細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396615314

感想・レビュー・書評

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  • 敵は、「特定個人」ではない。それも監督の「公共性への意識」にリンクしていることでしょう

    本当の敵とは、相手と自分の「関係性」であったり、周囲との協調性であったり、あるいは時間という絶対的な尺度であったり、事と次第によっては、「自分の内なる闇」であったりする。場合によっては、「絶対的は時間」としても描かれる。それを克服するのが主人公たちの「決断と行動」であるという点には、驚くべき共通性が感じられます。繰り返し繰り返し語るべきもの、問題にすべきものでもあり、「普遍的な解」としての信念があるのでしょう

    「理」のバランスでスジを通し、ドラマの「情」をビジュアルで巧妙にコントロールしている。映しだされている構図も「主観」か「客観」か、カットごとに注意深く描き分けられている。そして「情」の作用に使える音声など他の要素を多重化し、全体を「理」によって統御することで的確な意図を伝達し続けている。理と情の絶妙なバランスとコントロールこそが、細田作品の魅力の中心にある

    論理的に一貫しない疑念が、グルグルと脳内を駆け巡る。しかし次の瞬間、「そこには母と娘の気持ちの絆が確実に結ばれている」と、感情的な軸がスパっと通る。そして「そうだ、これこそが親子だ」と納得と共感が生まれる。矛盾の生んだ一瞬の隙間、そこにずっと観客自身の体験の記憶が染みこんで化学変化が起きる。結果、感動が観客自身のものになる。そんなプロセスが生まれている

    映画の備える「究極の普遍性」が、世にある「人の多様性」を鏡のように映しだした結果、大ヒットに結びつく

    登場人物と観客の間だけに生じる「秘密の共有」という物語の構造

    言葉にしてしまえば説教臭く陳腐にも聞こえるメッセージが、具体的な動きだけで語られているからこそ、大きく心を打つ。やはり、絵に心をこめて動かすアニメーションだからこそ、可能となる感動が込められている

    どんな構成の映画であっても、時間がどうジャンプしていても、あるリテラシーをもった観客は物語を読み取ることができる

    「奇跡」とはどこに起きるものなのか。細田監督の場合、それは「世界と世界の接触」によって起きる。厳密には接触が生み出す衝突を乗り越え、それぞれの世界に属する者、本来異なる者同士が新たなステージに到達することが「奇跡」なのです

    • uptoyounikonikoさん
      このレビュー。引き込まれる。限りある絶対的な時間枠。地球軸の中で生きている命たち。自分、他者、優越感や劣等感、諦め、勇気、承認欲求、決断、他...
      このレビュー。引き込まれる。限りある絶対的な時間枠。地球軸の中で生きている命たち。自分、他者、優越感や劣等感、諦め、勇気、承認欲求、決断、他者貢献、自己評価、自尊心、無力、手放す、他者比較、自己憐憫、責任、嫉妬、、、思考が混乱する中で整理がつきません。なぜか、manybookさんのコメントには救われます。
      2016/06/12
  • 2021年7月16日に公開される『竜とそばかすの姫』に向けて読もうと思った1冊です。

    「あーっ、こういうシーンあったなぁ」
    「えっ、このシーンのここの部分、実はこういう事だったの!?」

    …と、それぞれの映画の話を読んで思い返し、知らなかった事に対してはビックリし続けました。

    映画見返したくなってきたなぁ。

  • 細田守監督はご存知でしょうか?『時をかける少女』(2006年)、
    『サマーウォーズ』(2009年)、『おおかみこどもの雨と雪』
    (2012年)、『バケモノの子』(2015年)と三年おきに劇場公開
    用の作品をコンスタントに作りつづけてきたアニメ映画作家です。
    テレビ漫画やゲームキャラに依存する作品が多い中で、オリジナル
    の原作・脚本でアニメ映画を撮り続けている、数少ない本物の作家
    の一人です。

    アニメといえばスタジオジブリの宮崎駿監督が有名ですが、宮崎監
    督作品より、細田監督作品のほうが、個人的にはずっと好きだった
    りします(『未来少年コナン』と『風の谷のナウシカ』は別ですが)。

