英語の歴史から考える英文法の「なぜ」2

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  • 大修館書店
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  • / ISBN・EAN: 9784469246469

感想・レビュー・書評

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  •  2年前くらいに出た『英語の歴史から考える英文法の「なぜ」』はわりと英語史の一般的なテーマについて扱ったものであるのに対し、続編?である本書は、小説や映画のセリフに現れる一見「破格」に見える表現(knowed, 複数なのにsをつけない、所有格のme、we wasなど)が、どういう経緯でそのような表現になっているのか、特に黒人英語とアイルランド英語に焦点を当てて解説している。
     そもそもあまり洋書や映画の英語に触れない人にとっては、こういう言い方をすること自体、馴染みがないと思うので、そういう意味では前作とは違って、もっと上級者用の本、と言える。恥ずかしいけど、ヘミングウェイもスタインベックも読んだことのないおれは、 a accidentとかa operation(p.7)を見たことがなかった。いつかはこういう作品も英語で読むんだろうか。ピジンやクレオール、「標準」と「非標準(方言)」など、社会言語学的な話はおれも好きなので、面白く読めた。黒人英語といえば、音声面について大学の時にレポートを書いた記憶があるが、文法はあんまり勉強したことがない気がする(二重否定、とかは覚えてるかな)。その中でも「不変のbe」という概念(pp.103-6)は面白い。不変のbeは「長期にわたるできごとや習慣を表し」(同)例えばI be eating nothing.は「普段から何も食べない」という意味であるのに対し、いわゆる「進行形」は<ゼロ繋辞>で表し、She working late tongiht.は「今夜は遅くまで働いている」ということになるらしい。あとは黒人英語とアイルランド英語のつながり、の話。黒人奴隷が運ばれたのはまずはカリブ海諸島のプランテーションで、そこには年季奉公のアイルランド人がたくさんおり、「たがいに差別されるアイルランド系の人々と黒人の間には気持ちの通い合うものがあったようです。黒人英語はアイルランド英語と出会うことで、その特徴を数多く共有することになったとみられます。」(p.110)ということだそうだ。最後に、「裁判で争われた黒人英語」(pp.129-31)の話はとても興味深い。黒人の公民権運動でプレっシー対ファガーソンとかは習うけど、こういう言葉の問題をめぐる裁判もあり、言語学者が証人となって「アナーバーの黒人生徒のことばは方言ではないと証明した」(p.130)らしい。
     「教科書で学ぶ英語」とは一味違った「小説や映画の英語」について知れる一冊。小説や映画の英語に触れているという意味では上級者向けだけれども、一般読者にも分かりやすい語り口で書かれているので、興味があれば誰でも読める内容。(21/04/29)

  • she knowedやsays Iなど非標準とされる英文法を、英語の歴史から解き明かす。非標準=誤りではなく、社会のある層に根付いた、生き生きとした表現であることが例とともに説明される。小説や映画、歌の歌詞などの英語に触れる楽しみが増えた。

  • 1冊目ほどのインパクトはまだない

  • 続編は第1巻で最良のネタを出し尽くしてしまうイメージがあったが、1巻とは異なり非標準英語に重点を置いているので、異なった視点で楽しめた。様々な小説や映画が出てきて、著者は本当に英語小説・映画が好きなのだろうなと思った。

  • 映画や小説を英語で読もうとすると、学校で習った英語と違う文法のせいで壁にぶつかることが多い。
    もとは古英語から発達した英語が、前者は庶民の暮らしの中で、後者は規範主義による英語の標準化の中で、それぞれ育ってきたからだ。
    非標準英語であるアイルランド英語と黒人英語とイギリスの地域方言が似ているというのは驚きだが、理由を知ると納得した。

