中国 虫の奇聞録 (あじあブックス)

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  • 大修館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784469233186

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  • 中国では古来、「虫」とは生き物の総称だったという。羽虫(長は鳳凰)、毛虫(長は麒麟)、甲虫(長は霊亀)、鱗虫(長は龍)、裸虫(長は人間、特に聖人)。時代が下るにつれて、「虫」はこの枠外に置かれていた昆虫を指すように変化した。
    本著ではとくに人間の生活と関わりの深い6つの昆虫(セミ、チョウ、アリ、ホタル、ハチ、バッタ)をとりあげ、それらにまつわる珍聞・異聞を通して、中国の歴史と中国人の精神世界を読み取ってゆく。

    再生や権力、高潔の象徴と見做されたセミ。死者の口には埋葬の際、セミを象った玉石を入れたという。また、木の枝にしんとしてぶら下がっているセミの抜け殻を見て、屍解仙(人として死んだ後、仙人となったもの)がもぬいていった着物を連想した。羽化したてのセミの透きとおるように青白く、この世ならぬ霊気をただよわせる様子は昇仙の神秘的なイメージと重なり、「羽化登仙」という言葉が生まれた。
    万物はめぐるという宇宙観が、畑の野菜やスカートの裾がチョウに化身したという幻想をもたらし、ホタルは朽ちた草の化身だと幻惑する。地下に広がるアリの巣穴に小宇宙を見出し、ハチは蜜や巣、幼虫など、人間に様々な恩恵を与えながらも毒から生まれると信じられ、旱魃のときにエビやサカナがバッタに化身、大量発生し穀物を食い荒らしながら大移動する「飛蝗」の出現は天罰だと考えられ――。そういった謬説は、虫の生態について、自然観察から学ぶよりも文学から学び、漢代以来の古い思想に縛られた大多数の知識階級の存在によって、2000年ものあいだ正されることはなかった。

    万物流転という生命観、アリの巣やハチの巣にみるもう一つの理想郷。「天神感応説」によってバッタを通して天の意思を占う。こうした儒教の尚古主義の呪縛、中国の古代という時代はアヘン戦争(1840年)まで続いていたという。ながい古代という時代に生きた中国人が、昆虫はどこから来るのか、さらには生命はどこから来るのか、想いをめぐらす過程で紡がれ、培われてきた自然観、生死観、願望などが反映された珍聞、異聞が、見事に中国の歴史の一面を映し出している。
    一方で唐代にも虫の生態の実相を顧みない「頭のかたい腐れインテリ」を説得して現実的な飛蝗対策に乗り出した能吏がいたなど、エピソードも満載。虫と人とが織りなすめくるめく奇譚に好奇心が刺激される一冊。

  • 蝉、蝶、蟻、蛍、蜂、飛蝗といった虫についてのあれこれが載っています。
    どの虫の話も現代の考え方と大きく異なり、面白いです。
    虫の食性や生態も今ほど詳しく分かっていないため、
    そこから発想を得た当時の人の考え方には驚かされました。
    ※一部の学者を除き、幼虫→蛹→成虫となる過程で
     蛹の行程をあまり目撃できていなかったため起こったことのようです。

    中でも『蟻』の項目にあった、蟻使いの存在がとても興味深いものでした。
    蟻を調教して芸をさせていたとのことですが、一体どうやってと
    謎と好奇心が尽きません。

    三国志関係の名前もちらほら出ているので、
    虫好きのみならず三国志好きにもお勧めです。
    特に中国=飛蝗は切っても切れない関係であるため、
    飛蝗がどれほどの脅威であり、恐ろしいものであるかも
    改めて実感することが出来ました。

  • ふむ

  • 陜峨?∬攜縲∬渊縲

  • 古代中国って面白い。

  • 虫は虫
    好きでも嫌いでもないし、身近にあって特別でもない
    そう思っていたが、虫に対する中国の見方を知って、少しイメージが変わった
    儚さとか凛々しさとか、興味を持った
    そして、やっぱりいつの時代も中国の人は虫を食べる

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著者プロフィール

中国文化を中心に著述・翻訳を行う。著書に『闘蟋――中国の蟋蟀文化』(サントリー学芸賞)『中国 虫の奇聞録』(以上、大修館書店)、訳書に『マンガ 仏教の思想』(蔡志忠・大和書房)など、共訳に集英社『わが父魯迅』(周海嬰・集英社)などがある。保護いぬと暮らす。

「2020年 『保護ねこ物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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