パンと牢獄 チベット政治犯ドゥンドゥップと妻の亡命ノート

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784420310888

作品紹介・あらすじ

チベット人の真意を映す映画を撮影したことで、中国で囚われの身になり、獄中で「国際報道自由賞」を受賞したドゥンドゥップ・ワンチェン。
インドのダラムサラで道端のパン売りから始め、ついにはアメリカに亡命して、家族を養い、夫の釈放を待ち続けた妻ラモ・ツォ。
この夫婦と4人の子どもたちの、十年の軌跡を追ったノンフィクション。

2017年12月25日、あるチベット政治犯が、故郷のチベットからスイスを経て米国への亡命に成功した。
このニュースは、ニューヨークタイムズを皮切りに、驚きをもって世界中で報じられた。
男の名はドゥンドゥップ・ワンチェン。2008年、北京五輪開催直前に、チベット人にインタビューした映画『恐怖を乗り越えて』をつくり、国家分裂扇動罪で懲役6年を宣告された。
作品は世界中で上映され、彼は獄中にいながらにして「国際報道自由賞」を受賞する。
しかし、拷問をふくむ過酷な獄中生活を終えたのちに彼を待っていたのは、軟禁生活だった。
一方、夫の活動について何も知らなかった妻ラモ・ツォは、チベット亡命政府のあるインド・ダラムサラで夫逮捕の知らせを受け取り、難民となった。
読み書きのできなかった彼女は、道端のパン売りから始め、子どもたち4人とともにしなやかに逞しく生き抜いていく。
家族は、再び共に生きることができるのか――?

チベット文化に魅かれて滞在していたインド・ダラムサラで、道端でパンを売るラモ・ツォに出会い、彼女とその家族を十年間追い続けた著者のデビュー作。


【著者プロフィール】
小川真利枝(おがわ・まりえ)
ドキュメンタリー作家。1983年フィリピン生まれ。千葉県で育つ。早稲田大学教育学部卒業。
2007年テレビ番組制作会社に入社、2009年に退社し、フリーのディレクターに。
ラジオドキュメンタリー『原爆の惨禍を生き抜いて』(2017)(文化庁芸術祭出品、放送文化基金賞奨励賞)、ドキュメンタリー映画『ソナム』(2014/劇場未公開)、『ラモツォの亡命ノート』(2017)などを制作。
本作が初めての著作。

感想・レビュー・書評

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  • 若い方の著作なので、中国国境付近の複雑でセンシティブな問題を扱うものとは言え、優しくわかりやすくすんなり読めました。
    前半は妻のラモ・ツォのひたむきな前進物語。サクセスストーリーとも読めてしまう程なのですが、先述の通り繊細な事情があるため詳しくは描けないのでしょう、推して知るべしという所。そして後半は夫トゥンドゥップの過酷な虜囚生活と、人道的のかけらもない拷問・監禁の数々の告白。

    チベタン・フリーに関してのデモは日本では白い目で見られて悲しいという著者の感想については、日本における難民生活・難民保護といった人権擁護についての考えの曖昧さ・既存団体のきな臭さが原因だと思われるのですが、これは長らく日本が単一国民国家であるという教育を受け続けてきたためであると思います。著作の中で、チベット侵攻から60年経つ事で若い人たちがチベット語を話さなくなったり、チベット仏教への理解が乏しくなっていくという事と同義で、様々な問題は時間の経過とともに薄れていってしまうものです。
    そのため、こうした本がもっと書かれて、読まれて、繋いでいかなければならないと、改めて思いました。

  • とあるチベット人権活動家が、国際報道自由賞を取り拘束され獄中に監禁されたことを機に、チベット自治区に対する中国政府の扱いや対応が、人権問題として国際世論にまで発展しました。
    その活動家の妻がどのように生活し、なぜ、そしてどのように亡命したのかが、
    チベット人の心情、そして信条も踏まえて、リアルに描かれています。
    いわゆる密着ドキュメンタリーに該当すると思います。
    割とすらすらと読めました。

    日本のテレビ番組でも取り扱われない話題だと思うので、
    そのチベットの人権活動家が拘束された裏側で、家族には一体何があったのか?
    チベット人目線ではどういった状況だったのか?
    こうしたことを知れる良本だと思います。
    もちろん事実の一側面であることは承知の上です。

    特に私はそうなのですが、おそらくごく一般的な暮らしが保障されてると言えるであろう日本人からすると、 
    ニュースの向こう側の出来事として、「亡命」と一言で片付けてしまうことが出来ますし、どこか現実味がないところもあるかもしれませんが、
    本書を通して、これまでニュースの向こう側の出来事であった、亡命やチベット問題、はたまたその他地域の同類の状況への見え方が変わりました。
    読んで良かったです。

  • 読みやすい書き方で、チベット人の亡命生活、獄中生活などが書かれています。

    これほどの内容を、こんなにサラッと読んでしまってはいけないのではないのかな、とも本を読みながら思ってしまいました。
    チベット人の人たちの人生を知ることができました。

    妻のラモ・ツォさんは学校へは通ったことがなくて文字の読み書きができません。
    亡命生活、投獄されるまでの経緯、過酷な獄中生活。
    自分だけではなくて多くの日本人に果たしてこうした境遇を乗り越えていけるのかなとも思いました。

    こうしたチベット、東トルキスタン、ウイグルでのこととか知れば知るほどに、中国人が力を持ってしまうと、数の力で恐ろしいことも集団で平然と行ってしまう国民、という印象を持ってしまいます。

  • 授業で感想を書いたらいただいた本。
    現代で起きているとは信じ難いチベットでの生活や中国政府による統制。
    読んだことで無関心ではいられなくなった。
    あと、一つの家族を追うストーリー仕立てだったから、より読みやすかったし心に響いた。

  • 辛さも分かち合えれば、少し和らぐ。
    でも幸せを分かち合うことができないと、それが不幸になってしまうのね。

    どんな理由があるにせよ、家族が離れて暮らさなければならないのは辛い。
    「成績がすごくいいんですよ」って学校の先生に子どもを褒められて、「これを聞いたら夫も喜ぶだろうな」と考えた瞬間が辛かったって部分に涙。
    もちろん辛いときなんて毎日なんだろうけど、辛さをより感じるのは幸せなときなんだね。

    政治とか人権がどうとかというよりも、人間の気持ちとか心の在りようについて考えさせられる。

  • 「第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞」を受賞された2作品のうちの1つということで、期待して読みました。
    チベットを始めとする、政治的な中国

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