    わたしが見慣れている英語(wannaやsomethin')から、見慣れない英語(I seenやwe was)まで、読みやすいコラムでまとめられていた。

    著者は71歳の元大学教授。この方が英語の小説を翻訳されたら、的確で、表現も豊かだろうな。

    今使っている英語が「なぜ」生まれたのか、つまり英語の歴史について、ちょっと立ち止まって考えてみるのは、英語を学ぶ上でも非常に有益なことだと思う。

    本書は英文法書であり、英語・英文法という視点からのブックガイド・映画ガイドでもある。
    映画や小説では、登場人物たちのことばの違いから、彼らの出身・社会階層が分かる。
    『お気に召すまま』『テンペスト』『風と共に去りぬ』『シャーロック・ホームズの冒険』を読みたくなった。
    本書を片手に、シェイクスピア作品をぜひとも近代英語で読みたい。

    p19
    日本でも江戸という同じ地域でありながら、武士、商人、職人ではことばが違いました。英語も同じです。同じロンドンでも上流階級のことばと労働者階級のことばには違いがありました。

    p20
    異なる言語を話す人々が出会うと、そこに不思議なことが起こります。ことばが混じり合い、新しいことばが生まれるのです。異なったことばを話す人が出会い、商売などの必要からどうしても意思を通じさせなければならない場合、人は限られた単語を使い、文法を無視した言い方でやりくりします。このようにして生まれたことばをピジン(pidgin)と言います。

    ピジン英語はその場の必要から生まれたものですから、だれの母国語でもありません。
    ところが、そのピジンが次の世代に引き継がれていくと、それを母国語とする世代が生まれます。このようにして代々、受け継がれ、母語としての性格をもつようになったピジンをクリオール(Creole)と呼びます。

    p38
    ゲール語には〈have+過去分詞〉という英語の現在完了にあたる形がなく、完了を表すには英語のbe動詞にあたる語を使います。このため完了形は〈be+自動詞の過去分詞〉という形でアイルランド英語に入りました。また、イギリスでも18世紀初頭まで、完了の意味では自動詞を使った〈be+過去分詞〉という言い方が広く使われていて、haveを使う形よりもふつうだったのです。それがアイルランド英語で完了形にbeを使う追い風になりました。

    p40
    アイルランドはイギリスの海外における最初の植民地です。植民地アイルランドではゲール語は徐々に英語に駆逐されていきました。現在、アイルランドでは第1公用語がゲール語、第2公用語が英語と定められています。

    しかし、2016年の国勢調査では日常的にゲール語を話すと答えた人は2%に満たない数でした。
    アイルランドで話される英語はゲール語の影響を受けたものでIrish EnglishまたはHiberno Englishと呼ばれます。Hibernoとはアイルランドを意味するラテン語Hiberniaの連結形で「アイルランドの」という意味です。

    p41
    この章で見たI seen(=I saw)、I done(=I did)はアイルランド英語由来の文法です。アメリカ英語にはアイルランド英語由来の文法が広くみられます。アメリカ英語ではイギリス英語でshallを使うところにwillをよく使います。これもアイルランド英語由来です。これはアイルランド系移民によりアメリカにもち込まれたものです。

    p47
    非標準の文法では、sevenのような数詞が前に現れた場合、複数の意味はその数詞が表しているので、名詞には複数語尾-sをつける必要はありません。この言い方はfoot/mile/pound/yearなど数量や時間を表す名詞にみられます。これはアイルランド英語、黒人英語、そして英米の非標準英語に共通にみられる文法です。

    p57
    それは同じ語を繰り返すのをよしとしない英語の気風です。名詞でも動詞でも形容詞でも同じ文の中、また近接した場所では同じ語を繰り返さず、類義語を使うことが行われます。これを「エレガント・バリエーション」(elegant variation)と言います。
    同じ語を繰り返さないとはいっても、機械的に類義語に置き換えるのは意味のないことですから、戒められます。しかし、英語ではエレガント・バリエーションの気風は根強いものがあります。とりわけ、新聞記事などのように短い文章では同じ語を繰り返すと単調になりますから、別の語で言い換えることがよく行われます。小説では人物を別の表現で表すことで、単調さを避けるだけでなく、人物描写に深みを与えるという効果もあります。

    p67
    この言い方はバラッド(ballad)と呼ばれる物語詩や伝承童謡(nursery rhyme)では古くから行われてきました。次は伝承童謡「ハートの女王」(The Queen of Hearts)の冒頭の節です。これはルイス・キャロル(Luwis Carroll, 1932-98)の『不思議の国のアリス』(Alice's Adventures in Wonderland, 1865)に出てくることでも知られています。