    細田監督と同世代(井上の二つ上)ということもあるのかもしれま
    せんが、細田監督作品に共通する肯定的な世界観と躍動感が、本当
    に素晴らしいと思います。映画を見た後、奇跡の存在を信じたくな
    るし、生きることに希望を感じます。本書の副題が「希望と奇跡を
    生むアニメーション」となっているのも納得です。大げさなようで
    すが、世界を変える可能性のあるアニメを作る人だと思っています。

    本書は、そんな細田監督のこれまでの四作品について解説をするも
    のですが、作品の分析を通じて今の時代の特性が見えてくるし、作
    品を見るだけでは素人にはわかり得ない技術の話とか、細部へのこ
    だわりへの言及もあって、読んでいて、実に豊かな気分になる一冊
    です。それもまた細田作品の持つ豊かさ故なのでしょう。

    著者は、それぞれの作品のテーマを以下のようにまとめています。
    「取り返しのつかない後悔より、前に向かって走る方がいいという
    踏み出す勇気」(『時かけ』)、「最後まであきらめず、目の前の
    人たちとつながって自分にしかできないことをやり抜くという不退
    転の決意」(『サマーウォーズ』)、「生命の連なりと母子の乳離
    れへの感謝と自立の切なさ」(『おおかみこども』)、「かけがえ
    のない師、育ての親から託されたものの、計り知れない重み」
    (『バケモノ』)。

    いかがでしょう?見てみたくなりませんか。2016年をポジティブ
    に生き抜くためにも、是非、ご覧になって頂きたい作品ばかりです。
    (『サマーウォーズ』と『バケモノの子』は特におススメです)

    作品をご覧になっていない方は、本書を読む時間があったら作品を
    ご覧になって頂くほうが得るものが多いと思いますが、ものをつく
    ることに携わっている方や、新しい事業を生み出そうと思っている
    方には、本書の一読をお勧めします。ノウハウ本ではありませんが、
    人に受け入れてもらえるものを作るために必要なことや、共感され
    る物語を作る上で大切なことを学ぶことができるからです。

    アニメ産業の内情を垣間見ることができるという意味でも、興味深
    い一冊になっています。是非、読んでみてください。

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    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    「自ら動いて決めて変える」という言葉は、細田守監督とその作品
    を語るとき、もっとも重要なキーワードではないでしょうか。

    物語上に用意されたさまざまな壁を乗り越えた成果として、導かれ
    る結論は「人とこの世界には、まだまだ良い部分がいくらでも発見
    できる」という強い肯定感です。それは時として「どんな苦難に遭
    遇しても負けるな!」という力強い励ましにもなり得る。「こうあ
    ってほしい」という理想へと突き進むためのパワーを観客に与えま
    す。

    インタビューなどで、細田守監督は自身の作品を「公園」にたとえ
    ています。自分自身の作家性を主張するものでは決してなく、誰に
    も広く開かれた「公共物」であると。「映画内世界」とは、そこに
    招かれた人びとの心を解きほぐし、明日への力をリフレッシュする
    「祝福の場」だと、とらえているわけです。

    正しくありたい。善く美しく生きたい。人とわかり合いたい。
    随所にちりばめられた「真・善・美」を前提とする願いのパワーは、
    アニメーションが可能とする奇跡そのものです。

    観客の生きざまを、ほんのすこしだけ良い方へ変化させる。これが
    エンターテイメント本来の使命だと思います。

    「短く伝わる本質」が娯楽の真髄である。

    言葉は短いほど貫通力が強くなり、いわゆる「刺さる」鋭さを獲得
    する。「どんなストーリー?」と誰かに聞かれ、すぐ答えられる映
    画。だからと言って軽くはなく、中身は重い。

    英語の「ストーリー」は、イベントの羅列のことではない。「あら
    すじ」という言葉があるように「スジ」が必要です。「アウトライ
    ン」という「ライン」があるから「語り手」と「聞き手」が結ばれ、
    思考や感情が共有できる。つまり、論理(原因と結果)の「線とし
    ての流れ」が重要になります。
    まとめると、「特定の視点で意味とスジを与えられ、ラインで語り
    なおされた事件の列記」が「ものがたり」です。

    観客が抱く「?」に、自発的に「!」と得心できる情報を返す。先
    述のとおり、これは物語の奥深くへと引きこむための常道です。

    「理と情」の絶妙なバランスとコントロールこそが、細田守監督作
    品の魅力の中心にある。

    一瞬で終わってしまうほど、はかないものが「いのち」です。だか
    らこそ「連鎖」や「継承」が、「いのち」を得た者の最大の義務で
    あり、責任だとも考えられます。

