シリア難民 人類に突きつけられた21世紀最悪の難問

  • ダイヤモンド社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478068854

感想・レビュー・書評

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  • ニュースで難民問題とか シリア情勢とか流れていても
    ヨーロッパで起こってる事は
    飛行機で10時間以上離れているだけに
    あまり 身近に感じていない人も多いと思います。

    しかし、災害大国日本ですので 突然の災害にあって
    家や 家族や 友人らを なくしてしまうこともあるので
    他人事ではないと思います。

    この本では 一人の人が どのようにして 移動していくのか著者が 密着したり 生きて逃れてきた人たちを取材したものをまとめていました。

    殆どの人は 好き好んで故郷を離れれるのではなく
    故郷での 独裁体制や 戦争や 飢えなどから逃れる為に国を離れる。

    砂漠を越えるのは 海の上を越えるのと同じくらい大変な事。
    昨日まで 普通の漁民だった人が 今日は密漁船となる。
    仕事がないから 密航業者になる。
    密航業者にお金を払っても すぐには 移動できず
    劣悪な環境の中に 留められていたり、
    女性はレイプ被害にあったり、食事もろくもできなかったり。
    そんな 危険をなぜおかすのか。
    船で死ぬかもしれない。
    けれど 国にいても 死が迫ってくる。
    他に選択肢がないから 密航船に乗る。

    船でヨーロッパについたら 安心という訳でもない。
    沖で 助けられた時は ホッとするけど 上陸したら 新たに大変な扱いが 待っている。
    国で 密入国者を排除しようとしている所では
    助けた人が 捕まってしまったりする。
    (ボランティアなのに 密航業者とみなされて)

    そして 大変な思いをして やっとヨーロッパに辿りついて難民申請しても (申請するまでも大変)
    受理できるまでの長い時間。

    壁を作って 難民を入れないとする国の考えも 理解できる。
    難民が 増えすぎて 共倒れになっちゃうから。
    だけど 紛争などが ある限りは 難民問題は なくならないでしょう。
    壁を作ったり 国境を警備する 予算を増やすよりも紛争地域に 平和をもたらすように する為の 努力に予算などをついやせないのかなぁと 思いました。
    それは 簡単ではなく とても大変な事かと思うけど誰だって 故郷を離れて暮らしたいとは思わないのだから。
    皆が 幸せに 自分の故郷で 暮らせるようになることを 祈ります。

  • ◆あるシリア難民のシリア脱出と欧州流入行を定点追跡することで、難民の受ける具体的な境遇を赤裸々に開陳。ここで真に挑戦を受けているのは、キリスト教圏にいる個々人の内面。キリスト教的正義や価値観である◆

    2016年刊行。
    著者は英国「ガーディアン」紙移民専門ジャーナリスト。


     タイトルどおり、シリア難民のルポだが、シリア脱出後、エジプト⇒リビア⇒イタリアを経由して欧州に入っていった一般シリア人ハーシム・スーキーを定点追跡できたことに意義がある。
     勿論、リビアルートのみならず、トルコ・ギリシャルートにも言及し、個人行を単純に追跡しただけの書ではない。

     注目すべきは、市井のシリア人が何故故国を離脱しなければならなかったのか(内戦勃発というだけでなく、理由なき逮捕勾留と自宅の破壊など)という点だ。
     勿論そのような事情はシリア国内に止まらない。行く先々で差別と略奪の恐れ、地獄の沙汰も金次第という現実が、難民という金無き身にとっては辛すぎる。

     かような処遇の劣悪さと不安定さが赤裸々に開陳されるが、それと対照的に印象に残るのは、リビアからイタリアへの地中海海上行に当たる密航業者、その斡旋業者のぼったくりだ。必要悪というには強かすぎる存在を、微に入り細を穿つように、具体的に提示するのは本書の強みだろう。

     シリアは元より、そこから脱出したエジプトやリビアでも生きることすら難しい。それゆえただ生きるためだけに難民たちは障壁を超える。
     自然の障壁としての地中海。文化的障壁としてのキリスト教、そして人為的に引かれた国境という障壁では、生き続けたいという原初的欲求を抑えること叶わないのだ。
     故に、著者は静かに主張する。海に放り出された難民の救助作戦(マーレ・ノストルム作戦)の実施如何に関わらず、難民は海を渡るだろうと…。

     もとより本書で描写されるハーシム・スーキーが全ての難民の特徴を代表しているわけでも、代弁しているわけでもないだろう。
     実際、組織的にイスラム原理主義のスパイを欧州連合に送り込むとは実情に反するとしても、一部はそういう属性を持つ可能性を著者も否定はしていない。

     しかし、本書の主人公ハーシムが独特の、特異な存在であるというのも正しくない。
     似たような境遇の人、穏健に生活していた人が少なくないのも十分見て取れる。それほどシリアやリビアでの境遇が厳しいのだ。

     ここで、バルカン半島で難民を支援するキリスト教聖職者ティボル・バルガの語りが印象に残る。「欧州は外国人の流入で自らの価値観を失うという。だが不運な人々を保護するという欧州的責務=キリスト教的責務を捨ててしまったら、どんな価値観が残るというのだろう。欧州社会の基盤が綻んだら難民たちはその基盤を守ろうと思うはずがない」と。真摯な宗教的・内面的挑戦を受けているのは実はキリスト教圏の人々だと。含蓄深き言葉である。