    The Queen of Hearts, She made some tarts,
    All on a summer day:
    The Knave of Hearts, he stole those tarts,
    And took them quite away!
    ハートの女王、タルトをつくった
    夏の日、1日かけて
    ハートのジャック、タルトを盗んだ
    そしてすっかり奪い去った

    英語は弱強あるいは強弱のリズムを好みます。次は唄の第1行のリズムです。弱く読む音節は・で、強く読む音節は●で示しています。
    ・ ● ・ ● ・ ● ・ ●
    The Queen of Hearts, She made some tarts,

    きれいに弱強がそろい、心地よいリズムになります。ここでsheがなければ、「強」と「強」が続いて現れ、リズムが整いません。詩ではこのように韻律を整えるため、主語である名詞に続けて代名詞を置くことがよく行われます。

    p98
    黒人英語では一度、文中に過去形が現れれば、その後はもう過去形を使う必要はありません。これは「文脈が過去であることがわかれば過去形を使う必要はない」という原則と同じものです。

    p99
    黒人英語では文脈が過去であることがあきらかな場合、動詞は基本形でよいのです。映画や小説に現れる黒人英語でまず目にする文法と言えば、過去を表すこの言い方です。

    p100
    〈3単現〉の-sを使わないこのような言い方には黒人英語以外の非標準英語にもみられるのですが、なによりも黒人英語に特徴的な文法です。

    p106
    イギリスの地方方言、アイルランド英語、黒人英語には用法が重なるものが数多くあります。

    p110
    黒人奴隷はアフリカからそのままアメリカに運ばれたわけではありません。まず運ばれたのはカリブ海諸島のプランテーションです。そこで黒人たちはアイルランド英語に出会ったとみられます。カリブ海に浮かぶ島、バルバドスはカリブ海におけるイギリス最初の植民地です。その白人人口の5分の1は年季奉公のアイルランド人でした。西アフリカでピジン、クリオールとして生まれた黒人英語はカリブ海諸島で変容を遂げたとみられます。
    カリブ海諸島からアメリカ大陸に運ばれた黒人たちはそこでさらに新しい英語に接します。南部のプランテーションで労働に従事していたのは黒人奴隷だけではありません。そこで働いていたのは5年から7年の年季奉公としてアメリカに渡ったアイルランド系の人々、そしてブリテン島各地から渡ってきた貧しい人々です。そこに伝わったのはアイルランド英語、そしてイギリス各地で話された地域方言、そして社会方言です。
    なかでも黒人英語にとりわけ大きな影響を与えたとされるのがアイルランド英語です。黒人英語にはアイルランド英語と共通する特徴が数多くあります。アイルランド系の移民はアメリカでは差別を受ける存在でした。白人とみなされないことすらありました。たがいに差別されるアイルランド系の人々と黒人の間には気持ちの通い合うものがあったようです。黒人英語はアイルランド英語と出会うことで、その特徴を数多く共有することになったとみられます。

    p116
    be動詞の意味は無色透明です。なくても意味が理解できます。このため、スペースに限りがある道路標識や新聞の見出しではよく略されます。「この先、通行止」という道路標識〈ROAD CLOSED AHEAD〉はThe road is closed ahead.を簡略に言ったものです。家に帰ってきた人が「だれかいる?」と声をかける場合、“Anybody home?”と言います。これは“Is anybody home?”を簡略に言ったものです。

    くだけた話ことばでは〈wh-疑問文〉でbe動詞がよく落ちます。

    p117
    このような省略は助動詞have/hasにもみられます。

    p121
    英語では古くは動詞の後にnotをつけて否定文をつくっていました。助動詞do/does/didを使う方法はその後に現れました。そしてdo/does/didを使う言い方が現れてからも1700年頃までは両方の言い方が使われていました。否定文に助動詞doを使うことが一般的になったのは18世紀半ば以降のことです。

