また、桜の国で

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396635084

感想・レビュー・書評

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  • 第四回高校生直木賞受賞作。

    1938年9月30日「ミュンヘン会談」によって戦争が回避された日、27歳の棚倉慎はドイツとソ連に挟まれた国、ポーランドの日本大使館に着任するために到着します。
    列車の中で知り合ったドイツ在住のユダヤ人でカメラマンのヤン・フリードマンと友人になります。
    慎は日本人ですが父親のセルゲイがロシア人です。
    九歳のとき家の庭で二時間だけ友だちになったポーランド孤児(シベリア孤児)のカミルという十歳の少年を探しています。カミルはセルゲイの弾くショパンの『革命のエチュード』を「なつかしい」と言い、お互いの一番の秘密を教え合います。慎の悩み事は自らのアイディンティティでした。

    慎はワルシャワで、ポーランド人や知り合ったアメリカ人ジャーナリストのレイモンド・パーカーの求愛するユダヤ人の娘ハンナ(ハーニャ)を亡命させようとしたり、尽くします。

    まさかの孤児だったカミルとの再会。
    そしてドイツ軍の侵攻が始り、慎はポーランド人たちの蜂起に加わり、日本人であるのにポーランド側について戦います。

    なぜ戦って人を殺さないと、自由が手に入らないのかと思いました。恐ろしい思想がほんの少し前までたくさんあったのだと身の毛がよだちました。
    アウシュヴィッツしかり、ワルシャワゲットー蜂起しかり。
    皆、人間として死ぬために立ち向かい、最初から死を前提としての蜂起だったというのはなんと凄惨な戦闘だったのかと目をそむけたくなるほどでした。

    最後まで読んで、タイトルの『また、桜の国で』の本当の意味がわかった時は、涙溢れました。

    • くるたんさん
      まことさん♪こんにちは♪
      コメントありがとうございます♡
      そうそう、あの慎の姿は悲しかったですよね。
      タイトルが沁みたし、私も再会を信じたく...
      まことさん♪こんにちは♪
      コメントありがとうございます♡
      そうそう、あの慎の姿は悲しかったですよね。
      タイトルが沁みたし、私も再会を信じたくなる読後感でした。
      涙止まらなかった〜。

      そしてこういう形で戦争の歴史を知ることもできた、それが良かったです(●︎´ω`●︎)
      2020/05/14
  • 戦争が始まってしまいましたね
    ロシアとウクライナどちらにもそれぞれに正義があるのでしょうがなんとか平和裏に解決できなかったんでしょうか
    事ここに至っては少しでも犠牲の少ないうちに戦いが終結するのを祈るばかりです

    さて『また、桜の国で』ですが第二次世界大戦下のというかナチスドイツ占領下のポーランドで奮闘する特殊な背景をもつ日本人外交官の物語です
    国家とはなにか、あるいは国籍とは?そんなことを問いかけてきます

    当たり前のことですが、歴史って繋がってるんだなあって思いました
    作中にもソ連や僅かですがウクライナに関する記述もあります
    今現在ウクライナから戦火を逃れ避難する人々を受け入れるポーランドのニュースを見て、過去にはけっこうソ連(もちろんウクライナ含む)にひどい目に会ってるのに懐の深い国だな〜って感じました

    またこの作品を読んで一番に感じたのは、陸続きで他国と国境を接してない日本という国の特異性です
    なんというか独特の国民性ってこのことと無関係じゃないよなって

  •  長編で、歴史が苦手な私には難しそうだとなかなか手が出なかったこの本、読み出せば直ぐに夢中になり、あっという間だった。
    学校の歴史の時間にその言葉が出てきたとだけは覚えている「ワルシャワ蜂起」。このワードにこんな大切な深い事実があったとは…。何も知らずにいたことに唖然とした。

    そして、よく耳にするショパンの『革命のエチュード』。ショパンがポーランドの人々にとってどれほど大切なのかも知ることができた。

    自国を、そして、外国を、今まで知らなかった歴史を少し知るだけでも見る目が、想いが変わってくる。ガラッと変わる価値観に、少し恐怖も感じる。それにしてもなんと上っ面の雰囲気だけで外国を見て、そして、生きてきたのだろうと情けなくなる。
    外交官の仕事や使命も学べた。

    一人一人の人間が、例え誠実で思いやりがあるものでも、国など、より大きなものに取り入れられると、跡形もなく消えてしまう。それは、日常、私たちが生活で経験する、会社だったり、学校だったり、その他諸々でも同じ。小さな単位だと家族もかもしれない。
    この物語は、それを消しさらず、一人一人が行った真心ある行動を残して伝える大切さを教えてくれる。