  • 邦題と異なり、「シリア難民だけではない、アフガニスタンやイラク、エリトリアなどからも、ISや劣悪な政府や暴力から難民が逃れてきている。」というのが本書の大きなテーマだ。原題は「The New Odyssey: The Story of Europe's Refugee Crisis」、長く苦難の旅を行う現代のオデュッセイア達を指している。難民のボートの映像にアフリカ系黒人が多いと思っていたが、そういう事情があったのか。
    スウェーデンを目指したハーシムの話からカウリスマキ監督の映画「希望のかなた」(フィンランド)を連想した。困っている人がいるのだから受け入れなくてはならないというメッセージは「退路を絶たれた人に第三国定住の道を開くしかない」というキングスレー氏に通じる。
    溺死した少年の写真が注目された時は日本でもニュースになったが、今では忘れられている。しかし出版時からは細かい状況が変わっているにせよ、難民の苦難は続いている。本書で、ユダヤ人が、自分の民族がWWⅡで迫害された過去から現在難民を助けるエピソードが出てくる。今現在、恐ろしい戦渦や暴力を逃れる人がいることを心に留めておきたい。

  • 4.22/132
    内容(「BOOK」データベースより)
    『毎週数百人単位で人が死ぬ地中海、トルコからバルカン半島へ押し寄せる人の「波」、ヨーロッパの「見えない線」に翻弄される難民たち―。泥沼化する難民危機の「最前線」で、いったい何が起こっているのか?世界が認めた若きジャーナリストが、3大陸17か国で「道なき道」を取材し尽くし、難民たちの「声なき声」を拾い上げ、真実を綴る。』

    原書名:『The New Odyssey: The Story of Europe's Refugee Crisis』
    著者:パトリック・キングスレー(Patrick Kingsley)
    訳者:藤原 朝子(ふじわら ともこ)
    出版社 ‏: ‎ダイヤモンド社
    単行本 ‏: ‎376ページ
    発売日 ‏: ‎2016/11/26

  • 東2法経図・6階開架:369.3A/Ki43s//K

  • 本書は、ガーディアン紙の記者が各地の難民に取材をすることで完成したルポタージュの大作である。本書の主張は次の通りだ。難民の置かれた状況はあまりに過酷で「ヨーロッパの指導者が何を言おうと難民はヨーロッパを目指す」のだから「秩序だった定住政策が最も有効」であり、「難民の絶対数は多いが総人口に占める割合という観点ではヨーロッパ社会は吸収できる」というものだ。本書のこうした主張は、言葉や文化、置かれた社会環境が違っていても、難民たちは同じ人間という仲間なのだという信念に支えられている。そうした信念があったからこそ、これだけの取材を敢行できたのだろう。パトリック・キングスレー氏のこうした態度には本当に尊敬するし、また見習いたいと思わずにはいられない。

    キングスレーは、ハーシムという一人のシリア難民が艱難辛苦を乗り越えスウェーデンで定住するまでの道のりを、アフリカや中東でなぜこれほどの難民がうまれているのかという背景と合わせて描き出す。ハーシムは家族思いの父親で、家族をヨーロッパに呼び寄せようと決意する。彼が安住の地スウェーデンへ向かう旅は、文字通り命がけだ。並みの決意ごときで敢行できるものではない。彼らをそこまでの行為に駆り立てる(当時の)シリアの状況を思うと胸が痛くなる。また、ハーシムの言動を通じ、国や言葉、宗教が違っても同じ人間なのだという当たり前の事実を、私は再確認させられた。

    2015年の本なので今はまた違っているだろうが、それでも本書は読む価値がある。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:369.38||K
    資料ID:95170216

  • ルポルタージュ。

  • ヨーロッパでの生活がどれだけひどくても、難民の出身地にい続けるという選択肢は彼らに残されていない

  • 英『ガーディアン』誌の移民担当記者が精力的な取材に基づいてまとめた1冊。日本語タイトルは『シリア難民』となっているが、原著タイトルは『The New Odyssey: The Story of Europe's Refugee Crisis』で内容はシリア難民に限らず、アフリカや中東のさまざまな地域からヨーロッパを目指す人々を扱っています。
    全体の半分は、シリア難民のハーシム・スーキさんがヨーロッパを目指す道のりを著者が取材したものでとても臨場感にあふれています。同じEU圏内でも難民への対処は本当に国ごとに大きな違いがあり、永住権や華族の呼び寄せ可否などさまざまなファクターを加味して、目指す国を決めていることがよくわかります。
    また、日本語タイトルのとおり、自分の感覚でも現在のヨーロッパと難民の問題はシリアが大部分を占めているように思ってしまっていました。しかしそれ以外にもアフガニスタンやエリトリア、ソマリアなど政情不安を抱える多くの国々から、険しい山道やサハラ砂漠等多くのハードルを越えてヨーロッパを目指す人々がいることがよくわかりました。これら、ほかの国々からヨーロッパを目指す人々の様子を含めて、本書の残り半分で描かれています。
    ヨーロッパ(のうちの多くの国)が難民がやってくるのをいかに阻もうとしても、自国が非魅力的な国であると強く発信しようとも難民たちはやってきます。その理由は著者が本書中に何度も取り上げていますが「ほかに選択肢がないから」。自分の国にとどまっていても暮らしていけないし、それどころか死の危険もある。それであれば、いくら命がけでも、一抹の希望をかけてヨーロッパを目指す。そういった人々の気持ちが痛いほど伝わってくる1冊です。

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