全電源喪失の記憶――証言・福島第1原発――1000日の真実

  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396615208

作品紹介・あらすじ

本書は、共同通信社記者高橋秀樹をはじめとした原発事故取材班が、平成26年3月から全78回にわたり全国契約紙31紙に配信した長期連載「全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発」に加筆修正して書籍化したものである。
3.11は私たちにどんな教訓を残したのか――。
震災から4年が経過し、災害の記憶が風化しつつある今こそ、事故を振り返る証言資料を残す作業が必要だ。
本書では、事故対応にあたった当事者たちの貴重な実名証言によって、3月11日から15日にかけて福島第1原発が全交流電源を喪失した、緊迫の5日間の様子を明らかにしてゆく。
朝日新聞「吉田調書報道」を打ち砕いた、現場記者の綿密な取材による詳細な事実の描写は、他の類書の追随を許さない、本書最大の特色である。

感想・レビュー・書評

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  • 「第1原発署員を英雄視するつもりも、事故対応を美談に仕立てる
    考えもない。」

    本書の「はじめに」に記されている一文である。だが、内容はこの
    文章の正反対に位置する。福島第一原子力発電所の所長だった
    吉田昌郎氏の死をプロローグに持って来て、終章はその吉田氏
    の葬儀となる。

    通信社の記者の手になる新聞連載記事の書籍化なのだが、それに
    しては殊更に感傷的な表現が目に付く。

    全交流電源喪失後、次々と深刻な事態に見舞われた福島第1原子力
    発電所。最悪の事態が予測され、多くの作業員が第2原発等へ退避
    した後、現場に留まった人々を「フクシマ50」と呼んで海外メディアが
    賞賛した。

    暴走する原子炉と運命を共にしようとした人たちがいたのは確かだ。
    「残る」と決断した人々の心の中には葛藤もあっただろう。だが、
    彼らだけが賞賛に値する訳ではない。

    必要最小限の人員を残しての退避が始まる前、第1原発にいた人
    たちは東電社員・協力企業を問わず、その時、自分が出来る精一杯
    のことをしていた。

    だから、第1原発にいた全員が英雄であるとは言わない。

    「こういう状況をつくってしまったのは俺たちだ。後始末はしなきゃ
    ならない。そうだろう?」。

    本書に登場するある人が、退避したいという人物に言った言葉だ
    そうだ。そうなのだ。東京電力と言う、自分たちの会社の、安全神話
    を広めて来た電力業界の「後始末」をする為に、彼ら・彼女らはそこ
    に留まり、出来うる限りのことをした。

    これまでにも福島第1原子力発電所の事故を取り上げた作品は
    何冊か読んだ。その中でも本書は「感情」を前面に押し出し過ぎの
    ように感じた。

    だた、これまで知らなかったことも明かされている部分は参考になった。
    それは5・6号機の中央制御室に妊娠中の女性操作員がいたことだ。
    退避後、彼女が無事に出産したくだりでは安堵した。

    そして、第1原発同様に危機的状況にあった第2原発にも指数が割かれ
    ていた点もよかった。第2原発の唯一生き残った外部電源を「切っても
    いいですか?」って言う本店ってなんだ?そりゃ増田所長も激怒する
    わなぁ。

    結局、本書を読んでも肝心なことが分からなかったのだよな。メルト
    ダウンは早い時期に起きていたけれど、原子炉の暴走が何故、ある
    程度のところで止まったのか。

    3つの事故調はそれぞれに報告書が出て調査が終了している。廃炉
    への作業も着々と進められている。命がけで後始末をしようとした
    人たちの努力もあるのだろうが、結局は何が原因で過酷事故が
    起こり、何がきっかけで暴走が止まったのか。永遠に不明なのだ
    ろうな。

  • 「想定外」当時何度も言われた言葉である。その想定外の災害を戦い抜いた人たちがいた。原子炉建屋の爆発を見たとき、チェルノブイリ以来最悪の事故が身近で起こっていることを知り恐怖を覚えたものだが、現場はそれ以上の恐怖だったことは間違いない。未曾有の大震災なか、現場に踏み止まり恐怖と戦いながら、そして危険を顧みながらも対応してくれた方々がいなければ今の日本はなかった。
    ただ残念なことが二つある。まずは現場と遠く離れた東電、政府の対応である。現場を見ずして安易な指示は出すものではない。(菅元首相は現場を見たというかもしれないが)もう一つは、吉田所長の早すぎた死である。現場で辛い指示をした最大の功労者の経験が失われてしまった。もちろん補完できる情報はあると思うので、今後の原発運営に必ず生かして欲しい。
    期せずして今熊本を中心として大きな地震が頻発している。日本と地震は決して切り離せない。地震に対して人間は無力であるとするならなば、できることは十分に準備して欲しい。二度とこんな災害を起こさないために。

  •  東日本大震災。地震・津波の被害と原発の被害が同時に起こってしまったことで、いろいろな情報が溢れすぎて混在してしまった感がある。自分自身は、被災地から遠く離れた場所で何不自由なく暮らせており、また、直後の4月から2年間慣れない職場で多忙を極めたこともあり、福島第1原発の事故はどんなものであるのか、関心を持てずにいた。
     本書で事実関係が少しは整理できたし、元々が新聞記事らしく原発推進またはその逆の立場に偏らない書きぶりがよかった。また現場の人間の、技術屋としての意地とプライドを垣間見ることができたようで、自分もその端くれとして頼もしい思いがした。
     安定的な電力供給に支えられて、便利な文化的な生活を我々は享受しているのだから、原発については基本的に反対の立場ではないのだが、本書を読んで原子力技術自体の難解さ、不安定さを感じずにはいられなかった。
     先日、組織の動員で反原発の集会とデモ行進に参加してきたが、徒労感が強かった。デモ行進中、後ろの方で警察官の注意を再三受けながら、軽トラの荷台に乗って変な着ぐるみをかぶりながら騒ぎ立てている連中がおり、本当に反原発なのか怪しいところであるが、本人たちがそれで満足だったら、好きにすればいいのだ。
     世の中の大きな流れに抗っても仕方がない。人生なるようにしかならないのだから、自分のやりたいことをして、素敵な暇つぶしをしていきたい。

  • 本社と現場。価値は現場がつくる。
    事故後1週間の危機的状況をなぜマスコミは伝えないのか。
    東電=悪 という紋切りで見ないこと。東電のげんばは頑張っている。

    この平和の時代に現場では死を覚悟した状況だった。

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