三位一体の経営

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  • ダイヤモンド社
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  • Amazon.co.jp ・本 (378ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478112250

作品紹介・あらすじ

「投資家の思考と技術」が経営の次元を引き上げる。戦略コンサルタント出身でアジア・ベスト・ファンド賞の投資家が語る経営戦略。経営者だけでなく、従業員と株主も金銭的に報われ、アクティビストから身を守れる「みなが豊かになる経営」とは? あまたの経営者が耳を傾ける投資家の思索と提案。楠木建絶賛!

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、「投資家の思考と技術」を経営に取り込むことで、経営者、従業員、株主が皆で豊かになる道筋を示しており、経営者と従業員、そして厳選投資家を加えた三位一体で経営する構想を綴っている。

    「経営が変われば会社の本質的価値が上がり、株価も上がる」というストーリーが本書筆者であるみさき投資の中神さんのいう理想状態。

    なお、本書では長期投資家の中でも厳選投資家に注目する。
    すなわち、長期分散投資家とは逆に、投資先を厳選して長期に投資する人であるが、
    定量的に表せば、統計学的に「2σ=偏差値70=上位2.275%」の企業に投資する、すなわち上場企業約4,000社に対してわずか90社程度の割合を選び、投資する資産家達である。
    この2σの選球眼が「投資家の思考と技術」として濃縮されているのだ。

    さて、ここからは備忘録として書き記していく(そのため長文となっている)。

    まず、経営には4つのタイプが存在すると中神さんは言う。
    ①額の経営:売上至上主義
    売上や利益の「額」そしてこれらの伸び率を重視する経営である。

    ②率の経営:効率至上主義
    売上高営業利益率や売上高キャッシュフロー比率を重視する経営である。

    上記まではPL発想/PL思考とも言い換えられるであろう。
    下記からはPLとBSの双方に目を向けた在るべき経営の姿である。

    ③利回りの経営
    投下資本に対して、どれだけ効率良く利益やキャッシュフローを生み出したかを重視する経営である。
    定量指標としては単年度のROE、ROIC、ROAなどが挙げられる。

    ④複利の経営
    元本運用から生じたリターンを再投資する
    投下資本を再投資によって雪だるま式に膨らませてゆく経営である。
    定量指標としては長期持続的なROE、ROIC、ROAが挙げられ、時間を味方につけて長期的に価値を最大化していく。

    厳選投資家は
    「複利による投下資本の増殖」を最重要視しているため、もちろん④の経営が求められるのはお分かりの通り。

    一方で④の経営状態に至るまでには前提条件があるだろう。
    それは、額や率がある程度安定的に稼げるだけの事業規模にあるということだ。
    額も率も小さい事業初期において、利回りを重視するのは時期尚早と考えられ、まずは圧倒的な額と率を伸ばし、その先に得た利益=超過利潤を再投資に回していくことは忘れてはならない。

    さて、④の経営を進めるにあたり、当たり前であるが投下資本を太らせるだけの超過利潤を獲得しなければならない。
    超過利潤=資本生産性-資本コスト
    すなわち、資本コストを上回る資本生産性を上げることが必要になる。単純にインプットに対して、それを上回るアウトプットを出すことと同義で付加価値はイン/アウトの差分に当たる。

    この資本生産性を測る代表的な指標はROEだ。
    (みさきの黄金比:ROE>=ROIC>=ROA>WACC)
    そして一般的な株主資本コストとされているのが8%であるため、ROEは8%を越えなければ超過利潤は生み出せていないことになるが、残念なことに過去10年平均で東証一部上場企業のROEを見れば、54%が8%以下になっているのだ。
    また、本書では触れていないが、この手の数値を見る際はPBRとPERも確認しなければならない。

    https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/006_03_00.pdf

    https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/008_04_00.pdf

    上記参考文献も加味してまとめれば、特に製造業種におけるPBRが低く、早急な改善が必要であることが分かるであろう。
    (PBRは少なくとも1倍以上、理想では2倍以上)

