寡黙な死骸みだらな弔い

著者 :
  • 実業之日本社
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感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408533407

感想・レビュー・書評

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  • いやぁ〜面白かった!

    死を扱いながらも、
    これほど甘美で官能的な作品集は
    そうそう
    お目にかかれないんじゃないかな。


    物語に施された仕掛けが解る頃には
    ページを繰る指が止まらなくなる
    圧倒的な筆力もスゴい。



    それぞれが微妙に重なり合いリンクする
    連作短編集だけど、

    作品全体に漂う
    静謐でいて
    濃密な死の匂いと
    秘密めいた背徳の香り、

    視覚と臭覚を強烈に刺激する
    美しく慎み深い文体に
    ただただ
    うっとりとしてしまいます。



    腐っていく
    苺のショートケーキや

    キッチンで
    密やかに泣く少女、

    少女の唇からあふれ出す
    キーウイの果汁など、

    沢山の淫らでエロティックなものを
    モチーフとしながらも
    品性を失わない文体は
    さすが小川さんって感じかな。



    冷蔵庫の中で窒息死した息子のために、
    誕生日のケーキを買いに来た母親を描いた
    「洋菓子屋の午後」


    謎の老婆が作るキーウイと
    手の形をした人参の謎がコワい!
    「老婆 J」


    白衣のポケットから出てきたのは
    干からびたプラムの実、球根、ミャミソール、聖書、コンドーム、
    そして…!!
    「白衣」


    心臓を入れる鞄を依頼された職人の悲劇を描いた傑作
    「心臓の仮縫い」


    傷心の彼女が
    古い家で見たものは、
    様々な国で使われていた拷問器具の数々だった…
    「拷問博物館へようこそ」


    などなど
    下手なホラーより怖くて
    幻想的な全11編。



    しかし小川作品を読むと
    いつも死を考えさせられます。


    動物にとっては
    当たり前に受け入れるだけの「死」が
    人間にとっては
    あたかも異常なことのように
    見なされてる現実。


    人は生きていることが当たり前になって勘違いしてしまいがちだけど、
    ちょっとした風向きの変化で
    今ある命なんて
    簡単に消滅してしまう儚い存在だということを
    常にどこかに持っていなければと思う。


    「自分は、死ぬところに向かって
    生きているんだ……」

    と漠然と考えるだけでいい。


    それだけで
    人への接し方や
    毎日の選ぶ行動や
    生きる姿勢までもが違ってくると思う。



    とまぁ、そんなこんなで(笑)、
    エロとグロが幻想的に絡み合う、
    イッキ読み必至の
    傑作ですよ〜(^_^)v

  • タイトル通り「寡黙な死骸 と みだらな弔い」が存在する。
    最後まで読んだ人は2周読みたくなる。

  • やはり小川先生の連作短編集はいい。
    明るい陽の下にいても包み込めない深い暗闇を抱えている人は、どこにだっている。そんな孤独と冷たい体温を持つ狂人と常人の間を行ったり来たりする人々のひとときを、虚構まみれの現実感と共に舞台に乗せた物語。


    「洋菓子屋の午後」冷蔵庫で窒息死した息子への誕生日ケーキを買いに出かけた母親…と、もうこれだけでもう小川洋子過ぎる狂気と幻想で眩暈がする。

    「果汁」あのとき零れ落ちなかった感情が、滴る。その果実が山積みのキウイフルーツっていうのがまた…異様で…小川洋子すな…。

    「眠りの精」ほんのわずかな時だけを共にした継母が、死んだ。その記憶は、息苦しいほどに穏やかで歪で、優しい手触りをしている。

    「白衣」体のパーツが血にまみれずに登場するの、小川洋子だなって思う…。痴情のもつれと、それを傍観する赤の他人である私。

    「心臓の仮縫い」収録作で一番小川洋子してる。心臓だけが体の外に飛び出ている女性のための鞄を特注して作った男の、思いの果ては…。ラストの途方もない怖さと、情熱的なはずの行為なのにあまりに冷ややかな空気感も含めて、小川洋子過ぎる。

    「拷問博物館へようこそ」〇〇博物館ての、やっぱ小川先生好きなんだな…。

    「ギブスを売る人」まさか博物館紳士がこんなに出てくるとは…。しかしこれは一つ
    の、幸せな最期なのかもしれない。

    「ベンガル虎の臨終」どこかでまた、美しい獣がこの世からいなくなったかもしれない。その瞬間を共に過ごせたあなたは、果たしてどうする。

    「トマトと満月」独りよがりでも、どう思われようとも、構わない。そんな狂気をごく当たり前に手にすることができたなら。

    「毒草」収録作で一番、悲しいおはなし。身勝手でも何でも、会いに来てほしかった。

  • 「博士の愛した数式」の作風を想像して読んだら、思いのほかホラーで驚いた。それぞれの短編が少しずつリンクしていて、宝探しするような気分で読み進めることができた。

  • 図書館で借りた本。

    不思議に話の繋がった短編が11編。
    それぞれの繋がりを書き出して読み返したくなる。
    ただ、ハムスターとベンガル虎の亡くなる様が心につくささった。

  • 誰かの死が誰かと繋がる。輪廻転生の多人生感が好き。

  • 図書館で予約した本を手渡されたときには この表紙にギョッとしてしまったが 読めばこの絵が最高にマッチしているのだった。小川さんのこういうミステリアスな作品が好きだ。ぞぞーっとするのだけど いつの間にかその狂気さえ 美しく感じられるようになるのが 小川マジックの恐ろしいところだ。

  • 死を取り上げた短編集。
    いずれも現実なのか虚構なのか不思議な感覚が漂っていて惹きつけられる。
    特に「心臓の仮縫い」が印象的だった。

  • それぞれの話に「死」がありました。そして繋がりがあって面白かったです。あまりにも静かなので、死に気づかないときがありました(笑)

    好きだな、これ。

  • 小川洋子勝手に集中プロジェクトの一環。97年の作品。この人の作品は、2003年の博士の愛した数式以降をぽつぽつとしか読んだことがなかったが、本作の文体はどこか妙に借り物っぽく、話も作り物くさく、技巧を尽くしているのにぎこちない。一方で身体に密着した感覚やドロドロとした不気味さがあってこちらは本当なんだろう。日本の女性作家はどこか怖い人が多いイメージだけど、この人は違うタイプかと思っていた。どこかでドロドロを浄化したのだろうか?
    追記
    文体の借り物くささは村上春樹ちっくなのですが、この方春樹ファンなのだそうで、納得。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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