享楽社会論: 現代ラカン派の展開

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  • 人文書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784409340516

作品紹介・あらすじ

精神分析が導く現代資本主義社会の突破口 



ジャック・ラカンが提出した「剰余享楽」「資本主義のディスクール」といった概念は、現代社会の現象の把握のためにきわめて有効だ。本書では力強く展開する現代ラカン派の理論を紹介するとともに、うつ、自閉症、ヘイトスピーチといった、臨床や政治社会における広範な事象に応用し分析を試みる。精神分析の言説に新たな息吹をもたらす、ラカン派の俊英による鮮やかな社会論。



「こうして、「不可能な享楽」は「エンジョイ」になり、〈父〉はデータの番人になった。現代の私たちは、後者による徹底的な制御のもとで、前者の「エンジョイ」としての享楽の過剰な強制――「享楽せよ! Jouis !」という超自我の命令――によって、そして、その結果として消費されるさまざまなガジェットがもたらす依存症的な享楽によって慰められながら、徐々に窒息させられつつあるのではないだろうか。だとすれば、そこから抜け出すことはいかにして可能なのだろうか?」(本書より)

感想・レビュー・書評

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  • 現代ラカン派の「享楽」というキーワードを現代の精神医学や政治と絡めて論じた刺激的な一冊。
    著者によるラカン派精神分析の説明は「人はみな妄想する」に引き続きラカンを主題にしているとは思えないほど飲み込みやすい。
    特に本書では現代型うつ病や、レイシズム・極右の勃興、反安倍などの身近な社会の動きを例に「享楽」という考え方を知ることができる。
    後半の政治にまつわる章はジジェクやラクラウ、ムフ、スタヴラカキスあたりのラカニアンレフト政治学についての簡潔な入門としても使えるだろう。
    現代におけるラカン派の射程を知るのに非常に参考になった。

  • 「享楽」というキーワードにもとづいて、後期のラカンやミレールを中心とする「現代ラカン派」の思想の意義を測定する試みです。

    本書は、前著『人はみな妄想する―ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』(2015年、青土社)と並行して書かれた論文を集めたもので、「理論」「臨床」「政治」という三部構成になっていますが、第一部の「理論」に収録されている論文において、ラカンの後期の思想が解明されています。

    ミレールは、エディプス・コンプレックスにおける「父」のような象徴秩序を統御する第三項が機能していたフロイトの時代とは異なり、現代では「父」が複数化し、象徴界の機能不全に陥っていると主張します。このような時代においては、かつてラカンが象徴界に参入することと引き換えに断念された「享楽」が全面的に解放されることになり、フーコーの生権力論において批判されているような社会がもたらされることになると著者は考えています。本書のタイトルになっている「享楽社会」とは、このような社会のありかたを意味しています。

    こうした本書の枠組みのなかでは、かつてのラカン思想の批判者だったドゥルーズ=ガタリも、「現代ラカン派」と共通の問題意識をもつ思想家として理解されることになります。ただ、本書におけるラカンのキルケゴール解釈を見るかぎりにおいては、いまだドゥルーズ=ガタリの提出している「n個の性」の立場とはへだたりがあるように感じられます。キルケゴールが、レギーヌ・オルセンを欲望の対象としてまなざす立場からしりぞくことによって「神の愛」の立場へといたったという解釈は、なお否定神学的な発想をまぬかれていないように思えます。

  • 享楽社会論: 現代ラカン派の展開

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著者プロフィール

松本 卓也(まつもと・たくや)
1983年高知県生まれ。高知大学医学部卒業、自治医科大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。専門は精神病理学。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。著書に『人はみな妄想する ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』(青土社、2015年)、『発達障害の時代とラカン派精神分析』(共著、晃洋書房、2017年)、『創造と狂気の歴史 プラトンからドゥルーズまで』(講談社メチエ、2019年)、『心の病気ってなんだろう』(平凡社、2020年)など。訳書にヤニス・スタヴラカキス『ラカニアン・レフト ラカン派精神分析と政治理論』(共訳、岩波書店、2017年)がある。

「2020年 『現実界に向かって』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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