    話が少し逸れたが、超過利潤の向上に対して残論点となるのが資本コストを下げる方が良いのか、それとも資本生産性を上げる方が良いのかだ。
    本書では経営のインプットでしかない資本コストの計算を緻密に行うよりも、「経営の本質であり、成果・アウトプットでもある資本生産性を高めるほうに全精力を注ぐべし」と説く。

    では、資本生産性を高めるにはどうすれば良いのか。

    そこで重要となるのが「事業経済性」「障壁」「事業仮説」なのだと本書は説く。


    「事業経済性」
    まずは十分な利益率を確保すること。

    ROEをデュポン分解すれば、
    ・ROE=収益性(売上高利益率)×資本の効率性(総資産回転率)×財務状態(財務レバレッジ)
    ・売上高利益率:当期純利益/売上高
    ・総資産回転率:売上高/期首総資産
    ・財務レバレッジ:期首総資産/期首株主資本
    上記公式から読み解くに、ROEを向上させるには、
    ・収益性を改善し、
    ・資産の効率性を高め、
    ・デッド・ファイナンスを増やせば良い
    となるが、伊藤レポートなどでは「収益性」「資本の効率性」こそが長期的にROEを改善する本質であるとの指摘がある(デッド・ファイナンスを増やすことに本質的なROE改善の素養が無いことは明らかであるからだろう)。
    また、米国や欧州とこれら3要素の数値を比較すれば、明らかに「収益性」が劣っていることが分かる。
    すなわち「事業で儲ける力(特に「収益率」)」が圧倒的に弱いのだ。
    この「事業で儲ける力」を養うには様々方法はあり、他書の解説で深めていくとしよう。(本書は概念的な内容に終始しているため、本解説/感想も概念レベルで一旦留める。)


    さて、資本生産性を高める2ステップ目は「障壁」であった。
    十分な利益を獲得する、もしくは獲得した後には「障壁」を形成して長期に持続可能性の高い資本生産性を構築する必要がある。

    そして、本書で語る「障壁」は単なる優位性や差別化ではなく、投下資本に対して利回りが十分に出せている状態を作れているかに注目している。
    ブランドも模倣困難技術も高度人材も、全ては「利回り」を十分に出せているかが論点になるのだ。
    これはPL脳であるか、PLとBS双方を考慮して経営を考えられているかの思考の差分である。
    では、「真の障壁」とは具体的に何か。
    本書では3つの障壁を挙げている。
    ①コスト優位:供給面でコスト優位に立てているか
    ②顧客の囲い込み:需要面で顧客を囲い込めているか
    ③規模の経済と顧客の囲い込みの組み合わせ:囲い込みと規模を組み合わせられているか

    これら3つの障壁はあるものの、特に③の障壁が最も強く強靭であり、
    ①供給サイドの障壁のみではそれほど強靭では無く、
    ②需要サイドの障壁と①を組み合わせて③を作り出すことが必要なのだ。
    需要サイド、すなわち顧客の囲い込みになるのだが、囲い込むには3つの顧客状態を作れれば良い。
    ①習慣化:なぜか同じものを使い続けてしまう
    ②スイッチングコスト:他製品への切り替えが負担
    ③サーチコスト:他を探すのが面倒

    これら障壁を形成するには圧倒的な「コストとリスク」が必要となる。
    障壁の形成には圧倒的な「投下資本」が必要条件であり、経営者の「事業仮説」が十分条件なのだ。
    また、「大きな池の大きな魚」を目指してしまえば、たちまち競争環境は厳しくなり、障壁の構築難易度も格段に上がる。
    ゆえに、競争環境観点からは「小さな池の大きな魚」を目指すことが「利回り」を高めて維持することに有効である。