    「奇跡」とはどこに起きるものなのか。細田守監督の場合、それは
    「世界と世界の接触」によって起きると、著者は考えています。厳
    密には接触が生み出す衝突(コンフリクト)を乗り越え、それぞれ
    の世界に属する者、本来異なる者同士が新たなステージに到達する
    ことが「奇跡」なのです。

    劇映画ですから、主人公たちは理不尽な受難に遭い、乗り越える。
    しかしその過程で、見失いかけていたかもしれない大事なものが見
    えてくる。それに気づくことで、より完全なものが回復する。しか
    も未来へと開かれた時間の中へ、肯定的に。
    細田流の「奇跡」への到達プロセスは、常にこういう仕組みです。
    そのためにも「世界をどうとらえるか」という辞書的な意味での
    「世界観」が重要になってきます。

    映画にもっとも必要なのは「センス・オブ・ワンダー」。つまり未
    知に触れたときの「驚きとショックの感覚」です。近いのは古い言
    葉の「たまげる」??漢字では「魂消る」と書きます。
    既成概念や固定観念に縛られた「魂」が驚きで一瞬消えてしまうこ
    と。
    まさに「細田守監督作品の感触」そのものではないでしょうか。

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    ●[2]編集後記

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    子どもが生まれてから、正月は家族水入らずで過ごすようにしてい
    ます。二日の日に実家に親戚で集まりますが、あとは親子だけの時
    間。独身の時はバイトをしたり友人と過ごしたり、結婚してからは
    それぞれの実家を行き来したり、旅行に行ってみたりと色々試行錯
    誤してきましたが、結局、家族だけで家で静かに過ごすのが一番と
    いうことに落ち着いています。

    初詣も毎年の行事ですが、混んでるところには行きたくないので、
    近所の氏神様が中心。それでもいくつかの神社をハシゴします。初
    詣も不思議な儀式ですよね。じっと並んで順番を待って、順番が来
    たら一生懸命お祈りして。

    でも、お祈りしようと思うと、はたと悩むのです。家族の無事、
    仕事での成功、世界の平和、などなど、お願いしておくべきことは
    いっぱいあるように思うのですが、いざお願いしようとすると、な
    んだかお願いをしていること自体が違うような気になってきます。

    それで結局、新年を無事に迎えられたことを感謝して、後は、家族
    をお守り下さいとだけ唱えて、終わり。それも二軒、三軒とハシゴ
    するうち、何も願わず、ただ手を合わせるだけになってゆく。ぼん
    やりと今年はどんな年にしたいかをイメージしながら。

    本当は、神様の前で首を垂れ、手を打ち、ただ手を合わせる。それ
    だけで良いんだと思います。心に思い浮かべるなら、祈りというよ
    り感謝。願いというより決意。なんか今年は特にそう思いました。

    2016年を素敵な年にしてゆきましょう。本年もどうぞよろしくお願
    いいたします。

  • タイトル誇大、監督の世界を深掘る事なく単なる作品紹介

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    所在記号:778.77||ホソ
    資料番号:10230803
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  • ぞっとするような緻密で作り込まれた細田アニメの衝撃。

  • 疾走感と世界への肯定感が魅力の細田監督。
    いまアニメ界でいちばん期待されているというか、みんなの希望を背負っている監督だと思う。
    独立後の4作品を紹介する。技術的なことはあまり語らず、どこに感動のポイントがあるのかを示唆する入門ガイドだ。ファンには物足りないかもだけど、これから宮崎駿の役割(特に興行面で)を受け継ぐには、もっと一般に知ってもらわなくちゃね。

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著者プロフィール

1958年兵庫県生まれ。アニメ・特撮研究家。特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)副理事長。大学在学時からアニメ誌上で執筆を始め、2001年に文筆家として独立。文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員、毎日映画コンクール審査委員、東京国際映画祭プログラミング・アドバイザーなどを歴任。主な編著書に『20年目のザンボット3』(太田出版)、『細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション』(祥伝社)、『安彦良和アニメーション原画集「機動戦士ガンダム」』(角川書店)など。

「2023年 『日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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