かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便 (実業之日本社文庫)

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  • 実業之日本社
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  • / ISBN・EAN: 9784408554785

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  • 2024.3.14 読了 ☆9.6/10.0



    「祖母のような“買い物弱者”を助けたい」



    その決意のもと大学を中退した主人公のたまちゃんは、過疎の集落を回って皆それぞれに必要なものを積んで、移動販売を始める。

    家族や地域の人たちと心を通わせたり、うまくいかないgん実に直面して少しずつ成長したり。

    登場するみんながいい人で、買い物弱者という負のテーマを扱いつつも、ほのぼのした世界が描かれています。


    人生は有限であり、何があっても気分良く過ごさなければ、もったいないということを改めて実感し、終盤は悲しみというよりも幸せな充足感で溢れて、温かい涙が止まりませんでした。


    森沢さんの田舎の自然は描写は相変わらずとても癒され、登場人物も慈悲深く優しく描かれています。日々の生活の中で、自分に余裕がないと忘れがちな、自分のことをを陰ながら応援してくれる人たちに想いを馳せ、大切に、自分も丁寧に日々を過ごしていきたいと、そう思わせてくれます。



    〜〜〜〜〜心に響いた言葉〜〜〜〜〜



    “「棚からぼたもちってのはよ、ようするに運がいいってことだべ?運がいいってのは、神様に愛されてるってことだ。俺たちが毎晩、酒を喰らって、げらげら笑い合って、みんなと愉快にやってればよ、神様たちも楽しいのが好きだから自然と集まってくるわけさ。んで、結局、神様が集まるところにこそ、運が開けてくるってわけよ」”



    “命ってね、時間のことなんだよ

    小学六年生の頃に、母はわたしにそう教えてくれた。
    つまり、この世に「おぎゃあ」と生まれ落ちた瞬間から、わたしたちはすでに「余命」を生きていて、あの世に逝く瞬間まで「命」という名の「持ち時間」をすり減らし続けているというのだ。

    命=自分の持ち時間

    そのシンプルな説明は、子どものわたしにも、とてもわかりやすいものだった。
    一分、一秒、いまこの瞬間も、わたしは貴重な命をすり減らしながら生きていて、着実に「死」へと近づいている。そう思うと、自分らしく心のままに生きていない時間がもったいなくて仕方なく感じてしまうのだ”



    “人に期待する前に、まずは自分に期待すること。で、その期待に応えられるよう、自分なりに頑張ってみること。人にするのは期待じゃなくて、感謝だけでいいんだよ”



    “人生っつーのはよ、たった一度きりの命をかけた遊びだからよ。何でも好きなことやったもん勝ちだよな”



    “「そもそも人生に『失敗』なんてねえべさ?
    人生にあんのは『成功』と『学び』だけだって、死んだ俺の嫁さんが言ってたもんな。
    それによ、やりてえことをやんねえ人生なんてつまんねえべ?」



    “「人生は振り子なんだってさ。人生で、何かでっかい不幸があったら、今度は、それと同じ分量だけ振り子は幸福の側に振れるんだって。だからこれから物凄くいいことがあっからね、期待してなよ”



    “人生の『小さな冒険』に踏み出せない人って、『勇気』が足りないんじゃなくて、本当はきっと『遊び心』がちょっぴり足りないだけなんだよね。
    人生は、たった一度きりの『遊びのチャンス』なんだって。
    だから、未来を自由に楽しんで遊ぶ時間にしようって思えた人から『小さな冒険』の最初の一歩をひょいと踏み出していくんだって”



    “人生、何があっても、いい気分

    いわく、人生に辛いこと、悲しいこと、嫌なことがあっても、その事象のなかには必ず「いい部分」が隠されているから、それを見つけ出して、しっかりと「いい気分」の喜びを味わうのだそうだ”



    “あらためて、人生は無数の幸せな瞬間に彩られていることを知った気がした。でも、この幸せそうな日々の裏側には、決して写真に残しておきたくないような、つらいこと、悲しいこともたくさんあったのだ。

    それでも、いいことと悪いこと、すべてをひっくるめてこそ、人生は絵のように美しく輝くのだ。
    写真や絵画が光と影で描かれるように、幸福と不幸は、人生をより美しく、深く、彩るための大切な素材なのだと思う。そして、人は歳をとると、それまで自分が描き続けてきた「人生という名の絵画」を、数歩さがったところから眺められるようになる。人生をトータルで鑑賞する目が養われてくるのだ。

