国家と資本主義 支配の構造

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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784413232593

作品紹介・あらすじ

ほとんどの大人が知らない、世の中の「残酷な真実」とは――?
資本主義とナショナリズムの現代に生きるわたしたちは、それと気づかず〝支配の構造〟に巻き込まれ、マインドコントロールされています。そしてこのなかで植えつけられた価値基準でしか、物事を判断できなくなっているのです。
現代社会で心折れずに生き抜くためには、〝支配の構造〟を見破り、自分の置かれている状況を俯瞰して見つめることが、とても重要になってきます。
佐藤優氏が、社会人類学者アーネスト・ゲルナーの名著『民族とナショナリズム』をテキストに、現代の〝支配の構造〟を解き明かし、だまされずに賢く生きるための思考法を伝授します。

感想・レビュー・書評

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  • アーネストゲルナーの『民族とナショナリズム』というテキストをベースに同志社大学の学生に向けて講義が進められる。読書会のようだ。講師の個人的体験や脱線による知識の連鎖が楽しめる。

    しかし、驚いたのは学生の出来の良さだ。事前課題があったのだろうが、ベルベン人なんて、普通の学生は即答できない。モロッコは人口の半数近くがベルベル人。サッカーフランスのジダン選手もベルベル人。沢尻エリカも父親が日本人で母親がフランス育ちのベルベル人。白人系の顔立ちだが、モロッコでは社会的な地位が低く、ゲルナーが研究を始めた当時の白人主義的な一般的な価値観に反するため、ゲルナーは興味を持ち、このベルベル人の研究を始めたというのだ。

    その研究手法として、デビット・ヒュームの懐疑論を用いた。ヒュームは、精神や神、因果関係すらも人間が生み出した、ただの観念に過ぎず、普遍的な真理とは言えないと考える。また、ヒュームの考え方に振り子理論というのがある。ヒュームによれば、人類の歴史は振り子のように右左に振れているだけでほとんど進歩しないと言う。

    2014年にイギリスからスコットランド独立の是非を問う。住民投票が実施されたが、僅差で独立反対の意見が勝った。スコットランドとイングランドの食文化は違うが、言語は同じ。なのに強いナショナリズム運動が度々起こっている。スコットランド人とイングランド人と区別するポイントは、歴史的経験だ。地球上に言語が約8000だが、国家は200程度。言語が国を規定するのではなく、政治範囲と教育が国を規定する。教育により人的資源を作り、産業を発展させ、その資本から徴税し、国力を強める。

    またエスニシティ(民族性)という視点では、国が違っても歴史を共有する意識を例示する。ユダヤ人やコリアンタウンなど。アメリカではイギリス文化がエスニシティ。1620年にピルグリムファーザーズがイギリスからアメリカに渡りこれに続いて多くのピューリタンがアメリカに入植した。

    国境にさえ規定されぬアイデンティティ。自らの歴史認識を共有できる同族がいれば、その国の政治制度や文化を甘受するか、場合によっては国を替える事もできる。個人に対して、今や国家や制度は絶対ではない。イデオロギーよりも、アイデンティティというわけだ。しかもアイデンティティは相対的に知覚されるもので、白人的な優位性は、別の場所では認められない事もある。

    面白かったのは、もう一つ。現代社会にも存在する去勢の仕組み。それは国家試験制度。血縁や縁故による特権階級の独占を防ぐためのシステムである。しかし現在は、医者になるためには、富裕層の家庭であるとか、親も弁護士だから、弁護士を世襲させやすくなるとか、社会全体の二極化が進んでいる。権力の暴走をいかに防ぐかを腐心するという事は、優生学の本能的忌避感を拾うのかも知れない。

    所属する集団とは別に、アイデンティティによる繋がりを持つことは防衛・生存本能の発露だろう。

  • 私の手元にある本は帯が無く、
    白一色につまらなそうなタイトル。
    しかし読んでみるとこれが面白い!