    最後の資本生産性を高める3ステップ目は、「事業仮説」である。

    この事業仮説は本書ではIdiosyncratic Vision(特異なビジョン)とも言い換えられていた。
    すなわち、常軌を逸するような常識の戦略には目もくれない仮説。
    事業に対する深い洞察と、仮説構築、そして論理的検証が事業仮説を支えている。
    楠木建氏著作の「ストーリーとしての競争戦略」とも近しい部分がある。
    とにかく、他社の二番煎じではなく、常識的に、論理的には難しい事柄に対して、論理を超えた仮説を経験、洞察、気づきから導き出していく必要があるのだ。
    そして、その仮説は逆に論理的に検証されてこそ、真に事業仮設としての価値を見出される。

    「事業経済性」「障壁」「事業仮説」によって資本生産性を高め、ROEの向上並びに皆んなで豊かになる経営を概念的に実現的できると本書は説いている。

    また、本書では障壁を形成したのちのガバナンス設計やマネジメントによって、長期に持続可能な資本生産性の維持・向上のすすめを記しており、コーポレートガバナンス・コードと合わせて確認すれば深みのある学びになるが、超長くなるため割愛。

    概念的な理解として本書の内容を押さえつつ、「事業経済性」「障壁」「事業仮説」について、それぞれの専門書に当たることが最も効率的な学びになるだろう。

  • 第1章読み切ったぐらいで読むの止めようかなって思ったけど中盤ぐらいから面白くなった

    経営視点としても投資の視点からみても勉強になる

  • 投資家の考え方を学ぶのに良い本。一方で、提案がハイリスクを取ることや投資家を経営に迎え入れることなど、どこまでいっても投資家目線なので、事業会社にいる身としては、その結果にまで責任を取ってくれるのかと突っ込みたくなる箇所も多い。

  • 個別株投資をしている自分としては、面白い内容がいくつかあった。
    成長している会社において、規模型事業と分散型事業の見極めは重要であるように思った。
    売上や規模は拡大しているものの、収益率も悪化していき、一向に会社価値が上がらない状態が続き、将来的に売上拡大が頭打ちを迎えるケースをよく見るからだ。
    ROEやROAの指標は、投資会社ではかなり重要視されているのだと感じた。

  • 事業経済性による分類
    規模型事業=規模の経済が働く。紳士服業界
    分散型事業=小規模乱立、規模の経済が働かない。総合食品卸業界
    特化型事業=特定の領域では規模の経済が働く。医薬品業界、外食産業
    手詰型事業=誰がやってももうからない。コモディティ、紙パルプ
    業界の中では儲けの出方が決まっている。共有コストと固有コストの割合による。共有コストが多ければ規模型事業になる。規模型事業の終着点は手詰り型事業。多角化が効くか否かの判断材料。

    製品の差別化は、外で食べるランチ。ただでは手に入らない。差別化のためには、コストがかかる。
    差別化して高く売れても、そのためのコストが見合わない場合もある。自動車、電化製品、航空会社など多くの業界で起こっている。
    ブランドも障壁にならない。競争優位性はまれにしかない。ブランドもコストがかかる。利回りの点では優位とは限らない。失敗したブランド化投資も多く存在する。

    素晴らしい商品、マーケットシェア、業務執行、経営陣、は罠。短期的には利益を生むが、新規参入があれば失う。
    コスト優位か、顧客の囲い込みがあるか、囲い込みと規模を組み合わせているか、の3点だけが、利回りを確保できる。需要面の障壁のほうが長持ちする。規模との組み合わせが最強の一手。顧客の囲い込みとセットする必要がある。=小さな池の大きな魚、になる。

    「優れた製品は壁にはならない。短期的な利益を生むだけ。事業を守る壁はほかにある」

    フィービジネスは人件費をかける。
    金融不動産はリスクテイク。
    卸売りビジネスはコストもリスクもかからないが、規模の経済が働かない。
    障壁ビジネスはリスクとコストがかかる。恐怖心に打ち勝たなければ障壁は築けない。大塚商会=新聞販売店なみの販売網。参天製薬、トラスコ中山=在庫投資

