野の医者は笑う: 心の治療とは何か?

著者 :
  • 誠信書房
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本棚登録 : 822
感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784414400960

作品紹介・あらすじ

ふとしたきっかけから怪しいヒーラーの世界に触れた若き臨床心理士は、「心の治療とは何か」を問うために、彼らの話を聴き、実際に治療を受けて回る。次から次へと現れる不思議な治療! そしてなんと自身の人生も苦境に陥る……。それでも好奇心は怪しい世界の深奥へと著者を誘っていく。武器はユーモアと医療人類学。冒険の果てに見出された心の治療の本性とはなんだったのか。「心が病むってどういうことか?」「心の治療者とは何者か」そして「心が癒やされるとはどういうことか?」底抜けに楽しく、そしてほろりとくるアカデコミカル・ノンフィクション!

感想・レビュー・書評

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  • ヤブ医者、野巫医者(祈祷師や陰陽師などシャーマニックな治療を行う人たちのこと)、…野の医者!

    「私たちの日常は実は怪しい治療者に取り囲まれているのではないか。彼らを「野の医者」と呼んでみたらどうだろう。近代医学の外側で活動している治療者たちを「野の医者」と呼んで、彼らの謎の治療を見て回ったらどうか。」

    そのような著者の思いつきから、野の医者研究は始まる。それは臨床心理学や精神医学、心を治すということについて改めて問いかけ揺るがす試みであった。
    著者の相変わらずユーモラスな文章で楽しく、そして深い内容に興味が突き動かされて一気に読んだ。
    自身も就活に苦しみながら、資金を得て、研究のためにヒーリングを受けてみたらヒーリング中毒になってみたり。
    自身も講座を受けてマインドブロックバスターになってみたり。
    著者はさまざまな野の医者に出会う。
    治療を受けながら取材をして、彼ら彼女らのミラクルな日常に触れていく。
    野の医者は女性の方が圧倒的に多く、また、そもそも沖縄には野の医者がとても多い。
    そこには沖縄の貧困問題などの諸問題も関係しているようだ。
    野の医者になる人はだいたい壮絶な人生を生き、野の医者に癒され、自身も他人を癒そうとする。そうすることで、癒され続けるのだ。
    「私たちは今、軽薄でないと息苦しい時代に生きている。だから、軽薄なものが癒しになる。」

    本当に読み進めれば読み進めるほど面白い。
    臨床心理学と野の医者その他の違いについて、「そもそも何が治癒なのかが治療法によって違うのだ。」と著者は考えた。
    そしてきっと一番重要なのは、
    「治癒とはある生き方のことなのだ。心の治療は生き方を与える。そしてその生き方はひとつではない。」

    「治療の種類によって、何が治癒であるかが違うのだ。だから、それらは互いに互いのことを非難して、嗤う。…互いが互いの治癒を偽物だと思ってしまうのだ。だけど、事実としてあるのは、世間には本当に色々な種類の心の治療があり、多かれ少なかれそれらによって心癒された人がいるということだ。」
    「そして、何より大事なことは、現代日本社会では多様な生き方が許され、実際に共存していることだ。…私たちはそういう時代を生きている。だからこそ、私たちの社会は多様な心の治療を抱えて歩んでいる。つまり、様々な生き方があり、様々な健康があり、そのための様々な心の治療があるのだ。」

    「心の治療とは、クライエントをそれぞれの治療法の価値観へと巻き込んでいく営みである。」

    大事なことがたくさん書かれた本だった。
    そのせいか感想が引用だらけになってしまった。心に留めておきたい。私たちは、心の在り方も治し方も、自由であっていいのだ。
    「人は好きなように生き方をプリコラージュして、逞しく生きていくのだ。」

