石油の帝国―――エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー

  • ダイヤモンド社
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  • Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478029107

作品紹介・あらすじ

アメリカ最大最強の企業が世界で繰り広げた資源獲得競争の知られざる裏側を余すところなく描き出す迫真の国際ドキュメンタリー。

感想・レビュー・書評

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  • 例えば、テレビ局がこの本のどれか一つの章を取り上げたとしたら、それだけで少なくとも一時間の特別番組を制作できる筈だと思う。もしそんな番組が制作されるのなら、出来ればそれを会計帳簿上の数字や組織の上に立つ人々の視点からではなく、現場で働く者たちの視点から描いて欲しい。この本に描かれている世界の一部に身を置いて来た者としては切にそう願う。この業界が米国のみならず日本でも人々から好意を持って受け止められていないと認識しつつ、それでも国内のエネルギー供給の一助になればと思いながら、文字通り汗と泥にまみれて働いているもののことを身近に知るものとしては。オイルショックの記憶のない世代、それは居間の照明が裸電球であったことも、集合住宅の最上階に住む友達をコンクリートむき出しの階段を登って訪ねたこともない世代、更に言えばテレビに色が着いたときの感動を知らぬ世代だとも言える世代が、居心地の良い部屋のソファーでぬくぬくとテレビを観ながら好き勝手言えるのも日本にエネルギーを届けたいという気持ちがある人々がいるからなのだということを、ほんの少しでも解ってもらいたい。

    もちろんジャーナリストとして対象を批判的な立場で眺め取り組むことは重要であると思う。けれど、エクソンモービルの本当の凄さは、この本の中心で描かれているテキサスやワシントンの大物たちの中だけにあるのではなく、過酷な現場で働く人々の中にこそあるのだということが、石油のことを余り知らない人々にも伝わるようにも描かれていたなら、と少し残念に思う。例えば、ダニエル・ヤーギンの「石油の世紀」は、本書以上の大部な上に取り扱っていた時代も広範囲だったけれど、視野が多角的で躍動感があり、初めての海外赴任で石油開発の前線に携わり始めた頃に読んだせいもあるが、身に沁み始めたこの業界の巨大さを噛み締めつつ、わくわくしながら読んだ記憶がある。けれど、残念ながら、本書は、これを読んでこの業界で働いてやろうと思う人々を沢山生み出すとは思えない。山崎豊子の「不毛地帯」を読んでやりがいを感じた記憶が、執拗に本書に対して批判的な感情を喚起する。

    とは言え、本書のような大部の石油業界にまつわる本が出版されるということは良いことだと素直に思うし、次々とこのような本が世に出てくるアメリカという国は、やはり石油に対する一般市民の関心が高い国なのだなとも思う。日本における石油会社のイメージは実に偏っていて、今は横文字の名前の会社ばかりになった日本の石油会社だって、利益の大半はガソリンを売ることではなく、掘って探し当てた石油を生産して販売する部門が支えていることを知っている人の数は少ないだろう。例えばエクソンという会社がガソリンを売る以外に何をしている会社であるかを知る人の割合は、日本では極端に小さいだろうけれど、アメリカでは石油を生産して儲けていることはもう少し知られているからこそ、原油高の恩恵を受けている石油会社からもっと税金を取れという議論にもなるのだろう。それでもこのような啓蒙書のようなものが出版されるということは、やはり石油会社の実態というのは謎めいているものだなと改めて認識する。あからさまに言及されてはいないが、ロックフェラーという名前が喚起する陰謀めいたイメージが、拭い去り難く存在するのだろう。

    確かに、エクソンという会社は昔から何か得体の知れない会社であるというのが業界での一般的な印象で、そこに働く従業員たちも決して楽しげな人々ばかりではないことも事実だと思うけれど、このスケールでプロフェショナリズムを徹底している組織が稀有であることもまた事実だと思うし、そこのところは素直に称賛されて然るべきだと思う。本書でも、ある一面での彼らの徹底ぶりは描かれているとは思うけれど、もう少し負の印象に結びつかない部分の彼らの凄さが描かれても良かったのにとも思う。もっとも、本書に描かれているエクソンモービルという恐るべき規模の会社の徹底ぶりは、想像していた以上のものであったこともまた事実だけれども。

  • 普通の本を3冊くらい読んだ感じ。グッタリ。

  • スティーブ・コール子の著作ということで手にした本書。
    中東以外全くの門外漢の私には、読み進めるのに少し時間を要してしまった。

    訳者は長年石油業界に身を置いていらっしゃった方ということで、技術用語や業界常識をふまえて訳されていたことは伝わってきた。一方で、日本語としての完成度はもう少しだったように感じられ、意図を理解するのに何回か読み直さなければいけない部分も結構あった。