    読んで良かった。自国のことも、もっと知らなければいけないと痛感した。この本を読んで私が抱いた外国への憎悪や嫌悪と似たものを、日本にも向けられている事実が沢山あるだろうから。

    [国を愛する心は、上から植え付けられるものでは断じてない。まして、他国や他の民族への憎悪を糧に培われるものであってはならない]
    という言葉が、強く心に残っている。


    備忘録として…
    ○人が、人としての両親や信念に従ってした事は、必ず相手の中に残って、倍になって戻ってくるんだ。…
    僕たちは立場上、どうしても自国にとっての損得で行動を考えがちだが、あの時の子供たちの笑顔思い出すたびに、外交の本質はあそこにあるんじゃないかと思い直すんだ。(外交官織田の言葉)

    ○おまえがポーランドから見る世界は、過酷かもしれないが、きっと美しい。(棚倉慎の父の言葉)

    ○国を愛する心は、上から植え付けられるものでは断じてない。まして、他国や他の民族への憎悪を糧に培われるものであってはならない。人が持つあらゆる善き感情と同じように、思いやることから始まるのだ。そして、信頼と尊敬で、培われていくものなのだ。

    ○この戦いは、君たちの復讐心を満たすためでも、君たちが英雄になるためのものでもない。戦闘は無残なものだ。理念がどれほど崇高であろうが、実現するための戦闘は、ただただ残酷だ。そして、戦うことのみに、意味を見出すようになったら、それはもう破綻しているのだ。我々は常に、戦闘が終結した後のことを考えて行動しなければならない。君たちは自由のために見事に散るためにいるのではない。美しい最期を望むようになったら、それはもう、理想そのものを自ら投げ捨てたのと同じことなのだ。( ワルシャワ蜂起軍幹部イエジの言葉)


  • 須賀しのぶさん2冊目
    「革命前夜」がなかなか面白かったのでこの勢いで…

    舞台はポーランド
    ポーランドについて知識がまるでない!
    ショパン、アウシュヴィッツ収容所…ほかに全く思いつかない
    物語の中にも出てくるが歴史的に非常に翻弄された国であった
    他国にさんざん分断、支配され120年以上に渡り地図上から国名が消える
    地図を見れば一目瞭然、確かに他国から狙われる要素満載の国であり、ドイツとソ連に隣接していたことがまさに不運である
    おまけに平原で他国からの侵攻を止めるような自然の防波堤になるものがない

    また日本とのかかわりであるが、
    祖国の独立戦争と内乱で両親を失いシベリアへ追いやられたポーランド人の戦争孤児たちに日本が援助したエピソードがある
    2019年は「日本・ポーランド国交樹立100周年」なのだそうだ
    知らなかった…
    我が国が誇らしいではないか

    さてこの物語の時代背景は第一次世界大戦後、ポーランドはいったん独立を果たすものの、第二次世界大戦時にドイツとソビエト連邦からの事前交渉を拒否し、両国に侵略される…その悲痛な時代の物語だ

    ポーランドへ、ロシア人父と日本人母を持つ主人公の慎(マコト)が日本大使館の外務書記生として赴任
    そこで出会う2人の青年
    国籍はポーランドだが人種的にはユダヤ人であるカメラマン
    シベリアで生まれ、今はアメリカに国籍をもつポーランド人
    マコトを含め彼ら3人はアイデンティティの揺らぎを抱えながら、共に激動の時代を命をかけて生き、自分という核を見出す

    ポーランドの歴史がマコトの視点からわかりやすく記述されていく
    この国の悲惨な運命を読み進めるのは精神的になかなかしんどい
    その内容については敢えて触れないが、世界中一人でも多くの人たちに知ってほしい事実である
    フィクションとはいえ、多くの参考文献が羅列されており、生々しい当時の様子がうかがい知れる

    また解説を読むとわかるのだが作中には「第二次世界大戦」「ホロコースト」などという歴史上のワードは出てこない
    実際読んでいる最中に、時代背景が見えず、わからなくなることも何度もあった
    これは実際その場にいる主人公マコトには何かとんでもないことが起きているのはわかるが、実際は何が起きているかわからない…
    そいういった臨場感を伝えているとのこと
    確かにこういうワードは世界的にあとから歴史として刻まれたものだ
    その当時のその当事者からの視点…そのズレた感覚にリアルがあるというよく考えられている構図であった