    昨年1月~4月同志社大学新島塾有志に行った
    アーネスト・ゲルナー著『民族とナショナリズム』講義をもとに構成したもの。

    いままでも佐藤優さんが本を読み解く講義を書籍化したものを読みました。
    自分一人で読んでも到底理解できないし
    講義という形がとてもわかりやすくなっていて、好きです。
    時々脱線(いえ、計画的に途中停車しているのかもしれない)する内容がまた面白いのです。

    でも他の本で、佐藤優さんは教育からいったん離れて
    執筆に専念していきたい、と知りました。
    もしそうだとしたら、私以上に同志社後輩の皆さんががっかりなのではないでしょうか。

    いくつか小見出しをのせておきます。
    ●自分の手は汚さずに暴力を行使する、イギリスの冷徹なやり方
    ●産業化する社会で虐げられた者が、民族としての意識に目覚める
    ●会津藩や沖縄では、なぜ「独立運動」が起きなかったか
    ●伝統でつながる集団が「政治性」を帯びると、ネーション化する
    ●世界中に離散したユダヤ人が、国家を樹立できたのはなぜなのか
    ●ナショナリズムが機能不全を起こすとき、「新宗教」が顔を出す

    今年4月に書かれたあとがきには、ロシア侵攻の構造的要因について書かれています。
    ウクライナ問題を知りたい皆さん必見。

    最後に佐藤優さんによる知性についてを載せておきます。

    〈ほんとうの知性というのは、ある理論や思想を身につけたうえで、物事を「相対化して見る力」だとわたしは思っています〉

    〈知性とは、それまでの常識や絶対的と信じられているものをどんどんと相対化し、新しい視座を得ることなんです〉

    佐藤優さん、今後とも良書の執筆をお願いします。

  • 2021.1〜4月、同志社大学新島塾の有志20名と行った読書会の記録がベース。自国の文化や歴史を誇り独立性を維持しようとするナショナリズムは現代における一種の宗教。農耕社会から産業社会に発達し、階級・職業・居住地の流動性が高まり、社会が要求する均一な人的資源をつくるための教育で生まれた。

    著者と受講生の会話で構成されています。対象の本、著者の学識や知見、受講生の読み込みや下調べ、いずれもすごいです。

  • 佐藤優氏の著作は勿論ハズレはないが、講義形式の本は大変わかりやすく私のような凡人にもストンと理解できる。「民族とナショナリズム」を読解する力は無くても読んだ気にさせてくれる。タイトル通り、狩猟・農耕から資本主義に至るまでの国家、民族、ナショナリズムの源泉を理解できる。

  • 中央集権国家には水道が重要。ウクライナのゼレンスキー大統領はナショナリズムをにより権力を強化した。
    これを大学2回生、3回生がやっていると思うとレベルの高さに驚きます。

  • アースト・ゲルナーの「民族とナショナリズム」をテキストにして、現代の支配構造を解き明かす。学生への講義録なのでわかりやすいのではないかと思ったが、難しかった。

    ゲルナーは、社会を前農耕社会、農耕社会、産業社会という三つの発達段階で分けて考える。前農耕社会は誰も読み書きができる者がいない時代、農耕社会は少数の者が読み書きできる時代、産業社会は全員が読み書きできる時代。

    農耕社会では、政治権力と文化認識の集権化が起き、少数の支配者層が圧倒的多数の農耕民を支配する構図になる。支配者層の内部では、軍事的、行政的、宗教的、商業的な階級の階層化が水平的に行なわれる。一方で、農民たちは狭い共同体の中で土地に縛られて生きており、隣同士は土地や水をめぐって対立していた。こうして、支配階級と被支配層の間には、水平的な文化の裂け目が築かれることにより、社会は安定していた。

    産業社会になり、階層の束縛から自由になると、ばらばらになった個人は孤独と不安を抱えながら競争社会で戦い続けることになる。産業社会に対応するためには、識字能力と計算能力が必要だが、その教育を広く行うことができるのは国家しかない。国家による教育によって国民の言語や認識が共通化される。その結果、国家は文化的に同一の組織になり、ナショナリズムの意識が生まれてくる。祭りの多くは、明治以降の近代になって国によって意図的につくられた。それを日本人はあたかもずっと守られ続けてきた伝統文化であると錯覚している。

    水資源対策が必要な環境で大規模な農業を行うためには、大規模な水資源の管理が必要なため、中央集権の巨大帝国になる(カール・ウィットフォーゲル)。

    日本共産党のウェブサイトによると、公安調査庁は、アメリカと大企業の利益最優先の政治を守るために、そうした政治を進める上で障害となるとみなした国民の運動を監視することが最大の課題になっている。

    タブレットを導入した教育は、新しい形のプロレタリアートを増産している。エリート層たちはタブレット端末を触らせない教育を受け、プラットフォームやアプリケーションを構築する側に回る。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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