    外食産業が規模の経済が働くようになったのは膨大な投資があったから=ロイヤルの例=規模型。
    吉野家やマクドナルドは特化型の例。

    常識には仮説がない。事業仮説を持つ。
    ガバナンスは、所有と経営の分離度合いで3つの段階がある。
    自らが大株主→大株主は経営に参加しない→株主が分散。最後は大企業病になりやすい
    創業経営者が障壁を作ると後継者はリスクテイクしなくなる=勝者の呪い。CEOに強大な権限を与える+取締役会がCEOを監督のセットで乗りきる。
    オムロンの車載部品事業が日本電産に譲渡した話。CEOの決断で利益が出ている事業を将来性を考えて切り離した。
    指名委員会等設置会社はリスクテイクのためにある。

    2番目の勝者の呪いは平均回帰。
    勝者は、現在の利益率が高いゆえにそれ以上の利益率の高い投資機会がなくなる。ROEが下がる投資しかない。=自社株買いまたは借り入れでレバレッジを掛ける方法。
    経営者と投資家は、思考は対極的だが機能は同じ=社長の仕事は、ポートフォリオマネージャーと同じ。

  • 『#三位一体の経営〜経営者・従業員・株主がみなで豊かになる』

    ほぼ日書評 Day603

    内容はかなりオススメ(タイトルのみ、ダメ出ししたい)。とまれ、変に教科書的な理屈っぼさ無しに、経営戦略とファイナンスの融合を学ぶことができる良書。

    著者は、"はたらく株主"をモットーとする、みさき投資の代表。厳選投資先を独自の観点で見極める、そのためのノウハウの諸々が、地に足のついた感を醸し出す。

    印象に残ったフレーズを幾つか。

    What business are you in? ではなく、What "kind of" business are you in? を論じることで、ビジネスを抽象化する。著者がコンサル時代に叩き込まれた教えだそうだが、投資家として企業を見る際に肝となる考え方だという。

    「儲け」が生まれるメカニズムを表す二軸。
    縦軸にリスク対リターン、横軸にコスト対プロフィットを取り、組み合わせる。呆れるほどのコストもしくはリスク、あるいは両者の組み合わせを投じることで、逆サイドの「儲け」を大きくすることができる。

    その他、著者独自のフレームワークが複数紹介されて、それぞれに実企業での例示もあるため、非常に納得感が得られる。

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  • コンサルから投資家に転身した著者は長期投資家の目線こそが持続的な企業の成長に必要としています。また、日本型経営の良さを活かすために、経営者、投資家、従業員の三者が力を合わせることで皆んなが幸せになれる。企業が抱える問題を分かりやすく具体的に分析して、解決策もしっかり提示しているので、どの立場の人にも有用な優れた本です。

  • アウトプットを再投資に回すことで追加的なリターンを得ていき、これを高い水準で長期間持続させることによって、投下資本そのものが増殖していくことを狙う。

  • 日本的な経営者心情にも配慮しつつも、投資家、ファイナンスの論理、思考を平易な言葉で解説されており、読みやすい。経営者と投資家の新たな関係性は勉強になる。
    一方、三位一体の一角のはずの、従業員のポジションは薄く感じた。最近叫ばれる人的資本の関係から、企業における従業員、人財の重要性を聞きたかった。本書籍を最も読むであろう従業員の立場からすると、必死に働くわりに豊かになる方法は、自社株を買おうでは少し説得力に欠ける。特に障壁を築く覚悟のない経営者の下の従業員にとっては。

  • 2022年26冊目。376ページ、累計7530ページ。満足度★★★★☆ 約20年の経営コンサルティング業の経験を経て、2005年投資業界に飛び込み、今では「アジア・ベスト・ファンド賞」を受賞するなど優れた成績を残す存在となった、みさき投資株式会社の社長が著者。

    経営者・投資家双方がお互いの良い点を取り入れることで、より高い次元に昇華できる。本書には、そのヒントが満載。

    良い経営者は良い投資家になれるし、逆も真なりと思う。

    なお前著も面白い。

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