うらめしい絵: 日本美術に見る 怨恨の競演

著者 :
  • 誠文堂新光社
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784416516676

作品紹介・あらすじ

東洋の五行思想において人間の感情は喜怒哀楽怨の5つに分けられるといいます。
しかし日本人にとっては、「喜怒哀楽」の四文字熟語のほうがなじみ深いでしょう。
では、「怨」はどこへいってしまったのでしょうか?

日本では「怨」の文字を「うらむ」と訓読します。
この漢字の成り立ちをひもとくと、上の「タ巳」の部分は人が座って祈る形を象ったもので、
その下に心臓を象った「心」が組み合わされています。
怒りや悲しみ、憎しみなど心に憂うことがあって、神にその苦しい胸の内を訴え祈るような心情が「怨」の文字になったのです。
一方で「うらむ」には「恨」の字を当てることもあります。
こちらは、忄(=心)と艮(邪眼の呪禁に退く人)が組み合わさり、「欲する所をえないで、不本意とする状態」を示した文字で、
そこから、うらむ、不本意とする、いかる、にくむ、悲しむ、悔いる、惜しむといった意味を示すようになりました。
こうしてみると、「うらむ」という語は、さまざまな感情が内包された多義的な語であることがわかります。

古語辞典を紐解くと「うらめし」とは「相手の態度が不満なのだが、その相手の本当の心持を見たいと思い続けて、
じっとこらえている気持ち。
また、不満を表面には出さず相手に執着し続けて、いつか執念を晴らしたいと思う気持ち」だと説明されています。
じっとこらえて表には出さない感情。
それが日本人の感情表現において喜怒哀楽から「怨」が欠落した所以かも知れません。
しかし、そうした内に秘めた情動こそ、人間の本質に迫りうるものなのではないでしょうか。

日本美術には、そうした負の感情を描いた作品が数多くあります。
美しいものを描いた絵と同じぐらい、本来は目を背けたくなるようなものを描いた絵にも、人を惹きつける力があります。
なにやら思い詰めたような険しい表情の女性。
乱世のなかで非業の死を遂げた者たち。
「うらめしや〜」の決まり文句とともに現れる幽霊。
では、なにがそんなにうらめしいのか、気になってきませんか?

一枚の絵のなかには、彼らが胸の奥に押し殺してきたさまざまな想いが隠されています。
本書では、そうした作品に秘められた物語をひもとき、恐ろしくも人を惹きつけてやまない画家たちが描いた
「うらみ」の世界を紹介します。

感想・レビュー・書評

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  • 『うらめしい絵: 日本美術に見る 怨恨の競演』|感想・レビュー - 読書メーター
    https://bookmeter.com/books/12997925

    【聞きたい。】田中圭子さん 『うらめしい絵 日本美術に見る怨恨の競演』 心をざわつかせる何かがある - 産経ニュース(2018/9/16)
    https://www.sankei.com/article/20180916-CCOZE3VLIBIPTPX2STE3HRVK7I/

    うらめしい絵 | 株式会社誠文堂新光社
    https://www.seibundo-shinkosha.net/book/art/20740/

  • とても楽しく読んだ。ひとつひとつの作品に対する解説文が長く、読み応えがある。

    絵画作品を鑑賞するにあたって必要な、
    ・その作品の題材に関する知識
    ・その作品が描かれた時代背景に関する知識
    ・その作品を描いた人物に関する知識
    がすべて網羅されており、絵画鑑賞がより楽しくなる。画集や美術展図録などだと、解説文が短く上記が全て網羅されていない場合も多いので、貴重だと思う。

    中でも印象に残ったのは、上村松園の「焔」で、何度か実物を見たことがあるが、あれが六条御息所を描いた絵だということは初めて知った。また六条御息所についても、ステレオタイプ的に、源氏に恋破れて嫉妬に狂って生霊を飛ばす年増女という浅い捉え方をしていたので、彼女が賢明で自律心の強い女性で、気持ちを抑えに抑え付けた結果として魂が抜け出てしまったという設定を知り、絵の見え方もかなり変わった。

    美術館にはよく足を運ぶ方だが、一点一点の作品に対する理解はまだまだ浅く、絵画の魅力を半分も理解できていないのだろうなぁと感じた。もっともっと知識を身につけて、作品を深く味わえるようになりたい。

