- Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396634902
感想・レビュー・書評
-
主人公・大介 小学6年生。
学校では友だちにいじめられ、家では両親から成績を厳しくチェックされ、
その鬱憤を、燐家の老人・北海が育てている木の花芽を削ぐことで晴らしていた。
ところがある日、その木に咲かないはずの花が咲いた。
それをきっかけに、大介と北海との旅が始まった───。
旅する先々で出会う人たちが、みな人間味にあふれていて、すごく良かった。
大介に30円で座席の掃除をさせ、
職業に貴賤は無いと教えてくれた、トラック運転手の高村。
裸を見せることなど恥ずかしくはない。
本当に恥ずかしいことは、もっと他にある。
いつだって胸を張っていなさい 。
と言ってくれたストリッパーのキヨミ。
自分をいじめる子にいつか仕返しするため、ナイフを隠し持つ大介に、
弱い人ほど強い武器をもってはいけない。
そんなものなんて必要がないほど自分自身が強くなれ。
と諭す、包丁研ぎの鏑木。
そして、北海の旅の目的だった池田との再会。
池田の残り少ない命をかけた謝罪 。
北海に赦してもらえるとは思っていないと彼は言う 。
極限の状態で生きのびるための裏切りは”罪”なのか…
そしてそれは赦されるものなのか…
戦争──
人間が人の心を亡くすもの。
長い長い年月を経ても、拭い去ることのできない深い傷と悲しみを残す。
そこに身を置いた人々の戦争は終わらない 。
心でいつも戦争をしている大介に言った、本当の戦争を知っている北海の言葉が胸に残る。
「もしなにか言いたい大事なことがあるなら、あとで言おうなんて考えたらだめだ 。
あとでなんて無いかもしれんからだ 。」
この先きっと、くちなしの花を見る度、この本が心をよぎると思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
小学生の大介の暮らしが、かなり息苦しい。
クラスの中でも、親との間でも…
隣家の庭の花芽を削るというのはダメだよーと思うけれど、旅の中で色々な人と出会い、大介が少しずつ変わっていく姿がとても良かった。
そして少年の冒険成長の物語かと予想したが、この旅の源となる北海の過去…これが、とても考えさせられて、予想以上に深く入り込んで心に沁みる作品。
大満足です。 -
札幌に暮らす小学6年生の大介は日常の行き詰まりから家出を企て、隣人で指が数本ない佐藤北海さんの乗る軽トラに潜り込み家を出る。
そこから北海さんとの旅が始まる。
大介の無神経さとか子供っぽさが、今の自分自身からはもどかしくも感じるが
小学6年生ってそんなものなんだろう。
旅をしていくうちに、様々な人と出会うことで視野が広がり、自分自身を取り戻していく姿はみずみずしい。 -
過去にイジメを受けてまわりの人の顔色をうかがうようになった少年と、隣に住むなんだか気味の悪い手指のない老人が、北海道から九州まで一緒に旅をする話。
冒頭は「ふーん…」から始まってどんどん引き込まれ最後は一気読み。さすが乾ルカ!ホントに読んでよかった!と感動。
戦時中に満州開拓で大陸に渡り、シベリアに拘束されて引き上げてきた老人、なぜ手指がないのか、旅の目的はいったいなんなのか、読めば読むほど心がギリギリする。
旅の途中で登場してくる様々な大人がカッコいい。私もこんな風に優しくあたたかく厳しく、自分の判断で子ども達を見守ることの出来る大人でありたい。 -
内容(「BOOK」データベースより)
札幌で暮らす小学六年生の瀬川大介には、自らの鬱屈を晴らす、ささやかな楽しみがあった。それは隣家に住む、指が二本ない謎の老人佐藤北海が見守る貧弱な樹がつける花芽を削り取ること。開花を待つ北海の喜びを奪うことで、不満を溜めた老人が“暴発”することを願っていた。だが、夏休みに入ったある日、大介の油断を衝いてその樹が白い花を咲かせる。それを見た北海は突如ボストンバッグを抱えて旅に出発、両親と喧嘩して家出をするつもりだった大介は、急遽彼を追うことに…。一人の少年の好奇心と冒険心が生んだ心に沁みわたる感動の物語。
いじめを受けた小学生の大介はねじくれてしまって、大人しい姿の中にくろぐろとして凶暴な何かが居座っています。そんな少年と町で怖がられている老人のロードノベルです。意外な行動力をもったいじめられっこ大介と町の嫌われ者大海は一緒に旅に出ます。この大介の父母はまた絵に描いたような教育に血道を上げており、昭和40~50年代の学歴フィーバーで子供の気持ちよりも世間体と学歴を重視しています。家出したくなる大介の気持ちもよく分かりますがそれにしても大胆な家出です。近所で潜むのではなくて完全に逃亡ですから、行動力も有って頭も良い子です。ただ、最初の頃の大介は将来誰かを傷つけてしまいそうな暗いものを秘めてしまっていて、打算と損得で付き合うような人間になる事が濃厚でした。大海の秘めた悲しみや過去。出会った人々からの薫陶で次第に心の棘が無くなり、強さの意味を学んでいきます。成長小説としてとてもよかったです。大海の指が無い訳、旅に出た訳は是非本を読んでください。お勧めします。 -
気配の色が見える少年、大介。人の指先から、いろんな色をした、その人の気配が、大介にだけ見えるという。
一種の特殊能力のお話か、と思ったが。
小6の夏休み、両親に不満を持った大介は、隣に住む老人にこっそりくっついて、北海道から東京、長崎までの旅をするはめになる。
そこで出会う人たち。それぞれ違う気配の色が見えたのに、関わるうちに、印象が変わっていく。
大介も、戸惑いながら、老人との二人旅で成長していく。
旅が終わって、大介と老人は、離れ離れになってしまうが、ある約束を交わし、数年後に、再会するための旅をすることになる。
思わず唸ってしまった。
いい話だった。 -
家が隣の小学六年生と偏屈爺さんと呼ばれている老人のひと夏の物語。
老人が背負ってきた過去、小学生の大人への成長、そして旅の先々で出会う良識ある大人たち。
とても気持ち良く読める物語で、人の在り方を考えさせられました。
物事の一面で判断することもなく、誰かに合わせることも無く、自分の芯を持つこと。
人の恐さを知ってこそ、大きな優しさで接することが出来ること。
人生で色々な人と接し、合う人も合わない人もいるけれど、そうやって生きていくことで学び、次の世代へと優しさを受け継いでいくのだと、温かい気持ちになりました。