    「革命前夜」と同様、主人公はまたしても地味な存在だ
    容姿は華やかなはずだが、押しが強くなくコンプレックスを抱えている
    しかしポーランドでの赴任から降りかかる様々な出来事と人との出会いにより、
    右肩上がりでまたしても素晴らしい成長ぶりが読み応えある
    信念を貫く誠実さ、義の人…見事な成長だ

    熱い物語を冷静に描く手法が好みなので読みやすい
    ただなぜかわからないが、もう一歩なにか物足りなさを感じてしまう
    完璧すぎるのであろうか…
    読み手である冷血な自分自身の問題なのか、よくわからいのだが…
    若干の時代背景と物語に違和感を感じるのか…うーんなぜだろう
    内容が素晴らしいのにこんなこと書くのはどうかと思うが…
    (個人的に探る必要がある部分のひとりごとです)

    「革命前夜」に比べるとぐっとエンタメ要素が減り、参考文献も圧倒的に増える
    渾身の歴史小説といってもいいだろう
    また高校生直木賞受賞というのがいい!
    こういう本を若いうちに読むことができるのは素晴らしい
    この年までポーランドの歴史を深く知ることなく生きてきたことが恥ずかしい
    本書との出会いに感謝したい

    最後に…
    本書を読んだ後、ショパンの「革命のエチュード」を聴くと心に刺さります…

  • 歴史の一端に触れられた一冊。

    舞台はポーランド。外務書記生、慎を通して描かれる物語。
    知らなかった一端にまた触れられた、貴重な読書時間だった。

    他国からの攻撃に屈しない、ポーランド人の誇りに素晴らしさを感じつつもドイツのユダヤ人をこの世から抹消しようとする執念とも言える行いには言葉を喪う。

    丁寧に描かれる慎の葛藤する姿、一書記生として何もできない歯がゆい思いが何度も胸を打つ。

    そして慎の決意、選んだ道。
    歩き出す慎の姿を思い描き、涙し、せつなさ溢れる終章でさらなる涙。

    歴史というありのままを伝え残す大切さ、それを知る大切さを感じた。

    • まことさん
      くるたんさん♪こんにちは。

      くるたんさんも、読まれてましたね(*^^*)
      慎の最後はこのストーリーでは、これしかなかったのかもしれな...
      くるたんさん♪こんにちは。

      くるたんさんも、読まれてましたね(*^^*)
      慎の最後はこのストーリーでは、これしかなかったのかもしれないけど、悲しかったです。
      私は、ハッピーエンドがよかった(;_:)
      三人の約束は実現しなかったけれど、想いは届いたのだと思いたいです。
      2020/05/14
  • ワルシャワの日本大使館へ赴任した、棚倉慎。
    さまざまな出会いの中、戦争回避のために奮闘するが……。

    第二次世界大戦中、ドイツ軍に抵抗し続けたポーランド。
    過酷な戦いが事細かく描かれ、読み応えがある。

    ロシア人の父を持つ、日本人。
    ドイツに生まれた、ユダヤ人。
    シベリア生まれでアメリカ国籍のポーランド人。

    人種とは、民族とは、国籍とは。
    真の外交とは。

    考えさせられるテーマだった。

  • 舞台は第二次世界大戦開戦直前のポーランド。
    そこに外務書記生として赴任した主人公・棚倉慎。
    亡命ロシア人の父と日本人の母の間に生まれ、
    その出自や容姿などから、果たして自分は真の日本人なのかと懊悩しながら成長した。

    「ポーランド」…すぐに思い浮かぶのは、ショパンとナポレオンくらい。
    そして、ユダヤ人迫害の哀しい史実も。
    ただ、日本との間にこんな深い絆があったことは知らなかった。

    日本人、ポーランド人、戦争回避のために奔走した彼らの生きざま。
    迫害されても、人としての尊厳を失わなかったユダヤの人々。

    外交とは、人を信じることから始まる。
    なんて難しいことなのか…
    「人が、人としての良心や信念に従ってしたことは、必ず相手の中に残って、倍になって戻ってくる。」
    この部分がとても印象的だった。
    倍にならなくても、戻ってこなくても、
    誰かの心の中に生き続けて欲しいと思う。

    「私は日本人だ。名は棚倉慎という。」
    胸を張ったその姿に、心が震えた。

    日本人、ユダヤ人、アメリカ人、国籍の壁を越えて、真の友情で結ばれた三人。
    いつか必ず、三人で日本の桜を見よう。
    実現する日を信じて、
    ユビキリだ───。

    読んで良かった。
    名残の桜のころに読んだ一冊。

    • azu-azumyさん
      うさこさん、こんにちは♪

      須賀しのぶさんの本は読んだことがありません。
      まったくノーマークの作家さんでしたが、うさこさんのおかげで、...
      うさこさん、こんにちは♪