  • 「怖い絵」の完コピ本だけど、著者の視点も知識も文章もちゃんとしてるので面白かった。第二の中野京子先生になれるかも。上村松園「焔」、島成園「おんな(黒髪の誇り)」あたりが筆致が濃く、著者の得意分野なのかもしれない。
    上村松園「焔」は以前展覧会で見たが、そのときこういう解説があると良かった。臀部に目線がいく着物の蜘蛛の巣の模様とか、そこに添えられた立てた小指とか、また作品を観たくなった。源氏物語の物語の葵の上と六条の御息所のエピソードの解説も分かりやすく、別項の夢幻能の話と併せて読むとなおさら興味深い。
    村上華岳「日高河清姫図」はさくらももこの絵のような可愛らしい娘が夢見るように目をつぶり、手を前後に差し出して目の前の川に向かってに走っていく、この少女が清姫で、大蛇に変化して安珍を焼き殺すのだ。これいちばん怖いかも(あ、『うらめしい』がテーマでした)。村上華岳について知らなかったので、今度意識して見ようと思った。
    鳥山石燕「大森彦七図」、拡大図版のおかげで緑色の鬼婆の恐ろしさが鮮明にわかる。
    甲斐庄楠音「畜生塚」、豊臣秀次の妻妾たちを大量処刑したこのエピソードは大河や歴史小説で何十回も目にしてきたが、こうした絵画で、しかも肉感的な筆致で見せられると、それが本当にあったことであり、残虐さや悲劇性に改めて気がつき、ショックを受け、胸を打たれた。しばらく目が離せなかった絵。
    三代歌川広重「瞽女の幽霊」、これも全生庵で見た。絵はあまり好きではないが、瞽女の解説と、「三代目」広重の素性が興味深い。(歌川広重何代もあったって知らなかった)。
    鏑木清方「朧駕籠」、清方は美術館や博物館でしょっちゅう目にするのであまりちゃんと見たことなかったけれど、この絵は惹きつける何かがある。元になってる浄瑠璃の話自体はそんなに興味を惹かれないけど。
    島成園「おんな(黒髪の誇り)」、これがいちばん面白かったかな。白眼とボワッと描かれた黒髪とがなんともいえず怖く、確かにロセッティとかラファエロ前派の作品を思い出す。絵もいいが、それよりも島成園という画家のエピソードに惹かれた。紹介されていた「祭りのよそおい」「無題」「伽羅の薫」、ウェブ上の小さい図版でもスゴイ作品と感じる。
    橘小夢「牡丹灯籠画譜」、牡丹灯籠はちょうどこの前落語で聞いたばかりだけど、このビアズリー風の絵は牡丹灯籠の世界観にぴったり。

  • 特に日本画に強い関心があった訳ではなくて、円山応挙とか鏑木清方くらいは知ってるけど…みたいな感じでしたが、「うらめしい絵」というタイトルに惹かれて読んでみました。

    日本美術の、特に女性表象を専門とする研究者の田中圭子氏が、恨みを残して亡くなった者の情念や未練を描いた作品のエピソードや絵師のプロフィールなどをわかりやすく解説しています。

    解説の文章表現も豊かで、作品の魅力が強く伝わってきて解説に出てくるだけで図版のない作品などはYahooで画像検索して見たりもしたほど。

    絵師のエピソードとしては、大正の時代に僅か二十歳にしてどこの画塾にも属さず、ベテラン画家を制して入選し、モデルの内面を描き出すような作風で名声を得た女流画家、島成園が印象に残りました。

    名声を得てからもどんどん自分の世界観を構築して実力をつけていくんですが、画家としての成熟の頂点とも思われる時期に父と兄に勝手に縁談を決められて結婚、そして結婚を境に絵に対する情熱、意欲が削がれ、その類稀な才能を失っていったというエピソードは、時代が違えば…と思わずにはいられません。

    島成園という画家はこの本を読むまで存じませんでしたがこの本をきっかけに強い関心を持ちました。

    「うらめしい絵」という切り口でさほどの興味もなかった日本画作品に強い興味を持たせてくれたこの著書、めっちゃおすすめです。

  • うらめしい絵: 日本美術に見る 怨恨の競演。田中 圭子先生の著書。恨みの世界や怨恨の世界は奥が深い。恨みや怨恨は日本の歴史に深く刻まれている。だから恨みや怨恨まみれのうらめしい絵がたくさん残っている。恨みや怨恨まみれのうらめしい絵を描こうとした画家がたくさんいる。これからも恨みや怨恨まみれのうらめしい絵が生まれてくるはず。

  • (2022-10-25)

  • 中野京子さんの『怖い絵』シリーズのフォロワー…に留まらず、より深くへと入ったような一冊。純粋に1作についてのページ数が多い。
    探せばまだまだ見つけられそうなジャンルだけに、是非とも続いてほしいところ。

  • 絵のアップと全体が掲載されていてインパクト大。絵の周辺、画題の背景や元ネタ、作者のプロフィールもあり懇切丁寧。

  • 詳細も多く書かれていて大変読みやすく、幅広いことに興味が持てた
    牡丹灯籠、めちゃくちゃ気になる…

  • 日本の”うらめしい”絵(幽霊や怨霊、妖怪等)を集めて紹介した本。描かれている絵の題材の説明と、画家のプロフィールなどがしっかりと紹介してあり、読みやすくて良かったです。

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著者プロフィール

■田中 圭子(タナカ ケイコ)
学術博士。ロンドン大学SOAS大学院修了、立命館大学大学院博士課程を満期退学。
現在、東京都教育庁文化財調査担当学芸員、明治学院大学文学部非常勤講師。専門は日本美術史。
主著に『日本髪大全』(誠文堂新光社、2016)、『うらめしい絵』(誠文堂新光社、2018)。

「2020年 『花街と芸妓・舞妓の世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田中圭子の作品

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