- Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
- / ISBN・EAN: 9784409130391
作品紹介・あらすじ
だけど、大人ってなんだ、それに老人ってなんだ?
歳を取った子どもだよ
老いるとは? 長年つれそった夫婦の愛情とは?
共産党時代のソ連への旅のなかで、ささいな誤解から生じた老年カップルの危機と和解。
男女それぞれの語りが視点を交互に替えて展開される。大きな話題を呼んだ傑作小説!
老夫婦におこった擦れ違いを繊細な筆致で描く。
「作品全体を通して流れているのは、他者との意思疎通の問題である。しかしながら、この小説はとりわけ、老いがもたらす影響――身体の衰弱、性へのあきらめ、計画の断念、希望の喪失といった苦くつらい影響への探求へと向かう。」------エリアーヌ・ルカルム=タボンヌ 序文より
感想・レビュー・書評
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パリに住んでる退職した夫婦が、夫の元妻との娘に会うためにモスクワを訪れる。活字が大きくページも少なく、要するに短い文章。短い故に解りづらいのか。結構予習が必要なやつなのかも。どうも、住んでいる娘にとっても、外国人には優しくない土地、というサゲがあちこちにかいまみえる。妻は女性の地位の向上のために尽くしたつもりが達成せず、この国で男女間のしがらみを感じずに生活できてきた娘を羨ましく感じたり。一見普通の旅行滞在なんだが、背後に潜む作者の意図、が解説ありきなのがなあ。ナチュラルに老いに向き合う姿勢が仏っぽい。
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ボーヴォワール=小難しそうと思うほどの知識しかないが、初訳の本書はとてもリーダブル。小説は若いときに読んだほうがいいと言われるし同意するが、これは中高年こそ読むべき。その歳でなければ理解できない老いの実感が詰まっている。
これまでは男と女だとお互い意識していた、しかしある時ハンサムな若者の完全な無関心、こちらが80歳の老人でも同じという態度に気づいた時から世界が変わったという記述。新しい洋服を着ても鏡の中に魅力的な自分を見出せないという記述。体力の衰えに対するもどかしさ。自分もこのように老いていくのだ、よく書いてくれたと深く頷く。
ソ連・社会主義に対する価値観は当時の思考を、老夫婦のすれ違いはサルトルとの関係を反映しているのかと思うと興味深い。共に老い深く分かり合えるパートナーがいるのは羨ましい…一方で、仲直りをするためには徹底して「言葉」で「説明」することで「理解しあう」、さすが理性を重んじるフランス人だと感服。
翻訳について。「…わ」「…よ」などという女性言葉を使いすぎて気に障る。時代モノ&ブルジョワ階級ではあるが知的で自立した女性達なので違和感。ボーヴォワールさん自身が女言葉で話しそうにないもんね。 -
夫婦ともに教養深く、互いを尊敬、尊重して長年連れ添っている2人でも、誤解は起きるものなんですね。
壮年期から老年期にかけての価値観や生き方への心境の変化を、登場人物に寄り添って実感できたのが勉強になりました。 -
老年にさしかかるフランス左翼の夫婦が1960年代ソ連を訪ねる。案内するのは前妻との娘。
誰にでも訪れる老いの問題に、革命運動の停滞挫折、自分の存命中に革命の高揚はもうない、運動に捧げた自分の人生なんだったのかという虚無感。
結構身に滲みる。
加えてボーヴォワールらしく女性問題にも目を配る。