  • ・怪しげなヒーリングなどを使う医者を「野の医者」とし、沖縄の臨床心理士である著者が野の医者の研究にトヨタ財団の研究費を使って沖縄の周囲にある怪しげな民間療法を体験していくノンフィクション・ストーリー
    ・野の医者は自分が元々病者であり、ヒーリングなどの療法で回復した経験から自らが治癒者となる傾向を掴む。
    ・野の医者とは傷ついた治療者であり、患者でもあり、相手をヒーリングする事で自らを癒している
    ・心の治療はその時代を写す鏡であり、宗教からセラピー、マーケティングへと流行が移り変わっていく
    ・心の治療は思い込みであり、それぞれの人生に合った治療法があると言うことを、自らの体験を面白おかしく記しながら著者は結論付けている

  • 「居るのはつらいよ」は医学書院の学術書だった。はず。

    まるでポップな文章で私の心を鷲掴みした臨床心理士東畑さん。沖縄のデイケアを辞めて、さて次は?という間に、せしめた研究費で研究した沖縄の野の医者たちのこと。

    野の医者とは?医師免許を持ってたり、もってなかったりして、ミルミルイッテンシューチュー、などオリジナリティあふれる治療法で、何かを良くする医者のことを指している。

    占いだったり、ヒーリングだったり、あれだったり、これだったりしてるけど、結果して「とても気持ちが楽になりました!」と言わせてみせる。すごい人たちだ。

    東畑さんはその人たちを研究して、体験する。虎穴に入らずんば虎子を得ず。

    自分が学問として学び、習得していると思っている「心理学」とは?「臨床心理学」とは?と悩み続けている。続かないけど。

    相変わらずポップな語り口で、数打ちゃ当たる野の医者に学び、金を払い、しまいには経営するバーに入り浸るなどするフィールドワークを重ねる。

    なぜ、野の医者なのか
    なぜ、沖縄なのか
    なぜ、一様に貧しく苦労してきた人が、人のためになりたいと、施術者になるのか

    東畑さんがたどり着いた答えの一つにはっとした。

    “私たちは今、軽薄でないと息苦しい時代に生きている。だから、軽薄なものが癒しになる”

    沖縄の抜けるような青空の下、みんなで笑い飛ばす。躁状態になることが1つのゴールである。

    悩みも、つらさも、対応策も、時代によって違う。今の、この時代に即した、即興の解決が「野の医者」の大量発生なんじゃないか。  

    稼げ、稼ぐためには効率化しろ、無駄を省け、金は出すな、出させろ、心を砕くな、閉じて相手に開かせろ、負けるな、人より儲けろ、それができた人だけが、勝ち残れるんだ

    そんな呪詛を知らず知らずのうちに聞かされてたのかもしれない。そして、疲れた。

    指先にできた切り傷ならば、治ってきていること、治ったことがわかる。

    でも、心はそうはいかない。

    いつどうやって傷ついたのか、治ってきてるのか、もっと深く傷ついているのか、わからない。

    だからこそ、学問として、心のことを学びたかったんだろう。

    占いや、ヒーリング、心を癒す方法を常に探し求めている人には、ハッとするところがあるかもしれない。

  •  『居るのはつらいよ』を、読みながら笑い、笑いながら読んで、それでいて大事なことに気付かされる、そんな読書体験をさせてもらったので、ほかの著書も読みたくなった。そんな訳で、本書。

     本書は『居るのはつらいよ』より早い時期の刊行であるが、現実の時間としては、同作より後の時期のことになる。
     沖縄の精神科クリニックで働いていた著者は、トヨタ財団の研究助成プログラムに「野の医者の医療人類学」というテーマで応募し採用されたのだが、内地の就職活動がうまく行かず、無職の状態で、野の医者への突撃、調査をしなければならない状況に追い込まれる。(助成を受けるに当たってのやり取りや就職が失敗した辺りのトホホ感が実に面白い)
     
     ヒーリング、アロマ、パワーストーン、オーラソーマなど、様々な野の治療の世界に飛び込み、実際に経験し、治療者の人生や考え方を聞きながら、著者は考えを深めていく。
     いろいろな人から話を聞くことで、野の医者といっても、零細な者たち(トカゲという喩え)と、理論と技法を教えることを主とするマスターセラピスト(ドラゴンという喩え)とがいることが見えてくる。
     