    そんなわたしが、八〇年という歳月を費やしながら描き続けてきた「人生という名の絵画」を眺めてみると、その全体の構成から細部に至るまで、すべてが奇跡のみで描かれていることに気づく。特別な取り柄もないような、ありふれた人生ではあったけれど、でも、途中のどこかひとつでもボタンをかけ違えていたら、いまのわたしはいないのだ。もしかすると、絵美(娘)を産んでいなかったかも知れないし、そうしたら、たまちゃん(孫・主人公)だって存在しなかった。
    わたしの描いてきた絵は、一筆たりとも無駄のない、奇跡の一枚なのだ。
    なんという幸福に満ちた絵だろう。
    この美しい絵のなかに、ずっと、ずっと、わたしは存在していたい。
    そう願うから、淋しくなる。
    わたしは自分の人生を愛しているから、いま、淋しいのだ”




    “命を寿ぐ

    そうか。命が最期を迎えるということは、おめでたいことなのだ。
    ああ、ありがとうございます。
    なぜか、ふと両親とご先祖さまに感謝の念を抱いた。あちらの世界に「行く」のでも「逝く」のでもなく、自然と「帰ろう」という気持ちになっていた。この世という奇跡に満ち溢れた素敵な旅先から、わたしは「帰る」のだ。長くて夢のように美しい、人生という旅を、わたしはめでたく終えて、ここにすべてを置いて「帰る」ときがきたのだ。

    あらためて、わたしは静かな気持ちで得心していた。
    この世で授かったすべてのものは、ほんの一夜限りの借り物でしかなかったのだ。本当の意味で「自分のもの」になる
    ものなど、この世には何ひとつなかった。
    そして、もうすぐ、わたしは身軽になる。一夜限りの借り物を、すべて手放して自由になるのだ。手放すことへの淋しさはあるけれど、不安になることも、未練もなかった。そもそも、わたしのものではなかったのだから”




    “幸せの極意って、いつもいい気分でいることでしょ

    何があっても、いい気分。
    それが、大事。
    いや、それだけで充分なのだと。
    いつもいい気分でいるためには、日常の些細な出来事や事象を、丁寧に探し、すくい上げ、見詰めて、そのときの自分の心の動きを味わうことだ。たとえば、道端に雑草の花を見つけたなら「可愛いねえ」と愛でて、深呼吸をひとつ。それだけで、ちょっぴりいい気分になれる。空が青ければ、いい気分。ご飯がふっくら炊けたら、いい気分。都会の息子からメールが来たら、たとえそれが一月ぶりだとしても、いい気分。
    今日みたいに、ゆっくりと清流を眺めながら歩けることは、とても、とても、いい気分だ。

    いい気分の「素」は、身のまわりにいくらでもある。それを、せっせと拾い集めて、丁寧に味わう。幸せとは、つまり、そういうことだよと、大切な親友は教えてくれたの
    だ。
    だから、わたしは、歩ける限り足を前に出し続けていく。
    歩いて、見て、感じるのだ。
    この使い古しの身体を遠慮なくどんどん使って、この世にある無数のいい気分を味わい倒そうじゃないか。

    人生は、いつだって、生半可ではない

    それでも、迷わず、なるべくいい気分で生きていく。ごく自然に、そう決めている。だから、べつに覚悟なんて、いらない。ただ、淡々と、肩の力を抜いて、この世界を味わいながら生きていくだけでいいのだから。”

  • 作者の森沢さんが数年前から気になっていらっしゃったという『買い物弱者』ために奮闘する20歳の女性の物語です。

    森沢さんは、実際に三重県の紀北町で「移動販売」を起業し、集落の買い物弱者たちを救っているという東真央さんの「まおちゃんのおつかい便」を取材してこれは小説になると確信したそうです。
    そして「おつかい便」と「家族」というふたつの切り口から現代を生きるぼくらの「幸せの本質」を手探りしてみようと思って書いた作品だそうです。

    私も車はペーパードライバーで乗らないので、こんなおつかい便があったら便利だろうなあと思いました(実際生協さんを頼んでいます)

    この物語は、主人公の20歳の女子大生だった、たまちゃんこと葉山珠美が、大学を辞めて最愛の静子ばあちゃんのために起業しようとするところから始まります。

    たまちゃんのお母さんの絵美はたまちゃんが12歳の時に交通事故で無くなり、たまちゃんは父の正太郎と再婚相手のフィリピン人のシャーリーンと暮らしていますが、シャーリーンのことをまだ母親とは認められません。
    この物語では、たまちゃんとシャーリーンが喧嘩をしながら助け合いながら二人の距離を縮めていこうとするところも読みどころでした。

    そして森沢語録
    ・裕福と幸福は違う。
    ・人生の『小さな冒険』に踏み出せない人は『勇気』が足りないのではなく『遊び心』がちょっぴり足りないだけ。
    ・人生はたった一度きりの『遊びのチャンス』
    ・人は人に「ありがとう」と言ってもらったときにこそ、いちばんピュアな幸福感を味わえる。  他

