答えのない世界を生きる

著者 :
  • 祥伝社
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本棚登録 : 621
感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396616175

作品紹介・あらすじ

常識から目を覚ますために。大いなる知性が紡ぐ「考えるための道しるべ」

感想・レビュー・書評

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  • ライフネット生命の出口会長推薦の本。少し前から読みたいと思っていたが、出張の移動時間を利用して読むことができた。作者の学問へのスタイルを形成する要因となった後半部分の作者の半生が、かなりぶっちゃけた内容が続くので、ぐいぐい引き込まれていく。後半スピードアップする感じだ。面白いおっちゃんである。
    自他ともに学際的だと思っているところもあり、色々な分野に置き換えて考えることができる内容がある。作者は自分自身の存在価値として、むしろ学際的であるべきとも考えており、まさにイノベーションの定義と同じだなと感じた。また「究極的真理や普遍的真理は存在しない」という現在の哲学の立ち位置を踏まえて、いかに問いを設定するのかというところが、他の方が書いた本を読んで感じることのないところである。
    授業でなく、学ぶなら本を読めという話も通常の論調とは異なるけれども、根底の考えは出口さんが話されていることともつながっていると思うので、出口さんが評価されているのも分かる気がした。
    当然と思われている前提を疑うところから斬新な理論が生まれる。無意識に前提としているものや、常識と思っていること、確証バイアスなどによる矛盾する情報の遮断など実践は難しい。私も日常の中で実践できるようにしていきたいと思った。

  •  「世の中のあらゆることに、絶対的な正解などありはしない」と教える本です。半分は著者の自伝でもあります。

     第一章「知識とは何か」、第二章「自分の頭で考えるために」まではまだ大人しいのですが、第三章「文化系学問は役に立つのか」の辺りから過激になっていきます。「大切なのは知識を積むことではない。教育の本質は常識の破壊にある(p92)」、「開かれた社会とは、社会内に生まれる逸脱者の正否を当該社会の論理では決められないという意味である。〔中略〕キリストもガンジーも社会秩序に反抗する逸脱者だった。対してヒトラーやスターリンは当初、国民の多くに支持された(p136)」、「犯罪と創造はどちらも多様性の同義語である(p138)」等々。

     早稲田大学在学中にアルジェリアに渡り、その後フランスの大学で社会心理学を教えるようになった波乱万丈の経歴について語る第四~五章(「フランスへの道のり」~「フランス大学事情」)は、まるで小説みたいに面白いです。常識的な世界観に楔を打ち込み続ける著者の本の楽屋裏を覗くようでもあります。フランスの大学制度や大学人に向けられる批判も痛烈です。

     これまでに読んだ著作(「人が人を裁くということ」、「責任という虚構」、「増補 民族という虚構」)から、小坂井敏晶さんに対して国際的な舞台でスマートに活躍する洗練された学者というイメージを私は勝手に作り上げていました。でも、この本を読んでそのイメージがすっかり壊されました。第六章「何がしたいのか、何ができるのか、何をすべきか」で明かされるとおり、著者は反骨精神旺盛で組織に馴染めず、学会の主流派からも距離を置いて、挫折したり悩んだり迷ったりしながら、でも自分のやりたいことをやってこられた人なのですね。

    「国際人という言葉がある。〔中略〕私が目指したのは、その逆だ。フランスでも日本でも自然に生きられる国際人ではなく、どこに居ても周囲に常に違和感を覚える異邦人。グローバル人材の反対に位置する社会不適合者、非常識人間である(p253)」 ── この心意気は素晴らしい。大学で学ぶ人は、学ぶことの意味について考えるためにも、ぜひこの本を一度読めばいいと思います。普通の人が著者の生き方に憧れそのまねをしたら、きっと酷い目に遭うでしょうけど……

  • 『責任という虚構』を読み、小坂井氏の考えに強く惹かれて読むに至った、2冊目。

    『責任という虚構』に比べると論旨は散逸しているが、第二部、小坂井氏のアルジェリアやフランスでの悩みや苦労話は、彼の考えを理解するにあたって大変興味深かった。
    自分も海外での生活及び留学を経験したことがあるため、小坂井氏の悩みは身体的にも共感する部分が多々あった。海外で生活しないと分からない部分は多分にあり、また母国から距離を取ることによって見えるものもある。
    常識は目を眩ませるが、だからこそ、常識の不条理に気づかされる異文化環境に生きることは、それ自体に意義がある、という点はその通りだと思う。

    本書と『責任と言う虚構』のどちらにも記されていた、「地獄への道は善意で敷き詰められている」という言葉の趣旨が未だ掴めないため、引き続き彼の著作を読んでみたいと思う。