     そしてまた、こうした経験を通して著者は、自らの専門である臨床心理学と野の医者の文化とがどう違うのかという問いに向き合うことになる。もしかすると、心の治療は、"ブリコラージュ"なのかもしれない。臨床心理学も科学たらんとしているが‥‥。



    〈気になった文章をメモ代わりに〉
    ・野の医者たちは誰かを癒やす機会を欲している。そのことで自分自身が癒やされるからだ。(134頁)
    ・野の医者は治癒を与えるのではない。ひとつの生き方を与えるのだ。(138頁)
    ・時代によって、心の治療は変わっていく。その時代時代に合わせて、鏡の中の像のように姿を変えていく。それでも、私たち治療者は、より良い心の治療を求めて、探究と研鑽を重ねる。(245頁)
    ・治癒とはある生き方のことなのだ。心の治療は生き方を与える。そしてその生き方はひとつではない。(266頁)

     内容は極めて真面目なものなのだが、著者の文章の上がり下がりが楽しいし、登場人物の多く、特にトカゲの人たちのおおらかさ、楽天性が気持ち良い。
     著者の目指す、笑える学術書、"アカデコミカル・ノンフィクション"として、とても楽しめる。
     

  • 笑いながら泣きながら読んだ。凄く凄く考えさせられた。沖縄では所得などの問題から野の医者という形である種の自己実現をしている(特に)女性が多いようだが、都会だと、例えば(特に自分の子に対して)教育という形で同じような構造になっているんではなかろうか。

  • 治療とは何か?臨床心理学とは何かを明るい切り口で、問いかける根底はすごく真面目な本だと思った
    印象に残ったのは「治療とはある生き方のことなのだ。心の治療は生き方を与える。そしてその生き方は一つではない」
    ここが作者の言いたかったことじゃないかなと思った。
    臨床心理学がやっている治療も野の医者がやってる治療もある信念に沿って、患者にある生き方を目指してもらう行為。
    臨床心理学だったらいわゆる普通に社会で働くとかっていうことを目標にしてると。
    ただ、どう生きるのかを導く治療は臨床心理学だけじゃなくて、他にも色々あっていいんだよと、人類学的に言う相対化を爽やかにしているのがこの本の素晴らしいところだと思った

  • 心の治療における臨床心理学と民間療法
    その違いと共通点をフィールドワークして考察した本

    身体的疾患を診る内科医の自分たちにも当てはまると思った
    患者が医療者を信頼できるかどうかによって治療効果は一部変わるから、民間療法的な要素が実はあるってことだ

  • 沖縄のスピリチュアルの話なんだけど。なんかひょうひょうと軽い。沖縄の経済的な状況その他の状況がチラリちらりと見える。あっけカランとして見える。認識は後退しない。人は好きなように生き方をブリコラージュしてたくましく生きていく、治療は時代の子。
    すごく学になってるのが面白かった。

  •  臨床心理学者のノンフィクションですが、ユーモアたっぷりで爆笑しながら読みました(笑)

     沖縄には野の医者がたくさんうごめいているんだそうですが、彼らは寄せ集めた技法で治療します。

     学問側から見たその治療は?

     怪しいものが好きで堪らない東畑さんの快著。

     笑って元気♪

  • 臨床心理士の東畑先生がヒーリングの世界に自ら浸かりながら、ヒーリング、臨床心理学とはどういうものかを見つめ直す本。東畑先生、文章うまい!ぐいぐい読めました。サイコーさ!ミラクルさ!

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著者プロフィール

1983年東京生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)・臨床心理士。専門は、臨床心理学・精神分析・医療人類学。白金高輪カウンセリングルーム主宰。著書に『野の医者は笑う―心の治療とは何か?』(誠信書房)『居るのはつらいよ―ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)『心はどこへ消えた?』(文藝春秋 2021)『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(新潮社)など。『居るのはつらいよ』で第19回(2019年)大佛次郎論壇賞受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2020受賞。

「2022年 『聞く技術 聞いてもらう技術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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