャズム、製品開発とルールづくり、などさまざま。一気に読めたけど、傍に置いてまた開きたいおきたい一冊。もう少し各社のランキングや地図入りの資料があると理解は深まるのだが、それは似た半導体本に豊富だったりするので、先の2030ーなどと一緒に読めばよいかもです。 -
半導体の複雑なサプライチェーンと、そのような状態になった背景がドラマチックに描かれている。専門的な記載はわからない部分もあったが、ストーリー性があって最後まで面白かった。中国の台湾侵攻があったら世界は大変だ。
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半導体の中にはいくつかの区分がある。
日本企業がどこに注力しているのか知りたかったがそれ以上の深い考察だった。
サプライチェーン問題と思っていたが実は新興国での技術の底上げの話でもあり、戦い方の問題でもある。 -
サムスン、ASML、東芝、エルピーダ、テキサスインスツルメンツ、インテル、エヌビディア、ファーウェイ、TSMC、、、
それぞれが、それぞれの国を背負って、半導体戦争を行っていた経緯が、克明に記されていて、とても興味深かった。
いま、TSMCとエヌビディアが天下を取る世界を、30年前に予測するのは、難しかっただろうなぁ。。
いま、ソフトバンクがARMを持っているわけで、エルピーダの技術や、周辺作業の厚みを考えたら、日本が、覇権を握ることも出来たのでは、、、と、少し残念にも思った。