  • とばしとばしで読んだ。
    エクソンモービルの慣習、人事、事件等をつらつらと書き綴った様な内容。
    エクソンの歴史書みたいなもの。
    2020/9月時点で歴史的にも株価が低迷しており買おうかどうか迷っていたので指針になればと思って読んだかあまり参考にはならなかった。てか買うのは止め。

  • エクソンモービルという巨大な石油企業のことがダラダラダラダラ読める(笑)シェールガス以降、状況は大きく変わったのでほとんどが大昔の話にはなるが、同社が世界経済、政治にあまりに大きい影響を及ぼして来たことがわかるので読んでおくべき!
    埋蔵量リプレースを維持しないと金融市場での評価が下がるため、油田開発を止められない同社。インドネシアのアチェや赤道ギニア、ナイジェリア、ベネスエラ、ロシアなど問題だらけの国でも資源があるなら乗り込んで行く。
    座礁事件や誘拐事件を通して危機管理、社員の健康管理に過敏になった同社ではオフィスでの小さな切り傷にも報告が必要になり、危険な趣味は上司からの苦言の対象になる。(大きすぎる特殊な会社ってこうなってしまうのかな)
    嫌われ業種(社員が自覚しているらしい)での広報宣伝の仕事は不祥事会見で「ノーコメントです」と言うこと。CMはあまり重視しない。良い思いつきで美術展を主催することを始めたら、レセプションパーティではアーティストたちからは(短時間を条件にマイクを握らせたら)喜ばしくない演説が。
    ナイジェリアの海賊について政府に支援を依頼したら軍からは「アメリカ軍は国外で特定の産業を保護するためにその国の領域を侵すことはしない。そのエリアで安全にビジネスをしたければその国の政府に頼むべきで、それでも安全が確保できないと判断するなら撤退の経営判断をすれば良い」と極めて軍事的なプロフェッショナルとしての回答をしたこと。アメリカ軍は世界中に派兵し、戦争もしているが、それだけにそのためのルールは少なくとも日本よりはしっかりしているのだ。
    洋書にありがちなどこまでが取材でどこまでが推測かわかりにくい書き方が読みにくく、1回挫折してほっておいた本。原書が出たのが2012年だから遅すぎた感はあるが夏休み読書。