  • 第一章に記された「自分の頭で考えるためには、どうしたらよいか。専門用語を避けて平易な言葉で語る。これが第一歩だ。」という一文、
    また第二章の「思考枠を感情が変える」の内容全体、
    これらが、日常の忙しさにかまけて、早く(安易に)回答を知りたがる自分にとって、とても印象深いメッセージになりました。「うむ、読んで良かった!」という実感です。

    ただし、構成には少し戸惑いました。
    後半の第四章以降は、前半とはがらりと変わって著者の自叙伝のような内容。
    私はこの本を手に取った動機が「筆者の主張を論理的に系統たてて読み解こう」であったので後半に入った時に退屈さを感じてしまいました。
    しかし、その後半も読み進めていくと、筆者のアルジェリアとフランスでの実体験や心の動きが臨場感を持って感じられ、徐々に引き込まれて興味深く読むことができました。

    大変僭越ながら、読み方としては、最初に後半の第四章以降から読み始めて、作者の「異邦人」としての思考を追いかけつつ、その後に第一章から第三章で、表題でもある「答えのない世界を生きる」ための切り口や考え方を発見していくと、より深く考えることができるのかなあと感じました。

  • 根本論の話であり、非常に興味深く面白い一冊。

    メモ
    ・勉強は知識の蓄積ではなく、壊すことの方が大切。慣れた思考枠を見直す。
    ・異質なぶつかり合いを通して矛盾に気づく。矛盾との格闘から新しい着想が生まれる。矛盾や対立がなければ常識を見直す躍動は起きない。
    ☆他人との比較で考えている時点で、そもそも独創的でない。
    ・答えでなく、問いを学ぶ。考え方自体を学ぶ。哲学や社会科学では。答えをすぐに出そうとすると現実を正視せず、根本的な問題から逃げてしまっていることがしばしば。
    ・自分の頭で考えるには、専門用語を避けて平易な言葉で語る。基礎的な事柄ほど難しい。
    ・型こそが自由な思考を可能にする。認識枠が共有されなければ、解釈は他者に伝達できない。
    ・わかるとは、理解とは、未知の事項や現象を既知の枠組みに取り込む行為。
    ・本から内容だけを読み取るのは消費者の発想。自ら生産する意思を持つものの眼には型が見える。学び方をメタレベルで学ぶということ
    ・枠組みを共有するからこそ、冒険に駆られ自由になれる。
    ・考えることの意味を問い直す。人間の原理的な限界に気づく。

  • マイページ毎に脳震盪が直撃するような感覚になる稀有な本。

    自分の頭で考えることの重要性を謳われて久しいが、真に考えるということを今までにないほど、ストレートにぶつけてくる。

    自身の思考枠にヒビが入る。
    それは痺れるような快感だ。

    何なんだこの本は。
    畢竟、独学に勝るものなし。

  • 作者の思考されたものではなく思考の仕方が自伝がてら語られる。
    答えのない、正しい答えが存在しない世界だからこそ問い続けなければならないこと、この世界を異端、異邦として見つめることで、画一化される正しさに疑義を与える。
    今、この世界に生きるとき、大事な姿勢。

  • 「解のない世界に人間は生きる。・・・
         (中略)
    ・・・考えることの意味を知ることが重要だ。」

    この世界で生きていく上での答えなどない。
    自身の問いに向き合えているのか、そう著者に問われている気がした。

    とても読みやすく、何度も読み直したい本だ。

  • 東2法経図・6F開架:002.7A/Ko98k//K

  • 小坂井敏晶の本を読むといつも(かなりクサい言い方をするが)「知的好奇心」が刺激されるのを感じる。豊富なネタを、しかし散漫に感じさせないだけの豪胆な筋の通し方を以て料理し、こちらに提示する。器用なようで不器用にも見えるその不思議な著書の魅力は、そのままこの著者の生き様/生き方の魅力でもあるようだ。青春時代の文字通りの放浪の過程、そして学者になってフランスの地で体感した「異邦人」としての自分、それから今に至るまで。道に迷った時はこの本の教えに従って、時には流されながらも一歩前に進み意識を変化させる勇気が必要だ

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著者プロフィール

小坂井敏晶(こざかい・としあき):1956年愛知県生まれ。1994年フランス国立社会科学高等研究院修了。現在、パリ第八大学心理学部准教授。著者に『増補 民族という虚構』『増補 責任という虚構』(ちくま学芸文庫)、『人が人を裁くということ』(岩波新書)、『社会心理学講義』(筑摩選書)、『答えのない世界を生きる』(祥伝社)、『神の亡霊』(東京大学出版会)など。

「2021年 『格差という虚構』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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