絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ
- ダイヤモンド社 (2018年9月27日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784478067314
感想・レビュー・書評
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この本を読むまで、「絶滅」から動物・植物を救い出すことは、漠然と良いものと考えてきましたが、どうも単純な話ではないようです。
「動物を絶滅から防ぐことは本当に正しいこと?」
この本の著者も、そんな疑問から始まったそうです。
本に出てくる、カエルを守るための厳重な警備、種の保存のためのサンプルの冷凍保存、DNA組み換え技術…。
多くの実例は、さまざまなことを教えてくれます。
もちろん、絶滅危惧種を救い出すプロジェクトを今も懸命にされている方を、否定するつもりはありません。
むしろ、漠然と正しいと思い込み、ろくに知りもしなかった、その世界を覗こうともしなかったことを反省。
絶滅危惧種の動物を復活させることは、生態系を復活させることと同義ではないのです。
絶滅していく動物に対してどうしていけばよいのか。
事態は思っている以上に混み合っていて、これが正しいという結論は、いまだにはっきりとはわかっていません。
ただ、分からないからと、何も考えないのも、どこか違うと思いますので、現状を知る、という意味でこの本は読んでよかったな、と思えました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
生物の絶滅に対して、一概に否定はできないという立場から書かれた、非常に興味深い書物。たった一匹のカエルのために世界銀行からの融資による発電所の建設計画が中止になった政治がらみのエピソードや、リョコウバトの生息数の増減に入植者が関係していたという説などが取り上げられ、絶滅=悪という図式を積極的に突き崩していく著者の姿勢には好感が持てる。なお、著者はYouTubeのインタビューにて、GPSに関連した人間の行動や心理に関係する書物の出版を検討しているらしく、こちらも邦訳が待たれる。
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近絶滅種や絶滅危惧種の保護について書かれた本、というよりも、その「保護(環境保全)」という行為の持つ「矛盾」を描きだした書籍です。
種を保存するために、これまで人間は、絶滅の危機に瀕した動物を管理保護下で飼育したり、DNAを遺すために亜種と交配させたりしてきました。
はたして、これらの行為の結果生まれた、あるいは生来の生育環境とは別の環境に「適応」した動物たちは、「保全」すべき「種」としての特質を遺しているのでしょうか。
そもそも、保存すべき「種」とはどういったものなのでしょうか。
具体的な保全の事情や、それに伴う議論を詳細に描き出しており、環境保護について考えるきっかけを与えてくれる書籍だと思います。
ただ、翻訳の仕方なのかもともとの文章がとっつきにくいのか、原因はわかりませんがなかなかに読みづらい印象でもありました。
しっかりと読み込むためには、これらのテーマに対する関心だけでなく、ある種の「スタミナ」も必要だと感じます。 -
今までは、種を絶滅から守る?いいんじゃない?程度にしか思っていなかった。
だが必ずしも全てが正しいというわけではないようだ。
人工的な環境下でしか生きられない動物は、自然に生きていると言えるのか。
人間の手によって育てられた動物は鳴き方すらも忘れてしまう。
DNAより復活させられた動物は、果たして絶滅前の動物と同じ種で括っても良いのか。
人間の都合で絶滅に追い込んでおいて、今度は復活だなんて勝手すぎる。とは思うが今までこういう話題にはあまり関心を持っていなかったので何も言えない。 -
絶滅を危惧される種を保護することが、本当に種の継続に繋がってるんだっけ?という問題提起を意識できるようになってよかったかなっていう。この手の翻訳物は本当に無駄なセンテンスが多くて読みづらい。気の利いた風の言い回しとか、バッサリ切ってしまえばもっと読みやすくて意図も通じるのにと毎回思うけど。
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絶滅という局面に立つ生物たちを取り上げ、それに対する人間の行動を取り上げ、同時に保全というものや種、自然というものに対する思想を取り上げた本である。色んな事例や考え、行動に触れるたび、今まで自分があっさりと蚊帳の外で考えていた「生物や自然には価値があるから守らなければならない」という思想がいかに浅はかなものであったかを痛感させられ、深く考えるきっかけになる。この本をあまり良くないという口コミもあったが、個人的には非常に満足し、とても考えさせられ、勉強になった。ただ悲劇的なことばかり書いていると思ったら大間違いで、これは思想のための本であった。「絶滅するのは悪いこと」とそれこそ純粋に信じていて、「絶滅から生物は救わねばならない」と無心に思っている人に是非じっくりと読んで欲しい。そして考えて欲しい。
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人間の活動が理由で絶滅に向かっている生き物たち。
無茶苦茶な殺戮や、開発に伴う生息場所の縮小。
様々な理由があるのだが、もともと生きていた場所から連れ出して、研究室や動物園など人が整えた環境で生かされ、生殖までもが人間が行う。
人が生きていくのに困窮しているような国で、人よりも珍しいカエルを生かすことにどんな意味があるのか?
人のためにと言って殺してきた今までと、人のためにと言って生かそうとしていることとの間に違いがあると思えない。
地球のための多様性と言っても、言葉のままの意味で使っている人がいるのかは怪しいと思う。結局は、食料や薬品など人の役に立つと考えられるから生かしているに過ぎない。
例えば、マラリアを媒介する蚊は絶滅させようとしているではないか?
害と益は人の基準でしかない。
本当に多様性を保つことを考えるのなら、著者の言うように、生き物の生息環境を残すしかなく、そのためには人間の活動を制限していくしかないのだろう。
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種を存続させることは正義と今まで疑いなく信じていましたが、この本を読んで少し考えが変わった。
保護し、人間の手で生かしていてもそれは本当にその種の存続と言えるのか。ぎくりとする問いを投げかけられた。
保護された動物達のその後。
とめどなく広がる人間のテリトリー。
正しいこと、がわからなくなった。
保護は人間の自己満足?
でもやらないよりやった方が良い。
でも根本的な解決にはならない。
いろんな思考がぐるぐる。
共存できる道はないのか。
もう遅いのか。
関連書も読みたくなります。
文章は論文的?な文章で読み進めるペースはかなり遅くなってしまった。 -
自然保護、環境保護、生物多様性が叫ばれて久しいですが、本書は特殊な実験室でのみ生息している自然絶滅種などを例に絶滅に瀕した生き物を救うことは保全なのか干渉なのかというジレンマを取り上げ、種を保護するとは何なのかを考えさせてくれます。
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さすがオコナ―!
漠然と「多様性の保全=正義」の感をもっていたけれど、違う。
「正義の反対はもう一つの正義」ですね。