  • 東2法経図・6F開架 568A/C84s//K

  • 600ページもあるので、前半でダレてしまいました。

    石油関連の知識とか、中東情勢とかに詳しいと、楽しく読めると思います。

    私のようにエネルギー関連の知識に乏しいと、途中でダレてしまうかも知れません。

    でも、とっても良い本です。後日、またトライします。

  • 元ワシントンポスト記者による、エクソンモービルの物語。精緻な取材に基づく大作で、エクソンモービルの考え方や決断の経緯が理解できる。登場する人物は多彩で大物が多く、国家との関わりもよくわかる。巨大石油企業とはどういうものかを理解できた。
    「原油流出に対応するために実行すると決めたことが正しいことであってもなくても、とにかく素早く実行しなければならない」p16
    「エクソンは1919年ジョン・ロックフェラーの独占企業スタンダードオイルが解体されて生まれた。80年後の今もエクソン幹部たちがしばしばワシントンとの関わりを避け腹の底に敵意を抱いている理由は、この痛みが今も克服されていない、ということだった」p19
    「エクソンが地元の政治や安全保障に対し及ぼす影響力はアメリカ大使館のそれを上回った」p19
    「フォーチュン誌はエクソンを、エクソン・バルディーズ号の事故前にはアメリカ第6位の最も尊敬される企業に挙げていたが、事故後は110位に転落した」p33
    「わが社は多額の補償金を払った。わが社は自発的に行動した。そしてわが社はいつまでも払い続けるわけにはいかない。わが社は言わなければならない、これで全部だ、と」p33
    「スタンダード・オイルは、そのピーク時にはアメリカの市場の90%を支配していた」p35
    「同業他社の幹部たちはエクソンの幹部たちを、情け容赦なく、孤立的で、不可解な、しかし同時に、ロックフェラーが拠り所としたプロテスタントの牧師補佐のように道徳的であるとみていた。「我々は煙草を吸わない。我々はガムを噛まない。これらを嗜む者とは付き合わない」」p36
    「エクソンでは、手続きを強調し正統なものを重んじる文化があり、細部にこだわる者が卓越した権威を獲得した。エクソンの採用は、規則に抵抗感のない人々、喜んで生涯一つの会社に勤め、仕事のために転勤することを厭わない人々に偏った」p39
    「規律ある結果を得るための唯一の方法は、やりすぎるくらい徹底することだ。つまり、机をたたき脅しをかけなければ、これだけ大規模な従業員たちは易きに流れ、凡庸な結果しか残せない」p46
    「会社が縮んでいると見られないためには、毎年10億バレル以上の新規埋蔵量を発見し帳簿に載せていかなければならなかった」p55
    「レイモンドは、国務省をエクソンモービルに協力的な政府機関とはみなしていなかった」p141
    「(大使館からの報告)エクソンモービルなど一握りのアメリカ石油会社は、たいていの場合、業界固有の問題は自分たち自身で処理しようとする。もし彼らの努力だけで問題解決に至らず、もしくは問題が悪化した場合は、素早く我々に行動を求めてくる」p141
    「OPECメンバー7カ国、アルジェリア、イラン、イラク、クウェート、リビア、カタールそしてUAE、いずれもが非民主的で、人権保護が貧弱で、経済的な多様性に乏しい。その他3カ国、インドネシア、ナイジェリア、ベネズエラについては、名目的に民主制ではあるが、広く腐敗し人権保障の貧弱な国々である。アンゴラ、アゼルバイジャン、カザフスタンは、腐敗、拙劣な統治、人権侵害のモデルになりつつある。エクソンモービルは、これらの多くの、人権保護が足りないと判断された各国で操業し、その政府に協力してきた」p220
    「(オニール財務長官)資本は臆病者であり、資本は自分に冷たい場所には行こうとしない」p254
    「アメリカが1日に消費する2000万バレルの石油のうち3/4は輸送用燃料だった」p307
    「我々は常に正しい。ただ、我々は誤解されていたのだ」p335
    「世界銀行の現地代表とは異なり、エクソンモービルのカントリーマネージャーたちは、チャドのデビー大統領の期待に上手く応えることができた。「彼らは最初に助けに来てくれた。問題がある時はいつも、腰を下ろし、議論に応じてくれる。彼らには我々以上の経験があると承知している。彼らがこの地に利益をもたらすために来てくれていることもわかっている。我々と彼らの利益は結びついている」p364
    「裁判所は大統領の外交政策に軽々しく干渉すべきではない、という考え方は、アメリカの確立した法理となっている」p398
    「エクソンモービルはどこにあってもその存在から生ずる影響について考慮しなければならない」p401
    「(赤道ギニア)このような国で、政府高官やその親族とビジネスを行うことなく事業を展開することはほとんど不可能に近い。しかし、それでもなお、倫理的にビジネスを行いアメリカ法と地元法に従うことは可能である、と考える」p528
    「世界の気候の将来を決定付ける要素としては、中国の産業化のような変革の方が、コペンハーゲンで行われたような会議よりもはるかに意味がある、とエクソンモービルのアナリストは結論付けた」p550
    「新たな石油を発見しようという意欲が、あらゆる大手石油会社をリスクの高いフロンティアへと駆り立てた。資源ナショナリズム、特権的に保護された国営石油会社の台頭、そしてエクソンモービルのような超巨大会社の埋蔵量リプレースの苦闘、これらすべてが彼らを、大水深へ、あるいは悲惨な紛争にまみれた弱い国々へ、そして低温が従来型の流出除去方法を無効にしてしまう北極海へと導いた」p609

  • 石油産業は国家を体現するかと言わんばかりの濃密なドラマ。

  • エクソンモービルという世界最大の民間企業であり、一つの帝国と言える規模を持った、石油会社の話。
    その影響は単に石油価格と、そこに紐づく産業にとどまらず、政治、戦争、貧困、そして環境問題などに関わり、世界のありとあらゆる”石油の出る場所”で、利権と結びつく。
    それゆえに同社の姿勢はある意味で一貫していて、「資源から生まれる利益を追うだけの存在」として内外両面に、例外を認めずに厳しく対処する。特に本書の前半、リー・レイモンド時代はそれが顕著。時にアメリカと同一視されがちですが、実態はアメリカからおいしいとこだけいただいてる印象。すごい企業だなと思います。もはや世界の公務員みたいな感じ。
    読み物としては、石油流出事件から、海賊の問題、インドネシアやチャドの独裁政権とのつながり、地球温暖化問題への対応など、話題に富んでおり面白い。紙の書籍は分厚すぎるのが難点ですが、その分厚さに見合う内容ではあります。

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著者プロフィール

コロンビア大学ジャーナリズム大学院長、『ニューヨーカー』誌スタッフライター。1958年、ワシントンDC生まれ。『ワシントン・ポスト』南アジア支局長(1989~92年)、同紙編集局長(1998~2004年)を歴任。1990年に米証券取引委員会に関する報道でピュリツァー賞を、2005年に『アフガン諜報戦争(Ghost Wars)』でふたたび同賞を受賞したほか、2019年には本書で全米批評家協会賞を受賞。2007~13年、シンクタンク「ニューアメリカ財団」の会長を務めた。主な著書に、The Deal of the Century(1986)、The Taking of Getty Oil(1987)、Eagle on the Street(共著、1991)、On the Grand Trunk Road(1994)、The Bin Ladens(2008)が、邦訳書に『アフガン諜報戦争(上下)』(白水社)、『石油の帝国』(ダイヤモンド社)がある。

「2019年 『シークレット・ウォーズ(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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