    英語には否定の言い方としてmistake not/know notの他にもcare not(気にしない)/doubt not(疑わない)/fear not(恐れない)などがと残っています。これらは今に残った古風な言い方です。日本語でも「知らぬ存ぜぬ」のように古風な言い方が今でも顔を現しますが、これに近い感じです。

    p135
    “That we must discuss”, Poirot said with a warning glance.
    (「それについては検討せねばなりませんな」ポアロは戒めるような目で言った)

    ここでwith a warning glance(戒めるような目で)を文末に置いたのはここに意味の焦点があるからです。発話の中で相手に伝えたい、新しい、大事な情報を「焦点」(focus)と言います。焦点は一般に発話の最後に現れます。この例は「ポアロは戒めるような目で言った」というより「・・・と言うポアロの目には戒めの色があった」というのがその気持ちです。

    p137
    古くは主語が代名詞の場合も伝達節にはquoth he(=said he)のように倒置した語順を使っていました。
    次はシェイクスピア『お気に召すまま』からの例です。ジェークイズという延臣が森で戯け者に出会ったと話す場面です。
    Jaques: 'Good morrow, fool,' quoth I. 'No, sir,' quoth he,
    ジェークイズ:「戯け者、おはよう」と私は言いました。するとやつは「そんなことはありませぬ」と申したのです。

    p137
    “That depends,” said Poirot, “on the point of view.”
    (「それは見方によりますな」ポアロは言った)
    このように伝達節を引用文の途中に置くのは、ひとつには文体を単調にしないためです。いつも文末にsaid Poirotを置くと単調になります。また、このようにsaid Poirotを文の途中に置くことで、最後まで読まなくても話者がだれか、先に知ることができるという利点もあります。

    さて、So am I. ではI(私)が文末に置かれ、ここに焦点があります。焦点は一般に文末に現れます。ここでは主語Iが文末に現れることで語順が倒置しています。また、これは強弱強という整ったリズムです。ここでIに焦点が置かれるということは「(あなただけでなく)私も」という意味になり、それが「私もそうです」という意味を引き出します。
    So I am. ではamが文末に現れることで、ここに強勢が置かれます。ふつう強勢がない語でも文末の位置では強勢をつけて発音します。肯定の返事、Yes, I am. やYes, I do. でam, doに強勢が置かれるのはそのためです。Yes, I am.ではamが焦点です。つまり、be動詞の表す「・・・である」という意味が強調され、「そのとおり」という意味が引き出されます。
    次は恋人や友だちに送るカードなどでよく書かれる詩です。これは韻を踏んだ、リズムの整った詩で押韻詩(rhyme)と呼ばれます。2行目のblueと4行目のyouが同じ[uː]という音にそろえられ、韻を踏んでいます。強勢は(')で示した部分にあります。
    , ,
    Roses are red ばらは赤く
    , ,
    Violets are blue すみれは青く
    , ,
    Sugar is sweet 砂糖は甘く
    , ,
    And so are you やさしいあなた

    最後の行はうまく日本語になりません。これはAnd you are also sweet.(あなたも甘い[やさしい])の意味です。ここでは3行目で「甘い」という意味で使ったsweetを受け、それを「やさしい」という意味にかけています。

    p151
    英語では強勢のない音節では[h]の音はよく落ちます。

    助動詞have[həv]の[h]は音の続きぐあいによってはよく脱落し、[əv]という発音になります。用例のofはこの[əv]という発音をそのまま綴ったものです。上でmust of hadは[mʌ́stəvhǽd]という発音です。

    なお、このようにhaveをofと綴るのは英語母語話者の子どもによくみられます。彼らは文字でなく耳から英語を習得するので、must haveと書くべきところを耳で聞いたとおり、must ofと書いてしまうのです。
    このようにhaveをofと綴ることがあるのはmustの後だけではありません。他にもcould of、should of、would of、ought to ofという形で現れます。これがさらにくだけた発音になるとcoulda, shoulda, woulda, mustaと綴られます。これはhave[həv]のもっともくだけた発音[ə]を表したものです。

    p153
    この他にも小説やマンガなどではlemme[lemi(ː)](=let me)、outa[autə](=out of)という綴りがよく現れます。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000053215

  • 標準英語を踏まえた上での上級者向け

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