  • 祖母のような買い物弱者を助けたい。
    大学を中退したたまちゃんは、過疎の集落を回る、移動販売車を始める。

    心を通わせたり。
    少しずつ成長したり。

    基本的にみんながいい人で、ほのぼのした世界。

    移動販売車は儲けが少なく、ワンオペなため、病気や何か想定外の事態が起きたときに、変わりがいない。
    こういう仕事の怖さ、責任を感じる。

    自分の考えを通すけれども、相手の迷惑は止めないシャーリーンは、最後までひっかかった。

  • この話にはモデルさんがいたんですね。「かたつむり」が来るところには、たくさんの笑顔が集まってくる。いい話だった。

  • 大学を中退し、地元である田舎の過疎地で「買い物弱者」のために移動販売の起業をした、たまちゃんが主人公。実在する「おつかい便」から着想を得たそうだ。人生は有限であり、何があっても気分良く過ごさなければ勿体ないということを改めて実感し、話の展開は涙なしには読めなかった。森沢さんの田舎の自然は描写は相変わらずとても癒され、登場人物も慈悲深く優しく描かれている。余裕がないと忘れがちな、自分を陰ながら応援してくれる人たちを大切に、自分も丁寧に日々を過ごしていきたい。

  • 華の女子大生を辞めて起業の勉強をする。そして必要な資格を取る。
    買い物弱者になる大好きな静子お祖母ちゃんのためめにおつかい便をするため。

    たまちゃんこと、葉山珠美が主人公。
    たまちゃんの家族。同級生、おつかい便の師匠、大好きな静子お祖母ちゃん。
    そして地域の人々。
    沢山の人に応援、助けられて、おつかい便をするたまちゃん。
    本当に温かい人が多く登場して、励まされる言葉もたくさん散りばめられていて、大好きな本がまた1冊増えました。
    たまちゃんのお父さんが、とても素敵な人です。あんな風になれたらな~なんて思います。

  • 買い物弱者である田舎のお年寄りのために、都会の大学を辞めて移動販売を始めたたまちゃん。
    テーマである買い物弱者のほかにも、独居老人の孤独死とか、引きこもりとか、外国人との慣習の違いとか、いろんな問題が描かれている。

    義母シャーリーンとのいざこざには少しハラハラするけれど、近所の老人はみんな優しいし、同級生トリオもいい感じ。豪快で大雑把そうなお父さんは、娘の立場だとイラッとすることもありそうだけど、いつもがははと笑って過ごせているのは素敵だな。

  • 最初から最後まて、一生忘れたくない、心に響くフレーズでいっぱいの本。家族・幸せ・友達・思いやり・引きこもり・買い物弱者・死、自分の人生において意識しなければ気付かずにスルーしてしまうことってたくさんある。そういうことに気付かされる何度も読み返したくなる。森沢明夫さんにはまってしまいました。

  • 物語を通して優しさと愛が溢れた作品でした。
    特に心に響いた言葉はこちらの2つ。

    ①人生の小さな冒険に出られない人は「勇気」が足りないんじゃなくて「遊び心」がちょっぴり足りない」だけなんだって。

    ②愛している人の死を「背負う」ってことは、その人が味わうはずだった「楽しいことや幸せを丸ごと背負う」ってこと。だから残された人は、太く、長く、人生を楽しまなきゃいけないってこと。

    主大学を中退して故郷に戻り、なかなか買い物にいけない高齢者のために移動販売をはじめた主人公のたまちゃん、父親の正太郎、亡き母の後妻となった正太郎の妻でフィリピン人のシャーリーン。
    この家族とそれに関わる素敵な人たちの物語。
    ひとつひとつの言葉がスッと心に入ってきて、読んでいてとても清々しく、そして優しくなれる作品でした。

  • ☆5

    たまちゃんは高齢化が深刻な田舎町で、「買い物弱者」を救うために移動販売をはじめる。

    たまちゃんの周りの人々がみんな優しくて…特に静子ばあちゃんの素敵な言葉がとても心に響きました(*´˘`*)♡

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著者プロフィール

1969年千葉県生まれ、早稲田大学卒業。2007年『海を抱いたビー玉』で小説家デビュー。『虹の岬の喫茶店』『夏美のホタル』『癒し屋キリコの約束』『きらきら眼鏡』『大事なことほど小声でささやく』等、映像化された作品多数。他の著書に『ヒカルの卵』『エミリの小さな包丁』『おいしくて泣くとき』『ぷくぷく』『本が紡いだ五つの奇跡』等がある。

「2023年 『ロールキャベツ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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