      須賀しのぶさんの本は読んだことがありません。
      まったくノーマークの作家さんでしたが、うさこさんのおかげで、新たな出会いの予感!
      ”読みたい”に登録しました♪

      うさこさんおススメの【屋根部屋のプリンス】見ました!
      胸キュンでとても面白かったです。
      ますます、韓国ドラマにはまってます(;'∀')
      2017/09/09
    • 杜のうさこさん
      azumyさん、こんばんは~♪

      コメントありがと~~嬉しかったです!
      お返事が遅くなってしまって、ごめんなさい。
      ちょっとPCを放...
      azumyさん、こんばんは~♪

      コメントありがと~~嬉しかったです!
      お返事が遅くなってしまって、ごめんなさい。
      ちょっとPCを放置しちゃって…

      この本、すごく良かったです!おススメです!
      私も最近知ったんですが、「高校生直木賞」というのがあって、この作品が受賞したそうです。
      この作品を選んだ高校生たちに拍手してあげたくなりました。

      ね~【屋根部屋のプリンス】良かったよね~
      もうラストのほうで大号泣でした。
      生まれ変わりとか、来世でとか、そういったものに弱くて…

      さっき久しぶりにブログにお邪魔したの。
      そしたら”ブクログのお友だち”って♪
      嬉しくてキャー!でした(#^^#)
      韓ドラって、見始めるとくせになるのはなぜなんでしょね?
      続きが気になって、やめられない止まらない(笑)
      私もね、この前azumyさんとお話してからまたブーム再来しちゃって、
      今は【ドクターズ恋する気持ち】というのにはまってます。
      主演の男優さんが素敵で♪
      しかし…
      本やドラマの中でしか胸キュンできないわびしさよ…(笑)
      2017/09/12
  • 壮大にネタバレをしています。どうかご注意ください。

    読みながらカズオ・イシグロさんの「忘れられた巨人」をときどきふっと思い出しました。

    タナクラマコト 棚倉 慎(27)の生涯が描かれています。容姿は、私のなかではヴィクトル・ニキフォロフ。

    マコトは何に殉じたのだろう。生涯揺るがぬ理想を持つことは人生においてなにより尊いという彼の言葉は正しいと思うし、コテコテの日本人だと思うし、義の人であるともちろん思う。真実を伝える責任を持つ外交官とも。ただ、慎のような義の人に「だからこそ」生きていてほしかった。生きたくても生きられなかった彼らのぶんまで元気に生を全うしてほしかった。その命を大切にしてほしかった。マジェナの悲しみやイエジの想いはこころからのものだったとやっぱり思います。

    1906年日本に研究でやってきた植物学者の父セルゲイと、東京物理学校のロシア人教員を訪れた時に茶を運んできた女中に一目惚れ、結婚した母との間に2つ上の孝とふたり兄弟。
    兄と違って父の要素を強く受け継いだ慎は、故郷ですら自分の居場所ではないという疎外感を抱えて生きてきた。そんなある日、9歳の慎は、シベリア難民の子供たちを保護する福田会の施設から脱走してきた菫色の瞳をしたひとりの少年、カミルと出会う。図らずもふたりは背負っている重い十字架をわかちあって、それぞれの日常に戻されていった。この2時間ほどの短い時間が慎の進む方向を決めるできごとに。

    中学を卒業後、外務省留学生となって哈爾濱へ。10年をすごした後、カミルの祖国、ポーランド・ワルシャワへ外務書記生として着任。そのワルシャワに向かう夜行のなかで青年ヤン・フリードマンはユダヤ系ポーランド人(ポーランドの4割がユダヤ人)に偶然出会います。酔っぱらった相席の医師の領土割譲への愛国心のない発言に怒りをおさえられないヤンを、ドイツと同盟を結んでいる日本の外交官としての特権でSSからも助けます。

    この3人が物語の軸として大切なことを伝えてくれます。

    アメリカのシカゴ・プレスの記者、金髪に青い目のレイモンド・パーカーや、シベリア孤児だった少年のひとり、亜麻色の髪に高い背、鳶色の瞳のイエジ・ストシャウコフスキ(ワルシャワ大を卒業し、司法省少年審判所の視察官となり「極東青年団」という600人を超えるポーランドと日本の友好や、相互扶助を目的にした会の会長として資質を発揮)も物語のとても重要なひとりです。

    この物語は、チェコスロバキアが1938年9月30日ズデーテン危機の時着任したポーランドからの慎からの視線で、戦争の経過と、ワルシャワ蜂起までに起こったいろんな事件を流れに沿って描かれています。ズデーテンは結局、チェコ首相不在のまま、ドイツ、イギリス、フランス、イタリアによってドイツに割譲。

    ポーランドは、18世紀 ロシア、プロイセン、オーストリアによって3度の分割で一度地図上から完全に消滅。その後ナポレオンがワルシャワ大公国をつくるも、ナポレオンの死後ロシアとプロイセンに4:1に分割。その後1世紀にわたり圧政を受け、自国語が禁止されます。その後、ロシア革命がおこり、ドイツが負け、ポーランド第二共和国に。

    ズデーテン危機から後にどんなことが「黄金の秋」とよばれる美しい季節を持つ国に暮らす人々に起こり、変わっていったのか、その時人々はどうしたのか。が、この本のほぼすべてです。

    本書に詳しく書かれていない事件もところどころ暗喩されています。
    慎が住んでいるのは8月6日通りで、そこはコルチャック先生が8月6日に200人の孤児の子供たちと一緒に集荷場からトレブリンカへ連行された出来事からつけられているようです。コルチャック先生は「1942年ワルシャワゲットー日記」をかいていたのですが世にはすぐに出されず、孤児院ドム・シュロトの助手だったイゴール・ネ―ヴェルリが1958年刊行しました。
    そして、ヤンという名前は国王の名前でもあります。


    ナチスの印象操作と裏切りは日常茶飯事で、侵略の方法も巧妙で愚劣。登場人物のだれかが巻き込まれる出来事で史実を描かれているので、わかりやすいけど苦しかったです。

    ワルシャワ蜂起を川むこうからうかがうソ連軍の理由があんまりで、悲しかった。

    ショパンの革命のエチュード、会議は踊る、ただ一度だけ、夜のタンゴ

    アウシュビッツで亡くなったヤンのママのシチュー「ピゴス」、ミンチとベーコン、玉ねぎに合わせたラード「シュマルツ」とライ麦パン。

    ヤンのママのお店「ジルエット」のマリア像、連翹、楡の花に似た御衣黄桜

    波大使館の酒匂(さこう)大使、織田寅之助さん、守衛のヴワドゥジさん、マジェナ・レヴェントフスカ、マジェナの恋人ラディック、タデク、民間人の梅田さん、(史実に、ポーランドに殉じた禅僧梅田さんという人がいる)、レイの心の恋人ハーニャ、ブルガリア ソフィアのヴァーニャ、イスタンブールの後藤さん、まだまだたくさんいる登場人物はひとりひとりがみんな誠実な人々だったのが、この物語の深い闇のなかでの光であり暖かいぬくもりでした。だから、読み進められました。

    民族ドイツ人っていうこともはじめて知りました。

    ヨーロッパとアジアで場所は違うけど、持つべき理想や大切にすべきことは変わらない。
    ポーランドにいつか行ってみたいです。

  • 『ベルリンは晴れているか』 深緑野分 、『熱源』 川越宗一 にて、ナチス、ドイツ、ポーランド、シベリアの歴史の下地はあったが、改めてポーランドで起きていた史実を深く知ることができた。過去に犯してきた過ちを二度と繰り返さないようにしなければならない。

  • 日本贔屓の多い国 波蘭土(ポーランド)愛に嵌まった1938〜1944時代の一介の外交官書記生の若き人生。ロシア人の父と日本人の母に生まれた彼は外見もろ外国人の日本人。外交の基本は信頼、国と国と言っても人と人、人間関係の信頼で成り立つ。だから外交に携わる者は常に信頼に足る人物でなければならない。誰かに与えた無償の愛は、必ず倍になって返ってくる。この思いを絶えず持ち続けて、愛するポーランドの為に奔走する。
    惜しいのは終盤の戦時活劇に転じてからで ちょっと腑に落ちない展開でした。
    でも497ページの本、一気に読ませるのは流石でした♪
    冒頭にある当時のワルシャワ地図を何度も手繰りながら読み進みました!私もポーランド好きになりました 笑。

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著者プロフィール

『惑星童話』にて94年コバルト読者大賞を受賞しデビュー。『流血女神伝』など数々のヒットシリーズを持ち、魅力的な人物造詣とリアルで血の通った歴史観で、近年一般小説ジャンルでも熱い支持を集めている。2016年『革命前夜』で大藪春彦賞、17年『また、桜の国で』で直木賞候補。その他の著書に『芙蓉千里』『神の棘』『夏空白花』など。

「2022年 『荒城に白百合ありて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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